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VOL.14:激突、キララvs捜索隊(後編)

「遼!」

 キララの目の前でティアナの魔法によって捕えられ、水筒に封じ込められてしまった遼。無駄と分かっていても名前を呼ぶキララに対し、

「私もあんまり人質を取るような真似はしたくないんだけどね、やっぱりこのままだと不利だし、どう? この人間を解放する代わりに、素直に――」

 遼の安全と引き替えにキララをハルゲンファウスに連れて帰ろうと、交渉を持ちかけようとしたティアナだったが、

「――――許さない。この戦いに無関係な遼を巻き込んだこと、全力で後悔させてやるんだから。――凍てつく冷気よ……」

 キララは俯き、ボソボソとつぶやくと、魔法の詠唱を始めた。

「まずい! みんな、上空に――」

 マリアはキララが何をしようとしているのか察しがつき、全員空中に逃げるよう叫ぼうとしたが、

「遅いわ! ――凍てつく冷気よ、全てを凍りつかせよ! “大氷原(オーロ・フリザー・ファイルード)”!」

 気づいたマリアさえも間に合わないほどの速度で放たれたキララの魔法は、空き地のほぼ全域を凍結させ、地面に足が付いていた5人全員の動きを封じたが、すでに戦える状態でないロックのいる場所だけは凍結せず、ロックはそのまま放置された。

「くっ……」

 足を固められて動けない5人はなんとか抜け出そうとするが、がっちり凍りついていて、抜け出せる気配はなかった。

「負けを認めて、遼を解放すると同時に、連れ戻すのを諦めれば、解いてあげてもいいけど……?」

 キララはそんな5人を眺めながら、逆に交渉を持ちかけるが、

「足を封じたくらいで勝った気になってもらっては困るね。正直、おれたち兄弟のオリジナルは破壊力が凄すぎて、同じ学生、しかも後輩に使う日が来るとは思ってなかったが、クラウド、アレ行くぞ、魔力率は50%だ!」

 マリオは慌てずに杖を取り出すと、横にいるクラウドに言った。

「あいよ、兄さん! オイラたち兄弟のオリジナル、受けてみるッス!」

 クラウドも杖を構えて、2人で詠唱を始めた。

『――流れる星よ、我らの力に応え、今ここに落ちよ! “流星(シューテル・ステイム)魔力率(パワー・レーティ)50%(フィフティ)”!』

 2人の詠唱が終わると、空がキラリと輝いて、キララめがけて隕石がひとつ、勢いよく降ってきた。



 一方、水筒に吸い込まれた遼はというと――

「クソっ、なんなんだ、いったい……どうやって出りゃいいんだよ!」

 すでに何回も上ろうとしたのか、あちこちにキズを作りつつ、遼はひとりごちる。ここまで何回落ちたか、もう数えるのも嫌になった。何回目か、かなり上まで行けたときには、いきなり全体が激しく揺れ、踏ん張りきれずに落っこちたのだ。遼は、まさかそれがキララの“大氷原”が放たれ、足を凍結させられて動揺したティアナが抜け出そうと暴れてる結果だとは知る由もない。

「……ん?」

 ほとんど光のないこの空間の中で、何かが光ってるのに気づいた遼は、辺りを見回してみた。すると、光は龍一郎に託された杖から放たれていた。

「なんだ、この杖が光ってるのか?」

 そう呟きながら、遼がジーパンのベルトの隙間から杖を引っ張り出して握ると、光が一層強くなり、遼の頭の中に言葉が浮かんできた。

〔何かのきっかけさえあれば、魔法はきっと意識しなくても、使えるようになるはず〕

「これが魔法なのか、親父? そういや、キララがこんなのを使ってたな。やってみっか! “風弾(バレイ・ウインダム)”!」

 遼は龍一郎の言葉を思い出し、杖を上に向けて頭の中に浮かんできた魔法を唱えてみた。



「ふん!」

 キララは気合い一声、落ちてきた隕石を受け止めて威力を殺すと、そのまま地面に転がした。特別な魔法など使わず、元々張ってある障壁だけで受けきってしまったのだ。

「そんな、おれたち兄弟のオリジナルが……しかも、学院の修練場をぶっ壊しちまったのと同じだけの魔力を使ったのに、化け物か……!?」

 とっておきの破壊力を誇りにしていたマリオとクラウドはそろって驚愕し、わなないた、そのとき。

「きゃっ!」

 ティアナがいきなり悲鳴をあげた。思わず全員がそちらを見ると、ティアナのカバンの中から光が放出され、人影が飛び出した。

「あたた……出れた……のか?」

 人影はもちろん遼で、凍結した地面にあおむけに倒れこむと、空を見てつぶやいた。

「遼! どうやって出てこれたの!? ううんそれより、ひどいケガ!」

 キララは遼が自力で脱出してきたことにも驚いたが、遼が体のあちこちにケガをしていることに気づいて駆け寄った。

「よう、キララ。心配掛けたか? こんなの、スリキズだから大した事ねえよ。やっぱり、オレはあの親父の息子なんだな。オレにも魔法が使えたよ」

 遼は杖を見せながら、キララに笑いかけた。



 そのころ、龍一郎のもとにも来客があった。

「お久しぶりです、リューン隊長。私のことを覚えておいでですか?」

 佐伯家の呼び鈴を押し、龍一郎が出てくると同時に、そう切り出した男に対し、

「もちろんだ、グレッグ=ガイル。25年ぶりか、懐かしいな。それで、ハルゲンファウスにいるはずのキミがどうしてここに?」

 龍一郎は男をグレッグと呼び、わざわざ訪ねて来た理由を訊ねた。

「はい、25年前の事件で、隊長の濡れ衣は晴らされ、追放処分も取り消されました。そのことを伝えに参ったのです」

 グレッグは敬礼したまま、ここに来た理由を話した。

「そうか……だが、私にはもうこちらで出会った妻も、そして生まれた息子もいる。当時私が使っていた杖は事情があって息子に託した。向こうに戻るかどうかは考えさせてくれ」

 龍一郎はグレッグにそう伝えると、

「承知しました。隊長のおっしゃる事情というのは、この付近の空き地から感じられる魔力反応が関係しておられるのですね」

 グレッグは改めて敬礼すると、そっちの様子を見てから帰る、と言い残して佐伯家を後にした。



「で、どうするの? まだ続ける?」

 キララは杖を構えた上で5人に問いかける。5人の足を固めていた氷は解いてあった。

「残念だけど、ちょっとこの状態では5人まとめてかかっても、あなたに勝つのは無理そうね。だけど、ここにとどまるのを許したわけじゃないから、必ず、あなたを連れ戻すためもう一度ここに来るわ」

 足が自由になってるとはいえ、ティアナやマリオたち兄弟は自分らのオリジナルが破られたことにショックを受けていて、魔力はまだあるが戦意喪失、ガレリアは単身挑んだが、ことごとくキララに防がれ、やはり単独戦では無理だと戦いを放棄して座り込んだ。そんな4人の状態を見たマリアは、ため息をついて負けを認めた。

「帰ってくれる分にはいいんだけど、そんな状態で向こうへ帰れるの? ね、遼……」

 キララは現在は敵とはいえ同じ学院の仲間ということで多少心配し、遼を見た。

「ああ、大丈夫だ。あと一部屋だけならあるから、男はそこに、女性はキララと同じ部屋に泊まってもらえば、なんとかなるかな」

 遼はキララの意図を察してやり、荒い息をしているロックを含めた6人に持ちかけた。

「……俺様たちは、魔力を持たず、魔法の使えない人間は、便利な力である魔法の存在を知ったら、必ず利用しようとする、そう教わってきたこともあって、この世界に住むお前たちを、ほとんど信頼してないも同然だ。それをいきなり優しくされて、信じてもいいものか……」

 ようやくそれなりに動ける程度まで回復したロックが起き上がってきて、遼に訊ねた。

「何を心配しているのかオレにはわからないけど、大丈夫だ。まあ、あんたらの世界での教えは全て正しいわけじゃないけど、間違ってもいない。中にはそういう連中もいるってだけだ。むしろオレが心配なのは、あんたたちこそ家の中でいきなりドンパチやらないか、ってことだ」

 遼がロックの心配をやんわりと否定しつつ、冗談混じりに話すと、

「さすがに私たちには今日のところはもう戦う魔力(ちから)は残ってないわ。だから、休戦ってことにして、お言葉に甘えて一晩の宿を借りるわ」

 マリアがそう申し出て、休戦の証として、遼と握手をした。と、そこへ――

「おや、そこにおられるのはやはりトラフェルス学院の方々でしたか。それと、リューン隊長の息子さんもいらっしゃるようですね」

 空き地の入口に男が現れて、一同に話しかけた。

「あんたは? 親父の知り合いらしいのはわかるんだが」

 唐突に現れた男に驚く一同の中で、龍一郎の昔の名前、リューンという単語に反応した遼が訊ねると、

「おっと、これは失礼。私はグレッグ=ガイル。ハルゲンファウス中央政府の隠密隊で副隊長を務めており、かつてあなたの父君の部下だった者です。ところで、学院の方々はなぜこちらに? 私も学院の卒業ですが、学生が人間界(こちら)に来るのは校則で禁じられていたと思うのですが……」

 男、グレッグは自己紹介をし、マリアたちがここにいる理由を訊ねた。

「失礼、グレッグさん。話すと少し長くなるので、場所を移しませんか? 私たちはこれから遼さんの家で宿をとらせていただくので、そちらで話してもいいですか? あ、遼さん、それでも大丈夫ですか?」

 マリアは事情を説明するには疲労が溜まっているので、遼の許可が出れば、佐伯家で話をしたいと言い出した。

「大丈夫。いまさら1人や2人増えたところで、大して差はないし、それに、グレッグさんも親父と積もる話もあるでしょうから、家でゆっくり話しましょう」

 遼も快諾し、計9人になった一同は、佐伯家へ向けて歩き出した。

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