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VOL.13:激突、キララvs捜索隊(前編)

 キララとロックが激戦を繰り広げているころ、佐伯家では――

「あーあー、派手にやってくれちゃって……ガラス粉々じゃねえかよ」

 遼が割れたガラスを掃除しながら、グチをこぼすと、

「遼。ここは私が片付けておくから、キララちゃんの様子を見に行ってやりなさい」

 一旦階下に降りていたはずの龍一郎が遼の部屋に戻ってきて、そう告げた。

「え? 様子を見に行っても、オレには何もできねえどころか、むしろ足手まといになりかねないだろ? どうしろってんだよ」

 遼は龍一郎の言葉の真意がつかめず、訊き返すと、

「大丈夫。お前は私の息子だぞ? 今まで知らなかったとはいえ、ハルゲンファウスの魔法使いの血を引いているんだ。何かのきっかけさえあれば、魔法はきっと意識しなくても、使えるようになるはず。その時が来たら、これを使うといい」

 龍一郎はそう言って遼を励ますと、その手に持っていた、ちょっと太めの棒きれのようなものを遼に手渡した。

「これは……杖、か?」

 遼がそれをまじまじと見ながら龍一郎に訊ねると、

「ああ、そうだ。それは、私が向こうにいたころ使っていたもので、もう私には必要ないものだろうから、お前に託す。さあ、行ってきなさい。おそらく、そろそろあのロックという少年側にも、仲間が駆け付けるころだろう。彼やキララちゃん、どちらでもない魔力が5つほど、2人のもとに接近しつつあるのが感じられるからな。あ、場所は近くの空き地にいるようだぞ」

 龍一郎は大きく頷くと、キララとロックのタイマンの場に、応援が迫ってることを伝えた。

「ああ、わかった。正直今の状態では何の役にも立たないだろうが、とりあえず行ってくるわ」

 遼は龍一郎から受け取った杖をジーパンのベルトの隙間に挟むと、家を出て空き地へ向かった。途中、そっちへ行きたくないような妙な気分になりかけたが、それを振り払って空き地を目指すのだった。



「見つけたわよ、キララ。さあ、ハルゲンファウスに帰るわよ。ロックは勝手に動いた罰で、あとで反省文提出ね」

 ロックとの一戦を終えた直後、キララの前にマリアたち捜索隊の面々が現れ、マリアがそう告げた。

「ちっ……せめて勝ってれば言い訳もできたが、負けちまったもんは仕方ねえな。とりあえず、しばらく休ませてくれ……」

 ロックはいったん顔をあげて苦々しげに言うと、そのまま再び地に伏した。

「か、母さま!? なんで母さまが……」

 当のキララはまさか母親のマリアが現れるとは思ってなかったので、驚いて聞き返した。

「なんで? そんなの決まってるでしょう。娘の不始末は親である私の責任。だから、理事長との話の結果、3ヶ月以内にあなたを連れ戻さないとならないのよ。もしできなかったら、私は理事を解任、あなたも学院を退学させられるの。わかったら、さっさと帰るわよ」

 マリアがわかりきったことを訊くなというような表情でキララに事情を話す。しかし、

「イヤよ。あたしはまだ帰らない。せっかく人間界(こっち)に出てきて、向こうでの認識を覆すような出会いを経験できているのに、たったこれだけでさよならなんてイヤ! たとえ学院を退学になっても、あたしはこっちにいたい! それを邪魔するんなら、たとえ母さまでも、あたしは戦って追い返すわ!」

 キララは激昂して、自らの思いのたけを怒鳴り散らした。すると、

「聞きわけないこと言ってるんじゃねえよ、キララ」

 キララを諭しにかかったのは、幼なじみでもあるガレリアだった。彼としては、カッコよく出てきたつもりだったのだが、

「あれ、ガレリアじゃない。なんであんたがここに……ってか、あんたいたの?」

 まるで彼の存在にいま気づいた、と言わんばかりのキララの態度に、ガレリアはガックリとうなだれ、ヘコんでしまった。

「マリア先生、こうなったら、力ずくでも連れて帰りましょう! 私のオリジナルで捕獲してあげる! “円筒封印(チューパック・シーラー)、キララ=シュプール!”」

 一気に臨戦態勢で飛び出してきたのは、捜索隊の生徒の中では紅一点のティアナ。ティアナは懐から、杖ではなく金属製の水筒を取り出し、魔法を唱えてキララの名を呼んだ。すると、ただの水筒だったはずのソレが、キララを吸い込もうとしはじめた。

「なっ!? ……なーんてね。それ、名を呼んだ対象を封じ込めるための魔法ね。残念だわ、もっとあなたの魔力が高ければ、あたしをも封じることができたかもしれないのにね。あなたとあたしとでは、魔力(ちから)の差がありすぎるわ。その絶対的な魔力(ちから)の差、思い知るといいわ!」

 キララは一瞬驚いた仕草を見せたが、それもほんの一瞬だけ。首を振って大げさに嘆くアクションを見せると、ニヤリと笑って指をパチンと鳴らした。

「きゃあっ!?」

 キララが指を鳴らした直後、キララを吸い込もうとしていた水筒が急にターゲットを変え、ティアナ自身に襲いかかった。ティアナは自分の魔法への対策など何一つしていなかったので、なにもできないまま、水筒の中に吸い込まれて消えた。完全にティアナの姿が消えると、自動的に水筒のフタが閉じ、地面に転がった。

「ティアナさん!?」

 マリアが水筒を拾い上げ、開け放とうとしたが、フタはきつく閉まっていて、ビクともしなかった。

「対象の動きを封じるタイプの魔法は、相手の力量を見切らないとこういう目に遭うのよ。まあ、そのままでもいいけど、これだけ能力の差があれば、別に外に出てたってなにも影響ないから、解放してあげるわ」

 キララはめんどくさそうに言うと、マリアから水筒をひったくるように奪い、フタを開けた。すると、中に封じられていたティアナが光とともに出てきた。

「私を解放したこと、あとで絶対後悔させてやるわ……」

 マリアに手を借りて立ち上がったティアナは、キララをにらみつけてそう言ったが、

「負け惜しみならいらないわよ。さあ、あたしを連れ戻すつもりなら、本気でかかってきなさいよね! タイマンであたしに勝てないのはわかってるでしょ? まあ、そこでぶっ倒れてるロックは正直強かったわ。もし、彼を含めてみんなが一斉に攻撃してきたら、あたしでも負けてたかもね」

 キララはよほど自信があるのか、5人全員を同時に挑発するという、傍から見たら無謀としか言いようのないことをやってのけていた。と、そのとき。

「キララ、大丈夫かー?」

 のんきな声を上げながら、遼が空き地の入口に現われた。

「遼!? なんでここに!? 並の人間が近づけない、結界を張っておいたのに……。いえ、そんなことはどうでもいいわね。いったい何しに来たの? これはあたしがここに居続けるための戦いよ」

 キララは遼の登場に驚いて、遼に駆け寄って訊ねた。

「え、ああ、来るつもりはなかったんだけどな、親父が様子を見てこいって言うもんだから。しかし、なんだこの押しつぶされそうな感じは……」

 遼はキララに事情を話しつつも、あたりに立ち込める強烈なプレッシャーに脂汗をかいていた。

「キララ、その人は? 誰かに似ているような気もするけど……」

 2人のやりとりを見ていたマリアが、不思議そうな顔をして訊ねると、

「え? ああ、この人は佐伯 遼さん。昔、冤罪でハルゲンファウスを追放された、リューン=サルファスさんの一人息子よ」

 キララが遼を紹介すると、一様に驚いた顔をした。

「あのリューン=サルファスの息子!? 追放決定後、行方知れずになったのは知ってたけど、まさかこの世界で暮らしていたなんて……」

 中でも過去の事件を知っていると思われるマリアが一番驚いていた。

「ということは、あんたはハーフなんだな? ハルゲンファウスの魔法使いと、人間の」

 ガレリアが遼に訊ねると、

「どうやらそういうことになるらしいな。一応、親父から昔親父が使ってた杖ってのを渡されてキララを助けてやれ、みたいなことを言われたけど、今まで何も知らなかったオレじゃ全く役に立たんからオレのことはいないものと思ってくれ。勝手にドンパチやってくれよ」

 遼は龍一郎から受け取った杖を見せながらそう言ったが、杖を持っていても、使える魔法がない、と明言し、引き上げようとした。しかし、

「ふふっ、役に立たないなんてことはないわよ? ただし、こっち側で役に立ってもらうわけだけどね! “円筒封印(チューパック・シーラー)、サエキ=リョウ!”」

 ティアナが再び飛びだし、さっきキララに使って失敗した魔法を、今度は遼をターゲットに放った。

「ん? え? な、なんだ!? 吸い……」

 遼は自分の名を呼ばれたので振り向いた瞬間、目の前の少女が構えている水筒に吸い込まれてしまった。遼を吸い込んだ水筒はティアナの手によってそのままフタが閉められ、ティアナのカバンにしまわれたのだった。

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