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VOL.01:大・脱・走!


初めまして、あるいはお久しぶりです。

今作はあらすじに記したとおり、リアルの親友から作品を託された、言わば原作つきの物語です。

もしかしたら過去に友人がわずかな期間だけ活動したときの片鱗が残ってるかもしれないですが、託されたあと、大幅な改稿を加えてありますので、また新たな物語として、お楽しみいただければ、と思います。


それでは、長い前書きになりましたが、本編をどうぞ。

 ここは魔法を扱う者たちが暮らす世界、ハルゲンファウス。中央都市(セントラルシティ)に程近い街にあるトラフェルス学院の教室の窓から、少女がひとり、ぼんやりと外を眺めて何かを考えているような表情をしていた。

「どうした、キララ? 元気ねえな、お前らしくねえぞ」

 その様子を見ていた少年が、背後から声をかけた。

「あっ、ガレリア……なんでもないよ。ただ……」

 キララと呼ばれた少女は振り向くと、なんでもないと言って笑ってみせた。しかし、その笑みにはどこか陰があった。

「ただ……なんだよ? 俺らガキの頃から一緒に育ってきた、幼なじみだろ? そんな俺にも話せないようなことなのか?」

 少年、ガレリアは少し怒ったような口調でキララを問い詰める。

「……ううん、そんなんじゃない。ただ、あまりにも今の生活が退屈すぎてため息ついていただけ。ガレリアが心配するようなことはなんにもないよ」

 キララは少し黙ったあと、ようやく口を開いてそう答えた。

「退屈、か。まあ、それは仕方ないよな。お前はこのトラフェルス学院史上最高レベルの魔力を持つ、未来の超エリートコースを約束された学生。普段の基礎魔法はおろか、応用魔法も自由自在に使いこなすもんな。フッ、それに比べて俺の成績の悪さと来たら……」

 ガレリアは自嘲するような吐息とともに、幼なじみと自分との差を嘆いた。そのせいで、次にキララが言った言葉の重要な部分を聞き逃した。

「だからね、――――と思うの」


「へっ? いまお前なんて言った?」

 ガレリアが聞き逃した部分を聞き返すと、

「聞いてなかったの? だから、あたし、ここから脱走して人間界に行こうと思ってる、って言ったの」

 キララはガレリアが聞いてなかったことに怒りを覚えつつも、もう一度説明した。

「はぁ!? 脱走って、お前、それ本気で言ってるの? しかも人間界に行くなんて、両方とも校則で固く禁止されてることじゃねーかよ! 校則破りは最悪退学もありうるんだろ? なんでそんなリスク高いことを……」

 ガレリアはまさかキララがそんなとんでもないことを考えてるとは思ってなかったので、つい声を荒げてしまった。

 この学院は全寮制で、入学したら、基本的に卒業まで夏休みなどの長期休暇以外は実家への帰省はおろか、校外へ出ることすら許されていないのだ。生活用品は、学院の敷地内に商店街が併設されているので、そこで全て揃うのだ。

「要は捕まらなければいいだけでしょ? あたしは魔力が高い分、飛行魔法(フロイア)の速度は先生にだって負けない自信があるわ。人間界へのゲートまで逃げ切ればいいんだから、楽勝よ」

 キララはペラペラと脱走計画をガレリアに話していった。

「なあ、さっきから上機嫌に俺に計画を話してるけど、俺はすぐにでも告げ口しに行けるし、間に合わないなら俺自らお前を止めにかかるぜ。そうじゃなくても、校門には脱走防止センサーがついてるから、一歩外に出ればすぐに先生が来る。せっかくお前は優秀な成績でエリートコースを歩めるんだから、退屈でもそのままでいろよ」

 ガレリアはなんとかキララに思いとどまらせようとするが、

「ねえ、ガレリア? あんたごときの実力でこのあたしを止められるなんて思ってないわよねぇ? あんたが告げ口して先生が止めに来たとしても、それを追い払ってあたしは行くわ。でもまあ、余計なリスクを抑えておくにこしたことはないわね。とりあえずあんたはここで動けなくしておきましょ。覚悟なさい。――自然の力、ここに解き放たれよ! “雷雲(ボルトン・クラウデス)”」

 キララは笑いながら懐からスッと細い杖を取り出し、軽く振って先端をガレリアに向け、意味ある言葉を紡ぐ。すると、杖の先から黒い雲が出現し、ガレリアを取り囲む。

「ちょ、キララ、待った! やめ……」

 しかし、最後まで言い切る前にガレリアは黒雲に包まれ、続けざまに雲の中で放電が行われ、彼は黒こげになって床に倒れた。

「これでよし、と。ごめんね、ガレリア。じゃあね」

 キララは教室の入り口からそう言い残すと、外へと飛び出した。

「…………(行くな、行かないでくれ、キララー!)」

 ガレリアは体が痺れて動けず、声も出せないため、目線だけでキララに訴えるが、2人の視線は交錯することなく、キララの姿は見えなくなった。


 一方、飛行魔法(フロイア)で飛び立ち、校門を飛び出したキララは、ガレリアの忠告どおりに作動した脱走防止センサーに引っかかり、2人の教師の追跡を受けていた。

「学生番号35163、キララ=シュプール、すぐに止まりなさい。脱走は重大な校則違反です。今止まって引き返せば、数日の謹慎処分で済むでしょう。どこへ行くつもりですか!?」

 追っ手のひとりはキララたちの学年主任・トーリ=チキレースだった。彼は優等生のキララがなぜこんなことをしでかしたのか理解できず、考えながら追いかけていたので、キララの言葉に一瞬気づくのが遅れた。

「トーリ先生、あたしはもう退屈な毎日にはウンザリなんです。だから、人間界でしばらく修行してきます。これ以上邪魔するつもりなら、たとえ先生でも容赦なく撃ち落としますよ?」

 キララはやんわりと脅しをかけ、彼女の魔力の高さ、つまり魔法の威力の高さを知っているトーリはひるんだ。その隙にキララは速度を上げ、一気に引き離そうとしたが、もう1人はまだ諦めずに追ってきた。

「キララ君、待ちたまえ。学生の身で人間界へ行くなど許さんぞ。そもそも、なぜ人間界へ行くことを禁止してるのか、君は知ってるのか? たしか、私の授業で小話程度に話したと思うが」

 諦めずに追いかけて来たのは、キララやガレリアの担任、ガランス=ダンボルドだった。

「ええ、知ってます。人間は魔力を持っておらず、魔法という便利な能力は利用されてしまう運命にあるから、それを防ぐためですよね」

 キララは一度止まり、ガランスと話をつけることにし、ガランスの問いに答えた。

「その通りだ。さすがは授業の小話までよく聞いて理解している。だが、そこまで知っていて、なぜそれでも行こうとするのか、私には理解できん」

 ガランスも無理に捕まえに迫ることはせず、一度説得を試みるために少し距離をおいて止まった。

「一応、あたしはそう答えました。でも、本当にそうなのか、見てみたいんです。本当に人間は魔法の存在を知ったときに利用しようとするのか。仮に利用されようとも、それもあたしにとっては修行になりますし、利用されなくて、過去の教えが間違ってたならそれは今後の世界間交流とかにも役立つのではないですか? ガランス先生、お願いです、ここは退いてください」

 キララは持論を披露し、ガランスに退くよう求めた。

「それが君の考え方か。まあ、頭ごなしに否定するようなことはしないが、私も仕事なんでね。校則違反の生徒をみすみす見逃すことはできんよ」

 ガランスは静かに首を振って、きっぱりと言い放った。

「やっぱり退いてはくれませんか。でも、あたしだって譲れません。すみませんが、撃ち落とします。悪く思わないでくださいね」

 キララは話は終わりだ、と言わんばかりに捕まえるために突撃してきたガランスをかわしつつ杖を出すと、そのまま先をガランスに向けて、叫んだ。

「――荒れ狂う風よ、巻き起これ! “烈風爆裂波(バーストゥン・ウインダム)”!」

 瞬間、杖の先から激しい風が渦を巻いて吹き荒れ、接近するガランスを吹き飛ばすと同時に、自らの推進力に変えて飛び去り、人間界へ続くゲートを突破して魔法世界ハルゲンファウスを脱出したのだった。

なんとか脱走に成功し、ハルゲンファウスを抜けたキララ。抜けた先はすぐ人間界なのだが……?

次回、VOL.02:出会い


今作も、更新は毎週水曜の定期更新で行くつもりです。

よかったら、感想などいただければ幸いです。

では、また次回の更新で。

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