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過去編・昨晩の後

 空に漂う雲は、時の流れと共に風に乗って進み、形を変え、そして無くなる。

 自由気ままに悩みも無く雲を羨まし気に教室の窓から眺める太陽を他所に、授業の終わりのベルが鳴る。

 教科担任の号令と共に教室は喧噪の空気が支配する。


「おい太陽、太陽! おい、聞こえてるのか!」


 聞こえてる、だが、敢えて無視をしている太陽だったが、流石に耳元付近で大声を叫ばれると、太陽は面倒くさそうにそちらに目を向ける。


「なんだよ信也。俺になんか用か?」


「用か? じゃねえよ。お前、授業中も殆ど上の空みたいだったし、つか、朝からそんな調子だが、お前、大丈夫か?」


 友達なりに心配をしてくれてる様で、ありがたいが、それを一切表情を微動だにせずに。


「別になんもねえよ」


「なんもねえって訳じゃないだろ。お前、今朝高見沢が挨拶したのにシカトしてたし」


「え、マジか。それは千絵に悪い事したな……全然気づかなかったわ」


 申し訳なさそうに後ろ髪を掻く太陽。

 今朝のは無視ではなく、本当に気づかなかったようだ。


「お前、本当はなんかあったんじゃねえのか?……まさか、渡口関連でか?」


 信也の一言にあからさまに体を跳ねる太陽に、信也は図星かと額を押さえる。


「そう言えば朝のSHL(ショートホームルーム)前に山下の奴が渡口に振られたって話題が今も持ち切りだよな。これで何人目だ? 渡口に告白して撃沈した奴は」


「……知らねえよ」


 気まずそうに信也から顔を逸らす太陽。

 

「……まあ、俺は他人の恋愛事情に関してはどうでもいいと思っているが。太陽、友達としてはお前の恋を応援してやりたい。何か悩みがあれば俺にも相談しろ、それに高見沢も応援するからよ」


 これ以上は追及はしないという心遣いか、信也は太陽の肩を軽く叩いて自分の席に戻る。

 信也を少し横目で見た後、再び太陽の視線の先は空を漂う雲。

 その雲を眺めながら太陽は昨晩の事を思い出す。


「(あいつ()……俺になんて言って欲しかったんだ……? いつものあいつなら俺が変な事言った時は辛辣な事を言う癖に……昨日は怒りもしなかった)」


 幼馴染だからと言っても、勿論喧嘩をする事はある。

 光が陸上を始める前までは殴り合いの喧嘩もあったが、陸上をし始めた光の身体を気遣い、喧嘩をしても殆ど口喧嘩だが。

 口八丁の光に太陽は口喧嘩で一度も勝った事がない。


 光は太陽が気に障る事を言えば、大声で辛辣に太陽に言葉の砲弾を投げるが。

 昨晩の光の反応は太陽からすれば違和感だらけだった。

 光は太陽になんて言って欲しかったのか、太陽は皆目見当がつかない。


「(もしかして俺に止めて欲しかったのか……その告白を断ってくれって。……それはないか、あいつが俺の事を異性として見てないだろう。だから、今でも簡単に俺の部屋に入れるんだろう)」


 幼馴染であるが異性は異性である。

 思春期な男女が部屋を行き来するのに多感な年頃。

 にも関わらず、平常で光が異性である太陽の部屋に来れるのは、長い付き合い故に太陽の事を異性として見ていないからだろう。


「(俺は昔からあいつの事を異性として見てる。そして、1人の女性として俺はあいつの事が好きだ。だけど……あいつは俺の事を、本当はどう思ってるんだろうな……)」


 光の心情が分からず、太陽はその後の時間をモヤモヤとした気持ちのままに過ごして。

 結局昨晩の内に宿題が終わらずに、数学の時間で鬼教師に説教を受けるのだった。

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