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過去編・すれ違う心

 光の予想もしない悩みの吐露に、部屋は再び静寂が支配する。

 壁に掛かる羅針の進む音だけが部屋に響き、太陽は息をするのも忘れていた。

 喉が渇き、ガンガンと鈍器で頭を叩かれてる様な痛みが頭を打ち、ゴクリと太陽は少ない唾を呑みこむ。

 

 数秒間揺れる瞳でこちらを見ていない光を眺めていた太陽は眼を伏せ、重い唇を開く。


「だ……誰に告白されたんだ……?」


「山下君って言う人。ほら、同じ学年の」


 その名に太陽は同級生であるが、違う意味で名前を憶えていた。

 山下とは、2年でありながらサッカー部のエースとも言われ、クラスの人気者でもある。

 光の男性版に近い存在で、学校でもかなりの女子が彼を狙っていると噂する程の人物。


 卑屈な太陽とは対照的な人が、光に告白するなんて、と太陽は胸を痛くする。


「……なんでそんな事を俺に聞くんだよ……」


「太陽はどう思うかなって思ってさ……。意外な人からの告白だったから、私、どうすればいいのか分からなくて……」


 光の死角になる膝の上で太陽は爪で掌を抉る程に強く拳を握っていた。

 

 太陽は知っている。

 

 光が今回の山下以外にも沢山を男子から告白されていたことを。

 告白して来た者たちは、先輩、後輩、同級生、同じ部活の者、剰え他校の男子からも告白されたとか。

 千絵経由で色々と聞かされていたが、全部の告白を光は断っている。


 中には山下同様に学校のカースト上位の者もいた。

 だが、数々の男子からの告白に一切靡かない光は、裏では男性に興味のないレズ女と揶揄する者もいる程に、光は男性に興味を示さなかった。


 なのに、何故今回の山下の告白だけ、光は太陽に相談を持ち掛けて来たのか、光の真意が分からない。

 太陽の返答を訴えるかの様な、揺れる瞳に太陽は気付いたが、なんて返答すればいいのか整理が出来てない。

 この場合、自分が何を言えばいいのか、何が正解なのか……太陽は思考の迷宮に囚われ、遂に出した答えた。


「……別にいいんじゃねえの? つか、他人の俺が、人の色恋に口出す権利はねえし、とやかく言える案件じゃねえだろ、それ」


 まるで自分の気持ちから逃げる様に太陽はそう口にする。

 何故、自分がそんなことを言ったのか、太陽自身も分からなかった。

 もしかして間違ったことを言ったのではと思ったが、それは後の祭りに過ぎなかった。


 ……だが、そう思う反面に、自分が嘘を言っているとは思ってなかった。

 

 光に告白して来た山下という男子は、光同様に学校で人気者で、沢山の憧れの的の相手だ。

 学校の人気者の男女。

 誰が見てもお似合いの2人が付き合えば、さぞ画にもなるだろう。

 

 太陽は頭の中でそう考える度に、胸の奥がチクチクと痛み、今にも吐きそうになる。

 

 太陽は思いたくないが、頭の隅でこう考えざるを得なかった。


「(光は山下に……気があるんじゃねえか)」


 だから太陽に相談を持ち掛けた来た。

 相手にどう返答をすればいいのか分からずに、少しでも他の意見を聞きたいが為に太陽に白羽の矢を立てたのではないか。

 

 昔から好きだったからと言って、恋愛面で、だから何?と言われるだけだ。

 どんなに相手の事を想っていたも、相手の気持ちが自分に向けられていなければ、それはただの一方通行で、それに逆上するのはただの八つ当たりに過ぎない。

 それに、太陽が自分で決めた事のはず。

 光とは、気の許せる幼馴染でありたい、と。


 必死に気持ちを押し殺す太陽だが、


「――――――の馬鹿」


「は? ふがっ!」


 光の掠れた様な独り言は太陽の耳には届かず、飛んで来たのは枕だった。

 そこそこ固めの低反発の枕な為に、顔面直撃は鼻にツーンと痛みが来る。

 

 ポタッと床に落ちる枕を一瞥せず、太陽は光を観る。

 光の顔に陰りが差して表情が窺えず、ゆっくりと光が顔を挙げるとここで光の表情が見えた。

 目尻に涙を溜めながらも必死に作る微笑。

 

 光はベットから降りると、無言のままにベランダの窓を開けた。


「お、おい光! ちょっと待てよ!」


 ベランダから自分の部屋に戻ろうとする光を、太陽は彼女の肩を掴み呼び止める。

 だが、太陽が掴んだと同時にそれを拒むように、光は手で太陽の手を払いのける。

 太陽が光の肩を掴んだのはほんの一瞬。

 だが、それだけである程度の情報は読み取れた。

 肩が微かに震えていた……まるで自分の感情を必死に押し殺そうとするもそれが漏れかけているかの様に。


 背中を見せていた光は太陽を尻目で見る。

 その瞳は、先程の太陽の返答ではない、違う何を訴えるかの様な瞳だった。


 太陽は思わず1、2歩後退ると、光は作り笑いを浮かばせ。


「ごめんね太陽。変な相談をして。他人(・ ・)の太陽に相談した私が悪かったよ」


 自分で言ったとはいえ、光からその言葉を言われると胸を穿たれる。

 太陽は弁明しようと、光の方に手を伸ばそうとする。

 だが、その手を伸ばし切る前に止まる。


 躊躇いを見せていると、光は再び踵を返して、太陽に背中を見せる。


「もう夜も遅いし、太陽も宿題を早く終わらせないとね」


 いつもの平凡な会話を残して光は去る。

 だが、その光の背中からは哀愁を感じ、太陽に失望をしたかの様な暗い影も見えた。

 

 光が太陽に何を伝えようとしたのか、太陽に何と言って欲しかったのか。

 光が出て行き、1人となった太陽は騒めく胸を握りしめて、ただ1人で苦悩するだけだった。


 そして翌日。

 光が山下を振ったと言う噂が学校に広がった。

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