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出会いの兆候は突然に

 陸地同士を架ける橋の高欄に肘を付き、太陽は先日の雨で増水した川の流れをボーっと眺めて、はぁ……溜息を吐く。

 

「マジで今日の合コンは散々だったな……。まさかあんな言われようをされるとは……」


 水面に雑に映る自身の自嘲する笑みを見るや更に笑いが込み上げる。

 本日は土曜の休校日。

 特に予定のなかった太陽は自宅で暇を持て余していたのだが、急遽知り合いから合コンの誘いを受ける。

 合コンは男女5人形式で、なんでも元々参加予定の者が来れなくなったからと太陽に白羽の矢が立ち、特に用事もなかった太陽は言われたカラオケ店に向ったのだが、行ったことを太陽は後悔した。


 正確に語るなら、太陽は騙されたからとかではない。

 あいつが来るか来ないかの賭けの対象にされたりとか、来た事で盛大に笑われたりとか、人の精神を削ぐ様な事はされず。

 男性を含めて参加していた他校の女子生徒達から太陽の来訪を歓迎してくれた。

 なら、何故太陽は合コンに参加に後悔したのか、それは、合コンに参加していた女子に言われた一言が太陽の胸を深く貫いたからだ。


『古坂君ってさ……。本当に私達を見ているの? なんか心ここにあらずと言うか、必死というか……。いや、恋人を作るのに躍起になるのは分かるよ。私達もそうだし。けど……なんか、古坂君の場合は違うと言うか、なにかを忘れたかそうに見えるんだ。正直……少なくとも私はそんな人とは付き合いたくないかな……』


 参加していた女子が代表とばかりに太陽にそう告げ、太陽が他の者たちに視線を向けると皆太陽から顔をそらす。

 全員が同じことを感じていたのかもしれない。


「……もしかして、今まで俺が誰とも付き合えなかったのは、皆俺から同じことを感じてノーサンキューだったからなのか……。やっぱり、未練がましい男は嫌なんだろうな……」


 心の隅に元カノの影がある。

 もちろん、相手がそんな事実を知るわけがない。


 だが、太陽は態度に出易いというか、女性は敏感だ。

 太陽が自分をどう見ているのか、分かるのかもしれない。

 

「もういっそ、インチキ催眠術師にも縋りたい気分だぜ。このいつでも心を燻る想いも記憶も根こそぎ忘れさせてくれないかな……」


 太陽は、ずっと同じ時を刻んで育ってきた幼馴染兼彼女であった渡口光に振られ心に大きな傷を負った。

 そしてその傷が太陽の精神を蝕み、太陽は無意識に他の女性と光を見比べてしまう。


『あいつとこいつとではどう違うのだろうか……』


『あいつはこうしたが、こいつはどうするのか……』


『こいつはあいつみたいに、俺を裏切らないよな……』


 女性不信。

 その言葉だけでまとめるのは簡単だが、太陽は再び女性に好意を持てたとしても、いつか裏切られるのではと恐怖を感じていた。

 もしかしたら、太陽が無意識に相手に不快感を持たせていたのは、太陽自身恋人をいらないとしてではないのだろうか。

 傷を癒すために新しい出会いを求めていた太陽からすれば、もしそうであれば本末転倒である。

 自分自身も何がしたいのか意味不明となり、この1年間の自分の行いはなんだったのか……。

 

 ただ、太陽は中学までの自分とは違う自分を演じる時は楽だった。

 もちろん気恥ずかしさや周りからの冷たい笑いは辛かった。

 だが、チャラけてる自分を演じていた時は幾分マシで過去を忘れられた。

 

 どちらがいいかなんて自分では分からないが、元カノに対しての未練がましい自分にほとほと嫌気がさしていた。


「……まさか、俺がここまで未練がましいヘタレ野郎だったなんて、思いも……いや、中学の頃からその片鱗はあったか……」


 中学の頃の太陽は、教室の隅で特定の仲の良い相手とだけ話す地味な自分と、いつもクラスの中心で皆を引っ張る人気者であった幼馴染で元カノの光との劣等感から、小さい頃から好きだった気持ちを押し殺して過ごしてきた。

 自分が無理に告白をしても関係が崩れるだけで光からすれば迷惑極まりない行為だと勝手に思い、何度か親友である千絵、信也から告白しないのかと言われた時は首を縦に振らなかった。

 友達以上ではあるが、恋人のような男女の仲ではない関係に少しばかりは居心地は良くて、関係が崩れるくらいならこのままの関係で良いと太陽は親友に話していた。

 だが、あの光景を目の当たりにした太陽は、遅かれ早かれ関係が変わることを直感して、告白しないで壊れた後悔よりも前に足を踏み出しての後悔がしたいと決心をした。

 その結果が現状なのだが、過去の太陽は今の状況を危惧して告白を躊躇っていたはずなのにと、一周して失笑してしまう。


「それにしても、俺は千絵や信也に散々迷惑をかけてきたんだから、せめてあいつらに何か礼をしないといけねえな。俺の恋愛に協力してくれたんだし、今度は俺があいつらの恋愛の後押しをしてやらないとな」


 今がどうであれ、あの二人がいなければ光とは一度も関係が進められずに自然消滅したであろう。

 だから、せめてもの礼に今度は太陽が二人の恋のサポートをしようと考える。


「てか、そもそもあいつらに好きな相手がいるのか? よくよく考えれば、自分のことで手一杯であいつらの恋愛事情に見向きもしなかったな。今度殴られるのを覚悟に聞いてみるかな」


 合コンでの抉る言葉が逆に太陽を吹っ切れさせたのか、清々しく太陽は背筋と腕を伸ばす。

 

 空元気と馬鹿にしてくれていい。


 光に振られ、過去の情けない自分を忘れようと上辺だけ外見と性格を変えてから一年間過ごしてきた。

 その間に太陽は新しい出会いを求めて合コンに参加をしてきたが、仲良くなった女性は何人かはいたが、あくまで友達止まり、恋人まで進展していない。

 ギリギリのところまで進展はしたが、最終的に太陽が尻込みしてしまい、結局は振られ、太陽は苦汁をなめた。

 だが、思いの外傷つきはしなかった。

 それだけあまり相手に入り込み過ぎてないからだと言えば、太陽の本気が伺えるが。

 それでも、擦り傷も幾度も重なれば深傷となる。

 

 どんなに見た目と性格を塗り替えても中身までは変わらず、これが太陽の恋愛に対しての実力なのだ。


「まあ、それでも、恋愛だけが人生じゃないし。何か、俺でものめり込める物を見つけないとな」


 小学生から現在まで帰宅部の太陽は部活経験もなければこれといった趣味もない。

 漫画やゲームはするが、それを趣味だと語るにしては物寂しい。

 何か太陽が夢中になれる物を見つけようと太陽は無理やりと吹っ切らそうとする中。


〜〜〜♪


 太陽のズボンのポケットから初期設定された着メロが振動とともに奏でる。

 着メロパターンから携帯に届いたのは電話である。


「ん? 誰からだ?」


 太陽はポケットに手を入れ携帯を取り出す――――


「……ヤベッ!?」


 橋の高欄に肘だけでなく手を付いていた太陽。

 先日雨で高欄には水滴が現在も残っていた。

 水滴が太陽の手に付着して滑りやすくなっており、特に滑り止めが施されていない携帯は太陽の手からこぼれ落ちる。

 そして、その落下予測場所は最悪なことに太陽の前方、つまり、川の上空。


「おりゃあ!」


 携帯の消失は高校生にとって致命的。

 脊髄反射でか、太陽は咄嗟に高欄に身を乗り出し宙の携帯をキャッチしようとする。

 瞬き程度の瞬間だったからか、手を伸ばすと奇跡的に太陽は携帯を捕ることに成功する―――――が。


「――――――は?」


 高欄は太陽の腰程度の高さ。

 身を乗り出せば腹で体の重心を支えていた。

 しかし、その腹さえも支える二本の足がズルッと滑り、ぐんぐんと太陽の視界は空から川へと見下ろす。

 太陽は直感した。

 このままでは川に着水すると。

 

 昨晩の雨で川は増水はしているが、元々この川は水深は高くない。子供でも足がつくぐらに浅い。

 このまま落下すれば着水の勢いで体や頭を川の底に衝突してしまう。

 体なら助かる、だが、頭なら下手をすれば死ぬ恐れもある。

 ヤバい、太陽は一心不乱にジタバタと抵抗するが遂に足が天を指そうとした、その矢先。



「自殺はダメェエええええ!」



 は? と太陽は目を点にする。

 危機的状況で尚、何者かのその言葉に呆気を取られた瞬間、太陽に衝撃が奔る。


「ぐ―――――へぇ……!?」


 何者かに体当たりをされたのか、腹に腕を回され、横腹に硬い感触が迸り、そのままの勢いで太陽はうめき声を漏らしてアスファルトの歩道に倒れる。


「な、なにを考えてるんですか! 見た感じ私とあまり歳が変わらないのに自殺をしようとするなんて! 親御さんが悲しみますよ!? どんな形であれば子供には生きてほしいと思ってます。悩みがあるなら私が聞きます。ですので、自殺は思いとどまってください!」


 興奮気味な声音で捲し立てる女性の声。

 女性は太陽の腹部に顔を埋めて話しているからか擽ったい。

 

「てかどんな厄日ですか! 今日引っ越してきたばかりで、街探索を兼ねてジョギングをしていただけなのに、自殺志願者と鉢合わせするとか! 私、この街でやっていけるか引っ越し前日はワクワクだったけど不安になりました!」


 更に太陽の腹部に顔を埋めながら言葉を続ける女性。

 女性の発言からこの者は今日この街に来たばかりの者らしい。

 

 田舎にようこそ、と歓迎の言葉を言わねばいけないのか。

 

 だが、女性に押し倒され頭を打ったからか、クラクラする意識の最中で言い放つ。


「……俺……別に自殺志願者じゃ……ねえんだけど?」


「え?」


 女性は太陽の言葉に腹部から顔を上げて太陽の顔を直視する。

 朦朧とする意識の中、途切れる直前に見た女性の顔は――――ポニーテールを風になびかす美少女だった。


 

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