ただものではない風格
カンナから衝撃の武器詳細……聖剣のことだが、それを聞いてからモンスターに対しなんのためらいもなく攻撃できるようになった。
だって、戦闘になれば一方的に一撃で倒せるんだもの。
おかげでモンスター狩りが捗る捗る。
「このフロアはもう敵も少ないな」
「狩りまくってたもんねー」
「スケルトンが楽に狩れるし経験値高いからな。レベルも二つ上がったし」
ステータスはレベルアップと共に各+1されただけだから察してくれ。もちろん運の良さ以外な。
なんでもステータスの上がり方やレベルアップまでの経験値にはクラスが関係するそうだ。
俺の場合勇者はレベルアップが早いが、ステータスは晩成型なため序盤の上昇率は低く、スキルを覚えるのも遅いためダンジョン初攻略にはあまり向かないらしい。
この世界では魔王なんて存在は居ないため勇者である意味が薄く、カンナ曰く勇気がある者なら誰でもなれるクラスだそうだ。
ちなみに、クラスチェンジはダンジョンに挑む前なら可能だ。
レベルはその都度1に戻るが、覚えたパッシブスキルは他のクラスの時も有効らしい。
そのクラス毎に付与されているアビリティなんてのもあるみたいだ。
このテストダンジョンをクリアしたらいろいろ模索してみるかな。
「アイテムも回収したし、次のフロアへ行くぞ」
「あ、ちょっと待って。ジオスちゃんを苦しめる策を思案中」
魔王居たよ。残念ながら勇者が敵う相手じゃないがな。
「……お口にチャックはどうした?」
「有休取って実家に帰ったわ」
「一生帰ってろ」
なんだろうなこの罠と分かりながらも進まなきゃいけない感じ。
それが大事な仲間を助けるだとか、魔王を倒しにいくとか目的があるんなら踏み込むしかないが、ただ単に苦しめられるって嫌がらせのなにものでもない。
「もういい突っ込むぞ」
「あ、今は乱数が――」
何か聞こえたがもう遅い。
飛び込んで次のフロアへ辿り着いた途端、盛大な音が鳴り響く。
「な、なんだよ!? この「ファーファーファーファー」高速で鳴ってるサイレンみたいな音は!」
「あちゃ〜全モンスターが起きて襲いかかってくるわね」
「全部!?」
「部屋も特別な大きさに拡張されたモンスタールームよ」
えぇ……着いたばかりでなんだよこのフロアは。
今までは一対一でゆっくり対処できたのに、スケルトンに四方を囲まれて攻撃されたらいくらなんでもHPがまずい。
しかも、遠目に何匹かこちらへ向かってきているのが分かる。
壁を背にしているためこのままじゃ追い詰められる。
「ジオスちゃん壁を見て」
「ん? なんだよこんな時に」
壁には「ぱんつぁーふぉー」と書かれている。
「ふぉーの部分はどうするか、ハードなゲイと迷ったの」
「心底どうでもいいわ!」
無駄な時間取らせやがって。こうしてる間にもモンスターが……あれ?
「なぁカンナ、あいつらもしかして俺を無視してない?」
「正確にはアウトオブ眼中ね」
「古い、古すぎるよ!」
カンナの死語はともかく、大ピンチと思われたモンスタールームだが、思ったより大丈夫か……?
ゴブリンとオークは互いを見つけ罵り合ってるし、スケルトンは同族を見つけ斬りかかってるのも居れば、意気投合したのか座り込んでお茶のようなものをすすっている。
シャーマンはその場付近からあまり動かずただ踊っている。
このままで大丈夫そうなためゲートを探すなら今のうちだな。
こんだけ広いなら壁沿いに進んでいくよりも、斜めに進んだ方が効率良さそうだな。
よし、こっちの方が近道だぜ! ――カチッ。
「言い忘れてたけど、部屋が広い分罠も多いから気を付けてね」
「早く言えぇぇ!!」
近道しようとしたのが仇になってしまった。
罠を踏んでしまったようで、模様が浮かび上がり×といったマークをしているが一体何だ?
「モンスター倍増スイッチだわ」
「倍増!? 増えすぎだろう!」
「通常は一部屋にしか効力ないけど、よりによって特大のモンスタールームで踏んだジオスちゃんの自業自得」
確かに見るからに数が増えている。さっきまでは二十ぐらいだったのに、今は四十ぐらいいるわけか。
「うっかりしていたのは俺が悪いが、こいつら増えた所でさほど脅威じゃないよな」
「って思うじゃん?」
待ってましたと言わんばかりの笑みでスケルトンを指差すカンナ。
その先を見ると斬り合いをしていた奴らの片方が勝ったみたいだな。
「あれがどうかしたのか?」
「問題です! ババン!」
初っぱな以来久しぶりに聞いたなオイ。
ご丁寧に効果音まで自分で喋ってやがる。
「モンスターがモンスターを倒した時の経験値はどうなるでしょーか?」
「……そいつに加算される?」
「ぶっぶー、はい罰ゲ〜ム」
「なっ! そんなの聞いてねぇぞ!?」
「言ってません」
「だいたい正解はどうなるんだよ!?」
「経験値に応じてモンスターがワンランク上のモンスターになる。でした」
「ランクとか今初めて聞いたぞ! 卑怯だ!」
「他のファンタジーで勉強しないジオスちゃんがチョベリバ」
「辛辣すぎない!? つーか微妙に使い方違うし、古いっつってんだろうが!」
つまり、この問題はスケルトンがランクアップするかもしれないってことでいいんだよな?
俺らが会話している内にそのスケルトンは二匹目を――あ、今倒したな。つーかあいつ強いな連勝じゃないか。
「どうやらランクアップしたみたいね」
「え? どこが?」
見たところ何も変わっていない。
もっと分かりやすく見た目が変わったりするんじゃないのか?
「では第二問です」
「またかよ……」
「通常ランクアップしたモンスターは、部分的に色違いだけ等の手抜きが施されますが」
「オイ手抜き言うな」
「あのスケルトンの違いはなんでしょーか?」
それが分からないから困ってるんだよな。
ただ、一方的に一撃で倒してるんだから強さは間違いなく上がってるな。
生半可にあいつと殺り合うのは危険かもしれない。
「さっぱり分かんねぇよ。肩甲骨でも一本増えた?」
「増えないでしょ」
「髪切った?」
「髪ないでしょ」
「う〜ん……ギブアップだ」
「正解は、錆びた斧の錆びが取れました」
「んなもん分かるか!! スケルトン関係ねぇよ!」
遠目に見て気付ける訳がない。
錆びた斧が本来のバトルアックスに戻り、攻撃力を取り戻したため一方的に勝てる程強くなったらしい。
錆びを落としたのはスケルトンがランクアップしてスケルトンターボ(T)になり、手に持っている特殊なお茶で錆びを落としたんだとか。
お茶すげぇぇぇ!! ってさっき何匹かお茶すすってるのを見たぞ!?
感心してる場合じゃない。早くゲート探して逃げないと。
「そんな危ない奴らがウロウロしてるとか、問題に答えてる場合じゃないじゃん」
「まだしばらくは平気。それより向かってきている敵もいるわ」
「えっ……なんだありゃ、新種か?」
姿はキノコのようだが身長は低く、黒ぶちメガネとスカーフのようなものをした騒々しいモンスターがこちらにやってくる。
「言葉が分かった方が面白い」
ゴブリンとオークが喧嘩していた時と同様に、カンナがパチンと指を鳴らすと、俺にもモンスターの言葉が理解できた。
「じゃんじゃじゃぁ〜ん!」
……なんか登場から既にムカつくから、試しに先制攻撃してみよう。
手裏剣を取り出し投げてみると足の部分にヒットした。
「弁慶超痛いんですけどォオオオオオオオオオ!!!」
思った数倍キャラが濃すぎてヤバい。戦闘云々以外の強さを感じる。
「暴力〜?! 喧嘩上等ぉおおおおおおお!!!!!」
喜怒哀楽が激しいな。見た目もだが、喋られると余計こいつがモンスターと思えなくなる。
「ジオスちゃん、あぁ見えても実力はスケルトンターボより遥かに上よ。油断しないでね」
「マジかよ!? いろいろとデタラメな奴だな」
痺れを切らしたキノコが掛け声と共に突進をしてくる。
「ふ〜ざ〜け〜や〜がってぇぇ〜〜!!」
「速い!?」
見た目と違って意外にすばしっこい。避けきれずに一撃をもらってしまう。
クリティカルヒット! 48のダメージを受けた!
はぁ!? ただの突進でこのダメージ!?
まずい! もう一撃もらったら負ける。それにさっきから身体が……重い。
「いーいザマだねぇ〜! どう? オレっちのシビレ粉は?」
「くそっ……そんなもの撒きやがったのか!」
残念だが全く反撃できそうもない。このままこんなデタラメ奴に負けてしまうのか……。
「お前は一体なんなんだ?」
「オレっちはキーパーの野郎が取り逃がした奴に興味があっただけ〜。あ、奴とは仲間じゃねぇから気にすんなよ〜」
不思議な奴だな。どうやら完全な敵って訳じゃなさそうだ。
「だったら目的はなんだ? 聖剣の回収か?」
「ん〜違ぁう! それより不意討ちで弁慶が痛かったなぁ〜」
「す、すまん! まだ投げるのが下手くそで悪気はなかったんだ」
「はい許〜す。目的はオレっちが勝ったんだから、お願いと言うよりは頼みになるぜ〜」
「それあんま変わらなくね?」
とりあえず助かった。どうやら最初から力試しのつもりで、殺す気はなかったように感じ取れる。
キャラのせいで何考えてるかが未だに不明だがな。
「実はねぇ〜モンスター界にもちと厄介な奴らが居て、お兄さんに協力してもらって退治してくれたらなぁ〜ってな」
「俺の力でよければダンジョンクリアついでに倒していくが……お前の力なら俺より楽に勝てるんじゃないか?」
「それがね〜モンスター同士はダメージが低かったり、攻撃が効きにくかったり困ったもんでね〜」
なるほど。スケルトンが同士討ちに時間がかかっていたのもそんな理由があったからなのか。
「そういうことか。いいぞ、なるべく引き受けよう」
「さっっっすがお兄さん! 話分かる〜」
お前も話が分かりすぎるキノコだぞ。
こいつ躊躇いなく話しかけてきたが、俺が言葉分からなかったらどうする気だったんだろうな。
「知ってるかもしれないが、俺はジオスだ」
「お兄さんの名前は初耳だぜ〜オレっちはキノコの山さんとでも呼んどくれ〜」
痺れも取れてきて動けるようになったので握手で軽い挨拶を済ませ、改めて確認する。
「俺が出来るだけ厄介なモンスター退治をすればいいんだな?」
「YES! YESYESYES!! 頼んだぜ〜!」
最初のテンションに戻ってやがる。
敵じゃないと分かっただけでこのキャラもさほどムカつかなくなったな。
……変な粉のせいじゃないと思いたい。
「それで普段は山さんどこに居るんだよ?」
「オレっちは謎感をかもし出す〜からそれは内緒だぜ〜」
「十分謎だから! かつてない程謎だから!」
キノコで黒ぶちメガネにたなびくスカーフでデタラメな強さだぜ?
どこの世界探したらこんな謎キノコに出会えるんだよ。
「じゃ! もういくぜ〜生きてたらまたなぁ〜!」
「あ! お、おい……くそ速いな本気があれかよ」
あのまま敵に回したら今頃ミンチだったな。
キノコが現れてからカンナも黙って気配を消してたし、スケルトンターボの印象なんざ吹き飛んだぜ。
「良かったわね倒されなくて」
「そう思うなら先に警告してくれよ」
「だって可愛いでしょ? あたしの好きなキャラクターそっくり」
「お前が犯人かよ!? 可愛いはない、断じて」
「え〜リアクションはナウいヤングにバカウケよ?」
「それは認める。お前の死語のことも忘れてたわ」
しかし、山さんに敵わないどころかこれから先厄介な敵と遭遇するなら、このフロアで少しでも修行しとくか。
ちょうどいい経験値の骨がそこら中に居るからな!