まさかの聖剣
「ふぅ、ここは……安全みたいだな」
景色は似たままだが、構造が若干違う部屋なので無事逃げ切れたことに安堵する。
辺りを見渡すと「ぶいすりー」と書かれているため、ここが三フロア目で間違いないようだ。
「またしても意味不明な表記をしてんな」
「ぶるーすりーと迷ったわ」
「知るか! どっちもやめとけ、消されてもしらんぞ」
「ジオスちゃんの貴重なツンデレを保存……と」
「一切デレてねぇよ!」
この女神、とぼけていても全く迷いがない。別世界の知識として記憶に残ってるんだが、著作権とか関わってくるんじゃないの? 怖いものなしか!?
どこまでが範囲かは俺にはよく分からないが、最近では歌詞の使用料を争う事態に陥ってるとこもあるらしい。
手当たり次第な金の亡者め。バカなことやってると先がないぞ?
しかも、その世界では意図してない電波というものを垂れ流し、大画面の映像を見れる物がなくても、通信に使う機器を持ってるなら見れるだろ! 金を払え! と、理不尽な理由を掲げる輩もいるらしい。
よかったな。歌詞云々より誇っていいバカだぞ。
つい話が逸れてしまったが、この世界がどうなろうとカンナに任せておけばいいか。
世界間では決まり事が違うのかもしれないし、俺にどうこうできる話でもない。
それよりも、俺には今こうしてやらなくちゃいけない、モルモットと呼ばれる生物になるだけの簡単なお仕事がある。
「さて、こっからはどう行動しようか」
「お主、何か企んでおるな?」
「いやな、そろそろ本格的にレベル上げをしてもいいんじゃないかと思ってな」
「ほほぅ、お主も悪よのう」
また変なキャラ言葉を使ってきやがるがあえて無視だ。付き合いきれない。
「いえいえ、お代官様程では。このサイトに登録すれば若いおなごが勝手にホイホイと」
「まことか!? えぇい! 出逢え出逢え!」
「静まれぇい! この菊の門が目に入らぬか!」
「お前が静まれや!! さっきから一人でやかましいんだよ! 途中から訳分かんねぇ上に、最後の致命的な間違いで台無しだろうが!!」
つい、耐えきれなくなって反応してしまった。
ダンジョン内を歩いている横で一人小芝居が始まって、別世界の渋い話かと思いきや内容が危ない方向へいくんだもの。
お前はちょっと著作権関係なしに怒られてこいよ。
「だって〜刺激的なこと起こらないと暇ぁ」
「もうだいたいこのダンジョンのことを説明してくれたろ? 分身を戻して、俺の異世界を調べることに専念してくれてもいいんだぞ」
「ダメ。宇宙一展覧会のためにダンジョンデータを取って仕上げないと」
「それなら俺が行動した記録を、後から観るとかお前なら出来るんじゃないか?」
「!! そこに気付くとは……やはり天才か」
「お前がバカなだけだぞ」
やれやれ……戦闘面では助けられているが、たまに頭脳面が残念なようだ。
「んで、そのデータとやらを取るにはどのくらい進めばいいんだ?」
「そうね〜ジオスちゃんのテストプレイで得た情報を元にあれこれ修正したいから、五フロアをクリアしたら一旦帰りましょうか」
「つーことはもう半分か。お前にしちゃ優しめだな? 延々に終わらさない気もしてたが」
「やだ〜もう〜テストなのよそんなわけないじゃない? それはまた今度」
「おい、自分で振っといてなんだがやめろ! 身が持たねぇよ。」
「残機を九十九に増やしておくわ」
「身の意味が違う! 百回死ねってか!?」
異世界の知識だが残機とはやられた地点、もしくは最初からやり直せる回数みたいなもんだ。
正式なダンジョンにおいてはそのフロアのスタート地点からやり直させ、失った装備等はそのフロアにバラバラに置かれているらしい。一体誰が置くんだろうな?
まだ思考段階の救済案なため、テストダンジョン程度の短さだと最初からやり直させるみたいだ。その短さの中で何回か死にかけたがな。
道中で聞いた時はそう意味がない話だと思ったが、いざ現実味を帯びるとなるべく対策が必要だ。
もし、ノープランだと少し進んだフロアでやられて装備を失って、探してる間に敵に見つかってまたやられて……のループになりかねない。
幸い、やられてもアイテム類は保持させてくれるみたいだから、やられた場合は如何にアイテムを駆使して装備まで辿り着けるかが勝負になりそうだ。
そんなこんなで残機が九十九あろうと終わるには、リタイアか百回死ぬしかない。
クリアできたら一番良いが、イージーでこれだぞ? 余程運がなきゃまず無理だろう。
「でも残機なんて甘えね。今の所はなしなし!」
「俺のせっかくの考察時間を返せ!」
こういう奴だったのを忘れていた。コインの表と裏のようにあっさりと考えを変えやがる。
真面目な奴ほど振り回されて損をする。この世界の常識だ、覚えておこう。
「さっさとこのフロアも終わらせちゃいましょ」
「お前が言うな」
「気にしない気にしない。レベル上げするんでしょ? ほら、敵の攻撃が振りかぶって――」
「のわっ!? もっと早めに言ってくれよ!」
背後の通路からモンスターが近付いているのに気付かず、攻撃をされていた。
油断していて反応が遅れ、一撃もらってしまうも追撃させないように咄嗟に距離を離す。
すぐ反撃しようにも武器は今持ち物欄にしまってある。
最初は装備していたが、常に持ち歩いている状態は思いの外きつかったのだ。
不意討ちをくらうとは想定していなかった。
それにしても、こいつはなんなんだ? 全身骨だらけで斧を持っているが、そんな身体でどこから振り下ろす力が出ているのか……。
中々な一撃をもらってしまったが、レベルが上がっていたおかげでまだ大丈夫そうだ。
「見たことないが、こいつは何なんだ?」
「アンデッドモンスターよ。この世に未練を残した魂が死体に憑依し、本能のままにさまよって獲物に攻撃していくの」
「魂か。骨だらけになるまでさまよってるのに変な質問なんだが、目の部分は空洞だけど見えてんの?」
「姿はそうなってしまったけど、魂が動かしている限り普通の人間と同じ感覚を持っているわ」
なるほど、音に釣られて来ただけなら音を立てずに、楽に背後に回って攻撃できないかと思っていたんだがダメか。
「気になる尺稼ぎ……ステータスはこれよ」
「おい、言い直しても遅ぇよ」
ステータス
種族:スケルトン
Lv:5
攻撃力:11(+3)
防御力:1
命中率:6
回避率:1
運の良さ:0
装備:武器『錆びた斧』 防具なし
スキル:『憑かれ疲れ』
経験値:10
ゴールド:2
もはや見慣れた運の良さの数値。なんかステータスが極端に偏ってるし、よくこの攻撃力で大ダメージ受けずに済んだな。
錆びてる武器だったから思ったより威力を殺したのか?
なんにせよ助かった。こういうこともあるのか……次からは用心しないと。
「こいつのスキルがまた呪い系に思えるんだが……」
「これは常に発動しているスキルだから、秀でた攻撃技を持っているわけじゃないわ」
「常に? なんだそれ?」
「自分をなにかしら強化してくれている自動スキル……パッシブスキルって言った方が伝わりやすいかしらね」
「待ってくれ。スキルって使いたい時に発動するもんじゃないのか?」
「それはアクションスキルね。パッシブスキルは会得した瞬間から発揮されているの」
「なるほど、そんな種類があったんだな」
「ジオスちゃんのスキルもパッシブに変更する?」
「常に全裸になるとかやめろ!!」
それをパッシブにしてナニが強化されるんだよ。常に装備できんだろうが!
んで、肝心の敵さんのスキルは何も分かっちゃいないが、こちらの攻撃を当てれば楽に勝てそうだな。
「ほら、敵が待ってくれてるわよ。まるで変身シーンの如く」
「言ってやるなよ! 大人の事情だ察しろ!」
持ち物欄から武器『バールのようなもの』を取り出し装備する。
後は、懐に入りすぎずに反撃をくらわずに攻めるだけだ。
「!! ジオスちゃん、それって……」
「なんだ? ――うおっ!? ちょっとこいつ倒すから待ってろ」
カンナは俺が手に持っている『バールのようなもの』に何か言いたそうだったが、目の前のモンスターがいきりたって襲ってきたため、今はそれどころじゃない。
「これの使い方なんざ知らねぇが、くらえぇぇええ!!」
迫り来るスケルトンの斧を避けて、頭蓋骨目掛けて思いっきり棒を振った。
クリティカルヒット! 28のダメージを与えた!
攻撃と共にステータス画面と同じ位置になにかメッセージが表れた。なんだこれ今までなかったぞ?
スケルトンは……いとも簡単に首から上の骨が飛んでいき、残った骨はバラバラに崩れてしまった。
どうやら一撃で倒してしまったらしい。
「さすが聖剣ね。バランスブレイカーな強さに納得」
「は? 剣なんて使ってないぞ?」
「判別魔法をかけてあげるから説明欄を見て」
指をパチン! と鳴らすと武器に説明が補足されていく。
「なになに……名状しがたいバールのようなもの。余計に文字増えただけじゃねぇか!!」
「もっと下読んで」
「約束された勝利の鈍器? この説明もどうせネタだろうよ」
「いいえ、あながち間違ってないわ。その次が最後ね」
「聖剣エクスカリバール? これのことか。ただのダジャレじゃねぇの?」
「何言ってるのよ。強さは実証済みでしょう?」
「まぁ確かにこん棒なんかより遥かに強いとは思ったけどさ……」
剣を使っていた身としてはイマイチ納得がいかない。
だって見た目が全然違うぞ? 聖剣と呼ばれる物を見たわけじゃないが、少なくとも剣なら鍔や鞘があって、持ち手の部分もしっかりしてるはずだ。
それに、なんでそんな聖剣があっさり落ちてんだよ……。
「呪いをかけられてカンナとはぐれた時に見つけたんだが、そんなに貴重な物なのか?」
「貴重も何も、このテストダンジョンでは最強武器よ。もしかしたら、正式なダンジョンでもそれに匹敵するわ」
「は? 嘘だろ? これが最強……」
断じてそんな風には見えない。嘘だと言ってくれ。
「本当よ。あたしだって驚いているんだから」
「えっと……俺の初武器が最強?」
「えぇ」
「こんな棒が?」
「聖剣よ」
「…………」
これは何かおかしい予感がする。だって俺の運の良さは0だもの。
そうだ、何か裏がないか? 実は呪われていたとか代償に何かを失うとかさ。
「こんだけ強いならデメリットもあるよな?」
「聖剣なのよ? あるわけないじゃない」
「……呪いも?」
「それに呪いがあったら、ジオスちゃん生きてないわよ」
「えぇ……」
サラッと全否定された。本当に聖剣らしい。
「でも、それならゲートキーパーが派遣されたのも納得ね。並のモンスターじゃ相手にならないもの」
「確かにさっきは楽勝だったが……あ、なんかクリティカルヒットとかダメージ数が出たぞ?」
「それは『聖剣エクスカリバール』の特性ね。通常の二倍のダメージで、相手の防御力を無視した一撃を叩き込めるの」
なにそれ聞くだけで強い。
「つまり、あんなに固そうだったゲートキーパーも倒せるかもしれない武器よ」
な、なんだってー!?
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