HPは不必要?
「ここが次のフロアか。見た目はさっきと同じだな」
見た感じさっきまでとは何も変わらない。ゲートをくぐって他の場所に転移しただけと言われても疑いはしないだろう。
壁に書かれた『ふろあつー』の文字を見るまではな……。
「なんつー雑な表記だよ」
「あたしらしさを表現してみました」
「意味が違って見えるぞこれ」
「そこは読者様の自由」
「冒険者に配慮しろよ!」
また始まったぞ読者とやらへのあざとい配慮。
「もういい先へ進むぞ」
「ジオスちゃん呪いの加減はどう? ちょうどいい?」
「湯加減みたいに聞くな風呂から離れろ!」
だいたいそんなこと分かるわけないだろう。装備した瞬間に判明するならなんらかのデメリットが発生してるはずだ。
「さぁ行くぞ。まずはこの先に見える次の部屋へ……」
あれ? なんだ? 歩き始めると急に力が抜けてきたぞ……。
「カンナ、これは何の呪いなんだ?」
「呪いに関しては実際に体験して解決してもらうまで内緒」
「そりゃダンジョン攻略だから秘密にするのも分かるが……歩く度にこれじゃ詰んだぞ」
「ヒントをあげる。あたしがあげたものを使ってみて」
カンナにもらった? スキルのことだろうか。使い方は念じればいいのか?
でもマッパーを使ったところで近くのアイテムまで歩ける力は無さそうだぞ……。
「よし使ってみるぞ」
「後ろ向いてるわね」
「???」
なぜか慌てて目を背けたな。見ちゃいけないことでも起こるのか? まぁいい念じてみるか。
ジオスは『マッパ』を使った!
次の瞬間、キィンと甲高い音と共にスタァーヴの腕輪が外れた! なぜかシルフのくつしたも脱げて壁に飛んで……
「おいカンナ! これどういうことだよ!?」
「ステータス見て」
今の状況がステータスとどういう関係があるんだよ!?
ステータス
名前:ジオス
クラス:勇者 Lv:2
攻撃力:2
防御力:2
命中率:2
回避率:2
運の良さ:0
装備:武器なし 防具なし
装飾品:なし
スキル:『真っ裸』
経験値:0/36(次のLvまで)
状態:健康
消費度:31/100
スキルのせいかあぁぁ! そりゃ服も脱げるわ!!
「なんだよこれマッパーを覚えたんじゃなかったのか!?」
「それがね……ジオスちゃんが思い浮かべてる時に、あたしのタイミングとズレて違うスキルが付与されちゃった」
「それで真っ裸!? いやそれより服どこいった!」
「このダンジョン内に元々ない物は消滅してしまったわ」
「消滅って……なら俺はこっからどうすりゃいいんだよ?」
「裸にくつしたで頑張るか、このおぼんで隠しながら進むか選んで」
「おぼんより服寄越せえぇぇ!!」
どっからおぼんが出てくんだよ。ダンジョン内を裸で彷徨く度胸はないぞ。一応横に女も居るし。
「今回はあたしを含むアクシデントだから代わりに違う服を用意するわ」
「よかった……防具ないどころか服もなしは肉体よりも精神的にきつい」
「賢い者にしか見えない服とバカな者にも見える服どっちがいい?」
「どっちも要らねぇから普通の服にしてくれよ!」
なんだよその二択は。どっちを選んでも相手次第で俺が裸に見える服じゃねぇかよ。
「しょうがないわね。なら服をランダム抽選して装備させてあげる」
ジオスは『血塗れたエプロン』を装備した。デーデン……デーデン……ジオスは『真っ裸』を使った。
「振り出しに戻っただけじゃねぇか!」
「あたしのせいじゃない。ジオスちゃんの運の無さよ」
「それにしても怖いわ! なんだよ今の装備は!」
「カースシリーズね。モンスターに襲われた者の遺品よ」
「んなもん装備さすなよ!」
もう自分が裸なのを忘れる衝撃だぞ?
裸エプロンって本来こんなもんじゃないだろうよ。……なんでそんなことを知ってるかは謎だがな!
「まぁまぁ、もうそろそろ終わりにしましょ。先へ進まないわ」
「お前が言うな!」
ようやくまともな服を用意してもらったが、防具とは関係ない動きやすいだけの服なようだ。どうせなら防具をくれたらいいのに。
「で、やっとあの腕輪が外れた話になるが、ステータス見る限り……呪いは消費度の異常な減少だな?」
拾ったくつしたを履きなおしながらステータス画面を眺める。
「そうね。一応外せたから教えてあげる。スタァーヴの腕輪は数歩進むごとに段々と空腹になっていくの」
「今はそんなに力が入らないことはないぞ?」
「呪いの効力で極端に効果を発揮するから今より辛く感じたはずよ」
「真っ裸がなけりゃ本当に詰んでたんじゃないか?」
「かもね。運が良いわ」
「悪いからあぁなったんだよ!」
どこをどう見たら俺の運の良さ0が良いと言えるのか。適当すぎんだろ。
「消費度が極端に減ったからといって、拾ったアイテムを活用すればなんとかなるんだろう?」
「えぇ拾えれば」
フラグに聞こえるからやめてほしい。
「消費度は体力や空腹の減少って言ってたよな。モンスターからの攻撃を受けるとどういう扱いになるんだ?」
「その人のクラスとレベルに応じて設定されている値からダメージで引かれていくの」
「設定されている値? そんなものステータスで確認できないが」
「敵も自分も最初から分かったら緊迫感がないじゃない」
「理由それだけ?」
「ううん、結局HPなんて設定したところでやるかやられるかしかないじゃない。目に見えて有効活用している物語ってあるのかしら」
「何の話!?」
なんか深そうで浅い理由が出てきたぞ。意味ないから設定してもしなくても変わらないと……。
いや変わるぞ! 見えなきゃ主に俺の生死に関わる。
敵を立て続けに相手せざる得ない状況なら、まさにそんな自体に陥るだろうよ。
「まぁまぁ、そんな値が見えなくても進めているからいいじゃない」
「今のところはな。ゴブリンでさえ今は脅威なんだから案外ヒヤヒヤしてんだぞ?」
「じゃあモンスター増やしましょうか」
「人の話聞いてた!?」
カンナが本気かどうか読めんのが怖い。なるべく余計なことは言わないようにお口にチャックだ。
「ジオスちゃんが武器を確保すればモンスター退治なんて簡単なのに」
「落ちてないんだから簡単に言うなよ」
「それがダンジョンの醍醐味」
「せめて最初から武器防具を一式支給しないとマジで詰むぞ?」
「それもダンジョンの醍醐味」
「見知らぬダンジョンをいきなりハードモードで誰がやるんだよ!?」
「あら、ハードなんて言った? 今はイージーよ」
「どこがだよ!」
俺の知ってるイージーと違う。少なくともモンスターに囲まれた状態ではないはずだ。
「難易度って具体的にどこを調整したらいいか分かる?」
「モンスターの強さやドロップアイテムの有無とか?」
「いいえ、プレイヤーの生存率よ」
「……どこが違うんだ?」
「そうね。ダンジョンに来てからゲートをくぐるまでのジオスちゃんの行動を振り返ってみて」
最初はモンスターに囲まれて寝返りでやられそうになり、カンナの説明聞いてたら起きたモンスターに襲われて、逃げたら罠にかかってアイテムを拾ってゲート前で呪いにかかって……本当にろくなことないな。
「敵の強さやアイテムに関わらず、少なくとも三回は死んでるポイントがあったと思うわ」
「あぁ……確かにあったな。よく生きてんな俺」
「ね? 無事生きてるから生存率としてはイージーなのよ」
「うーん、納得していいものか……」
「ハードだと五回は死んでたわ」
「増えてね!? つーかイージーとハードの差ってそんな難しいのかよ!?」
なんでここのダンジョンは極端に難しいのか。テストプレイですらクリアさせる気ないじゃん。このS女が今より簡単にするわけないし。
「今度、宇宙一展覧会があるのよ。このダンジョンを出展して宇宙一と認められたら、各宇宙旅行がプレゼントされるの」
「スケールがでかすぎて何を言ってるのやら……ダンジョンを出展?」
「えぇ、奇をてらったダンジョンで興味を持ってもらい、参加欲をそそらせればポイントが高いわ」
「逆に参加したくならねぇよ!」
マジで言ってるのか知らんが、どこにこれを見て探検したいと思える奴が居るんだよ。俺なんか一フロアだけで後悔してるぞ。
「そこはあたしの腕の見せ所ね! だからジオスちゃんにテストしてもらってから改善していけばいいんじゃない」
「お前のは改善って言わねぇ。改悪っつぅんだ」
「まぁまぁ、これからよこれから。戦闘はターン制がいいかな?」
「なんだよターン制って?」
「こちらが一回行動すると相手も行動する。攻撃は交互に行ってターンを消化していき繰り返すの」
「それは今までと何が違うんだ?」
「自分が行動さえしなければ、モンスターから逃げても同じ距離のまま追い付かれる心配がないわ」
つまり急にモンスターと出会っても慌てずに済むのか。けど、追いかけごっこになって問題が解決したわけじゃない。逃げ切るにはゲートに辿り着くしかなさそうだ。
「うーん、ターン制はしばらく進めながら考えさせてくれ」
「あら? 珍しくお悩み?」
「人を能天気みたいに言うなよ。メリットよりデメリットも気にしたいんだ」
「そう。読者様に委ねてもいいのよ?」
「お前が手抜きしたいだけだろ!? わけわからん傍観してる奴らにそんな大事な部分を任せられるかよ!」
「あーぁ、ジオスちゃん炎上しても知らないわよ」
「そいつら火が使えんのか!?」
「ある意味使えるわ。しかも中々消えないの」
マジかよ読者様って何者だよ……。聞くところによると、悪口を意図してない発言や行動でも燃やしてくるらしい。つまり怒らせたら次々に燃やされてお手上げだ。カンナでも対処は無理らしい。
そんな使い手に燃やされては「ぎょえぇぇ!!」や「ぬわーーー!!!」等、死の間際のような表現では済まない痛手を被るとのことだ。
「それって俺がターン制を選ぶ選ばないにしろ、気に食わなかったら炎上させられるの……?」
「いえ、そこまで理不尽な人達ではないみたいよ。ただ……」
「ただ?」
「このフロアに着いてからまだ一部屋も進んでないのは炎上対象かも」
「!!?」
リアル死の宣告を受けた気がしてカンナが二人になった気分だ……。進もうにも説明が小出しで理解の範囲を越えてるから中々進めない。燃やすならカンナを燃やしてくれ頼む。
「ぶ、ぶきを拾えたらサ、サクサクす、すすんでやんよ!」
頭の中で思うだけならいつも通りでも、声に出すとビビり腰になっていた。
あまりに突然の見えない強敵に、震え声でそう言うしかなかった。