相思相殺
「んで、これはどういうことかな?」
「運命的な出会い? 略して殺し合い」
「どこを略したどこを!!」
未だに最初のフロアをさ迷う俺だが、次のちょっと広い部屋に着いて奇妙な光景を目撃している。
「あれは……モンスターがモンスターを攻撃しているのか?」
「そう。モンスターにも相性があるの」
「相性? 好きか嫌いの?」
「そんなところね。同じ部屋で出くわすと真っ先に互いを狙うわ」
「人間よりも?」
「えぇ種族間の争いは絶えない設定よ」
「百パーセントお前の仕業じゃねぇか!」
ちなみに争ってる二匹は片方が一度見たゴブリン、もう片方は見た目がゴブリンに似ているが、武器がなく盾を持っているようだ。
「片方はゴブリンだろ? もう片方はなんなんだ?」
「オークよ。ゴブリンとは対を成す存在で武器の代わりに木の盾を装備しているの」
「なるほど。似たり寄ったりだな」
「ステータスも攻撃力と防御力が入れ替わっただけよ。あぁやって争ってはいつも決着つかないの」
「相性って言ってたが……あそこまで嫌い合う理由がなんかあるのか?」
「さぁなんだったかしら?」
「またかよ! なんで設定しておいて忘れるんだよ」
「まぁまぁ、それなら彼らの話を聞いてみましょうよ」
「話?」
聞くっつったってあいつらさっきから「ぶごぶご!」と「くおくお!」しか言ってないんだが……。
「あ、ジオスちゃんはモンスター語理解できないんだっけ?」
「理解できてたまるか!」
「なら今回は特別よ」
カンナがパチン! と指で音を鳴らす。
くっ……なんだこの感覚は!? 見知らぬ言語が次々と頭の中に流れてくる。
「おんみゃあ、わしとキャラ被ってんだぎゃ!」
「しらんがな! あっしに言われても困るでんがな!」
おい目の前の二匹はまだ何言ってるか若干不明だぞ。さっきよりはマシだが……。
「ごめんちょっと違う言語が混ざっちゃった」
「お前でもそんなことあるのな。わざとじゃないことを願おう」
「しょうがないからあたしが同時に訳して伝えるわ」
「あぁ頼む」
最初からそうしてくれよって言っちゃダメかな。まぁ悪気はないんだろうし、奴らの言葉を理解できた方が便利ではあるか。
「だいたいなんでお前は武器を持たずに防御ばかりするんだよ!」
「そんなこと言われたって盾しかないし、襲ってくるのはそっちじゃないか!」
「あん? 何から何まで被ってるくせに生意気なんだよ」
「そっちが真似してるんだろう? いい加減諦めてどっか行けよ」
「んだとぉ!?」
「また振り出しか……やれやれ」
あー……モンスター界の闇を見た気がする。奴らにも不満というか愚痴くらいあるよな。
全ての元凶が俺の横に居るが全く気にもしていないご様子。決着つきそうにないしここは迂回しよう。
「カンナもういいぞ。終わりそうにないから他の道へ行く」
「えーこっからが盛り上がりそうなのにぃ」
「悪魔かお前は。まだ武器もないんだし、あいつら気がつかないなら離れるには好都合なんだよ」
「ちぇ、こっそり進ませてバレて襲われて焦るジオスちゃんが見たかった」
「そっちかよ!? 思ってても口に出すな!」
「お口にチャック、覚えた」
「はぁ……」
誰かこの機械娘を教育してやってくれ。俺には無理だ。このダンジョンをクリアする方がまだ楽かもしれない。
来た道へとUターンし、角を何回か曲がり違う部屋を目指していると一度見た部屋に辿り着いた。
「……これは迷ったか」
「ねぇねぇ、次はゲート目指すの? それともアイテム集め?」
「うん? できればアイテム拾ってゲート先のフロアに備えたいが……」
まだ手に入れたのくつしただけだぞ? 先へ進むにはせめて武器かそれを補えるアイテムが欲しい。じゃないとモンスターに出くわす度に逃げなきゃならんぞ。
「なら、いつまでも先進まないから探知できるお札を使いましょ」
「お札ってなんか説明にあったな……そんなことが出来るのか?」
「えぇ、簡単に言うと魔法の代わりね。お札に込められている魔法を使用できるわ」
「なるほど……それって連発できるものなのか?」
「可能よ。使えば術者のステータス関係なしに発動されるし、敵に使って影響あるのは命中率と回避率ね」
「へぇ便利なもんだな。んで、そんなものがどこにあるんだ?」
「あたしに不可能はないわ」
えぇごもっともな返答をありがとうございます。会話としては成立してないけどな。
「これの裏を読んでみて」
「これがお札か? どれどれ……マッパー?」
お札とやらは薄っぺらい紙に力強い文字が書かれているだけなのに、簡単には破れなさそうな素材で出来ているみたいだった。
読んだと同時にお札が発光し、頭上に浮いて更にまばゆい光を放ち四方八方へ飛び散っていく。
すると、今いる場所からどの方向に進めばアイテムがあるか、頭の中で分かり始めた。
「おぉ! 面白い感覚だなこれ! まるでトレジャーハンターになった気分だ」
「あらダンジョン内でドロボーは命懸けよ?」
「ドロボーじゃない! トレジャーハンターだ!」
「一体何が違うのかしら……?」
珍しく訳が分からないといった表情をしているな。いいんだよ男のロマンは分かる人にだけ分かれば。
昔、憧れていたんだよなトレジャーハンター。
欲望に忠実というか、お宝を探し当ててかっさらって世界を自由に動き回る旅人って俺の理想の生き方だ。
現在なんかお宝はあるかもしれないが、女神の元で半分飼い殺し状態だぞ。おっと話が逸れたな。
「呼び方は今はまぁいい。頭の中にアイテムの場所が浮かぶ感じだがマッパーとやらの効果か?」
「そう。けど使ったフロアにしか効果はないわ」
「そうだよな。全部見えたら強力だしな」
「スキルで覚えれたら常に見えるわ」
「マジか!?」
「マジよ」
なんですと!? スキルってそんな便利なものまであるのか! レベルアップで取得できるか知らないが、この不安な状況を打破できるなら真っ先に欲しいな。
「強力といっても進行速度の違いでしかないし……テストプレイだから覚えてみる?」
「え? 俺の聞き間違いか?」
あのS女神からとんでもない言葉が聞こえた気がする。
百歩譲ってお札をあげるならまだ分かる。それが永久に使えるスキルをくれるだと!?
いや待て、罠だ罠に違いない! おいしい話の裏にはカンナの策略があるはずだ!
「お前さてはカンナじゃないな!?」
「失礼な。じゃあ教えてあげなーい」
「待った! 本物ならなんで教えようとする!?」
「テレパシーで感じるのよ。はよ進めやっていう他次元の声を」
「どこに配慮してんだよ! お前の世界の出来事を誰が見てんだよ!」
「不特定少数の読者様が――」
「またかよ! 被害妄想で頭おかしくなったのか?」
「はぁ……ジオスちゃんは気づけないからある意味幸せ者ね」
「???」
なんで俺が可哀想な者のような哀れみの目で見られなきゃならないんだ?
「まぁまぁ、スキルお安くしとくよ兄さん!」
「その言い方誰の真似だよ」
「悪の片棒を担ぐ口上手の幻惑師よ」
「なんか具体的だなオイ!」
カンナのまぁまぁはろくなことがないんだが……ここまで言うなら貰ってみるかな。
このまま一向に進まないのも困るし。
「分かったよ。俺にスキルを覚えさせてくれよ」
「やっと進む気になったのね。最終手段を使わずに済んだわ」
「なんの話!?」
「うふふふ、気にしない気にしない」
気にしない気にしないもろくなことがないんだぜ。
「いいけど、どう覚えるんだ?」
「必要な物の手間は省いたから、さっきの魔法を繰り返し思い浮かべてみて」
魔法の名前か? マッパー、マッパー、マッパー、マッパ……
「――今です!」
「うおっ! なんだなにしたんだ!?」
「ジオスちゃんが思い浮かべた魔法名を体内にスキル化したのよ」
「体内に? なにも変わんないぞ?」
「今はさっきのお札の効力がまだあるから変わらなくて当然よ」
あぁそうだった。ゲートくぐって次のフロアへ行かないと使っても意味ないしな。
「助かったよ。じゃあアイテム回収したらさっさと次のゲートへ向かおうか」
「うんその調子! ……あ」
「なんだ? 立ち止まって?」
「う……ううん、なんでもなーい」
「変なやつだな」
アイテムの反応がある部屋へ辿り着くとお札や装飾品は見つかったんだが、肝心の武器や防具は見つからなかった。
拾った装飾品をカンナに確認してもお好きにどーぞしか言わないし装飾品を安易に装備していいものか悩む。
まぁ今はゲートを目指して着いたら装備してみるか。
アイテムの反応もなくなったので、モンスターに見つからないよう慎重に行動し、ついにゲートがある部屋に辿り着いた。
しかし、ゲートっていう割には壁に目立たないような扉があるだけだ。試しに扉を開いてみると、俺がここへ突き飛ばされた時の異次元空間のように先が見えない。
「ここをくぐればいいんだな?」
「えぇ何も残し忘れはない?」
「あぁこのフロアには何もないさ。後は装飾品だが……」
持ち物欄を確かめて手に取ると綺麗な腕輪にしか見えない。高そうだが『???の腕輪』では有用なのかが分からないままだ。
うーん……悩んでも解決しないな。よし、装備だ!
デーデン……デーデン……
『???の腕輪』は『スタァーヴの腕輪』だった!
「今の装備した時の不安になるような音楽はなに?」
「あぁ呪われてるのよそれ」
「はぁ!? 呪いってなん……ぐっ! これ外れねぇぞ!?」
「呪い装備は基本外せず、なんらかのマイナス効果を発揮しやすいわ。音楽はとある海洋生物が迫ってくる不吉なものよ」
クッソ油断した! 最初のフロアだから安心してたが見た目にも騙された! アイテムは識別しないとこんな目に遭うのか……。
「一目で何も変わりがなければ後々分かるかもね。とりあえず先へ進んでみましょ」
「はぁ……仕方ないよな」
スキルはラッキーな展開で覚えれたが、武器はない防具もない装飾品は呪われている……運の良さが0のせいなのか滑り出しが絶不調で泣けてくる。
目の前のゲートを見つけていただけマシと思うしかないよな、と自分に言い聞かせゲートに飛び込んでいくしかなかった。
ブクマ・評価ありがとうございます♪
これも一話分を分割しているので、次は日付変わってから更新すると思います!