空気を読む運
「じゃじゃーん!」
「……なにいきなり現れてんの?」
ゴブリンを倒して一息ついていたら、もっと手強いのが横に現れた。
「ジオスちゃんがあたしの声に向かって独りツッコミしてる姿は、堪えられないと読者の方が――」
「要らん気を回すな!」
「ちなみに実体はカンナちゃんのお部屋に居て、あたしはただの映像みたいなものなので、モンスターに見つけられたり攻撃があたったりはしません」
「超便利なのな! 俺もそうしてくれよ」
「ジオスちゃんだと肉体あっち、魂こっちになるけどいい?」
「待った! よくない! それ冒険前に死んでるやつだから!」
ふぅ、あやうく三度目の死にかける出来事だった。
まだゴブリンを倒しただけだっていうのに。
「そうだ! さっきのゴブリンが持ってたこん棒を拾えば戦闘しやすいんじゃないか?」
「あれ? 説明に――あぁ、古すぎて入ってなかったかも」
「さっきの自動音声に問題か?」
「うん、ダンジョンを造ろうと考えた時に、一部しか収録されてなかったみたい」
収録って……隠す気ないのな。
「それでね、モンスターはやられると即消滅するから武器も落ちてないの」
「あーそういうことか。そこら辺に死骸があっちゃ邪魔だもんな」
「ごく稀に、違うアイテムを落とすモンスターも居るから粘ってみてね」
「ふむふむ……仕様も説明も珍しくまともだな」
「後、罠なんだけど一度踏んだら消えてしまうから、同じ場所を踏んでも平気よ」
「そうか……今の罠でモンスター倒せば荒稼ぎできそうだったのな」
まぁ罠に頼るとか冒険としてどうなんだと思うが。
「他に何の説明が漏れてたかな?」
「そう言われてもな……ダンジョン内でゴールドって何に使うんだ?」
「ダンジョンを進んでいくと、たまに商売好きのモンスターが店を開いてるからそこで使えるわ」
「モンスターが!? それ人間が買いに行って平気なのか?」
「さぁ?」
「さぁって知らねぇのかよ! ここカンナが造ったんだろ?」
「中の構造とか出現モンスターの調整に忙しくて、その辺はご自由にって感じなの」
「えらくアバウトだなおい……」
「ちなみに、店主を倒して売り物をかっさらうことも、やろうと思えば出来るわ」
「本当かよ……」
あぁやっぱりカンナの説明だけじゃ不安だ。
自分であれこれ見つけようにも、モンスターが相手じゃリスクが高い。親切なモンスターとか居てくれ頼む!
「ステータス関連だと、命中率・回避率・運の良さも説明になかったが、これらはどうなんだ?」
「えーっと、命中率と回避率は確率だけど敵のステータスとの差分、当たりやすかったり避けやすかったりするわ」
「つまりさっきのゴブリンなら、お互い同じ条件で戦闘になったわけか」
「えぇ、ジオスちゃんの状態が混乱や毒だと普段の動きができないと思うから、回避率が高くても危険ね」
「へぇ……それで運の良さは?」
「これは一概にはどれとは言い切れないわね。例えば落ちている武器が優れている物だったり、罠を踏んでも作動しなかったり様々なことに関係するわ」
もしかして寝ているゴブリンに囲まれていたことや、寝返りで攻撃されかけたことも関係してるんだろうか? ……このまま0だと絶対ヤバいな。
他にも何かないかと説明を思い出しながらステータス画面を開く。
おっ? そういやレベル上がったんだったな。どれどれ……
ステータス
名前:ジオス クラス:勇者
Lv:2
攻撃力:2
防御力:2
命中率:2
回避率:2
運の良さ:0
装備:武器なし 防具なし
スキル:なし
経験値:0/36(次のLvまで)
状態:健康
消費度:95/100
フラグかよ!! 運なにやってんの!?
つーかレベルアップで運って上がっていくものなのか? いや、上がってくれなきゃ困る!
「あ、持ち物の説明ありました?」
「いえ、まったく」
もうあの自動音声より今受けてる説明の方が長いだろ。冒険者のみんな、ここはオススメしないよ。
「今は空欄ですかね、持ち物欄を開くと所持している物が表示されちゃう」
「何されちゃうって? 何恥ずかしがってんの?」
「空欄って持ち物欄さんにとっては真っ裸と一緒」
「何持ち物欄さんって!? 無意味な設定付けるんじゃねぇ!」
「右下がゴールド表示。良かった、ゴールドさん真っ裸じゃなく下着履いてます」
「12ゴールドで下着あって良かった! ってなるかボケぇぇぇ!!」
真面目な説明が続いてたのに、少し油断したらこれだ。
もうほとんど説明も終わっただろうし、さっさと進めて元の世界へ帰る方法を見つけてもらおう。
「説明はもういいぞ。ダンジョンを進めたいから困ったらサポートしてくれ」
「ブ……ラジャー!」
「お前のキャラそれでいいのか……」
「ジオスちゃんのエッチー」
「なんでだよ!!」
こうして俺はやっと次の部屋へ進むことができた。
ん? 敵は居ないが何かが落ちている。
『???のくつした』を手に入れた。
「???って何?」
「手に入れた時点で判別できていない物ね」
「なんでくつした?」
「身に付けられる装飾品は種類が豊富にあるのよ」
「装飾品?」
「武器や防具に該当しないアクセサリーみたいな物ね。四つまで装備可能よ」
「補助効果的な立ち位置か。んで、これはどうやって判別したらいいんだ?」
「序盤は装備するか使ってみるのがオススメね」
「えぇ……誰のくつしたか分からないものを装備して判別しろと?」
「判別できるアイテムもあるんだけど、それがいつ見つかるかは運が絡むわ」
……俺の運じゃ見つからないんじゃないかな。
「武器や防具は持ってるだけじゃダメよ。ちゃんと装備しないとね!」
「防具ですらねぇよ!」
「大抵は装備した部位に関する能力へ関係すると思うわ」
「相変わらずこっちの言い分はスルーで装備させる気満々だな」
乗り気じゃないが、この先もこういうアイテムがどんどん増えるんだよな。
ええい! 装備してしまえ!
『シルフのくつした』を装備した。ステータス変化します。
「シルフって何だ? というか、くつしたが自動的にピッタリサイズになったんだが」
「風の精霊ね。このダンジョンでは装備品はその人の装備しやすい形・サイズに変化するわ」
「精霊のくつしたがなんで落ちてんだよ……。ステータスが変化したらしいが」
「落ちてるものは気まぐれで様々よ気にしない気にしない。変化したのならステータス画面を見てみましょ」
ステータス
名前:ジオス クラス:勇者
Lv:2
攻撃力:2
防御力:2
命中率:2
回避率:12(+10)
運の良さ:0
装備:武器なし 防具なし
装飾品『シルフのくつした』
スキル:なし
経験値:0/36(次のLvまで)
状態:健康
消費度:95/100
お? 回避率がかなり上がってる! どうやら当たりの装備らしいな。
「さすが精霊の装備だな。くつしただけで回避率が段違いだ」
「そうね。先程のゴブリンの攻撃はもう当たらないわね」
「ん? そんなにこの数値は高いのか!?」
「その辺の細かいことは調整中だったから今決めたわ。数値の差分一につき十パーセントにしましょ」
「あの……できれば戦闘前に決めといてね」
「あ、でも五パーセントの方がジオスちゃんが必死になって盛り上がるかな?」
ダンジョンテストとはいえ今、目の前で生死に関わることを決めるのはやめてくれよ……。
「確率よりカンナが怖い」
「まぁまぁ、それは置いといて」
「断じて置かないで!」
「いくら攻撃を避けれても、攻撃を当ててダメージを与えていかなきゃ敵に勝てないわ」
「もしもーし、会話成立してる?」
「えぇ? こんなダンジョン武器なしのハンデでちょうどいいって?」
「耳が婆さんなのか!? 捏造はやめろ!」
「婆さんですって!? 難易度上げてやるわ」
「悪口だけしっかり聞こえてんじゃねぇか!!」
横にカンナが居るだけでこの有り様。モンスターを相手にするより絶対疲れる。
「しょうがないわね。早く武器でも拾って先に進みましょ」
「その武器が落ちてないんだが」
「部屋を全部回って何も無ければ次の空間に進むといいわ」
「空間? ここのフロアだけじゃないのか?」
「えぇ一フロアが広すぎたら移動だけでも大変よ。次のフロアへいけるように空間ゲートを配置して区切ってるの」
へぇ案外考えられてるんだな。カンナのことだから一フロアだけにして、延々と迷わせて餓死させるかと思った。
……あれ? こいつ女神だよな?
「その空間ゲートとやらはフロアのどこにあるんだ?」
「ランダムよ。部屋の壁に現れることが多いわ」
「じゃあそのフロアに着いたら部屋を目指しながらゲートを探せばいいのか」
「平たく言えばね。そこはカンナちゃんの腕の見せ所」
「見せんでいい! ダンジョンを誰にもクリアさせる気ないだろう!?」
「えへ、バレた?」
「うん、知ってた」
そうだろうよ今なら女神じゃなく魔王と名乗っても信じるぞ。
それにしても、たまに見え隠れするこのSっ気はどうにかならんものか……。