最初のピンチ
あぁ……今の状況は誰が見ても非常にまずい。
突如、飛ばされてダンジョンに辿り着いたまではいいとしよう。探す手間省けたし。
でもダンジョンって普通入り口があって、その前からスタートしてよし行くか! となるはずだよな?
入る前に装備は確認したかってタイミングもあるよな?
入って階層を上がるにせよ下るにせよ、最初の階層って難しくはないよな?
意気込んでなんでもかかって来い! って言ったけどさ……装備なしでいきなり四方を眠ってるモンスターに囲まれるとか、どういうスタートだよ!?
あんの駄女神、絶対わざとだろう。
少ししか話せなかったが、天然のような性格をしながら、所々Sっ気を発揮しやがる。
理由付けてダンジョンへ来させたのも、俺のことを楽しいおもちゃを見つけた! ぐらいの感覚に思えたぞ。帰ったら問い詰めてやる。
そんなことより問題はこれ一匹でも起こしたら次々起きて即終了だよな……。
いや待て、俺だって勇者の端くれ。武器がなくともこん棒を持ったゴブリンのようなモンスターごとき蹴散らしてくれる!
「ふごぉぉぉ! ひゅるるる……」
「気持ち良さそうに寝やがって……まずは四方の隙間から抜けて一匹ずつ相手できる場所にいくか――」
「ふごぉぉぉおお!!」
「な!?」
あっぶねぇ! 横をすり抜けようとしたタイミングで、いきなり寝返りこん棒が飛んでくるとか読めるかよ!
激しい音とともに地面にヒビ入ってんだが、どいつも起きやしねぇ。鈍感なのか? なんだよ焦らせやがって……。
一旦部屋の出口に着いて周りを見回してみる。出口というか入り口なのか不明だが両側の通路が筒抜けで、勝手に通れる仕組みだな。
ダンジョンなのになぜか明るいのは助かるが、質素な部屋には何もなく、寝ている四匹の子ブタしか見当たらない。
「あー……テス、テス、おほん、聴こえますかー?」
「その声は……カンナか? 聴こえてるぞ」
「……まだ調子が悪いようだからこちらには何も聴こえないわ。なので一方的に喋るわね」
なんでダンジョンに入ってまでセルフ無視される感じなのか。
しかし、完全な孤独ではなさそうだ。ダンジョンテストなんだから当たり前か。
「えーまず、このダンジョンには武器や防具、食料やお札等、冒険するにあたって様々な物が落ちています」
手ぶらだから武器類は現地調達しろってことか。
それより食料が落ちてるって汚くね? しかも、お札ってなんだよ。
「またモンスターや罠もランダム配置で、時間が経てばモンスターが増える仕組みになってます」
ここってカンナのダンジョンだろ? 罠って響きがもう怖い。
「増えたモンスターは召喚酔いですぐに行動できません。大抵は眠った状態になります」
あぁそれで寝てるモンスターもいるわけか。むしろ寝てなきゃ即終わってたぞ召喚酔いグッジョブ!
「次にステータスと持ち物画面の説明です。左手で指を擦って、パチンッと音を鳴らしてみてください。」
言われた通りやってみると正面やや下側に、透明なウィンドウ画面が表れる。
「左の箇所を触ればステータス、右の箇所を触れば持ち物を確認できます」
今持ち物はないだろうし、左のステータスを確認しとくか……。
ステータス
名前:ジオス クラス:勇者
Lv:1
攻撃力:1
防御力:1
命中率:1
回避率:1
運の良さ:0
装備:武器なし 防具なし
スキル:なし
経験値:0/12(次のLvまで)
状態:健康
消費度:99/100
よっわ! なんだよこれ! 全部初期のステータスじゃね? 運の良さに至っては0っておいおい……。
「ご覧になられましたか? ステータスに関しては、このダンジョンに入った時に今までの経験値が無になります。知識は残るので運で頑張ってください」
その運がないんだけどぉぉぉ!! なに0って俺だけの数値なの? いじめなの?
「消費度に関しては、体力や空腹といったその者の減少値/限界になります。生き残るために初期から多めに設定されていますが、休んだり栄養を摂取しないと減り続けるのでご注意ください」
体力ってスタミナ的な? HP的な? 合わせてだと強敵には気を付けないと両方もってかれるな。
「なお、スキルに関しては個人差があり、Lvアップで覚えられるものと特別なアイテムで覚えられるものがあります」
ほうほう、特別なアイテムで覚えられるスキル……期待できそうな響きだな。
「最後に、このダンジョンをクリアするにはある宝石を持ち帰ってください。あたしが喜びます」
それただお前が宝石欲しいだけだろうが!! 自分で造ったダンジョンなら自分で取りに行けよ!
「以上が説明になります。ダンジョンクリアした際には手に入った物は持ち帰っていただけます」
お、俄然やる気が出てきたな!
「クリアできなかった場合はやり直しをするか、カンナちゃんの送迎サービスによりステータスと肉体を元に戻して、送り届けられます」
どこに!? しかもサラッと何怖いこと言ってんの!?
「ではお楽しみくださいませ。――カチッ。あ、終わったかな? 自動音声って楽ね」
おい、やけに敬語口調だと思ったら仕込みかよ! 本音駄々漏れしてんぞ。
「あ、ジオスちゃん後ろ後ろ」
は? あいつからはこっちが見えてんの? 後ろって何も――
「ぶごぶご!!」
「…………」
四匹の子ブタが寝起きを邪魔されたかのようにこちらを見ている。
「ごめんごめん、今のカチッて音で起きたみたい。他の物音じゃ中々起きないのに不思議ね」
不思議ね、じゃねぇから! 長ったらしい説明中に起きたんじゃなくて、完璧にお前のせいじゃねぇか!!
「サービスで敵のステータスを教えてあげるね」
敵の頭上に先程見たウィンドウが見える。なになに……
ステータス
種族:ゴブリン
Lv:3
攻撃力:5(+2)
防御力:3
命中率:1
回避率:1
運の良さ:0
装備:武器『こん棒』 防具なし
スキル:なし
経験値:3
ゴールド:3
サービスって死の宣告って意味かあぁぁ!!
弱そうと思ってた敵より弱い俺が敵う相手じゃない。
あ、でも運の良さが0だ。仲間か……いや、鼻息荒いしこん棒振り回してるし敵だろ。
「ジオスちゃん大ぴーんち」
「お前のせいだろうが!」
「えへ、バレた?」
「……お前聞こえてるじゃねぇか」
「…………えへ、バ――」
「最初から聞こえない振りして俺を泳がすつもりだったな!?」
「ドンマイ、あたし」
「省みる前に謝れぇぇぇ!!」
こいつとのやり取りは放っておいて、状況的に目の前の敵をなんとかしないと……。
「ジオスちゃん、後ろの通路を走り抜けて部屋を移動してみて」
「ええい! それしかねぇよもう!」
こん棒が飛んでこないうちに先制ダッシュだ! 通路は暗いが、先に明かりが見えてきたってことは部屋か?
ゴブリン達との距離は付かず離れずだが、このまま逃げて――カチッ。
「伏せて!」
「えっ?」
条件反射ですぐ屈んだが、今カチッて言わなかったか?
――次の瞬間、どこからともなく黒い鉄球のようなものが頭上を通過していく。
大きさは人の頭ぐらいだが、鉄球って転がるもんじゃないの? 宙浮いてるんですけど。しかもスピードがかなり速い。
後ろの方でなにやらスコーン! という変な音が聞こえたので、振り返るとゴブリン四体の姿はどこにもなかった。
「ストラーイクッ!」
「なんだよそれ?」
「違う世界の言葉で、爽快感がある時に言うらしいわ」
「そうかい。ってやかましいわ!」
「ジオスちゃん、ダジャレはちょっと……」
「あぁもう! お前の取扱説明書を寄越せ!!」
チリンチリン、チリンチリン。
ん? 何の音だ? どこから聞こえるかも不明だ……。
「どうかしたの?」
「いや、何かベルのような音が聞こえた気がしてな」
「あぁ! それレベルアップ音」
「今のが? というかカンナには聞こえてないわけ?」
「うん。本人の頭の中にしか流れないよ」
「……ちなみになんでベルの音?」
「レベルとベル……あぁなるほど!」
「お前もダジャレじゃねぇか!!」
所詮は俺もカンナと同レベルの発想なのか……創造主と並んでも、ちっとも嬉しくないのは何故だ?
「だって他に聞き慣れた音使うと、悪い大人にこの世界消されちゃうよ?」
「どこ気にしてんだよ! それ悪いのはお前だろ!」
「試しにテーレ○テレー」
「ウマ○! じゃねぇヤメロ試すな!!」
まったく、とんでもないことしやがるせいで、戦闘より疲れる。戦闘つってもただ逃げただけだがな。
「話戻すぞ。さっきは俺がモンスターを倒したわけじゃないのに経験値が入るわけ?」
「もちろん。ジオスちゃんが踏んだ罠で敵を倒したから」
「本来なら俺がやられてた罠だよな?」
「うん、よくぞ避けた」
「その言い方、当たる可能性大じゃねぇか!」
「まぁまぁ、ゴブリンにやられるか罠にやられるかの二択を楽しんで」
「楽しめるか!!」
まだ最初の部屋で既に二回死にかけるとか、こんな調子で大丈夫なのかよ……。
カンナ「ツッコミ向上のために、あたしの好きな異世界(日本)の知識をジオスちゃんへ共有させましょうか!」