兄妹と兄弟
遅くなりもうした
今後もズレる時は活動報告に書きますね
「バーンナッコォー!」
「おいおい……」
目の前に敵が立ちはだかるとアイちゃんの眼が獲物を見つけたと言わんばかりに興味を示している。
五秒後には敵だった“もの“に変わり果てていることに同情しかしてやれない。
「気持ちいい〜骨がカラカラ崩れる音」
「逃げて! スケルトン超逃げて!」
俺の助言もむなしく何も知らない敵がこちらを見つけ、襲いかかろうとするもアイちゃんが立ちはだかる以下略な光景は何度目だろう。
ルイは大人しく止めもせず、妹の暴挙を諦めている。
「次行ってみよ〜!」
「なんてチートなキャラなんだ……」
「あぁなったらもう止められない。別名、全自動討伐機だからね」
掃除機みたいに言ってやるな。
ある意味掃除機だけど。
「アイ超アッパー! ダブォー!」
必殺技みたいなテンションで繰り出された攻撃で、二匹のスケルトンが頭部だけ天井にめり込んでいる。
スケルトンだからまだ目に優しいに違いない。
他のモンスターなら見てはいけない光景だ。
「余裕ッチ!」
「だろうなーすごいなー」
むしろ誰だと苦戦するのかが気になる。
「でも、ホネホネ飽きた〜」
「え、もう!?」
「次進もうよ〜」
「あ、あぁ」
やりたい放題やっといて飽きたで済ますアイちゃん。
哀れホネホネ、君のことは忘れないぜ。
それから探索を続けゲートに辿り着いたため、離れないようにして一緒に飛び込む。
ちなみに他のモンスターはこちらに気付くと即座に逃げていたが、ホネホネは二度と出てこなかった。
「ここが次のステージか?」
「あぁ、ほらD(カップは垂れろ)って書いてあるだろ」
ルイが括弧内のことを不思議がっているが意味は教えない。
なんでDに関しては敵意剥き出しなんだよあいつ。
「ジオっち〜なんか落ちてるよ〜」
「おぉ……アイちゃんありがとう!」
慣れない呼び方されたもんで一瞬ツッコミそうになったが、相手が誰かを確認し踏み留まる。
それにしても、なんだ? この変な形。前と後ろ……上と下って言えばいいのかな。
両側ほぼ同じ形をしているようだが、片側ずつBとNの文字が彫られている。
「装備できるかな?」
「武器になるといいね」
「そうびそうび〜!」
いや、そんな決定的瞬間を撮るぞ! みたいに機械を構えられても。
呪いのことが頭をよぎったが、まずこの兄妹と一緒なら大丈夫だろう。
意を決して装備する。
『スパナギのツルギ』を装備した! 簡略画面を表示しますか? もちろん、はいで。
『スパナギのツルギ』を装備した結果。
攻撃力+15 特殊効果、殴るといい音がする……以上です。
「んなどうでもいい効果よりBとNの意味を教えろぉぉぉ!」
ついついナレーションにまでツッコミを入れてしまった。
でも特殊効果が見合ってないだけで、攻撃力はかなり強いんだよな。
「あんちゃん武器拾えて良かったな!」
「そうだな、ルイありがとう。これで俺もルイ達(主にアイちゃんの暴走)に頼らず、敵を倒せるかもしれないな」
「え〜アイの獲物〜」
俺に取られると思ったのか、ブーと不服そうに言いながらアイちゃんが膨れている。
もふもふな身体にプラスして膨れる行動をされると触りたい衝動がヤバい!
対象がルイなら絶対理由つけてもふってた自信がある。
「い、いや基本はアイちゃんに任せるから! 俺は襲われた時だけでいいから!」
「本当!? よぉし絶滅させるぞ〜!」
絶滅は言い過ぎだが機嫌は直ったようでホッとする。
モンスターには悪いけど、延々と召喚されて終わりなきアイちゃんの狩りを楽しませてやってくれ。
俺も自動で処理できるから楽だし、特殊モンスターの面々以外の敵には普通にダメージ通るみたいだな。
……アイちゃんの攻撃力が防御できない程に振りきれてるだけかもしれんが。
「ジオっち〜変なのが居る〜」
「ん? あ、あいつはシャーマンだ!」
「シャーマン? なんだそれ」
ルイ達は知らないようだが、奴に近付くと思わぬ呪いをかけられてしまう。
しかも、俺が見た奴とは仮面や色が違うような気もする。
「奴には近付いちゃダメだ! 攻撃をする前に呪いで――」
「はぁ〜い」
「返事と行動が逆ゥゥゥ!!」
喋りきる前にアイちゃんが突進してしまった。
「マズイ、止めないと!」
本当に怖いのは呪いというより呪いにかかったアイちゃんなのだ。
俺が仮面で呪いをかけられ暴走してしまった時のことを思い出してしまう。
あれのアイちゃんバージョンか……ハハッ俺達も狩られる、間違いなく狩られる!
「もう遅いよ。アイにロックオンされたら来世を願うしかない」
「それシャーマン側だよね? 俺達へのフラグじゃないよね!?」
そしてアイちゃんが範囲に入ったのか、待ち構えていたシャーマンが仮面で呪いを移し……そのまま粉砕された。
「え……呪いは?」
「なんかそのままこっち来てるけど」
こちらへUターンしてアイちゃんが突撃しながら襲いかかろうとしている。
「!? アイちゃんストップ! 今度ティラミスあげるから!」
キキーッ! と急ブレーキをかけるように止まったアイちゃん。
「ティラミス!? 約束だよ〜破ったら一万回サンドバッグね!」
「え? あ、あぁ約束だ……ハグれた仲間を見つけてからになるが」
一万回と言わずなんとも一回で死にそうな刑である。
だが、ズシ丸が愚痴で言っていた情報が役に立った。
普段はシャリというものがメインで作らされるが、たまにお菓子を作らされると。
ティラミスやプリン等、本来の作業より割と手間がかかるだけに、「なんで一々こんなん作らなあかんねん面倒くさ!」と仲間内で愚痴をこぼしていたらしい。
だから、ズシ丸さえ居ればティラミスは用意できるかもしれないのだ。
だが、今の場面は少しおかしい。アイちゃんは仮面で操られたんじゃなかったのか?
それに、ティラミスに反応した途端に仮面が剥がれ地面に落ちる前にスーッと消えてしまった。
「アイちゃん仮面が着いてても意識はあったの?」
「う〜んよくわかんない」
「オイラも着けてみたかった」
「ルイ、やめとけ普通なら行動不能になるからな」
「アイはへっちゃらダイジョウブイブイ!」
「あんちゃんシャーマンとかいう奴のことヤケに詳しいな。もしかして経験済みとか?」
うっ、ルイが鋭い。
「ま、まぁな! 一人じゃどうしようもなくて大変だったんだぞ〜!?」
「だっさ〜い」
「あんちゃんも単純なんだな」
アイちゃんはともかく、ルイにまで評価を下げられた。
なんで過去の経験を喋っただけで精神ダメージを受けてるの俺。
しかし、あの仮面は本当に謎だらけだな。次こそ気を付けねば。
気を取り直していつものように進む。
陣形はアイちゃんが先頭、真ん中が俺、後方警戒がルイだ。
どうだ隙のないこの布陣!
「この階層も他に問題はなさ……うん?」
辺りを見回すとどこか違和感がある。
あの壁の亀裂は確かアイちゃんが仮面で暴走した直後につけた跡だ。
中心にパンチでめり込んだ形がくっきり残っている。
俺達は真っ直ぐ歩いてただけなんだが、さっきと同じ部屋じゃないかここ。
「ねぇ〜変な気配がする」
「アイちゃん何か居るの!?」
「アイもか。オイラも部屋の隅から何か感じる」
ルイの方が正確な場所を告げ、そこをよく見ると若干壁と模様が違うような……。
「ハッハッハッ、よくぞ見破ったな!」
「我らの気配を感じ取るとは、貴様ら感知タイプか」
壁の部分が剥がれ、中からこれまた瓜二つのスキンヘッズが出てきた。
背丈はアイルイ兄妹とほぼ一緒だが、身体も毛が全くない。
小熊のようにも見えなくはないが、モンスターなのかこいつら?
「フフフ、驚きで声も出んか」
「無理もねぇ俺達は誰よりも輝いているからな! キラーン」
うん、頭の部分が特にね。
「ククッ我らの術中にハマッて抜け出せない哀れな奴らよ」
「貴様らはもう出れんのだ。永遠にさ迷うが――」
「えいっ」
「いいッ!? なんだ貴様! 味わったことのない快感……暴力で邪魔しおって!」
「長い、うるさい、鬱陶しい」
ついにアイちゃんがブチギレちゃった模様。
分かるよ、ハゲ二匹が長々と講釈垂れてイラッとするもん。
「小娘が生意気な!」
「よせ、兄者。こいつは俺の獲物だ」
「なにまだやんの?」
「アイ、程々にな。こっちは任せろ」
相手も兄弟なのか。
「ふん、この“迷宮結界”で思う存分楽しんでいればいいものを」
「よくわかんねーけど、抜け出すにはお前達を倒せばいいんだな」
「へへっ、さっきの借りを返させてもらうぜ」
「早く死んで」
俺を残して四匹が各々対戦相手と睨み合う。
自然と兄対兄、妹対弟になったようだ。
いつも気楽なアイルイ兄妹も余程イラッと来たのか、ピリピリした雰囲気が漂っている。
あの兄妹の助太刀をするべきだが気迫が凄まじく、とても俺が割り込んでいけそうにない。
「貴様も兄なのか、ケンカっぱやい妹を持つと大変だろう。そのままミンチにしてやるよ!」
「お前も兄ならば、殴られてヘラヘラしている弟と同類か。物言わぬジャムにしてやんよ!」
「フフー! さっきのパンチ効いたぞもっとこいこい!」
「キモい、くたばれ」
すぐにでも戦いが始まりそうだが、白熱したクラッシュトークが続いている。
俺はやることないから、宣伝風にして盛り上げよう。
もふもふ兄妹VS迷宮兄弟
どっちが真のMなのか、ここに開幕! 乞うご期待!
次の投稿は2、3日後になります〜
ブクマ・キャラクターの感想等なんでもいいんで良かったらお願いします(*´∇`*)