表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/23

ズシ丸の素質

「いや〜予想外に楽だわ」


 俺達は今次の階層B(カップも捨てがたい)をウロウロしている。

 もはや階層の名前には突っ込むまい。別に貧乳好きではないけどな!

 Aではズシ丸とのイベントが濃かったせいか、敵も落ちているアイテムも大したことはなかった。


 そのため、次に進む扉をズシ丸に教え見つけたら知らせるように仕向けたんだが、どうやらここの探索が楽しくなってきたらしい。

 ズシ丸が勝手にモンスターを倒しながらアイテムを拾ってくるので、俺はその後を歩くだけでいいという保護者のような感覚だ。


 しかも、仲間が倒してきたモンスターのゴールドは全部そいつの物だが、経験値は半々に振り分けられるらしい。

 つまり、自動で楽々強くなれるズシ丸モードを満喫中というわけだ。


「旦那! こんなもん見つけやしたぜ!」


 ほら、今だってこうやってアイテムを……。


「ズシ丸君ズシ丸君。その手に持っているのは何かな?」

「ん〜いろんなモンスターの絵が載ってるッスね。図鑑とかいうやつですかい?」


「はっはっは図鑑か〜さぞかし健全な答えだズシ丸君。いいか、その先は見たらヤバいことになる呪いの本だ」

「ヤ、ヤバいことッスか……」


「そうだ。だからこの本は葬らなくてはいけない。火が使えれば一番いいんだがな」

「了解ッス! 火を見つけてくればいいんすね!? 行ってきやす!」


「あ、おい話は最後まで……行ってしまったか」


 火を見つけてきたとしてどうやって持ってくるつもりなのかなズシ丸よ。


 それにしても、本だから破れるだろうと適当なページを開いて力を入れるもビクともしない。

 思わず開いた“ゴブリンのセクシーショットが見れるのはここだけ! 袋とじには緊縛の……”とかいうページを見てしまい軽く後悔する。


「誰の趣味だよ! 興味なぞあるか!」


 まったくなんでこんなもんが落ちているんだよ。

 ズシ丸がピュアだから良かったものの、そっちの世界の扉を開いてしまったらどうしてくれるんだ。


「旦那ぁぁぁ! なんかいっぱいありましたぁぁぁ!」


 ズシ丸の姿と両手に抱えた本を確認。撃破したい。


「ズシ丸君、君は火を取りに行ったんじゃなかったのかね?」

「はいッス! 火が見つからなくて持ち運べないことに気付いてフラフラしてたら、本の山を見つけてこれは持ち帰るしかないなと……」


「なんでだよ!? 処分する物を余計に増やしてどうする!」

「でも旦那、これは旦那と同じ種族みたいでさぁ」


「何!? ちょっと見せたまえ!」


 別にそういう意味じゃないぞ。

 本当に人間なのか参考資料として興味があってだな……。


「これは、フムフム……いやはやまったく……おぉ!」

「旦那、鼻が伸びっぱなしッス」


「多分それ鼻の下な! 鼻伸びたらさすがに気付くから!」

「どっちでもいいッス。なんでそんなに元気になってるんすか?」


「い、いや! なにが!? いつも通りだし!」

「なにか見ている雰囲気が違うなと」


 ズシ丸は鋭いのか鋭くないのか読めないな。

 不意に元気とか言うから、無意識に下を確認したじゃないか。


「ま、まぁこれは参考資料として大いに役立つ物だったんだ! そりゃ興奮もするさ」

「へぇ〜、じゃあこっちも役に立つッスか?」


 そういって差し出した表紙には、何やら鎧を着けた女が反抗しているような顔で壁際に追い詰められているような絵だ。


「なんだろうな表紙は人間みたいだが」


 中身を捲って見ると、絶体絶命の大ピンチ! 女戦士ちゃんの“くっ殺せ”を頂く瞬間! とか見開きに書いてある。

 何これ……と犯人が写ったところで理解した。

 これオークの持ち物じゃねーか!


「……ズシ丸君、これは元あった場所に戻してきなさい」

「いいんすか? 役に立つなら他の本も……」


 見たくもないオークのオークを見たため、先程の本でお口直しだ。

 ズシ丸には資料を見ているとしか思われないからな。


「見つけた場所にいっぱいあったんだろ? それは落ちているというより保管していたんだ。多分、今頃盗まれたことに気付いた持ち主が怒ってて探しにくるはず」

「旦那」


「なんだ?」

「囲まれてます」


「は?」

「多分持ち主ッス」


 ついついのめりすぎて見ていたエロ本……ウォッホン! 参考資料から目を離すと、辺りを取り囲むように八体のオークが鼻息を荒くしていた。


「おいお前! ボスのところからそれを盗んでなにしてやがる?」

「お、モンスターの言葉がちゃんと分かるぞ。えっと、すまない落とし物かと思ったらこいつが次々持ってきてさ」


「あぁん? 何言ってんだテメー。明らかにお前が取ってこさせて読んでるじゃねぇか」

「へ?」


 気付くと俺の横に綺麗に積み上げられた雑誌があり、やや離れて位置でズシ丸が正座しながらこちらを見守っている。

 つまり、俺だけが読んでいてズシ丸は我関せずな立ち位置を演出しているように見えるわけだ。


「あぁ、その辺の事情はこいつから弁明させてもらうから聞いてやってほしい」


「旦那ぁ……だから言ったッスよ盗むのはダメだって」

「おい! なんで俺に罪なすり付けてんだよ!」


「あっしも止めたんすが……オークさん申し訳ないッス」

「なに自分だけ罪逃れしてんの!? 止めるどころか助長してたからね!?」


「おい小僧。こいつは素直に非を認めて謝ってんのに主犯のテメーはなにもなしか?」

「ちょ、事実と違うから! 俺の話を……」


「ちょっと退いてろ」

「はいッス」


 ズシ丸を輪の外に追いやって、オークどもがじりじりと包囲網を狭めてくる。

 最悪だ、武器はおろかアイテムもズシ丸任せで手持ちにない。

 エロ本ならある。役に立つかよ!


「テメー! よくもボスの秘蔵のくっコロ大全集第六十九巻を叩きつけやがったな!?」

「多すぎだろうが! 何が大全集なんだよ散り散りすぎじゃねぇか!」


 つい、叩きつけてしまった事実を予想を超える巻数のせいにして逆ギレで誤魔化してみる。


「そらお前、オーク界ではオークより今最も需要が高いシリーズだもの。ゴブリン好きな物好きも居るが、やっぱ女戦士だろ」

「要らん情報を掘り下げるんじゃねぇ! だいたいなんで女戦士限定なんだよ?」


「女の中でも強いのに負けた、その抵抗感がそそる」

「知るかボケェェェ!」


 何故か話の方向性がエロ本の中身についてになってしまった。

 だが待てよ、この状況を覆せるかもしれないぞ!


「ちょっと聞いていいか?」

「あん? なんだよエロ談義に花を咲かせてる途中なのに」


「その本は誰が書いてどこで手に入れているんだ?」

「ん〜誰かは知らないがたまに見かけるショップで買って、無ければ注文して集めるのさ」


「なるほど。つまり、ゴールドが生じて更に高いゴールドを支払うわけだ。お前達はそんなに余裕があるのか?」

「い、いや……数少ない稼ぎの中から俺達が出しあってボスに差し出し、要らなくなった残り物が俺達の物になるだけさ」


「そうか。なら、これを汚してしまった代わりに俺が知り合いに頼んでこのジャンルをもっと安く作ってもらおうか?」

「!! そんなことができるのか!?」


「あぁそうすればボスには知られずお前達にゴールドは残り、今回の失態よりも次からボスを喜ばせる機会が増えるぞ。どうする?」

「ちょっと待っててくれ! ブラザーと相談して決めたい」


「あぁ、好きなだけ悩んで解決してくれ」


 どうやら思い通りに事が運びそうだ。

 これも詐欺師のスキル『ライ』のおかげだろう。

 戦いを回避するクラスだけあって、状況を打破する能力に長けている。


「おい、聞いてたか?」

「あぁ……どうするよ」

「悪い話じゃねぇな」

「ブツブツ……こいつを味方につけてボスを……」

「お前はどうだ?」

「オウフ、拙者はフィギュア資金を貯めたい」

「……お前もか?」

「ブヒィィ!」


 奴らも賛成の方向でまとまりそうだ。一部が何やら不穏だが……。

 まぁ時間は気にしなくていい。それよりズシ丸が見当たらないな。


「よし決まった! お前の条件を呑もう! とりあえず今そこにある本は回収させてもらうぞ」

「あぁすまなかったな迷惑かけて。出来るだけ早く仕上げて持ってくるさ」


「俺達はこの階層Bを主に根城にしているから見つけやすいはずだ。頼んだぞ」

「あいあい。任せときな!」


 架空の約束をし、そそくさと立ち去って戦闘回避成功。

 こんなに簡単に難を凌げるとは、案外詐欺師が向いてるんじゃないかと思う。


 そう、詐欺師は向いていた。

 ズシ丸が帰ってくるまでは。


「あれ? もう終わったッスか?」

「お! ズシ丸どこ行ってたん……そ、それは何?」


「オークの頭部ッス。気持ちよさそうに寝ていたんで苦労しやせんでしたぜ」

「ま、まさかそれって……」


「「「「「ボスゥゥゥ!!?」」」」」

「で、ですよねー……」


 さっきまでの和平ムードが一変、ボスがやられたと確認するや否や血気盛んに襲いかかってきた!


「緑色のテメー! よくもボスを!」

「許せん」

「やはり始末しておくべきだ!」

「よしでかした緑色!」

「おいなんとか言えよ」

「……フィギュア買い放題万歳!」

「何喜んでんだよ!」

「ブッヒィィン!」


 何匹かは判別不能だが、この数相手は無理だやられる!

 と、思っていたら背後から物凄いスピードで前に出たズシ丸が、すべて一撃の突きで蹴散らしていく。


「「「「「ぬごおぁぁぁ!!」」」」」


 ヤル気満々だった五匹が経験値と化し、残り三匹は各々その光景を眺めていた。


「ふ、ふつくしい……」

「早くあの限定美少女隊の葵ちゃんを某のコレクションに加えねば」

「ブヒブッヒィィ!」


 なんだかあいつらは放っておいても大丈夫そうだ。

 無害……とは言い難いが。


「ズシ丸スゲーなおい! なにやったんだよ!?」

「あっしのスキル覚えてやすか? 『クイッキュ』ってやつなんすが」


「あぁ確かにあったあった! それで?」

「先程識別魔法と同等の床を踏みやしてね、スキルの詳細が分かったんで使ってみたんでさぁ」


「んでんで!?」

「物凄い早さでキュウリ、若しくはキュウリに代わる物を突き刺すことができる。らしいんでさぁ」

「なにそのキュウリへの飽くなき執念」


 代わりが強すぎるけど、むしろキュウリだと折れてダメだった気がする。


「旦那を助けるために芝居を打って一旦離れたんですけど、逆効果だったみたいッスね」

「助けるどころか最初に火に油注いだ奴は誰だよ」


「火に油? 皿にドライヤーみたいなもんすか?」

「その例えがわかんねーよ!」


 俺達がウダウダ話している内にどうやら三匹は逃げたらしく、辺りにはもう居なかった。

 結果的にズシ丸のおかげで切り抜けられたが、この展開が続くと主に俺の命が心配だ。


 あのオーク達がここの階層の首領だったらしく他のモンスターは居ないようで、エロ本も放ったらかしにして問題ないだろう。

 ズシ丸とここでの探索を終え、次に進むゲートをくぐり抜けている時に事件は起きた。


「!? 旦那! 危ない!」

「おわっ! のわあぁぁぁ!」


「旦那ぁぁぁ!? ……何奴でござんすか?」

「ほほぅ、あれを見切るとはお主には素質があるな」


「素質? 一体何の話で?」

「その魔槍を持ちながら何をとぼけたことを……魔王の素質さ」


「魔、魔王!!?」




ブクマありがとうございます♪


1日2話投下とか久しぶりな気がする


次はまだ書けてないため未定ですが、3日以内に1話あげれたらいいなぁ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ