金色の悪魔
ありったけの力を込めた一撃は途中で鉄球に当たったとはいえ、威力を圧し殺されることなく直撃した。
奴も油断していたはずだ。まともにくらったので手応えもある。
「なんなんだぁ? 今のはぁ……」
だが、そこには黒色から金色へと姿を変え、まるで効いていないといった表情で奴が立ちはだかっていた。
「嘘だろ……無傷なのか!?」
俺の現時点で最高の攻撃と思える威力を受けての結果がこれだ。
まさか防御が高いとはいえ、これ程までに差があるとは思わなかった。
そして、奴が変化したからなのか今までの機械的な辿々しい言葉や雰囲気より、すぐにでも襲いかかってきそうな威圧感が凄い。
「お前を血祭りにあげてやる」
「!!? ちょ、タンマ!」
まずい。あちらさんヤル気満々で、丸っきり性格が変わってる。
好戦的な上にもはや聖剣のことなぞ眼中にないのかもしれない。
「おいカンナ! これどうすりゃいいんだよ!?」
「こうなったらうまく逃げるしかないわね」
「……逃がしてくれると思う?」
「聖剣を囮にしてお札でギリギリね」
急いで残ったお札を確認し、作戦を練りたい。
練りたいのだが、奴は待ってくれそうもない。
今はタンマが効いているのかこちらに手を出さず、あちこちをパキポキ鳴らしながらウォーミングアップをしているようだ。
……ねぇ、機械っぽいのにどこ鳴らしてんの?
「お前が戦う意思を見せなければ、俺は破壊し尽くすだけだぁ!」
「!? 戦う! 戦うから……少し手加減をしてくれないか?」
「手加減てなんだぁ?」
「えっ?」
「手加減てなんだぁ?」
「き、聞こえたさ! えっと……つ、つまり! 全力を出さずにデコピンで戦うとか、ハンデを設定してみるとか……」
「ハンデってなんだぁ?」
「…………」
さっきまで賢そうだったのにバカなの?
決して本人にそうは言えないが、どう説明して切り抜けようか……。
「相手との戦いをより面白くするために、自分の力を制限して相手に合わせた戦いをするってことさ!」
「どぅおおおぉ、うおおおおぁあああ!!!」
「も、もしもし?」
「気が高まる……溢れる……!!」
「いやいやいや、話聞いてました?」
「さぁ、来い! ここがお前の死に場所だあっ!!」
あ、ダメだ。話を聞いてないか、ハンデを致命的に勘違いされた。
死亡フラグは踏んだつもりなかったんだけどな。
マジでどうしよう。勝ち目なさすぎて逆に冷静になってきたぞ。
「い、いくぞ!」
「やっと戦う気になったようだが――」
「でやあああ!!」
正攻法は無理と思い、台詞途中で仕掛けてみる。
「その程度のパワーで俺を倒せると思っていたのか?」
いえ、思いません。だってダメージ受けてなさそうだもん。
「ば、化け物め……!」
「俺が化け物……? 違う、俺は悪魔だ。うははははははっ!」
ご機嫌はよろしいようで、これで戦闘狂じゃなかったら交渉できそうなんだがなぁ。
近寄ってもやられるだけなので、通路の入り口まで逃げて距離を取る。
「どこへ行くんだ?」
奴の足取りも今までと違い何故か軽い。
歩く度に音がギュピギュピ鳴ってるし。
「残念だったな! お前はゲートがある部屋から出られないんだろ?」
まだ攻略する作戦も浮かばないし、一旦部屋から出ればいいことに気付いた。
奴はその特性でゲートを守ることが第一だ。ついてはこれまい。
「ふっふっふっふ、大人しく殺されていれば痛い目にあわずに済んだものを……」
「絶対痛いって!」
なにやら手から緑色の光が発射される。
それは俺に当たるような軌道ではなく、意志があるかのようにジグザグと動いており――通路の真ん中辺りで弾けた。
「!! しまった! 通路が塞がれた!?」
退路を断たれてしまい、反対側の通路も同じく、奴の手によって通路とは呼べない土の山にされていた。
「ジオスちゃんピーンチ」
「いちいち言わんでも見りゃわかる!」
「そうそう。本当はあの状態になったら、部屋を移動しても追っかけて来れるわよ」
「えぇ……逃がさんようにした意味は?」
「余程ジオスちゃんと戦いたいのかしらね。それか追い詰めて楽しんでいるか」
「後者だろ! つーか、そういう所はお前と似てる」
「やだぁもう〜。あたしもあぁなろうか?」
「なんで嬉しそうなんだよ!? ならんでいい! あんなのが二匹になっても困る」
もはやカンナと喋っていると現実逃避のような感覚になるが、現実は何も変わらない。
金色のメカが楽しそうにこっちを見ている。
「何をぶつぶつ言っているんだ?」
「いや、あはは、どうしたら見逃してくれるかなぁなんて」
「もう終わりか……?」
「ほぼ始まってもないんで、お開きにしませんか?」
「ふっふっふ、そうこなくちゃ面白くない」
「違う! 受け取り方が逆ゥゥゥ! 今からおっ始めようって意味じゃないから!」
奴には遠回しな言い方をしても無駄だったらしく、余計悪化してしまった。
ダメだ……会話が微妙に成立しない単細胞バカに、説得なんてできるわけがない。
「とっておきだ……」
「えっ?」
奴が急激に光を放ち、部屋のあちこちに先ほどの――緑光線と言うべきか、それらが辺り一面へ飛んでいく。
「わっぷ! や、やめろぉ〜やめてくださいお願いします!」
慌てて避けてその場にしゃがみこみながら気の抜けた声で懇願するも、願いは届かず激化している。
「死に損ないめぇっ!」
「わわわ、死んでなくてごめんなさい! でも死ねません!」
謝っているのか挑発しているのか分からないことを口走っていると、ついに痺れを切らした奴が集中的に狙いはじめてくる。
なんとか避け続けるも、ずっと動き続けているためそろそろ体力がきつい。
「やばいやばいやばいあわわわ、ぐはっ!」
そして、とうとう奴の一撃に捕まってしまう。
当たった衝撃で壁に打ち付けられて痛い、外傷より骨が軋むような痛みだ。
「ふっふっふ、よく頑張ったがとうとう終わりの時がきたようだなぁ」
終わる。完全に終わる俺の命が。
奴が特大の緑光線をお見舞いするためか、距離を離しゲート近くまで下がっている。
「ジオスちゃんお札!」
「そ、そうだった!」
カンナのナイス助言でお札の存在を思い出した。
もう、何が起こるか気にはしてられん。
「ブ、ブローフ!」
奴の緑光線が放たれる。
間一髪の所でお札が発動し、気付けばゲート前に居た。
「あ、あれ? 何が起こっ――」
次の瞬間、背後で凄まじい爆発音が響きそちらに目を向ける。
そこには背を向けたままの奴が立っていた。
「な、なんで奴があんな所に?」
「ジオスちゃん、ゲートに飛び込むなら今のうちよ!」
「!! お、おう……」
訳の分からないままゲート前へ立つ。
それにしても手が何故か軽い。って聖剣がない!?
奴がゆっくりこちらを振り向く。手には俺の聖剣が握られていた。
「クズが……まだ生きていたのか」
どうやら聖剣を拾っていて、今俺に気付いたらしい。
「ジオスちゃん! 早く!」
「今行くよ」
奴も聖剣を取り返したことで少し落ち着きを取り戻したのか、追撃をしてこない。
奴の手に渡った聖剣は諦めるしかなさそうだ。
「次があったら手加減を覚えてくれよ!」
「ふはは、ふははは」
距離があるからか、なんとなく奴に語りかけてみる。
しかし、笑われて会話になっていない。
「あぁその聖剣でクソしたケツ拭いたから」
「なにいっ!? な、なんてヤツだっ……」
「いやいや信じるなよ!?」
明らかな冗談も真に受けてドン引きされてしまった。
戦闘中にあれだけ怯むことなかった奴が、たった一言で怯むとはなんか悲しい。
「じゃあな〜」
「聖剣……クソまみれ……」
「まみれてねぇよ!」
別れの挨拶も聞いていないようで、ショックで人が変わったように呟いていた。
おまけに被害妄想で余計な内容が上乗せされている。
一応、否定はしておいたが奴の勘違いは大丈夫だろうか。
あんだけ激しい戦いの後なのに、なんとも寂しい最後になってしまった。
まぁこれで奴に追いかけられることもないだろうから、一旦休憩して気持ちを切り替えて挑もう。
ゲートに飛び込みいつもより長く異空間に漂い意識も薄れ、気付いた時には床も景色も白い場所で寝転がっていた。
ここで区切った方が良さそうだけど、後一話分くらい復習回を用意しようかなぁと悩み中
後は細かな今後の設定で
カンナは横に居て(実体or透明で)話しかけるスタンスがいいのか
スピーカーみたいにちょくちょく部屋から語りかけるスタンスがいいのか……変なところを迷ってますw
両者ともボケとツッコミが活きないと成立しないですからねぇ……
もし次から二章になるなら少し時間かかるかもしれないですが
このままの勢いで書ければ早めに投稿できそうです
まとめてよりは書けたら投稿の方が待たせ過ぎなくていいかな?
とりあえずここまで読んでいただきありがとうございました(^^)