見当違い
「どどど、どうすりゃい、いいんだよ!?」
完全に計算外の事態だ。
できればスルーしておきたかった相手にもう追い付かれるとは……。
いや、目の前のゲートキーパーが余計だった上に不意討ちすら失敗した。
やはり先に一体倒しておくべきだった……まずは今の事態をなんとかしないと――。
「ピピッ……邪魔者、増加」
「ヌガァァア!!」
ってあれ? お前らも相性悪いのかよ!
争い始めたし、これ待ってりゃ勝手に一体になるんじゃないか?
「ちょっと危険かしら」
「なにがだ?」
「彼らを争わせること」
「どうしてだ? 好都合じゃないのか?」
「忘れたの? ランクアップのこと」
「あ……完全に頭の中になかった」
奴らは特殊モンスターとやらだ。
経験値がどれ程なのか想像もつかないが、数が減ったところでより強力になられては勝負にならない。
つまり、今どうにかするしか……。
「あいつらもランクアップなんてするんだな」
「滅多にしないけど、同格の相手なら話は別ね」
「強そうだもんな二匹とも……」
しかし、どうやって相手しようか。
ゲートキーパーさえ倒せればいいが、争っている奴らに手を出して両方から敵視されるのは一番まずい。
互いを見つけた時の興奮で最初は俺を無視する形になっているが、人間の邪魔が入れば相手を忘れて人間を片付けるのがモンスターだ。
賢いのか賢くないのか分からんが、人間にとっちゃ迷惑極まりない。
「ゲートの奴は防御が高いんだろ? んじゃダンジョンの奴は攻撃か?」
「えぇそんなところ」
「なら、ダンジョンから先に始末するのが利口か」
思案しながら部屋の入り口、ダンジョンが突き破ってきて広くなった通路へ立つ。
まずはダンジョンの奴から気をそらし引き離すためアイテムを探る。
そう、この距離から投げる手裏剣だ。
目測を計り対象へ正確に狙いを定める。
「くらい……やがれっ!」
意を決して投げると、カンッとは鳴らずグサッと突き刺さる。
「ゴアアァァ!!」
突然の攻撃で怒り狂ったようにこちらへ振り向く。
ゲートの奴には弾かれたが、ダンジョンの奴はそう硬くもないらしい。
レベルが上がって威力が上がったおかげもあるかもな。
「鬼さんこちら」
「わざわざ呼ばんでいい」
通路へ駆け出すとカンナが余計なアシストをする。
それに釣られたのかダンジョンキーパーが衝動的に突っ込んでくるが、ゲートキーパーは部屋から出ずに追うのを諦めたようだ。
ようし良い子だ。まずは作戦通りにダンジョンの方を誘き出せた。
「さて、広い部屋に連れ出せたのはいいが……」
「どう攻めるの?」
「物理で……どうにか」
連れ出せれば個々に戦えるってだけで、実はそんなに考えてはいないんだよな。
まぁ相手は力全振りみたいな奴だし? こっちには聖剣あるし? って軽い気持ちでここまできた。
うん、ノープランってやつだ。
「しょうがないわね、助けてあげる。拾ったバナナを仕掛けてみて」
「バナナ? あぁ後で食べようと取っておいた食糧か!」
クリア目前でそんなことすっかり忘れていたが、確かにアイテム欄に残っている。
「それはソンナバナナと言って、食べた者にどんな作用が働くか分からない食べ物よ」
「作用って……危ないじゃねぇか!」
「単純にマイナス効果ってわけでもないの。どっちに転ぶか未知数なのよ」
つまり、プラスに働くこともあるが食べてみないと分からないと。
仕掛けるってことはあいつが拾って食べるってことだよな。
プラスに働いたら意味ないぞ……。
「それなら俺が食べても同じじゃないのか!?」
「もし、マイナスに働いたらそのまま負けるわよ」
「ぬっ、確かに……」
「それに本来なら罠とセットで置けば安心なの」
「罠!? こっちからも仕掛けれるのか……」
そんな物が今あれば苦労しないわな。
部屋の隅に待避して、入り口付近にバナナを置いて奴が近付いてくるのを待ってみる。
「スタァーブ!!」
やかましい叫び声と共に部屋へと現れた。
あの叫び声と俺の持つ腕輪は一緒の名前だが何か関係あんのか?
「さて、バナナに興味を示すか……」
「示さない方が楽しいけどね」
「不吉なフラグ立てるなよ!?」
どうやら目の前のバナナに気付いたらしい。
しゃがみこんで怪しくないか調べているようだ。
奴がバナナに集中している間に背後へ近付き、バナナを頬張ったところで――
「隙ありっっ!!」
クリティカルヒット! 30のダメージ!
「よっしゃあ! 先制攻撃成功!」
「油断しないで」
奴はやや前のめりになったが、踏ん張って倒れるまでとはいかなかった。
振り向きながらギロッとこちらを睨み戦闘体制に入る。
「貴様! よくもやりやがったな!」
「あれ……普通に喋れるのこいつ?」
「こいつとはなんだ! 貴様ごときにこいつ呼ばわりされるダンジョンキーパー様ではないわ!」
「やけにプライド高そうな面倒くさい奴だな」
「ん〜ソンナバナナの効果かしら」
カンナが推測するにバナナを食べた結果、こちらと会話することが可能になったらしい。
何言ってるかわかんない方が攻撃しやすいんだが……というか、バナナの効果ってそんな所にまで及ぶのかよ。
「貴様! さっさと腕輪を渡せ!」
「腕輪? ……聖剣じゃなくて?」
「そっちはゲートの野郎の担当だ。俺には関係ない」
おやおや? てっきり聖剣狙いかと思いきや、要らない呪いの腕輪の方だったとは。
「渡せば引き上げてくれるのか?」
「……あぁ、さっさと渡せばな」
それですんなり一体排除できるなら安いもんだ。
アイテムを取り出しポイッと投げ渡す。
「確かにスタァーブの腕輪の様だな」
「それ叫びながら追ってきてたが、そんなに大事な物なのか?」
「貴様には価値が分かる代物ではない。ましてやこれが一つあったところで役には立たんがな」
「へぇ〜変な物を守ってるんだな」
なんでか知らないが、呪われたアイテムを追っかけ回してまで取り返すなんて大変だな。
奴が説明を終えて反対を向いて帰ろうとした時にそう思っていたら、不意に顔を掠める距離へと斧が飛んできた。
「そうだった。貴様にやられた借りをキチンと返さねばならんな!」
「は、話が違うじゃねぇかよ!」
自分で言ってて思うが、どこのやられる盗賊Aみたいな台詞だよ。
いや、今の状況は盗賊か勇者かの違いしかないが。
「んん〜? 何の話かな〜?」「とぼけやがって! 最初から腕輪を取り返したら俺は帰すつもりもなかったな!?」
「はっはぁ! ご名答。褒美に死をくれてやろう」
「正解しなくても同じだろーが!!」
どこぞで聞いたような言い回しにイラッとくる。
要するにこいつに説得は皆無。ただ難癖をつけて相手を殺したいだけなんだろうな。
「さぁおとなしくペシャンコにされろ」
「誰がそんな言うこと聞くかよ!」
「ミンチでもいいぞ?」
「断る!」
こうなったらやられる前に攻撃あるのみだ。
奴が油断している隙に一気に懐へ潜り、腹部への攻撃を与える。
クリティカルヒット! 30のダメージ!
「ぐっ……ちょこまかと鬱陶しい奴よ。その剣も目障りだ、没収させてもらおう」
「ははん。やせ我慢するのも大変だなお前」
「何ィ? 我がやせ我慢だと?」
「プライド高いから認めたくないんだろうが、お前力に固執しすぎて他のステータスは大したことないんだろう?」
「なんだと!? 言わせておけば図に乗りおって!!」
お返しと言わんばかりに今度は左手から金槌が飛んでくる。
完全に頭に血が上った状態の奴の攻撃は単調で、次々物を飛ばしてくるも一つも当たらず避けきれた。
どうやら読み通り、怒らせてしまえば攻撃力だけのただのデカブツになるらしいな。
冷静ならば手こずるんだろうが、こうなればこっちのもんだ。
「おいおいちゃんと狙う気あんのかよ?」
「キッサマァ! 許せん!」
「いいよ、許してくれなくても」
そう言いつつ距離を中距離に保ちながら敵の攻撃をくらわないようにし、手持ちの手裏剣をありったけ投げつけて更に怒らせる。
「全然避けないから手裏剣ぶっ刺さってんぞ」
「うるさい! 貴様の攻撃なぞ避けるまでもないわ!」
「違うだろ? 避けれませんって正直に言ったら?」
「!!! コロス、ブッコロス!!」
戦う前は内心ヒヤヒヤしてたが、こうも簡単に操れるなら怖じ気付く必要はなかったな。
でも、なんか奴の様子が変だ。挑発しすぎちゃった?
「ジオスちゃんが優勢だから黙ってたんだけど……」
「うん? その発言って優勢じゃなくなるフラグのような」
「そうかも。見て、ダンジョンキーパーの色を」
しばらく黙って観戦していたカンナが注意を促すと、奴の青いボディカラーが禍々しいオーラと共に……黄色へと変化していく。
「いや、オーラまでは迫力あったが……なんで黄色?」
「参考にした世界観の影響ね」
もっと紫とか黒とかダークな雰囲気を纏って強くなると思っていたが、明るい黄色に変わったためなんか拍子抜けだ。
「でも、油断しちゃダメよ。青色より黄色は前より危険な証よ」
「……青色より危険って性格面か?」
危険だと言っても元々プライド高めなエリート気取りだったのが、予想外に手間取って簡単に怒っただけだぞ。
色を変えられたところで結局はあれだ。
変身シーンを邪魔しちゃいけない大人のルールを長々と待って、そろそろいいかな? と伺う気分だ。
「ふん! 待たせたな」
「――いや待ってない」
とりあえず変身(?)が完了した直後を狙って近付いて斬ってみた。
ズバッと良い音がし、奴もちょっとタンマ! と言いたげな表情をしている。
「おい貴様! 変身が完了したらまずはその変化した力を見て、相手が驚くパターンだろうが!?」
「なんだよそのでたらめなご都合パターンは」
「ヒーロー協定を知らんのか? 貴様は禁忌を犯したも同然だ!」
「知るかよ! 知っててもそんな協定結ばねぇよ!」
「おのれ不埒な極悪人め! ヒーローの風上にも置けん!」
「無茶苦茶な言われ様だ。別にヒーローを目指してるわけじゃないんだがな」
これじゃどっちが悪者か分からなくなってくるが安心してほしい。
攻撃できなかった無茶な難癖つける相手が悪者だ。
奴の変身後は性格もややおかしく、いや危険になったと言うべきかな。
面倒くさいとこだけは同じみたいだ、勘弁してくれ。
「そんな貴様には極上の力を見せてやろう」
「次へ進みたいからさっさと見せてくれ」
「果たしていつまでそんな憎まれ口を叩けるかな?」
「お前がやられるまでだ」
さっきまでのバカっぷりで、もはや緊張感なぞありはしない。
「油断は大敵よジオスちゃん」
「そうはいってもなぁ、なんかまた長そうなんだけど」
奴が力を見せると宣言したっきり、瞑想をしているかのように動かない。
「あれは新しく得た力を発揮する準備ね」
「隙だらけなんだけど……ヒーロー協定とやらがなかったらすぐやられるんじゃないか?」
「そう思うなら攻撃してみる?」
「……あぁ遠慮なく」
奴が身構えたままの体制なので足を狙って剣を振るう。
すると、今までとは違うガキン! という音と共に弾かれた。
「なんだ今の感触は……攻撃が当たる前に弾かれたぞ?」
「見せ場を作ろうとする者に対し、邪魔をする人の攻撃を防ぐ名付けて、お約束プロテクター!」
「またお前のせいか!? つーか見せ場ってなんだよ」
「ジオスちゃんがより苦しむ様の……演出?」
「なんでちょっと悩みながら聞くんだよ! 俺を試すなら、敵の攻撃を耐えきれるかどうかの試練みたいな形式でいいだろ?」
「そうそれ試練!」
「思い出したみたいな言い方すんな!!」
結局は奴の力とやらを止めちゃいけないみたいで、その間は謎の力で守られているらしい。
見せ場が作れると働く力っぽいので、今度は俺も試してみるか。
それにしても長い。
大丈夫これ? アニメ化してたら放送事故じゃない?
「待たせたな。これが俺の力だ受け取れ! 閃光爆裂弾!」