アクシデント
キノコの襲来から三十分ぐらい経過したが、未だに同じフロアに居てレベルアップに励んでいた。
本当なら聖剣が強いため進みながらでもいいんだが、このモンスタールームが思いの外効率が良く、味を占めたというわけだ。
ゴブリンやオークはセットなら放っておいても害はない。経験値も少ないしな。
シャーマンは離れた距離から手裏剣で確実に処理をしておいた。また呪われたらかなわんからな。
残るはスケルトンだが、ターボ相手に手こずる……かと思いきや、先制必中・先手必勝で楽に倒せてしまった。
いくらランクアップしたといえど、所詮は骨は骨なのだ。攻撃力がいかに上がろうと、防御も回避もないに等しいままだった。
「おかげで大分楽にレベルアップも出来たぜ」
「相変わらず運が無いけどね」
「それを言うなよ! 俺にはどうしようもないんだからさ」
これって勇者だから中々上がらないのか? それとも俺だから上がらないのか?
後者だとどうしようもないな。
「スケルトンはもうほぼ狩り尽くしたか」
ゴブリンとオークの雑談BGMを背に、もはや単純作業化したスケルトン処理を済ませる。
いやー聖剣様様だな。これ無かったら、今頃俺もスケルトンの仲間入りだなーなんつって!
「天罰が下りますように」
「いや、なんで!?」
「唐突にイラッときたのイラッと」
「なんか辛辣度も上がってね!?」
ははーん。さては、調子の良い俺を見ても楽しくないんだな?
つーか、天罰って神様なら自分で落とせるんじゃないのか? 本当に落とされても困るが。
「これで最後のスケルトンターボ――だなっ!」
倍増スイッチで増やしたスケルトンをターボにする作業は、経験値面ではとても効率が良かった。
スケルトンを増やせば勝手に同族やゴブリン達を狩りにいってくれて、ランクアップでターボになる。
そのターボだが、一匹倒せば経験値が35も貰える。
本来ならこんなに複数も出会うようなモンスターではないが、一つの広い部屋だったことと倍増スイッチがあったことで功を奏した。
そんなスケルトンターボも聖剣での一撃で骨を砕かれて消えていく。
チリンチリン、チリンチリン。
おっ? このフロアで四度目のレベルアップ音がする。
レベルは8から急に経験値も倍増したため先が不安になったが、9になると元の上昇値に戻っていた。
どうやら一定の通過点にそういう基準を設けているようだ。
そうだよな……普通にあのままだと、今みたいに荒稼ぎでもりもり上がってしまってバランスが取れなくなる。
今がバランス取れているかは知らん、カンナに聞いてくれ。
「そろそろ次へ行こうと思う……と、なんか盾が落ちてるな」
『ウッドシールド』を手に入れた。
「ようやく防具だよ……もう次で最後なんだけどな」
そういいつつ装備してみて、装備簡略画面にて確かめる。
『ウッドシールド』の詳細。
防御力+3 錆びない 以上です。
「平凡だけど悪くない盾ってところか」
「オークとお揃い」
「言うなよ! 気にしてたことを!」
これでこん棒を持っていたら、完全にゴブリンとオークのハイブリッドだ。
誰が得するんだよそのコラボ。
「大部屋の割には罠も少なかったな」
「嵐の前の静けさね」
「ちゃっかりフラグたてるのやめてくんない!?」
このフロアでやることもなくなったので、アイテム回収中に見つけたゲートへ行き、無事終われますようにと願いを込めながら飛び込んだ。
ゲートから次のフロアへ出る間の景色も見慣れたもんだ。
最初は目眩がするようで若干気持ち悪くなってたが、今ではゲート酔いもしなくなった。
レベルと共にそういう肉体強化とかあんのかな?
そんなことを考えている内に到着したようだ。
今度は部屋がさほど大きくもない景色が広がっていた。
「んで、恒例のフロア表記はどこにあるんだ?」
「ネタが思い浮かばなかったから無しよ」
「そんな理由!? なら普通に書けばいいじゃんか」
言われる前に聞いたのになかったとは、残念なような残念じゃないような。
「おっふぁいぶろ! とかどう?」
「どう? じゃねぇよ無理矢理作るな!」
さて、このフロアをクリアすれば終わりだが、何もないなんてそんな生易しい終わり方するわけないことぐらい分かってる。
問題は何がどのタイミングで起こるかだ。
生半可なモンスターじゃ聖剣の前に経験値と化すだけだし、呪いもシャーマンのようなスキル不能に陥らなければおそらく大丈夫だ。
後は、強力な罠とか来るか? いや、考えたらフラグになってしまうかもしれないが、聖剣さえあればどうにかなりそうだ。
これもフラグとか勘弁してくれよ?
「スタァーブ!!!」
「!!? なんだよこいつどっから現れやがった!?」
ビックリした! ゲートキーパーが壁を突き破って出てきたようだった。
いきなり過ぎて正直怖かった。お化け屋敷かここは!
「あれこそダンジョンキーパーね」
「なに? さっきの奴と違うのか!?」
「えぇ今も追ってきてるでしょ?」
「あぁ確かにしつこそうだ」
俺達が通路に差し掛かった所で急に反対から現れたため、部屋で戦うにもそう広くないし、一旦通路へ逃げ出しながら会話をしていた。
「それに左利きみたいだし」
「関係あんのかそれ!?」
カンナ理論だと世の中の九割がゲートキーパーなようです。
いや、モンスターの利き腕率とか知らんけど。
「ダンジョンキーパーはとにかくしつこいため、部屋を引き離しても追っかけ続けてくるわ」
「どうにか撒く方法はないのか!?」
「お札なら可能かも」
「ど、どれだよ!?」
慌てて拾っていたお札を取り出した。
ここまでに三つのお札を手に入れていたが、どれも効果が分からず読んだら発動してしまう。
なので、カンナに見える形で鑑定してもらおう。
「インデュレ、トラペア、ブローフ……ん〜どれがどうだったかしら」
「そこから?! 早くしてくれ奴が来る!」
こうしている間にも足音が近付いてくる。
どうやら通れない通路もお構い無しに破壊して進んでいるようだ。
ゲートキーパーの方がまだおとなしいだけマシだよ。
「ちなみにジオスちゃんはどれと思う?」
「ん〜ブロー……ってあぶねぇ、俺が言ったら発動するじゃねぇか!」
「じゃあブローフは無しね」
「無視すなぁぁぁ!!」
俺が選んだ物はハズレ、運の良さ的な意味で! だそうだ。
あながち合ってそうなだけに反論ができん。
不本意だが二択に絞れたぞ。
「後はサイトで調べて……」
「どっちだよ? 早く早く! もう来るって!」
「ググれカス」
「どうやってだよ! いや、急かしてすまん!」
他にもないか探してみるも手裏剣が七つ、食糧が一つ、他呪われた腕輪しかない。
もうそこまで破壊音と共に来ている。
くっ……戦うしかないのか。
「思い出した! トラペアよ使ってみて」
「間違いないな!? と、トラペア!」
声高々に叫んでみる。
お札が発動し散っていくが……何も変化が分からない。
ポカーンとしていると、ついに奴が辿り着いた音で我に返らされた。
「ちっ、間に合わなかったか!」
聖剣を構えるも奴の進行は止まらない。
来るか!? と思ったが様子が変だ。
まるで見えていないかのように辺りを確認している
「ジオスちゃん喋っても大丈夫よ」
「なんだよカンナ、何が起こってるんだ?」
「トラペアのお札の効果よ。透明になり気配も声も遮断されて聞こえなくなるの」
「それで奴には見えていないのか。でも、カンナには声聞こえるんだな」
「元々あたしもジオスちゃん以外にトラペア使ってるようなもんだしね。ご都合主義よ」
「なるほど、分からん」
話している内に奴は真っ直ぐ次の部屋へ行っちまった。
助かったし便利だなこれ。
「いつまで透明なんだ?」
「女湯を覗こうとするまで」
「は? 何の話だ?」
「オホン、アイテムを使ったり攻撃するまでは大丈夫よ」
「時間が経っても平気なのか?」
「えぇ改良したもの」
信じていいのかなその改良点。
カンナの言う通りなら、このままゲート探しに使えるな。
さっきの面倒な奴にいきなりビビらせられる心配もない。
「なら進める内に奴とは逆方向へ行こうか」
「さっきの奴に不意討ちしないの?」
「したらそのまま戦闘になるだろ」
「勝てないって言った?」
「リスクは負えない。まだ後でいい」
もしかしたら勝てるかもしれないが、無傷や一方的に攻めて勝てるとは思わない。
なら、まずは探索をしてからだ。
そのうちもっと楽に勝てるアイテムや方法を、見つけたりできるかもしれないしな。
「しかし、他の敵は見当たらないな」
進みながら一応警戒するも、何も居ない。
それどころかアイテムすら落ちていない。偶然……なのか?
「最終フロアだから軽い縛りプレイを演出」
「やっぱりお前の仕業なのな……」
なんとなくそんな気はしてたさ。
前のフロアから不幸を願っていた女だからな。
となると、後はゲートを探すだけか。
結構簡単なんだが、ボスモンスターって居ないのかな?
あの徘徊野郎がボスっちゃボスだが。
「他にも何か用意してるんじゃないか?」
「えへ、バレた?」
「隠せ隠せ、そのやり取り懐かしいが構ってやらんぞ」
「用意とは少し違うかも。勝手にそうなっただけ」
「不安を煽ってきやがるな。俺には聖剣があるんだぞ?」
「装備消し飛ぶ罠は好き?」
「話聞いてた!? 好きなわけないだろうが!」
「じゃあ採用かしら」
「うそうそ! 大好きだから!」
こうでも言っておかないと本当に実装されてしまいそうだ。
そんなもの設置されて踏んだら、中盤以降どうすりゃいいんだよ。
「あ、残念。もう出口が見えてきたわね」
「どこに? 俺にはそんなもん見えて――」
なにやら見たことあるモンスターが隅へ陣取ってますね。
はい、ゲートキーパーでした。
「嘘だろ!? あいつまで居んのかよ……」
「言ったでしょ? 応援……勝手にそうなったって」
「お前嘘つくとき分かりやすいから無理すんな」
なに呼んでくれてんだよ……。
これ絶対攻撃しなきゃならないし、透明解けたら早く倒さなきゃ別の奴まで来るぞ。
焦るが考えても仕方がない。
せめて先制攻撃のクリティカルヒットをお見舞いしてやろう。
「ジオスちゃん、お札は読まなくていいの?」
「お前が今そういうってことは状況が悪化するんだろ」
「ちっ、バレたか」
「少しは隠せえぇぇ!!」
この女のフラグ設置が少しは読めてきたぞ。
「まぁまぁ、本当はお札の効果で楽になるわよ」
「騙されてたまるか! お札無しでも有利なんだからな」
そう言いつつゲートキーパーに近付く。
安心しきっていたんだろう。
存在を忘れていた。いや、そうなることまで考えに至らなかった。
透明化を解除させる罠の存在をな。
「よし、まずは一撃――」
「ピピッ……対象発見、ロック」
「え? 見つかった……やべぇ!!」
急いでしゃがむと、ブォンと風を切る音が聞こえ頭上をハンマーが通りすぎた。
バレてる上に先制攻撃失敗、どうしてこうなった!
だが、壁に打ち付けた音が響き、その音を聞き付けたのか悲劇は連鎖する。
「スタァーブ!!!」
一番来てほしくないタイミングで、は、挟まれたぁ!!
前六話分を三話分に結合しました
分割&結合すると後書き消滅するので
今後は一話3000〜4500字程度で投稿してみます!
もうすぐ一章終わる予定ですが(ぇ