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序章 私の心は…もう……〈後編〉

前編の前書きに間違いがあったので修正しました。

これで序章は終わりです。ちょっと長くなったかもしれない?

お母さんが、遺体として発見された時の写真だった。



それからは動くことはおろか、何かを考える気にもならずにただ時の流れに身をさらし、ずっとベッドの上で寝転がっていた。もう、誰の声も聞きたくなかった。誰の顔も見たくなかった。誰も信じられなかった。勿論、自分のことさえも…けれど、その時の私は知らなかった。もっと大変なことが自分の体に起こっていたことに…



その日の夕方、お兄ちゃんが私の部屋のドアを叩きながら私に呼び掛けた。


「朱咲、出て来てくれよ。何があったんだよ。教えてくれよ」


いつもなら、私のことを思ってくれているお兄ちゃんの声は嬉しく感じるのに、その時はものすごく悲しくて、怒りが膨れ上がってきて…


「もう二度と、私に関わらないで!!」


気が付けば、起き上がりながら叫んでいた。すると、ドアの前から…


「わかった」


と言う声が聞こえたかと思えば、居間の方へ戻っていく足音が聞こえた。そして、静寂が訪れた。と思ったのも束の間、起き上がった拍子に前にかかってきた長めの髪の毛を見て驚愕と恐怖、さらに何か判らない感情に見舞われた。


「何……これ………?」


としか言えなかった。これまでは黒と茶色の間くらいの色だったのに、それが全て無くなって真っ白になってしまっていた。そして気付いてしまった。自分の体の成長が止まってしまったことに。何か予兆があった訳でもなく、何が起こったのでもなく、ただ本能的に、もう成長しない。そう確信していた。



そこまで堕ちてしまっていたと思った途端、音にならない叫びとも、絶叫ともいえるものが体中を駆け抜けた。それと同時に涙が溢れ出てきた。そして私は、自分以外誰もいない部屋でただ、ただただ、声を出さず泣き叫んでいた。



気が付けば私は天井を見ていた。きっと、泣き疲れて眠っていたのだろう。さっきのことが、悪い夢であってほしい。そう思って自分の髪の毛を見たが、真っ白のまま元に戻っていなかった。もう絶望したり、悲しんだりしなかった。というよりは、何の感情も持っていなかった。ただ、何もせずに1人でいたかった。永遠に来ないであろう、心が治る日まで。



それからの日々は速くも遅くも感じた。というよりは、月日の経過などというものは頭になかった。何もせず、ただベッドの上で寝転がって天井を眺めたり、眠ったりしていた。その時は、何故だか知らないけど、誰も私の部屋のドアを叩かなかった。



そしてそんな日々が3年続いたある日、部屋のドアが叩かれた。


「朱咲、起きてる?お兄ちゃんだけどさ」


お兄ちゃんだった。ずっと聞きたかった声だった。返事をしたかった。いや、しようといた。でも、3年間何もしていなかった為、体は痩せこけり、力を入れようとしても力が入らなかった。だから、ほんの少し動くことだけですらままならなかった。


「もし起きているのなら、部屋の前にご飯とか置いとくから」


私が起き上がってベッドから降りかかっていた時に、お兄ちゃんはそう言って何処かに行ってしまった。喪失感を少し感じたが、気にならない程度のものだった。



私は力の入らない体を、壁や本棚などにもたれ掛かるようにして支えながらドアに向かって歩いた。3年前なら5秒も掛からなかった距離だったのに、今では10分以上も掛かってしまった。そして、やっとの思いでドアの前に立った。ドアは内開きなので、ドアの取っ手がある方の壁に寄り掛かった。もうこの時、これだけのことで息が切れ、酸欠状態になりかけていた。それでも、たった一つの希望にすがり、諦めずにいた。そして、ドアの取手の上にある鍵を開けて外の世界に出た。そこには、私の大好きな食べ物で、一週間に2度は必ず食べていたクリームシチューがあった。その隣には湿ったタオルと1通の手紙があった。父からのだと思い一瞬たじろいだが、その手紙はお兄ちゃんからのだった。恐る恐る手紙を手に取り、部屋の外の壁にもたれ掛かるように座った。そして、封筒から文書を出して読んだ。


『朱咲へ

あの時はごめん。朱咲の気持ちを考えずに自分勝手な気持ちだけで行動してた。本当にごめん。でも、知りたかったんだ。朱咲に何があったのか。何で苦しんでいたのか。それを知って慰めたかった。苦しみを共有したかった。それで少しでも朱咲が楽になればと思った。でも、逆に苦しめてしまっていたんだね。ごめんね。でも安心して。ずっとお兄ちゃんは朱咲の味方だよ。だから、苦しい時はいつでも頼ってね。

お兄ちゃんより』


涙が溢れてきた。壊れてしまっていた心が、少し治ったような気がした。手紙って、こんなに温かいものなんだ。そう思えた。そして、クリームシチューを一口食べた。およそ3年ぶりに食べた食べ物は、体を温めただけでなく、心に温かさを少し与えてくれた。そして、一口一口その温かさと味を噛みしめるようにゆっくりと食べた。



食べ終わってちょっとした頃に、お兄ちゃんがきた。あまりにも変わり果ててしまった私を見て驚くかと思ったが、そんな素振りを見せずに優しく微笑みかけてくれた。


「久しぶり、朱咲」


私はお兄ちゃんに、今にも枯れてしまいそうな声で、


「ひさ……し、ぶり………ぉにぃ…ちゃん」


と言って笑った。



それから私は、1日で普通に歩くことができるように努力した。その結果、10分くらいまでなら普通に歩くことができるようになった。そして、お兄ちゃんと二人での生活が始まった。でも、そんな日常は長く続かなかった。私が部屋から出て来て2日が経ったある日、1日目よりはかなり普通に歩くことができる時間が延びた私は、興味本意で仏間に行った。そこで目にしたのは、お祖父さんとお祖母さん、さらに叔母さんの遺影だった。


「やっぱり、見ちゃったか…」


いつの間にか後ろに来ていたお兄ちゃんが言った。私は訳が判らず、


「お兄ちゃん、これは一体?」


と聞いた。するとお兄ちゃんは話してくれた。その内容は想像を絶した。


「朱咲が閉じ籠っていた間に、お父さんから2、3分に一回のペースで電話が掛かってくるようになった。あまりにしつこかったから、お祖父さんが止めるように怒ったんだけど、それでも止めなかった。それが半年続いた。止まった理由は、お祖父さんが途中で電話を解約したからなんだけど。その後は何も来なくなった。でも、解約してから1ヶ月くらい経った頃、今度は手紙が1日1通ずつ届いた。内容は…言えないくらい呪いのこもったものだった。朱咲が部屋に閉じ籠ってから一年と半年が経ったある日、お祖父さん達は僕を置いて、ちょっと行ってくると言って出ていった。その次の日、ニュースで川に身投げして自殺したことを知った。僕も死にたかったけど、朱咲のことを思うと死んじゃいけないと思った。」


「お兄ちゃん……」


とても申し訳なく思った。また自暴自棄になりそうだったけど、お兄ちゃんの次の言葉でその気はなくなった。


「その後、1ヶ月くらい経った頃、遺書を見つけた。そこには、『朱咲は何も悪くない。だから気に病むことはない。悪いのは、全部 龍毅たつきだ。子供、ましてや自分の娘をここまで追い込みやがって。星琉、朱咲のこと、頼んだぞ。あの子を救ってやってくれ』って書いてあった。お祖父さん達は、朱咲のことを迷惑とか、朱咲のせいとか、一切思ってなかった。だから、そんなに自暴自棄にならなくていいんだよ。」


お兄ちゃんは私の頭を撫でてくれた。とても嬉しかった。と同時に、お兄ちゃんと一緒なら、何も怖くないと思った。その後、仏壇に手を合わせて、仏間を出た。



一時間後、手紙が届いた。その時、お兄ちゃんも一緒だった。その手紙は父さんからだった。文面をお兄ちゃんと一緒に見た。何を書いてあるかは判らなかったが、呪いであることは判った。それからは一時間毎にその呪いの手紙が届くようになった。そして2日が経った。その日は私とお兄ちゃんの誕生日だった。


「おはよう朱咲。誕生日おめでとう」


「おはようお兄ちゃん。ありがとう。そっちも誕生日おめでとう」


「ありがとう」


「また、たくさん届いているね。お兄ちゃん」


「だな」


今日もたくさん届いていた。それを見ながら、私は、もういっそ死んでしまった方が楽だと思った。それが口から洩れてしまった。無意識に。


「そうだな。もういっそ死んじまった方が楽だな」


お兄ちゃんの言葉で、思っていたことが口から洩れていたことが判った。


「もう死んじゃおっか。今日の夜。ううん、今の方が楽かな。せっかく誕生日なんだし。」


私はお兄ちゃんにそう言った。すると、お兄ちゃんも頷いて、二人分の包丁を持ってきた。そして庭に出た。今は午前4時過ぎ。誰も周りにはいない。やることはもう判っていた。


「じゃあ、せーのでいくぞ。」


昔とある道場で暗殺術を学んでいたから、自分を殺すより、お互いで殺しあった方がいいと思ったからだ。迷いは最初からなかった。


「せーの」


お兄ちゃんのかけ声と同時にお互いがお互いの心臓を刺しあった。その後、そのまま地面に倒れた。そして二人で顔を見合って笑った。不思議と痛みは感じなかった。

龍毅は父さんの名前です。次からは転生します。多分。

それではありがとうございました。

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