第2章 10話 絶望
今日、僕は自らの愚かさを悔やんだ。
「うわぁ〜、おしまいだよ〜……」
「まぁまぁ、朱咲ちゃんはちゃんと授業聞いてたから大丈夫だよ」
頭を抱えている僕を、榎鏤さんが慰めてくれる。その優しさがとても嬉しかった。でも、そんなに楽観できるような状況じゃない。
事の始まりは、昨日の帰りのSHRの時に先生が何気なく放った一言だった───
・・・
「お前ら、実力テスト明後日だからな」
何それ初耳なんですが!?テストがあることは知ってたけど、この時期にあるなんて聞いてないよ〜!そして先生よ、なんでこんな際に言ったし!今更嘆いてももうどうしようもないのだが………
僕以外みんな知っていたようで、ため息を少しもらす程度のリアクションだった。が、僕はその時初めて聞いたのだ。テストの存在を。榎鏤さんをポカポカするくらいは許され───ませんよね流石に八つ当たりでしたすみません。
「はぁ〜………」
「どしたの?あ、テストのこと?」
「そうです……あ〜、なにも勉強できて無いですよ〜……」
これまでは、テスト2週間前から教科書を読んで狙われる点を探るのだが、これじゃあほとんどヤマを張るようなもの。モチベーションは全く上がらない。むしろ下がる……
帰路を二人で歩きながら、迫り来るテスト(地獄)をどうやって退けるか、僕は頭を抱えていたのであった。
明確な範囲がわからない僕は、榎鏤さんから聞くか、ほかの人に連絡を取るしかない。が、生憎と他の人の連絡先を知らない。
入学時に「フォークリング」と呼ばれる専用端末を貰った。のだが、使い方が分からないまま放置してしまっていた。
それはもう自業自得として、渡される時に説明して欲しかったかな………
「あの、榎鏤さん、このフォーリングって端末、どういうものなのですか?」
「え!?もしかして、誰とも連絡先交換しなかったのって、したくなかったんじゃなくてやり方が分からなかったの!?」
僕は、控えめに頷いた。すると、榎鏤さんはどこか勝ち誇ったような顔をして、腰に手を当てた。
「仕方ないな〜。教えてあげようではないか」
「はい!お願いします!」
もし僕に尻尾があれば、ブンブン振っていただろう。いやまぁ、あるけどね。実際は…今は流石に出てない。と信じたい。というか、最近自信のない発言多すぎる気がする。少しずつ直して行こう。
「えっとね、この端末で連絡先を交換するには、本人同士がアドレスを交換する必要があるの。それで、交換した人同士でメッセージのやり取りや、通話ができる。チーム戦の時に無線の代わりにもなる。学校からの連絡もフォン……あ、フォーリングの略ね。に送られるから」
「あ、じゃあ実力テストの連絡も来て──ないです………」
もしかしたら自分が見落としていただけかと思って確認したが、そのようなものは一切なく、クラスの人からのメッセージがたくさん来ていた。
「なんで皆さん私のアドレス知ってるんですか?」
僕は素直な疑問を榎鏤さんに言った。すると、少し気まずそうにしながら榎鏤さんが答えた。
「それは、同じ部屋の人は自動的に交換されるから、朱咲ちゃんのアドレスをクラスの掲示板にぺたっと、ね」
「それ、やっちゃダメなことなんじゃないですか?」
「ごめんって〜」
ここは許さないべきなのだろうけど、元々は使い方を知らなかったせいだからなのか?いや関係ないか。
「もう!榎鏤さんは〜!」
ぽかぽかぽかぽか
僕は軽く榎鏤さんを叩いた。痛みはほとんど無いだろう。音からしてわかる。
一方的に送られてきたメッセージは、開ける前にそのアドレスを追加するかを聞かれる。僕は来ていたもの全部を開き、クラスのほとんどの人を追加した。
「話がずれました」
気が済むまでぽかぽか叩いた後、少しかしこまって話を元に戻すことにした。
「そうだった。実力テストのことだっけ?」
「範囲って、どのくらいですか?」
「えっとね───」
榎鏤さんは前に貰っていたのであろう範囲表を持ってきた。
「これ」
「さ、流石にこの範囲を二日で復習するのは無理ですよ〜」
鬼か!?本当に鬼か!?ってなる範囲だった。もうやけだ。なるようになれ!
「今から行けるところまでやってみます」
「頑張ってね〜」
「え?榎鏤さんは勉強しないんですか?」
「実力テストなんて実力で受けるものでしょ」
つまりは捨てているということか………だからか。全く話題に出さなかったのは。
「諦めてるんですね……」
「実力テストまで本気で勉強したら身がもたないさ」
まぁ、その気持ちはわからないでもない。正直、僕も実力テストにはいつもの半分くらいの力しか入れない。
「それに、今回はどんなに酷い点を取ったとしても許されるし………」
「いやいや、だからって流石に0点は……ねぇ」
僕の言葉にそーっと目を逸らす榎鏤さん。あれ?もしかして、さっきの発言といいやる気のなさといい──
「……もしかして、0点取ったことあるんですか?」
「いやまぁ、あるというか……むしろそれしか取ったことがないと言うか………」
「もう結構です……」
流石にこれ以上、榎鏤さんのテストの黒歴史を聞くのは僕としても辛いものがある。
「あれ?範囲に昨年度も含まれてるってなっているのですが………でも、僕はその範囲の教材がないので、見せてもらえないでしょうか」
「あ〜、去年の教科書は捨てちった」
てへっと舌を出す榎鏤さん。いやいや、それで済まされる問題じゃないでしょ!
「え!?じゃあこの範囲どうするんですか!」
「そこはまぁ、捨てでいいんじゃないみたいな感じで?」
「でも範囲の半分を占めてますよ!と言うか、なんで捨てちゃうんですか!」
「だってもういらないと思ったん───」
「実力テストの範囲表を見ればいることがわかるでしょー!!!」
「まぁまぁそうお怒りにならなさ───」
「怒るよ!!!」
流石に怒るよ。そのダメっぷりは……うん。ひとつ言わせて………普通は教科書残すでしょ!それになんで楽観的なのさ!あ、ふたつ言っちゃった。そんなことよりも!
「榎鏤さん!」
「はいぃ!」
「いや、あの………説教じゃないから正座はしなくてもいいよ?」
僕があまりに強く呼んでしまったせいで、榎鏤さんか夜のことが再来したかのように感じてしまったらしく、びしっと体を強ばらせて正座した。
逆になんか申し訳なくなった………
「………ふぅ。もういいです」
「ほんとにごめん!いつか埋め合わせするから」
「埋め合わせよりも昨年度分の範囲をください」
僕は笑顔でそう返すと、夕飯の準備にとりかかった。が、時間も時間だったので手短に。
そして本当に簡単に作ったご飯を食べ、急いで順番に二人お風呂に入り、少し起こった疲れからか、それとも寝不足からか、はたまた別の理由からか──による眠気に任せ、僕は榎鏤さんと眠ることにした。次の日は休日だから、多少の夜更かしは大丈夫と思うが、生活リズムが崩れるのでそういうのは極力避けたい。
僕は一瞬で眠りについた。今一番すべきことを忘れてしまっているとも気付かず───
・・・
───そして今に至る。
時刻は午前7時。今から全力でやったところで間に合わないどころか、途中で体力が切れる。
幸いと言うべきか、皮肉というべきか。今日は学校が休みだから、追い込もうと思えば追い込める。
今日は朝トレを休まざるを得ない、か。
「………行ってきます」
「どこに〜?」
「委員長さんの部屋です。委員長さんなら持ってると思うので……」
「あ〜、確かに委員長は持ってそうだね」
ふらふらと少しおぼつかない足取りで委員長──水野 楓さんの部屋に向かった。
その時はまだ知らなかった。まさか、こんなことになるなんて…………
10万文字に突入!!!
少しずつほのぼのした感じの話を増やしていきたいと思います!
まぁ、書けるかはわかりませんが(^ω^;);););)
最後まで努力して、自分の文のレベルをあげていきたいと思います!!!
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