第2章 9話 焦燥
「今日はいろいろあったな」
夜、隣で寝ている榎鏤さんの寝顔を見ながら今日のことに思いふけっていた。
いつもより余裕を持って家から出て、先生が魔族だってことをまぁ、強制的に明かさせて…いや、ほんと先生すみません。今更だけども。
そして、そのままの流れで測定と初めての訓練があった。訓練では、時間を忘れて戦っちゃってたせいで先生に止められたっけ。
そして、少しトラウマになりつつあるきんぴら………いやでもきんぴら自体はとても美味しかったから、また今度榎鏤さんに頼もう。
「こんな慌ただしい1日も、悪くないかも」
小さな声で呟いた。それは偽らざる本音であり、それでも少し怖いものでもあった。
僕は、今日はなかなか寝付けなかった。理由としては、おそらく全力で戦ったからだと思われた。脳が疲れを感じないほどに興奮した状態がずっと続いていた。
それでも寝れる榎鏤さんは本当に凄い………
「喉渇いた…何かあったっけ?」
急に喉の渇きを感じ、飲み物を探しにキッチンに向かった。キッチンに行けば、何かあるはず。そんな軽い気持ちで探していると………
「………何も無い」
食材はきちんと揃っているのだが、飲み物が全くなかった。
「あ、買い出しで買うのすっかり忘れてた……」
自分のミスを悔やみながら、どうするかを考えていた。
う〜ん………魔法で水を出してもいいけど。いや、水道のみ…いややめよう。流石に水道水を飲むのは危ない気がする。
「もういっそ飲まないって考えもありかな」
無いものは仕方ない。もうこの際諦めて、喉の渇きに耐えながら寝るか。
そう思った時、視界の端に何かが見えた。
「リビングの方?いったい何が?」
気になって『何か』を確認することにした。
寝る前のリビングには無かったはずのものが、何故かあるのだ。不思議に思うのは仕方がない。
「ん?これ…かな?なんだろう。暗くてよく見えないや」
僕は小さな光源を作るために光の元素を作った。『何か』の答えは一瞬でわかった。
「…………え?」
その正体に目を疑って何度も見直したが、やはりそれ自体は変わらなかった。
いやいや、なんでこんなところに『これ』があるの!?まぁ、100歩譲って元々あるものだったとして、誰が置いたの!?
「いや、誰って榎鏤さんしかいないじゃん!」
少し声が大きくなってしまったが、気にしない。気にしちゃいけない。それ以上に今は『これ』だ。
でも、流石に寝ている榎鏤さんを起こすのは……ううん。もう心を鬼にして起こそう。
「榎鏤さん、ちょっと起きてください」
「うぅ〜ん、まだ〜」
起こせる気がしない。もう、最終手段に出るっきゃないか。
僕は、榎鏤さんの耳元にそっと口を近づけて、囁くように言った。
「起きてくれなきゃ、いたずらしちゃうぞ。榎鏤お姉ちゃん」
「ふぁ!?今、今天使の囁きが〜!!!」
「うわ!」
予想以上の勢いで榎鏤さんがはね起きた。危うく頭ごっつんこするところだった。
「え、榎鏤さん。今まだ夜だから、しー」
「え?あ、ごめん」
なんだかしょんぼりしちゃってる。少し悪いことしたな。いやそれ以上に!
「榎鏤さん!」
ぼふんっ
思いっきり下を叩いたつもりだったが、下が布団だったのでなんか軽い音になってしまった。
「ん?何?」
まだ寝ぼけているのか、榎鏤さんは夢現と言った感じで返事をした。
「これは一体どういうことですか!」
「ふぁあ!?す、朱咲ちゃん!それをどこで?」
「リビングにありました。ちゃんと説明してください!」
僕は『これ』を見せつけて榎鏤さんに迫っていた。
僕が衝撃を受けた『これ』の正体。それは………
猫耳としっぽが出ている状態で無防備に寝ている僕の写真だった。
・・・
それから約1時間の説教をした。榎鏤さんはもう2度としないと誓ってくれたし、写真も僕に渡してくれることになった。深夜に説教はやりすぎたかなとはおもったけど、仕方ないよね。うん。
「もう時間も時間なので寝ましょうか」
「うん、そだね……」
すっかり元気が消えちゃった榎鏤さんに軽く謝りつつ、一緒の布団に入った。時間的に仮眠だけしかできなさそうだけど………
極端に短い睡眠時間には慣れているから問題は無い。はず……だと信じたい。
朝
いつもの日課をやるために早く起きた。今日は少し濃いめに朝トレをしたいから、朝ごはんをパーっと作ってから出かけた。お弁当は残りを入れたら大丈夫だよね。
今日は魔力操作を中心に、魔法開発を行うことにした。
まだ未完成の魔法分子魔法。未発見の魔法宇宙魔法。その他もろもろの、多種多様な魔法を探すこと。そろそろ始めないといろいろと追いつかない。
試行錯誤と言うよりは暗中模索していると、時間はあっという間にすぎ、何の成果も得られないまま、部屋に戻った。
部屋に戻り、ちょうど起きてきた榎鏤さんと一緒に朝食を食べていると、まだ眠たそうな目を擦りながら榎鏤さんが口を開いた。
「なんか行き詰まってる感じ?」
「え?」
予想外の言葉だった。僕がきょとんとしていると、榎鏤さんが確信したかのように首を縦に振った。
「やっぱり。朱咲ちゃんって思いのほかわかりやすいんだね。顔に出てるよ〜。いつものように落ち着いて〜」
「え、えーっと……はい。ありがとうございます」
僕は少し複雑な表情をしていたと思う。でも、榎鏤さんのお陰で落ち着けた。うん。そんなに焦ることは無い。自分で自分を追い込みすぎてた気がする。
肩の力を抜いて、深呼吸した。
「どう?落ち着けた?」
「はい。おかげさまで」
笑顔でそう返した。もう大丈夫。焦る必要なんてない。自分は自分なんだから。
「まだ、1歩ずつだけ進めばいいんだよね」
「そうだよ。焦っちゃうと、何も見えなくなっちゃうからね〜」
「まさか、榎鏤さんに諭されちゃうなんて思ってもみませんでした」
「ちょっと〜、それってどういう意味!」
「そのままの意味ですよ〜」
もう、いつもの自分に戻っていた。いや、違うかな。
いつもよりも自分らしくなれた
そう自覚した瞬間だった。
今回も少し短めかな?でも、気にしない!
これからもよろしくお願いします(*´∀`*)
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