第二章 八話 疾走
時間がなくて、さらにちょっとした事情も重なり、書いてる途中での投稿になってしまいすみません。おいおい続きは追加していきます
体力測定はすぐに終わった。先生の手腕だろうか。すくなくとも、40人の生徒を最も効率の良い回し方で回せていた気がする。
「よし、全員測定終わったな。それじゃあこのまま魔術訓練を始める。朱咲は初めてのことで分からないことも多いと思うが、その辺は瑠璃玉に聞けばいいだろう。それじゃあ、それ以外のペアは自由に組んでいい。ペアを変えるタイミングはこちらから合図する」
先生の掛け声とともに各々でペアを作り出した。事前に聞いているので、ほとんどのことはわかっているが、やはりその場の空気に触れてみることによって感じるものもある。
「あの、榎鏤さん」
「ん?なんだい朱咲ちゃん」
「みんな、楽しそうですね。なんと言うか、不思議と戦いたくなってきますね・・・こんな感情、初めてです」
「ふふ、そうだね。じゃあ、私たちも始めよっか。遠慮はいらないよ!」
榎鏤さんは、水を得たさk・・・いや、おもちゃをもらった子供のように少しはしゃぎながら僕の正面に入った。互いに全力で。手加減は、無礼に値する。たとえ相手が仲のいい友人だったとしても。今は互いに認め合うライバルであるのだから。
「開始の合図は、この葉っぱが地面に落ちた時。じゃあ、いくよ」
僕は小さく頷いた。それを確認すると、一枚の葉っぱを上に放り投げた。
葉っぱは重力に従ってゆっくりと落ちてきた。それが地面に近づくにつれて緊張、というよりはなにか心が躍るような感覚になった。
そっか、これが・・・「楽しい」って感覚なんだ。無意識のうちにそんなことを思っていると、葉は地面すれすれのところまできて・・・
サッ
その瞬間、二人ともこれまでに無いほどの笑顔でそれぞれの全力を解放した。
・・・
始まってからどれだけ経ったかわからない。ただひとつ分かること。それは、もう歯止めは効かないということ。
一度ついた火は、消えることを知らないかのように燃え続ける。それぞれが、やめようとしない限り。戦いは、もう誰にも止められなかった。
周りは、自分たちのことをそっちのけで見入っていた。らしい。
魔法と魔法、肉体と肉体が交錯しあい、そのたびに熱は増していく。その光景は、あたかも本当の試合のように人々を引き付ける輝きを持っていた。その輝きの中心が、子供のように全力をぶつけあって無邪気に戦って―――遊んでいる二人の小さな女の子だということを、見ている人からしたらどうでもいいことだった。
「二人ともそこまでだ」
「うわっ!?」
「ふにゃっ!?」
互いに魔法を相殺しあって組み合って魔法が消えた一瞬のすきに、先生にひょいっと持ち上げられた。その時初めて、訓練が終わっていたことに気付いた。榎鏤さんはまだ気づいていないようでじたばた暴れていたが...
「先生、私たちを同時に持ち上げるなんて、すごい力ですね」
「いや、ただ単に君たちが軽いだけだ。特に朱咲、ちゃんと飯食ってるのか?」
「まぁ、はい。それなりには。と、言うより先生。時間は大丈夫なんですか?」
先生の顔が少し青ざめたのが見えた。相当やばいらしい。原因は自分たちだから、なるべく時間をかけないようにまだぶつくさ言ってる榎鏤さんをなだめがら、急ぎ足気味に教室に戻った。
・・・
「え~、このように魔剣と呼ばれるものの大体は魔力を、媒体となる武具に注ぎ来k無ことによって―――」
訓練の後の授業は眠気との戦いだった。訓練とはいえ、一時間も全力で戦い続けてたら疲れが出てくるのは当たり前だ。
周りを見渡すと、九割近くの生徒が寝ている。先生も、その光景が普通だと言わん限りにほっといている。自分も寝てしまいたいという欲求に駆られるが、その欲求よりも、先生の話を聞かなければという義務感が勝り今も全力で眠気と格闘している。
時折、強力な眠気に襲われてふにゃぁと突っ伏してしまいそうになるが、完全に突っ伏してしまう前に我に返ってあわてて元に戻る。というのを何度も繰り返していると、先生が僕のほうを見て少しずつにやけていいっていた。
キーンピーラクイテェー
知るか!?って突っ込みたくなるようなチャイムがなって授業が終了した。途端に、今まで寝ていた人たちが飛び起きた。
かと思った瞬間に全員が走り出すではないか。
「きんぴらだー!!いそげぇぇ」
「え?え?な、何事ですか!?」
人ごみに巻き込まれてそのまま教室の外に放り出されてしまった。僕のこの小さな体では、大きな人の波に埋もれえるしかなかった。
やっと人の波がやんだと一安心していると、後ろにはもう既に第二波が。
「も、もう勘弁してください!」
半分やけになりつつ、軽くパニックになりながら教室へと体を滑り込ませた。
教室にいたのは、緋座さんだけだった。
「大丈夫だったか?さすがに、あの波に飲まれといくのを見たときは心配しちまうぞ。少なくとも、俺と戦うまでにくたばってもらっちゃ困るからな」
「い、いきなりすぎて全く状況が理解できていませんでした。あれって...」
「あ~、あれはな。さっきのチャイムが鳴った時だけ購買で販売される、『世界のきんぴら』を買いに行く人の波だ。我先にと買いに行くんだよ。みんな」
「な、なるほど」
あのなぞのチャイムの正体が分かったが、『世界のきんぴら』っていうのはそれほどまでおいしいのだろうか。だとすれば少し興味がわいてくるが、あの混雑の中に入っていくのはこの身長では自殺行為にも等しいので、榎鏤さんに頼もう。
「それより気になったんだが」
「にゃ、なんですか?」
「その耳と尻尾は自前か?」
「え?!」
いわれたことがよくわからず、首をかしげていると、緋座さんが鏡を向けてきた。そこには、猫耳と尻尾が付いた自分がいた。
「ほんとは猫妖精族だった?いや、猫妖精族はもっと全体的に猫なはずだ。だとすると、それはなんなんだ?」
「え、えっ………と………」
心の中で朱咲と入れ替われば説明できるかもしれない。でも、僕はそれをしなかった。いや、正確にはできなかったのだ。なぜかはわからない。
「今は、まだ教えられません」
それが、僕が絞り出した精一杯の答えだった。
「………そうか」
緋座さんは軽く頷きながらそう言い、前に向き直った。人の隠したいことをあまり詮索しない。緋座さんのその考えはとても助かった。
僕もご飯を食べるために自分の席に戻った。気まずくは無いけど、少し重い空気が教室に漂い始めてから数分して、「世界のきんぴら」を買いに行っていた人達が帰ってきた。
「いっちばーん!ってえ?何この重い空気!?」
軽く湯気が出ているきんぴらを持った榎鏤さんが、扉をバーン!と開けて入ってきた。まぁ、つっこみたくなる気持ちは分かった。
「え?一体何があったの!ねぇねぇ〜」
榎鏤さんが僕に助けを求めるように聞いた。猫耳はもう消えていたようで少し安心した。
「えっと……まぁ、気のせいですよ。それより、それ1口貰ってもいいですか?」
「え?あ、きんぴら?う〜ん、どうしようかな」
榎鏤さんは、いたずらに僕の手の届かない位置できんぴらを持っていた。
そして、ちらっと僕の方を見て吹き出した。
「フフッ。そんな顔で見ないでよ。上げたくなっちゃうじゃない」
「ありがとうございます♪」
そして、榎鏤さんはおもむろに箸できんぴらをつかんで僕の口の前に持ってきた。
「?………」
「はい、あーん」
な、なんだって!?この展開は予想してなかった。どうすべきだろうか……普通に考えたら、女子同士なのだから問題はない。ないのだが、どうしても抵抗が………
「え、えっと………あーん」
いやそれ以上にきんぴらおいしい!もっと食べたいとは思うけど、流石に一口と言ったからそれを破るわけにはいかない。
今度、買いに行こうかな………死ぬかもしれないけど
そんな感じで、いつもとはひと味違うお昼の時間を過ごしたのだった。
短めなのは気にしないでください。
次回はできるだけ早めに出したいです(願望)
それではこれからもよろしくお願いします




