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世界は僕らの邪魔できない  作者: 九十九疾風
第二章  咲琉学園
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第二章  五話  虚憶

二十話目です。

「ねぇ!一緒にやろうよ!」


どうしてこうなった...?

僕は少しこんがらがった頭を整理すべく、今日あったことを思い出していた。




                    ・・・




学校から帰ってきて、開口一番榎鏤さんが言ったのは、朝どこに行っていたのかということだ。正直に答えたかったけど、話し始めると朝あったことまで話さなくてはならなくなってきてしまうので、最低限そこだけは触れたくなかった。被害を拡大させたくないっていうのが一つ、そして他の理由として、あの人の危険度が高いというのと、能力がまだわかってないというので二重で恐ろしいというので、まだ接触させたくないというのがあった。


「黙り込んでないで教えてよ」


「えっと...あの...少し散歩に行ってました」


答えに迷った結果、あながち間違ってもいない答えを言った。まだ少し納得していない様子で僕のほうをじっと見ていた。そして、ふぅっと息を吐くと、少し頬を膨らませて言った。


「朱咲の意地悪...」


「ふぇ!?」


予想外の言葉が榎鏤さんの口から発せられた。意地悪をした覚えがないわけではないけど、けど、そこを言われるとは思ってなかった。


「え?あの、もしかして今日黙って出て言ったことですか?」


「そうだよ!自覚があるのなら一言言ってくれてもよかったじゃん!」


「あ、えっと...そ、その...ごめんなさい......」


あまりの剣幕に少し怖気づいてしまった。少なくとも、ものすごく怒ってる。これだけはわかった。そんな榎鏤さんに僕は謝ることしかできなかった。

僕は今恐怖しか感じていない。いや、正確には僕の体...つまり朱咲の体が恐怖に侵されている。それはおそらく...いや確実に、『怒り』という感情による恐怖を受けすぎたせいで、生理的恐怖感を感じるようになってしまったためだ。

僕は、少しでも油断したら溢れてきそうな涙を堪えながら、榎鏤さんから目を背けないように努力した。


「謝らなくてもいい。私が知りたいのは、なんで黙って出てったのかということ!」


「ぇっ......と......」


榎鏤さんは一歩一歩僕に近づきながら言った。僕は同じように下がっていると、背中に微かな衝撃があった。横目で見ると、そこにはドアがあった。

僕は逃げ場を失い、榎鏤さんの怒りに耐えられなくなった。涙は出ないように堪えたが、それでも力が抜けて崩れていく足に力を入れなおして踏ん張ることはできなかった。床にへたり込み、次に榎鏤さんが発する言葉を待った。


「ふぅ...もういい」


「え?!」


予想外の言葉が飛んできた。恐る恐る顔を上げると、榎鏤さんは少し笑っていた。僕は頭の中にはてなを浮かべつつ、もう堪えられなくなって溢れてきた涙とともに少し笑った。


「怒りたかったけど、でも、そこまで過剰に『怒り』に恐怖をしるしていたら、怒っちゃ悪いと思っちゃうよ」


「ぅう、すぃま、せん...」


「ほぉら、涙を拭いて深呼吸して。話は落ち着いてから聞くから」


榎鏤さんはハンカチを渡してくれた。僕はそのハンカチで顔を覆った。声を発さずに涙を流した。榎鏤さんはそんな僕を静かに見ていた。

そして、だいぶ落ち着いたころに


「もう落ち着いた?」


と聞いてきてくれた。僕は無言で頷いた。


「なら、聞いていい?どうして黙って出て行ったの?」


さっきとは打って変わって穏やかな表情、口調で言った。きっと、さっきので榎鏤さんは悪いことしたなと思ってしまった様だった。むしろ悪いことしたのは僕のほうなのに...


「実は、私の日課で少しトレーニングをしていました...内容まではさすがに言えませんが」


もう本当のことを言うことにした。きっと、榎鏤さんはそうでもしないと納得しないでしょうから。それを聞いて、榎鏤さんはフッと軽く笑うと、僕のほうに手を伸ばしてきた。


「ふぇにゃ?うにゅ?え、榎鏤さんいったい何を?!」


「うーん、なんか、正直に言ってくれたからちょっとうれしくなっちゃっていい子いい子したくなっちゃった」


てへっといたずらに笑いかけてくる榎鏤さん。僕は、もう!っと言って少し反抗の意思を見せつつも、あまりにも気持ちよかったので、ただそれにされるがまま状態だった。心のどこかで、お母さんの面影を感じながら、また微かな雫を一つ零しながら、その温かさを心に刻み込んだ。




「ねぇ!一緒にやろうよ!」


「えっ?...」


少し夢心地でいたら、榎鏤さんの言葉で現実に戻された。ただ、まだ頭が夢心地のままでいるためにまだ状況が理解できていない。それで出てきた言葉は...

どうしてこうなった...?

だった。ずっと首をかしげていると、榎鏤さんがもう一度言った。


「だから、一緒にやろうよ!」


その一言で僕の頭は少しずつ現実に戻された。一緒にやる?何を?今の話の流れから察するにトレーニングのことだろう。もしそうだとしたら、あまり一緒にやりたくはない。というか、避けたい。


「あの...その......さすがにそれは...ご遠慮していただきたい、です」


「それは、どうして?」


「えっと...実を言うと、誰にも知られたくないことなんです。トレーニングでしていることは...」


「それってまさか、よk」


「少なくとも榎鏤さんの考えているようなことはしてません!だれかに知られてしまうとかなり危ないものなのは確かです。あと、私の奥の手でもあるので、たとえ榎鏤さんであろうと見せられません。もしかしたら、戦いの中で見ることになるかもですけど、そのような機会がないことを願いたいですね」


「そ、そこまでなんだ...」


榎鏤さんは少し小首をかしげていつつも、なんとなくで分かってくれているようだった。正直、深焉流は基礎さえつかめばあとは誰にでもできることなので、能力がある人にはわずか数週間で習得できてしまうので、榎鏤さん達には見られたくないというのがある。


「まぁ、危ないことはしてないので安心してください」


「むぅ...ま、朱咲ちゃんがそういうのなら大丈夫かな」


榎鏤さんも少しは納得してくれていて何よりだった。


「って、それよりも!」


「?」


僕は慌てて時計を見た。学園は五時に終わって、それからなので、今の時間は感覚的に行くと...


「大変だ!」


案の定もう夕飯時だった。急いで作らなければ...!


「何々?どったの?」


「夕飯が...」


「あ、そういうことね」


榎鏤さんはあまり気にしてはいないようだったし、僕も特に空腹は気にならなかったけど、一日のルーティーンが崩れてしまいそうで怖い。

まぁ、作る作らないはいいとして...今日くらいはいっか。


「今日くらいは大丈夫かな?」


「そうですね。まぁ、もうこの時間からじゃ作ることはもう不可能ですけどね」


そう言い合うと、互いに苦笑した。空腹を感じないとしても、調子が多少狂ってしまう。うぅ~明日の演習大丈夫かな...そんな心配が頭をよぎった。榎鏤さんが言うことによると、こんな狂った調子では簡単にこなすことはできないだろう。

まぁ、明日の朝食で調子が戻るだろうと、軽い期待を持ちつつ、それでもなおまだ微かに残っている心配が気持ちを揺さぶっていた。


「ふぅ、仕方がないですね...ちょっとした卑怯な手を使うしかないようです」


「卑怯な手?」


僕は魔法を使うことにした。しかも、あまり周りには知られてないであろう魔法だから、榎鏤さんが知らないのも無理はない。

僕が魔法を使い終えると、目の前に軽い料理が並んだ。


「す、すごい。え?これって魔法?」


「そうですね。召喚魔法の一種です」


「こんな魔法があったなんて知らなかったよ。」


「過去の文献とか読んでみると、こんな感じの魔法がいっぱいあって、面白いですよ」


「そ、そうなんだ...今度見てみるよ」


そんな他愛もない話をしながら、魔法で出現させた食べ物を食べた。魔法で出現させた分、作る時間が短縮できたので、普通に食べても十分な時間だった。



時間が少しできたので、少しだけおしゃべりをすることにした。

といっても、話題の中心は明日の演習についてだったので、そんなに気楽な感じではなかったのだけど、険悪な感じというわけでもなかった。むしろしゃべっていて楽しかった。

それで分かったことは、全力でやっている人は誰もいないということだ。逆に、学年のトップクラスの人たちが集まっているのに全力なんて出したら大変なことになってしまうだろうから、みんな自重しているというのが暗黙の了解らしい。

たまに喧嘩みたいになって、ものすごい戦いになる時があるらしいけどそういうのはたいてい先生が止めるらしい。先生の力量のすごさがわかるかもしれない。

そうこうしている間にお風呂が沸いたので、今日からは別々で入ることにした。榎鏤さんは誘ってくれていたけど、孤独に慣れるのとあとは、それによって心を成長させられることができるんじゃないかという微かな期待を持ちつつ、榎鏤さんを待った。




                   ・・・




「おっ先~」


数十分後、榎鏤さんが体中から湯気を出して出てきた。

僕は待っている間暇だったので、部屋の中の本を少し読み漁ってた。料理本、ファッション誌、漫画等々あったけど、一番気になったのがあったのでそれを読んでいた。


「ん?なに読んでるの?」


「ここにあった本で、『上手なおt』」


「そ、それ以上はダメー!!」


僕が訳も分からずに本の題名を言おうとしたら、ものすごい勢いで止められた。そんなにまずかったのかな?知られたくないことの一つなのだろう。それは誰にでもあることだから、もう何も言わないことにした。


「そ、それでは、お風呂いただきますね」


少し罪悪感を抱きつつ、足早にお風呂に行った。僕は体を洗って、すぐにお風呂に使った。少し考え事をしたかったというのがあった。

先ずは明日のこと。どこまで手を抜くべきか、というところが重要になってくる。手を抜きつつも、自分の実力をある程度しるさなくてはならない。そうでないと、みんなから反感を買いかねない。

次に、今の自分のことについてだ。今日感じたものは、朱咲があっちの世界で受けていたことがかなりトラウマとして深く根付いてしまってる。これを完全に取り除くことは不可能だろう。


「ふぅ...どうしよう......」


僕一人しかいないお風呂の中では、その言葉がひたすらに反響するだけで何の意味もなさないものと化してしまっている。それはいまではなく昔の朱咲の状況を表しているかのようだった。

この気持ちは何物にも形容出来ない、寂しくて辛いのに、吐き出すことのできない儚い気持ち。きっと、この感情は涙としてでしか表せないものだった。声にしようとすると、急に空気しか出てこなくなってしまう。


「どんだけ無力なんだろう...」


無意識のうちに口から出た言葉は反響するするだけで、僕を余計に虚しくさせるだけだった。

無心で天井を見ていると、少しずつのぼせそうな感覚が来た。このままではさすがに危ないと思い、飛ぶようにお風呂から出た。








今回は少し朱咲の心理的なものに触れました。過去、現在、そして未来...星琉の知らない朱咲の記憶にも、もしかしたら...


それでは、ありがとうございました。

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