第二章 四話 開始
投稿できるときにしていきたいので、投稿ペースは不定期になります
朝の少し冷たい風と、まだ顔を少しのぞかせているだけの太陽の日に当たり、僕は早朝トレーニングを開始した。早朝を選んだ理由は単純明快、実力をあまり公にさらしたくないからだ。公になればその分研究されて、自分の攻めや受けの選択肢を減らされて手詰まりになってしまう可能性があるからだ。
武術に関して言えば公になっても支障はないが、魔法に関して言えば話は別だ。そもそもとして、僕よりもこの世界の魔法に詳しい相手に、自分の実力を知られたうえで戦った時の勝率は八割程度まで落ち込むだろう。特に知られたくないのは緋座さんだ。こっちは相手の実力を完璧に測れてないうえに、知られてない状態での勝率でさえかなり低い。
それ以外にも多少の理由はあるものの、大まかな理由はそれだけだった。
「よし、それじゃあ始めようかな」
始業時間の一時間半前には終わって寮に戻らなくてはならないため、手早く終わらせなければ全部のメニューを終わらせることができない。
「今からだと、大体一時間くらいかな。ギリギリ終われるかな」
早朝トレーニングですることは、一つは深焉流の型の確認。そしてもう一つが魔力の繊細な操作の感覚をつかむトレーニングだ。一つ目はなまらないようにするため、二つ目は基礎能力を向上させるための、さらに基礎的なものとして重要だと思ったから取り入れることにした。
深焉流の特徴として、型が多いことがあげられる。基本の型だけで四十通りあり、さらに、それぞれの武術に型を十個ずつ持っていて、全部を流れる形でとっていたとしても一日じゃ終わらない。それで、ほとんどの人が一つの型のみを極める。だが、僕たちは少し特殊で、複数の型を同時に行っていくことで大幅な時間短縮に成功した。といっても、基本の型だけで三十分かかるので、早朝トレーニングではそれだけをしていくことにした。
「一...二...」
いつものようにリズムをとりつつ、淡々とこなしていく。後半になってくると、少しずつ疲れが出てきて息が乱れそうになるが、それを整えつつやっていく。振られた髪の毛から飛ぶ水滴が一種の芸術のように思えた。三十分の型の確認を終えると、間髪入れずに魔力の操作練習に入った。このトレーニングの最大の意図は、疲れた状況下でも魔力を正常に扱う技量を身に付けることだ。それの積み重ねでいずれ長期戦の中でも安定して魔力を扱えるようになることによって、最大の弱点をカバーできるはずだ。
「ふぅ...」
疲れを残しつつも一瞬だけ息を抜いて呼吸を安定させる。
「よしっ」
「何してるの?」
「ふにゃぁ!?」
今まさに集中して魔力を形にしようとしていた時、不意に後ろから誰かの声がした。身の回りの注意から集中力を切り離しすぎたことに未熟さを感じつつも、声の主の正体を確かめるために一瞬で十メートル距離をとった。そこには見たことのない女性が立っていた。
「えっと...どちら様で?」
「あ、びっくりさせちゃったかな?ごめんね、そんなつもりはなったんだよ。初めましてだね。まぁ、君はちょっとした有名人だから私からしたら普通に知り合いに声かけたつもりだったんだけど...本当にごめんね。あ、私は学園勤務型特別講師の鈴蘭 未奈美。卒業生に当たるかな。今日は朝の見回りの当番だったんだ」
「そうだったんですか。それは大変失礼致しました」
口ではそう言いつつも、警戒だけはし続けた。
「噂は聞いてるよ。すごいよ。あの堅物が認めたんだからさ。それにしてもこうして見ると本当にかわいいね。ペットにしちゃいたいぐらい。それにしても、かなり修業を重ねてるんだね。何の流派かはわからないけど、武術も魔術クラスとは思えない練度だったし、何と言っても、溢れ出る魔力がその実力の高さを物語っている」
そう言ったかと思うと、鈴蘭さんの風属性元素魔法の剣の切っ先が迫っていた。僕はとっさに雷属性元素魔法で剣を造って受け止めつつ後ろに飛ぶことで威力を逃がした。
「やっぱりやるじゃねぇかよ。あのタイミング、あの距離まで迫られた状態でそこまで的確な判断ができるとはな。ほとんどの奴らが今さっきのを受けられなかった」
「今の攻撃は属性元素魔法以外では受けられませんし、避け切れないんですよよね」
「正解。風属性の特徴だな。使い手はかなり少ないだろうけどね」
そして、それと同じように雷属性の使い手も少ないので、軽い形でしか属性を付与させていなかったはずだ。そうでもなきゃ雷属性以外で受けられない。
「...その顔、もう完全に見切ったな。さすがに早い」
「ありがたきお言葉」
「がんばれよ。私もあんたの実力は十分わかった。この学園で学ぶのがもったいないくらいだ」
鈴蘭さんはそう言い残すと、さっそうと去ってしまった。その姿は少し郷愁に包まれていた。
「あ!時間」
ふと時間が気になって確認してみると、もう早朝トレーニングを開始してから一時間が経っていた。
「そろそろ戻らないと榎鏤さんに怒られちゃうな~」
僕は少し離れている寮に向かって、少し早足になって戻った。
・・・
二人で無理のないものを作って朝食として食べた。昨夜の失敗を活かして特殊な技術を何も使わないものを作った。それを二人で楽しくしゃべりながら食べた。本当に他愛のない話から、少しまじめな話まで。そうこうしているうちにあっという間に寮を出る時間になっていた。
着替えはもう済ましてあったので、あとは荷物を持って、歯磨きと洗顔を済まして、寮を出て学校に着いたのが予鈴が鳴る少し前だった。二人で、もう少し時間見て行動しなきゃね。と話し合って、席に着いた。
予鈴が鳴り、先生が入ってきた。まだ出席は取らないだろうけど、いろいろと準備をしていた。その時、無意識に先生を観察してしまった。その時、微かな違和感に気付いた。それは気付ける人なら誰しも気づくだろうけど、この空間にそれに気づける人はおそらく僕だけだろう。
本鈴が鳴り、先生が出席を取り始めた。今日は遅刻者、欠席者ともにおらず、きちんと席に座っていた。
「よし、今日は全員いるな。それじゃあ連絡。明日体力測定がある。以上だ。それでは、今日も学業にも魔術にも励むように。解散」
先生のその一言で、教室内は一気に騒がしくなる。担任の先生が基本的に一人で全教科を教えるので、先生はほとんどの時間教室にいる。この喧騒の中で一人静かに時間を有効に使って仕事をこなしている。さすがだなぁと観察していると、一人の女子が話しかけてきた。
「ねぇ、御滝さんって種族で言うとどれに当たるのですか?」
「敬語じゃなくていいですよ。私は歌妖精族ですね。でも、私個人の意見ですけど、過去のことはもう書き換えられないですし、別に種族とかってあまり関係ないと思うんですよね。なので、皆さんこれからもよろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ。それにしても、そこまで深い考えを...同級生として尊敬しざるを得ない...」
そうこうしていると、たくさんの人が僕の席の周りにきて、いろいろ質問してきた。
年齢、どこから来たのか、どのようにしてお姉ちゃんたちと出会ったのか、特技、趣味等々...個人情報まで聞かれた。流石に魔法関連の質問は答えなかった。
すると、チャイムが授業の開始を伝えた。
「よし、それじゃぁはじめっぞ。まずは前回の続きから———」
僕の今日は、授業と質問攻めの交互攻撃だった。けど、質問攻めはもうだいぶと収まり、友達も数人できた。
今の問題は授業についていけるかどうかだ。正直、ほとんどのことは前の世界と変わらないけど、化学や、地理等はさすがに前の世界とは共通点のかけらもないので、それを覚えるのが大変だった。基礎的なものはお姉ちゃんから教わっているから大丈夫だったけど、応用が複雑に絡まってくると理解しづらくなってくる。まぁ、視点さえ変えれば解ける問題がほとんどなんだけど...ただひとつ思ったことは、戦闘に支点を置いている割には勉強がハードだったってことだった。
この難易度のままテストが作られているのだったら、勉強にも時間を割かないと赤点なんて普通にとってしまう。逆に言えば、それだけの学力を持っていないと魔王を倒せないということなのだろう。
「朱咲ちゃん今日は大変だったね。授業はついていけそう?」
少し考えに耽っていると、榎鏤さんが話しかけてきた。もしかしたら神妙な顔をしてしまっていたのかもしれない。
「うーんと...まぁ。ある程度は。思ってたよりも進行が早くてびっくりしました」
「そうだと思った。大丈夫。みんなぎりぎりだから。こんな感じのがほとんど毎日。唯一魔術訓練だけは楽しいよ」
「確か明日ありましたよね。どんなことをするんですか?」
「対人練習戦。軽くだけどね」
「そうなんですね。わかりました。ちょっと楽しみかも」
「実際はそんなに楽しいことじゃないけどね」
榎鏤さんが苦笑いしつつ言った。その言葉に少し不安になったけど、少しの希望だけを頼りに頑張って行こうと決意した。
ありがとうございました。戦闘も絡んでき始めてきたので、描写がおかしい等はどんどん指摘してください。
これからもよろしくお願いします




