第一章 10話 『初めまして』
遅れてすみません。いろいろと忙しくて、合間合間に書いたので、支離滅裂になってたらすみません。
僕達はあえて触れないようにしていたが、門をくぐる前から既にお祭り騒ぎだった。いたるところにかかっている垂れ幕には
『祝!!魔族アジト攻略』
と書かれている。あまり大したことをしたつもりは無いのだが、少しこそばゆく感じた。
王城に向かう為に大通りを歩いていると、「英雄の登場だ!」とか「我らが希望!」等々の声が聞こえた。
ただ、これまで見たことの無い量の人?妖精?に少ししどろもどろになっていると、前から見馴れた顔が…
「やぁ。本当にこんなすぐ首都に来るとはな。君達は凄いよ」
そこにはお姉ちゃんがいた。正直、別れてからあまり時間が経って無いので、感動の再会とはいかなかったが、ハイタッチくらいは許してほしい。
「正直、こんなに早く来れるとは思ってなかったんですけどね」
そう言って少し苦笑しながら手を掲げた。お姉ちゃんも意図を察してくれたようで、手を掲げてハイタッチを交わした。いや、お姉ちゃんからしたら身長的にロータッチ?けど、僕も飛んだからハイタッチになるはず。うん。きっとそうだ。
「それでは王城に案内する。ついてきて」
「わかりました」
そして、僕達はお姉ちゃんの後に付いて王城に向かうのだった。ちなみに朱咲は、ずっと僕の後ろで落ち着きなくうろうろしていただけだった。
・・・
「陛下、二人を連れて参りました」
王城に入り、一番奥の部屋に通されて早々お姉ちゃんが片膝を地面に付ける形で敬礼した。それを見習って僕達もやろうとすると、奥の玉座のようなところから女の人の声がした。正直、奥が遠すぎて気づかなかった。
「主らはよい。むしろ、こっちが礼をしたいくらいじゃ。よくあの魔族のアジトを攻略してくれた。心から感謝する」
「本当に凄いよ!!二人とも!あそこはアジトの主が強過ぎて誰も挑戦しようとしなかった所だからね」
そう言いながら、玉座に座っていた二人の女の人が僕達に近づいてきた。一人は、背中の中ほどまである長い髪をまとめずにたらしていて、まさに女王という雰囲気を漂わせている。もう一人は、ショートカットに猫耳を生やしている。こちらは女王というよりは、元気旺盛な中学生という感じだ。
「御瀧星琉殿、朱咲殿。この度は魔族のアジトを攻略してくれたこと、誠に感謝している。もう、何と礼をすればいいか…」
「本当にね~。あのアジトはしぶとくて、もうかれこれ3年以上攻め続けてるのに、相手の手駒は減るどころか限度なく増え続けてたから、ほぼ諦めてた感じだったしね~」
「え?あのアジトってそんなに難攻不落だったんですか?」
「おー、スーちん『難攻不落』って難しい言葉知ってるなんて!賢いね~。よしよし~」
「す、スーちん?って、急にはやめてください!恥ずかしいですよ~」
急に頭の撫でられてびっくりした。ただ、これ絶対に子供扱いされてるよ。でも、撫でられるのって気持ちよくて悪くな……いやちょっと待て、いや待たなくていい。って何言ってるんだ僕は!?
「止めなさいリル。朱咲殿が驚いているだろう」
「むぅ~。ノッちゃんだって、スーちん撫で撫でしたいくせに~」
「そ、そんな事あるわけなかろう!」
「あ、動揺してる~。可愛い~」
「からかうでない。朱咲殿も星琉殿も理解しかねているではないか!」
そう言いつつ、僕達の方に視線を向けてきた。きっと同意を求められてる?
「え、えーっと…あはは……」
「えーっと……」
ダメだ。急に振られて苦笑いしかできなかった。なんか、賑やかだなしか思えない。
「そう言えば自己紹介がまだだったな。わらわはノスファー・ヴィセントだ。呼び方は構わぬ」
「私はリル・ニッテラーナ=スズヒナンス。気づいてると思うけど猫妖精族だよ。ちなみにノッちゃんは歌妖精族だよ。今後ともよろしく!!」
「あ、はい。よろしくお願いします。御瀧朱咲です」
「御瀧星琉です。よろしくお願いします」
お互いに名乗ってお辞儀しあった。
「は〜い、よろしく~」
「いきなりだが、今日の夜、褒賞の授与がある。それまでは自由だが、地の刻巳の時にはこの玉座の間に来てくれ」
「わかりました」
どちらかと言うと、ノスファーさんの方が王様っぽ……いや、リルさんも…いや、やっぱりノスファーさんの方が王様っぽい。
そうやって考えていたのを、部屋のことを悩んでいたのかと勘違いしたようで、ノスファーさんが優しい声で言った。
「案ずるな。ちゃんと部屋は用意してある。リネスタ、案内を」
「はっ!!」
ずっとあの体制でいたお姉ちゃんが立ち上がり、僕達に「それじゃ、行こっか」と言って先頭に立って案内に向かった。
・・・
案内された部屋は、僕達がここに来る前の世界で住んでいた家ほどあった。その大きさに思わず圧倒されていると、お姉ちゃんが部屋の説明をざっくりした。
「この部屋は自由に使っていいそうだ。設備としては、ここに風呂、ここに台所、それでここが寝室だ」
地図を見せて指差しで教えてくれた。でも、地図があることに驚いていて、あまり頭に入ってこなかった。まぁ、地図があるなら説明する必要ない気が…
「わかったか?」
「あ、はい。なんとなくは…」
いろいろと頭の中で整理できてなくて、考えが逃げの方向に走りかけてた時に、お姉ちゃんが少し心配そうな感じで聞いてきた。
「それならいいかな。お金はまだあるだろう。それに、送られてきたこの半端ない量の非常食は一体なんだったんだ?いや待てよ。あれは…もしかして、コナルっとこの?」
「あ、はい。そこで買いました。あの子って何か特殊な魔法を使えるのですか?」
「あいつは召喚魔法のエキスパートだ。人呼んで『永久創造主』。朱咲程ではないが、かなり常識外れだな。あいつ自身、人助けのためにしか使わないから大丈夫だと思うが、一歩間違えたら世界が滅びかねん」
コナルさんがただ者ではないとは思っていたが、それほどまでとは思っていなかった。
「おっと、少し話し込んでしまった。私はちょっとした雑務があるから、そろそろ失礼するよ」
「はい。わかりました。これからよろしくね。お姉ちゃん」
僕がそう言うと、お姉ちゃんは一度笑って部屋から出ていった。
「今からどうする?折角首都に来たんだし、城下町に行くのも良いと思うけど…」
「絶対に人混みに呑まれて動けなくなるね」
朱咲の言う通りだ。僕達は、魔族のアジトを攻略した英雄?と思われているはずだから、騒ぎになるはず……と言うか、実際門くぐっただけで騒ぎになりかけて、警備隊に止められてたから、遊びどころじゃなくなるのは必然だろう。かと言って、護衛を付ければそれはそれで悪目立ちするし…どうしよう。
「それなら、この城の中を探検しようよ!」
朱咲が少しテンション高めで提案してきた。こんな目をキラキラさせてる姿、なかなか見ないぞ。でも、正直それしかやることが見つからないのも事実。
「OK、それで行こう」
今の時間が地の刻子の時半時だから指定された時間まで4時間半くらいか。それだけあれば全部見れるだろう。でも油断できないくらい広いので、見るのは辰の時までにしよう。後は、なるべく玉座の間から遠い場所に行かないようにすれば、授与式には充分間に合うだろう。
そして、軽く準備をして探検に出掛けた。ずっと部屋で時間まで待つと言う手もあったが、それだと、授与式までずっと緊張しっぱなしになってしまうので、息抜き的な意味も込めて探検をする事にした。
・・・
城内の探検を終え、予定していた時間より少し遅れて部屋に戻った。感想としては、ただただ広いの一言に尽きた。でも、部屋の配置や装飾が考えられていて、見ていてとても楽しかった。少なくとも20部屋は回ったが、それでも全体の10分の1にも満たないだろう。
「お兄ちゃん、そろそろ…」
少し余韻に浸っていると、朱咲が時計を指差して僕に呼び掛けた。始まるまであと30分を切っていた。
「そうだね。それじゃ行こっか」
「うん」
この部屋から玉座の間までは10分程度で行けるが、万が一のことを考えて早めに行くことにした。
「ねぇ、これって夢じゃないよね?」
移動している時、朱咲が妙にしんみりとした雰囲気で話しかけてきた。もうこの世界に来てから何年も経った気がするが、実際は2週間も経っていない。夢だと思っても無理は無いだろう。
「夢じゃないよ。ま、そう思う理由もわからなくはないけど、この世界で過ごした時間は絶対、偽物じゃないよ」
「そっか。なら、この世界での時間を大切にして、世界を魔王から救う為に精一杯の努力をしないとね」
「そうだね。でも、それだけじゃ足りないよ」
「え?それってどうゆう…あ、確かに足りないね」
「「この世界での生活を楽しむ!」」
あともう1つ………は、心の内で唱えた。まだ確信がもててないことだからだ。
僕達はそう言い合ってお互い見合った。そうして、同時に笑い合った。
そうこうしている間に、玉座の間の大扉の前に来ていた。
「行こっか」
「うん。もうここまで来たらもう引き返せないよ」
そして朱咲が大扉に手をかけ、勢いよく扉を開けた。
・・・
「ちゃんと来たな」
玉座の間に入ると、ノスファーさんが出迎えてくれた。まだ他に人は来ていなかったようだった。授与式というのだから、もっと騒がしいものだと思って身構えていたけど、こういう静かなものなんだなと思った。
そして、一歩目の時間になった。すると、ノスファーさんが立ち上がった。それにつられるようにリルさんも身軽く立ち上がり、僕達に向かって軽くウインクしながら引導してくれた。
「二人ともリラックスして付いてきてね~」
どこに行くのかわからないまま、ノスファーさん達についていくことにした。そして、王城の入り口に来た。
少し、嫌な予感がした。けれど、時既に遅し。促されるままに外にd……
ドッワァァァァァァァァ!!!!!!!
首都にいる人達の、ほとんど叫びのような大歓声が僕達を出迎えた。僕はその声に圧倒されそうになって、無意識に朱咲にしがみついていた。頭が真っ白になってしまって、今自分が何をしているのか、何をすればいいのかわからなかった。
「どうしたの?」
朱咲の声にハッとして、僕が今していることを確認した。その時やっと、朱咲にしがみついていることに気付いた。
「っ!?」
急に恥ずかしくなり、飛び退くように朱咲から離れた。恥ずかしさから真っ赤に染まった顔と、少し目に滲んだ涙を見られたくなかったから俯くことにした。歓声が少し大きくなった気がしたが、多分気のせいだろう。うん、絶対気のせい。そう思わなきゃ逃げちゃいそう。
「皆様、静粛に」
ノスファーさんの一言で、さっきまで騒いでいたのが嘘のように静かになった。これはこれで不気味と言うかなんというか……一体ノスファーさんはどうやってこんなにもの人々を従えているのだろう。
いや、違う。ノスファーさんは、信頼されてるんだ。証拠に、人々の目に浮かんでいるのは、恐怖ではなく光だった。
「これより、英雄憲賞授与式を開式する。それでは、受賞者の御瀧朱咲殿、御瀧星琉殿、前へ」
「え、あ…はい」
「は、はい」
まだ状況を飲み込めず、曖昧な返事をしながら、促された方―――リルさんの前に行った。
「憲賞、英雄憲賞。御瀧朱咲殿。貴殿はこの度魔族アジトNo.33『難攻不落』攻略により、対魔王への暗中模索の日々に終止符を打つかの如く魔族アジト攻略を進捗させた偉業と、その実力に心より御礼申すと共に、世界の希望である証、永劫英雄章をここに授与する」
「ありがとうございます」
これまでのリルさんとは打って変わって、女王としての執務を、種族の代表であることを自覚して行っている、それがひしひしと感じられた。その事に心から敬意を表して、しっかりと憲賞を受け取った。
「憲賞、英雄憲賞。御瀧星琉殿。以下同文だけど、これは個人的なアドバイス。まず朱咲ちゃんから。あまり貪欲になっちゃ駄目。無理しちゃいけないよ。困ったことがあったら周りに頼れば良いんだよ。一人で抱え込み過ぎないでね」
「はい。そのお言葉、しかと心に刻み込んで精進して行きます」
「うん。次に星琉君。君は、一番朱咲ちゃんの近くに一番長くいるから、これからも朱咲ちゃんを支えてあげてね。君も、その役目を背負い過ぎないでね」
「はい。陛下のお言葉、しかと受け取りました」
そして、リルさんから賞状とバッチのようなものをもらった。バッチはきっと永劫英雄賞だろう。それを受け取って、僕はとても誇らしかった。同時に感じた申し訳なさは、今は気にしなくてもいいよね。
「受賞者は回れ右を」
言われた通りに回れ右をして、沢山の観衆の方を向いた。そうだ。もう恐れなくていい。堂々とすれば良いんだ。
「それでは受賞者の御瀧朱咲、御瀧星琉に大きな拍手を」
ノスファーさんがそう言うと、会場は大きな拍手の音に包まれた。
「それでは受賞者は退場してください」
世界中に響いてもおかしくない程の拍手の中を、王城の中に戻った。
・・・
「お疲れさーん、二人とも!」
授与式が終わって玉座の間に戻って来た。今でもまだ胸のドキドキが残っている。たったあれだけの式だったのに、ここまで緊張しているのは、きっとこれまで沢山の人の前で何かをする事に慣れていないせいだろう。いや、正確には忘れてしまっていたのだろう。
「さてと、授与式終わったからこれからのこと考えないとね」
「これから…私達は何をすれば良いのですか?」
「うーん、そだねー。ノッちゃんはどう思う?」
「そうだな。そのあたりは、二人と出会ってから長いリネスタとアーカイブに委ねるとしよう」
「それもそっか。それじゃ、呼ぼっか」
リルさんが奥に置いてある通信機?のようなものを使った。何をしているのかはわからないが、、リルさんが呼んだよー。って言いながら戻って来たことから、何かの連絡を送ったのだろう。その約5分後に、お姉ちゃんとアーカイブさんが来た。
「お呼びでしょうか?陛下」
「よく参った。主らには二人のこれからについて、二人と相談して決めて欲しいのだ。なるべく早く決めた方が良いだろう」
「承知致しました。それじゃ、朱咲、星琉。行こっか」
「はい」
そのままの流れで、歩き始めたお姉ちゃんについて行った。お姉ちゃんは真っ直ぐ僕達の部屋に向かった。
部屋の前に着き、お姉ちゃんが部屋を開けて中に入った。
そして、お姉ちゃんからしたら何ともない……でも、僕達からしたら天変地異にも等しい衝撃の言葉を言った。
「二人には、来週から学校に入学してもらおうと思う」
『学校』
お姉ちゃんは、ただただ普通のことを言っただけだが、僕達にとってはとても重い言葉だった。その言葉を聞くだけで、目が眩みそうになり、体中の力が抜け、鼓動が速まり、呼吸が遠くなる。
その言葉による問題は、体だけでなく精神世界でも起こっていた。これまで床だったところが真っ暗な底無し沼のようになり、ただひたすらに沈んでいくのだ。そして、精神がそれに完全に飲み込まれた瞬間、体が倒れ、気を失った。その時、僕はただ、あの記憶に触れられてしまうことを恐れていたのだった………
・・・
『久しぶり、いや、初めましてかな。お兄ちゃん』
気がつくと、目の前に朱咲が立っていた。でも、この朱咲は『初めまして』と言った。普通なら、不思議に思うであろうその言葉も、その答えがすんなりと見つかった。
「もしかして、君は心の中の…」
『そう。正確には、女神様が入れ換えようとしてできなかった精神の一部。私は、いわば心の傷なんだよ』
「もしかして、朱咲の方も…?」
『そうだよ。私とあっちの朱咲は交信のようなことができる。もちろん、お兄ちゃんもね。……あなたは私の傷、知ってるよね……?』
「うん。朱咲から聞いた」
朱咲から聞いた小、中学生時代のいじめ、虐待のことだろう。きっと、あっちも……
・・・
『初めまして、朱咲』
「………もしかして、心の中のお兄ちゃん?」
まだ状況を掴めていないが、とりあえず聞いてみた。『初めまして』という言葉に少し戸惑ったけど、存在は前々からなんとなく感じていた。でも、私ならまだしもお兄ちゃんが学校に恐れる理由なんて見当もつかない。
『そう。何で?って思ってるよね。仕方ないよ。朱咲の知らないことだし』
「一体、私の知らない間にお兄ちゃんに何があったの?!」
私が、少し興奮気味な怒り口調で聞くと、お兄ちゃんは『まぁ落ち着け』と言い、腰を下ろした。そのまま隣に来て座るように呼び掛けた。私はそれに従って隣に座ると、お兄ちゃんは哀しそうに、苦しそうに話し出した。
『あれは、朱咲が引きこもってから一週間が経った日………』
次回は過去に戻ります。察しの良い方々には判ったと思いますが、次回はあれです。これ以上は言いません。
すみません。魔族の階級はまだまだ先になりそうです。
それではありがとうございました。




