第一章 九話 魔族アジト攻略戦開始
すみませんめっちゃ遅れました。
僕は、今日ほど、魔族に絶望したことはなかった。お姉ちゃんに、魔族は階級持ち以外のほとんどが土塊から作り出されているから知能は低い。と聞いていたが、正直ここまでとは思っていなかった………
・・・
僕達は、まだ太陽も昇らない内に城を出た。今の時刻は午前4時。時間も時間なので、村に誰一人としていなかった。いや、僕達にとってはむしろその方がよかった。理由は、何も気にせずに朱咲と話せるからだ。
隣では、朱咲が眠たそうにしている。緊張感がないなと思い、苦笑いしつつも、自分も全く緊張していないと思い、どっちもどっちかなと思ってむしろ開き直ることにした。
「ねぇ朱咲」
「ん、何?お兄ちゃん」
僕は朱咲に話しかけた。周りには誰もいないので、いつもの呼び方だ。
「僕があの時言ったこと…あれは僕の意思で言ったことじゃないんだ。なんか、この体が…朱咲の心の意識が言った、というか叫んでいた感じだった」
朱咲は、最初いつの事かわからないという顔をしたが、お姉ちゃんの授業で宇宙魔法の話になった時だとわかったのか、すぐに納得したような顔をした。
「やっぱり、そうだったんだ」
「でも、その気持ちは僕も一緒だった。だって僕達は、あの時にもう死ぬ覚悟をしたんだから。だから僕は、この命に変えても魔王を倒す。だから、朱咲も僕と一緒に命を懸ける覚悟をしてくれる?」
僕がそう言うと、朱咲は声を上げて笑った。
「何それ、今更だよ。それに、私の命はもうお兄ちゃんに預けちゃってるんだよ。懸ける懸けないはお兄ちゃんが決めてね」
「ありがとう、朱咲。そうだね。僕達は、死ぬまで一緒に…いや、死んでも一緒にいようって前に決めたね」
「うん。だから、これからも一緒に戦おう」
朱咲がそう言った時、村の門のところまで来ていた。
・・・
10分程歩くと森にぶつかった。地図によれば、ここを抜ければ直ぐにアジトらしい。森の中には、見るだけでも魔族がたくさんいるのがわかる。僕は朱咲の後ろに、怯えたウサギのように隠れた。
「どうしたの?」
「魔族の数が多すぎる。とりあえず今は相手を観察したいから、その間だけ壁になって」
「わかった」
朱咲はそう言うと、森の中に突入した。すると、僕達が突入したところの近くにいた魔族が、一斉にこちらに気づいて攻撃してきた。
「1、2、3……24体いる。くれぐれも気を付けてお兄ちゃん」
「了解、朱咲」
魔族を朱咲に一通り攻めさせて、攻撃の種類を見極めようとしたのだが…僕は、今日ほど魔族に絶望したことはなかった。
お姉ちゃんに、魔族は階級持ち以外のほとんどが土塊から作り出されているから知能は低いと聞いていたが、正直ここまでとは思っていなかった。
全員が各々が持つ一属性の元素魔法の、しかも解放魔法をただひたすら使うだけだった。戦闘が始まって僅か数秒で周囲の魔力が枯渇して相手は魔法を使えなくなった。
そこには統率なんてものは無く、感覚的には子供たちがふざけて魔法を使っているようなものだった。知能が低いを通り越して、もうないんじゃないかとさえ思うほどに。
魔力が枯渇している今の状況では、普通は互いに相手にダメージを与えられない。魔族は魔法しか攻撃手段を持たず、魔法でしかダメージを受けないのだから。
「えーっと…」
どうしようか迷っていると、朱咲が耳元で囁くように聞いてきた。
「魔力はどこまで枯渇してる?」
「アジトの周りの結界みたいなので守られてる範囲以外の、この森全ての魔力が枯渇してる」
「了解。それじゃ、ここら辺一帯の魔族、一発でやっちゃってくださいな」
「言われなくてもそのつもり」
今日はアジトでも多くの魔族との戦いがあると思うから、魔力の消費を抑える為に歌妖精族の能力を使って魔法を使うことにした。
「少女は光を浴びて手を伸ばし風を全身で浴びて♪」
僕の歌に気付いて、魔族達が一斉に僕を見たが攻撃する気配はない。恐らく、魔法が使えないからどう攻撃しようか迷っているのだろう。魔法が使えなくとも突進くらいならできるだろうに。
「今未来をそっと見つめてる♪」
もう魔法の準備は整った。あとは魔法の名前を言うだけ。朱咲の顔を確認すると、そこからはもう腹を括っていることが十分にわかる程の覇気があった。それに、僕も腹を括ってきてる。
「土氷柱!」
僕は土と氷の混合魔法を使った。すると、地面から土が氷柱状に盛り上がり、相手を貫いて氷付けにした。その魔法に、森の中にいた魔族は成す術もなく全滅し、魔力となって霧散した。
その光景に朱咲は声を漏らした。
「呆気ないな~」
「だね。アジトではもっと手応えのある敵が出て来てくれることを願うしかないかな」
正直なところ敵に苦戦するよりは楽に倒せた方がいいのだが、もう少し粘ってくれないと面白みがない。いや、今の言い方だと勘違いされるかもしれない。命を懸けて戦っているのだから、同等以上の敵と戦いたい。戦って、ギリギリの勝負をしてみたい。今はそんな感覚だった。
そんな感覚に耽りながら、とても静かになった森の中を二人で歩いていた。
・・・
魔族のアジトの前に来た。アジトと言われているだけあって大きさは相当だった。きっと中は何層にもなっているだろう。入り口もあり、しっかりしたつくりになっている。
「それじゃ、行こっか」
「うん」
そして、朱咲が石の扉を開けた。中には、森の中と同じかそれ以上の人数………いや体数かな、の魔族がいた。でも、知能は森の中の魔族と同様にかなり低かった。その為、一層目にいた全ての魔族を一つの魔法で一掃することが出来た。
そのまま順調にアジトを攻略し、ついにアジトの主がいる階にたどり着いた。
・・・
「炎球」
「ギシャァァ」
不気味な断末魔を残して敵は魔力となって霧散した。
「これで最後か?」
「そうみたいだね」
最後の部屋を守っていた敵を全て倒したことを確認し、世界を取り戻す戦いの第一歩にする為の糧にするため、自分達の住んでいる街から最も近いところにある敵のアジトに乗り込んでいた。
「よし、そろそろ主とご対面するか」
「そうしよう、お兄ちゃん」
そして、扉に手を掛けて思いっきり引っ張った。あまりに強く引っ張ったものだから、扉ごと取れてしまった。いや、内開きだったのに逆方向に引っ張ったために根元から壊れてしまったのだろう。やった本人は意に介していないようだが…
急に大きな音がしたせいで、中にいた敵は驚きのあまりポカーンとしている。
「よぉ。お前がこの邪魔くせぇアジトの主か?」
「如何にも。我こそがこの魔王軍第106番基地軍の長、Ⅱ次級Ⅴ階中殷リメストロス・アルネハーマン・ケワエだ。それで、卯ぬらは此処に何の用件で来た?」
「お前を倒す為だ」
「ならばやってみるがよい。殺れるものならな」
「朱咲あとはお前の仕事だ」
「了解」
そして戦いが始まらなかった。
「さぁ、どこからd…」
「大宇宙爆発」
「グギャァァ!」
アジトの主は周りにいた衛兵もろとも魔力となって霧散した。さらにその魔法はアジトの最上階部分も消し飛ばした。
「うわ~。綺麗」
濃密な魔力が漂う中、アジトの最上階部分が消し飛ばされたことによって見晴らしがよくなったため、東の空に赤く燃える朝日が見えた。それは僕達の勝利を祝っているようで、でも先へ進むことを拒んでいるようで…でも、ただただ綺麗に見えたのだった。
・・・
アジトを攻略してから数日後、首都から僕達宛ての手紙が届いた。朱咲も僕も、昔の記憶がフラッシュバックしてきてその手紙を拒むように体が動いたが、少しでも過去を乗り越える為に手紙を取った。中にはこう記されていた。
『類い稀なる才能を持ちし者達よ。この文書を持って首都まで来ていただけないだろうか?迎えは出す。この文書が届いた一時後に馬車が裏門に行く』
文は簡素だったが、何か大きな力を感じた。一瞬罠ではないかと疑ったが、それはないという考えに辿り着いた。なぜなら、魔族のアジト一つを一瞬で攻略した者達相手に、数日間で用意できるような罠がかかるとは考えないだろうし、他種族にとっても魔族のアジトを攻略することができる人を、簡単に手放したくはないだろう。
「どうしよう?」
「とりあえず行ってみよう。大抵の確率で罠じゃないだろうし」
僕がそう言うと、朱咲は頷いた。そして簡単に首都に行く準備を済ませ、来るであろう馬車を待った。
本当に、手紙が届いてから一時後に指定された場所に来た。その馬車に乗り、首都への道を進んだ。
馬車が走る道は比較的安全な道で、魔族が一体もいなかった。それに、馬車があまり揺れなかった。どうなっているのか気になったが、今は危ないので、降りてから見ようと思った。
馬車に乗ってから一回の昼休憩を入れて、日が沈む時間まで馬車を走らせると、リーナ村というところについた。
「今日はこの村の宿屋に泊まります。また明日も今日と同じ天の刻申の時にお迎えに上がります。首都へはあと3日程となります。それまではよろしくお願いします」
そう言うと、運転手は馬車をしまいに行った。僕達は案内された宿屋に向かった。その宿屋の印象は、明るく優しい雰囲気の下町の宿屋という感じだった。
その夜、僕達は次のアジトはどこをどうやって攻略するかを話しあった。と言っても、どのアジトも遠かったのである程度の場所だけ決めて終わったのだが…
・・・
その後も特に何かが起こる訳でもなく、無事に首都に着いた。
「ありがとうございました」
「気を付けて楽しんでくださいね」
笑顔でそう言うと、馬車を連れて帰っていった。その背中を見届けながら、やけに騒がしい首都の声を不思議に思っていた。
「それじゃ、行こっか」
「うん」
そして僕達は意を決して首都に向かった。馬車から降りたところは、首都から500mくらい離れた場所なので、首都まで歩いて行かなければならない。と言っても、あれこれ話していたらすぐに着いたのだが。
首都に着くと、門の衛兵に止められた。
「貴様らは何用で来た」
「この手紙をみればわかるかと…」
そう言って手紙を差し出した。すると、衛兵の顔が青ざめた。
「す、すみませんでした。それではこの道を真っ直ぐ進んで王城に向かってください」
「あ、はい。わかりました」
やけに慌てていた衛兵を不思議に思いながらも、僕達は首都の門をくぐって王城に向かうのだった。
魔族は階級分けで強さが分けられます。階級については後々…
それではありがとうございました。




