第1章 7話 この世界の住民
六話が長すぎたので半分に
「あ、いらっしゃ~い」
「あの、もしかしてコナルさん…ですか?」
「そだよ~。私コナル。これでも年齢13歳」
僕は…いや、僕達はコナルのことを大人だと思っていたが、まだ中学生くらいの子だったから驚いた。しかも、体がかなり小さいので余計に。口には出さないけどね!流石にブーメランだから。
「あなた達って親子?だとしたら女の子は私より年下かな~?」
コナルさんはものすごくおっとりとしたしゃべり方で、ひょこひょこと近づいてくる。見ていてかなり癒される〜……ってそうじゃないそうじゃない。
「あの~コナルさん、私達は親子じゃなくてですね」
「ふぇ?じゃあどんな関係?」
「兄妹です。双子の…」
「えぇ~~、全くそうは見えないな~。それで、二人とも何歳なの?」
「えっと……16…です」
「まさかのお姉ちゃんか~。それで、私に何の用~」
「あの、非常食を沢山頂きたいのですが…」
「ん~。非常食沢山か~。わかった~」
そういうとコナルさんは、お店の奥にとてとてと小走りで消えて行った。その光景はやっぱり見ていて癒され……っといけない。またコナルさんの可愛さに精神が持っていかれてしまうところだった。
10分後、私より15㎝くらい身長が高いコナルさんの、さらに倍近くある大きな袋を、うんしょ、こいしょと言いながらコナルさんが持って来た。
「こ、コナルさん。それ大丈夫ですか!?」
「ん~。大丈夫~、いつものことだしね~」
コナルさんは大きな袋を僕達の前にどすんと置いた。
「どう~?これくらいあれば足りる?」
「えっと、その……は、はい。充分過ぎるくらいです。ありがとうございます。それで、代金は…?」
「ん~、この量だと25万ソルカ金貨一枚くらいかな~」
「わかりました。はい」
「まいど~。またのご来店を~」
少し癒され気分でコナルさんの店を出た。
・・・
次の日の朝、この日はアーカイヴさんがいたので実技訓練となった。
「それじゃあ前の続きだな。えーっ、と。どこまで教えたっけ?」
「召喚魔法までです」
アーカイブさんの変わらないこの感じに、少し苦笑しつつ答えた。
「そうだったな。次は『運命操作』だ。これは対象一体の、まぁ例えば未来と過去を書き換えたり創ったり、まぁ要するに自由に運命を操れるってことだ。ただ、この魔法は魔力に干渉しなきゃ使えねぇから妖精族や魔王には使えねぇし、この魔法で相手を殺すこともできねぇ。まぁ、殺すことに関しては次の『死』って魔法の方が長けてる。死はそのまんまだ。相手一体の魔力に干渉して、絶対に解けない死の呪いみたいなもんを掛ける。ただし、二つの魔法も体の一部が直接的に接触している必要がある」
『運命操作』に『死』。その2つの魔法は、僕の心のどこかにある見覚えのないかすり傷を舐めていったような感じだった。
「『運命操作』に『死』、私達にとってはなんだかとっても皮肉な魔法ですね」
無意識の内に、とんでもないことを呟いてしまっていたことは、アーカイブさんの反応をみてやっと気づいた。
「?……それはどういう…」
「すみません。なんでもありませんから忘れてください」
「は、はぁ…それならいいが……」
アーカイブさんがこういう感じの人で助かった。と、少し安堵して肩から力が抜けた。
「とりあえず次だな。次は『滅亡』か。この魔法は自分を中心とした半径50㎝の球内にある、自分以外のありとあらゆるものを消滅させる魔法だ。お前なら使えるかも知れねぇから言っておくが、この魔法で消滅した場所にあった物質は元に戻そうとすれば戻るが、生命は元に戻らない。これだけは留意しておけ」
「えっと、つまりは、物質だけならいくらでも元通りに戻せるけど、植物やそこにいた人は、2度と戻らないってことですか?」
「少し違うが、そうだと思ってくれて構わない」
その、少しが気になったが、あまり問い詰めないことにした。
「次が『科学』だな。正直、科学は魔法の中で戦いに用いられない、唯一の魔法だと思う。ほとんど裏で使われてるからな。科学魔法は主として、薬の開発や特殊武器の開発、毒の開発等の開発系しかない。よって戦いではあまり重宝されないが、裏に付かれると相当厄介だな」
「もしかして、昔人間族が妖精族達に挑んだ時、一回目は全く持ちこたえられなかったのに、二回目は何年も持ちこたえられたのって…」
「あぁ。間違いなく裏に科学魔法使いがいたな。でも、魔法である以上魔力が枯渇しちゃぁ使えねぇから、降伏した時にはもう魔力が枯渇していたのだろうさ。実際はどうだったのかは知らないがな。次の魔法で最後だな。最後は『不老不死』っつう魔法だ。この魔法は術者が触れたものを不老不死にするって魔法だ。代償は特にない。この魔法は術者が自分にも掛けられる。でも、この魔法は寿命による死を打ち消すだけで、戦いや魔法でなら死んでしまうから、不死っつう面では不完全だな」
「一つ一つちゃんとわかりやすく説明していただき、ありがとうございます」
これでもう終わりかな?と思ったが、そうではないらしく、アーカイヴさんが次は…と言った。
「次は何ですか?」
「そうだな。次は元素魔法の応用の種類だ。っとその前に、生物の元素保持の限界についてだな。通常はできねぇが、ある程度の実力になると元素を空気中に保持できる。その数は最大でも片方の手のひらに一属性五個ずつ。両手でできる達人クラスのやつなんかでも、計二属性十個が限界だ。朱咲はどうだ?」
聞かれて正直どうなのか判らなかった。
「すみません。ちょっと試してみます」
魔力を元素にできるだけ換え、それを空気中に具現化させるイメージでできた元素を移動させた。そして移動しきったと感じてから自分の手のひらを見ても何もなかった。
「あれ?」
今も元素を保持している感覚はあるのに、手のひらには何もない。
「う~む。魔力解放状態に自然に移行していることにも驚いているが、手のひらに元素が出てこないのも不思議だな。朱咲くらいの実力なら、もう元素保持ができてもおかしくないんだけどな」
「いえ。ちょっと待ってください。もしかしたら…」
そう言って自分の髪の毛を見る。そこには、髪の毛一本一本の先端に元素があった。色は一色ずつで固まっていて、綺麗に十二色に輝いていた。恐らく同属性の元素が集まっているのだろう。
「まさか髪の毛全てとは。色を見る限りじゃ十二大元素も全て揃っている。ってことは、一種類につきいくつずつだ?」
「確か私の髪の毛の総数は、前になんか変な道場の入門試験で数えた結果96000本でしたから、一種類につき8000個と言ったところでしょうか」
『深焉流』の道場に入るとき、なぜか髪の毛の総数が100000本未満じゃなければいけないという入門条件があった為、その時に数えられた。と、言っても小学校二年生の時だったが…まぁ増えてはいないだろうし、減っていることはまずないのでそう答えることにした。ちなみに、これは朱咲の計られた本数の結果である。
などと下らない思い出に浸っていると、少し保持が辛くなってきたので元に戻した。
「す、朱咲…お前はどこまで魔法の真髄に浸っているのだ」
「え、えっと…私、魔法の真髄には浸っていませんけど…?」
「な、なにーーー!!」
アーカイヴさんがめっちゃ驚いてる。あ、そういやこの魔法は神様から直接もらったんだっけ。そりゃ驚くのも無理はないか。
アーカイヴさんは項垂れてもうだめだ。俺の立場は……とぶつぶつ言い出した。するとお姉ちゃんが来た。
「ありゃま。久しぶりだな~ネガティブアーカイヴ。とりあえず、こいつは私に任しとけ。朱咲と星琉はもう終わっても良いぞ」
「あ、はい。それではお願いしますね。ありがとうございました」
お姉ちゃんは僕がそう言うのを確認して町の方に降りて行こうとしたが、ちょうどそのタイミングで12時を告げる鐘がなったので、朱咲と食堂に行くことにした。
・・・
町の、誰も知らないようなバーに、アーカイヴとリネスタはいた。
「それで、一体何がどうしてお前がこうなった」
「もうダメだ。俺は朱咲には勝てない。ぐはーーっ。俺のプライドがー……」
「おい、自分で自分のプライドの傷掘り返してどうする。ま、朱咲を見てそう感じるのは仕方ないさ。星琉も、魔法はこれっきりだが、武術に関しては私でも勝てない。その妹なら当然………いや、もしかしたら、もっとすごいのかもしれない」
そうリネスタがアーカイヴに言うと、アーカイヴは酒を一口すすった。
「うへぇ、やっぱ無理」
「お前まだ私と同い年だろう。なのに酒を頼んで、それで飲むならまだしも無理って…本末転倒過ぎるじゃないか」
「すまねぇ。でも、朱咲の実力は本当にヤバい。一番敵に回したくない」
そう言うと、アーカイヴは今日あったことをぽつりぽつりと話し始めた。それを聞いたリネスタは、なにかを確信したかのように頷いた。
「なるほど。あのな、アーカイヴ。私は思うんだが、朱咲と星琉は神様が異世界から送り込んだ者達か、あるいは神の申し子か…その両方か、あるいは…」
「あるいは……?」
リネスタは、少し考えてから首を横に振った。
「いや、これはさすがに考えすぎだな。少なくとも、この世界の住民である私達には、あの二人に勝ち目はないんだ」
リネスタがその言うと、アーカイヴも何か納得したかのような顔つきになった。そして二人で顔を見合って、同時に天を仰いだ。




