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ChronuKrisークロノクリスー 神威の戦士と少女皇帝  作者: T-M.ホマレ
本編 カタフィギオ帝国〜皇帝暗殺編〜
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第8話 LOSERS-2

「傭兵団"ミストルテイン"の諸君よ。遂にこの時が来た。"神殺しの国"ディシディア共和国から我々に課された指令は"神の国"バシレイアが同盟国、カタフィギオ帝国軍を引きつけ、足止めすることだ」


バシレイア国境付近、小さな川を挟んでバシレイア・カタフィギオ連合軍と向かい合うように布陣するディシディア軍。その最前線、カタフィギオ帝国の部隊の真正面に陣取るオレたち傭兵団は、ディシディアからの合図を待ちながら、師匠の叱咤を聴いていた。

……師匠が傭兵団の棟梁をやることについては、師匠が歴戦の将であることと、その武の実力をもってすぐに皆から支持された。あの手この手でかき集めて、集まった兵力は800ほど。"神造り"被害遺族を筆頭に、バシレイアに恨みを持つ者は多い。その全てが行動に移せるというわけではないが、それでもオレたちの呼び掛けに応じてくれた人間はこれだけいた。

この数ヶ月、ディシディアに世話になりながら、師匠の指導のもと訓練をしつつ牙を研ぎーーそして遂にこの時がやってきた。


「カタフィギオを止めることはバシレイアの脱落に直結する。今のバシレイアはカタフィギオの支援無しではマトモに戦えん。それ程にまで国力が落ちておる。そしてもう一つ。今のカタフィギオ王朝はバシレイア王に連なるものだ。ーー機は満ちたり。我ら"宿り木"の名にかけて、必ずや偽りの神どもに鉄槌を下すのだ!」


鬨の声が上がる。士気は上々。母を殺された者、姉を殺された者、娘を殺された者ーーどうあっても根底に"恨み"がある者が殆どだが、その感情は何よりもの"戦う意志"となる。"神造り"の実験は元々優秀な血筋を持つ者が対象になるだけあって、元々ある程度"戦う力"を備えた者も多かった。

戦う意志、戦う力のない者はここにはいない。戦闘準備は万端だ。あとはーーディシディアからの合図を待つばかりだった。

そしてーー。


「ディシディア軍から魔力信号弾! 戦闘開始の合図です!!」


傭兵部隊のやや後方から声が上がる。ディシディア軍の布陣する方角を見ると、赤い光が空へと伸びていた。


「良し。クロノス」

「承知。神現技装ーー擲つ巨腕の礫(ヘカトンケイル・リードショット)


師匠の言葉に短く答え、オレは右腕に神の巨腕を顕現する。その巨腕は家の如く巨大な岩塊を握り込み、更にそれを人間大に握り砕き、オレの手の動きに合わせてそれを川の向こうへ投擲する。投げられた岩塊は猛烈な勢いをもって敵軍へと散らばり、その散弾は前線にいた兵士達を蹂躙した。


「皆、オレに続け。魔弾、魔弓、一斉掃射だ」


それに続けて、無数の魔弾と矢が川の向こうへ飛んでいく。

ーーが。


「ーーーー!?」


敵部隊の前面に大規模な魔力反応が出る。その中央が一瞬光ったかと思うと、こちらの攻撃範囲全てをカバーする範囲の光の壁が現れた。

一呼吸おいて、こちらが撃ったのと同数の魔弾と矢が返ってくる。


「反射の壁ーー! 総員、魔力障壁を展開せよ! クロノス、お主は迎撃だ」

「承知! 射殺す毒蛇の牙(ヘラクレス・ヘルファング)!!」


返ってきた攻撃を数百の魔弾で迎撃する。何割か撃ち漏らしたものもあるが、それらは後ろで展開される魔力障壁によって阻まれ、こちらに被害は出ていない。出ていないが。


「迂闊な遠距離斉射は出来なくなったか」

「その通りです。ーーあなたが噂の"神の失敗作"クロノスですね。それに指揮をしているのは"裏切りの老師"ですか」


いつの間にか川を渡り、ひとりオレ達の前に突然現れたのは、蒼い鎧を着た、長い黒髪の男だった。歳のほどはオレと同じか、少し若いくらいだ。そして、あの蒼い鎧はーー。


「申し遅れました。僕はカストロ・シーデロ。カタフィギオ帝国、イアロス騎士団の副団長を務めています」

「この光の壁はお前か」

「そうですよ、"神の失敗作"。僕の写鏡鉄城(カスレフティス・フロウリオ)はどんな攻撃も通しませんし、そっくりそのままお返しします。ーー正直な話、コレ1枚あるだけで、あなた方の足止めは十分なんじゃないでしょうかね」

「そいつはどうかね。なんなら、試してみるか」

「ええ、僕は構いませんよ」


光の壁ーー写鏡鉄城(カスレフティス・フロウリオ)とやらを己の前面に貼り直し、自信満々の笑みを浮かべるシーデロ。だが、そんな会話の横で、師匠は姿を消していた。明鏡止水を発動したんだろう。オレは魔力を手に溜める。


「んじゃ、いくぜ」


オレはシーデロへ向けて数発、軽く魔弾を撃ち出す。


「なんだ、その程度ーーっ!?」


魔弾が壁に当たる、その寸前に、光の壁が掻き消える。直後、オレの魔弾はシーデロに着弾し、ほぼ同時に、横からの見えざる斬撃に襲われたシーデロは横に吹っ飛びながらそれを回避した。

ああーー見えはしないが共に修行したオレなら分かる。師匠のカタナは千年モノの"神秘殺し"だ。オレの"神の力"の一部すらぶった斬るそれは、あの程度の魔力の壁などものともしない。師匠は、オレの魔弾に合わせて写鏡鉄城(カスレフティス・フロウリオ)を斬り破り、魔弾の着弾と同時に横からシーデロに斬りかかったのだ。


「くっーー老師ですか。気配を絶つ達人とは聞いていましたが、ここまでやるとは」

「ふん。若造が、舐めるでないわ。あの程度のの壁、儂にとっては無いも同然よ」


シーデロは左右に跳びながら逃げ回る。時々カン高い音と共にヤツの体の周りが光るのは、師匠の斬撃で"魔力の鎧"を斬られているからか。

しかしーー妙な違和感があった。


「しかし、なかなかどうして。お主のその装甲は大したものだ。こんなに厚い魔力鎧は久々に見た」

「っ、へぇ、僕以外にも居るんですね。防御のスペシャリスト」

「フン、そうやって自ら名乗っとるようではヤツには追いつけんだろうがな。お主のところの団長だよ」

「あぁ、なるほど。そうでしたか」

「しかしお主、見えてもいない儂を捌きながらも、後ろへ下がろうとせぬ覚悟は悪くないーー」

「ーー師匠! 違う!! 前から来てるぞ!!」

「ぬっ!?」

「さすがです、"神の子"よ。でも、もう遅い!」


シーデロが手を掲げると、突如として、いつの間にか川を渡って来ていたカタフィギオの軍団がオレ達の眼前に現れ、そのまま突っ込んでくる。


「チ、お前ら、怯むな! 迎撃するぞ!!」


ーーやられた。シーデロの写鏡鉄城(カスレフティス・フロウリオ)はこちらの攻撃を反射するだけの"光の壁"なんかじゃない。最初の壁を光らせたのはカモフラージュで、シーデロは自分の背後にももう1枚、壁を張っていた。あの壁には、外側への反射効果以外に、内側への隠匿効果があるらしい。最初にシーデロがいきなり目の前に現れたのは、その隠匿効果によるものだろう。

何にせよ、このまま乱戦に持ち込まれるのはまずい。数の上では向こうに利がある。分断されて、各個撃破されたらそれだけで終いだ。


「神現技装、冥界破る大地の斧(ガイアオブタルタロス)!!」


神なる大戦斧を顕現し、敵軍めがけて振り回す。その勢いは巨大な衝撃波を生み、その衝撃波は敵軍を大きく削り取るーー


「あぁ。一軍の指揮者として、それは見過ごせないな」


ーー前に、飛び出して来た1人の男に、掻き消された。


「アンタは……イアロス!」

「久しぶりだな、クロノスよ。予定通り、戦場で会えて嬉しいぞ。改めて名乗ろう。イアロス騎士団団長、アイオロス・イアロスだ。悪いが少し、足止めさせてもらう」

「どういうつもりだ。次は戦場で、とは言ったが、アンタはーー」

「案ずるな。俺の計画に支障はない。だが、今は一軍の将として振る舞う必要があるのでな」

「何……?」

「我が部隊に課せられたオーダーは二つ。傭兵部隊"ミストルテイン"の殲滅とその将"裏切りの老師"の首を持ち帰ること。それに加え、クロノス。お前の生け捕りに成功すれば、俺の目的はほぼ達成されたと言っていい」


お前が老師の首でも取って、我が国へ亡命でもしてくれれば話はもっと早くなるのだがな。

薄い笑みを浮かべながらそんなことを言うイアロスに、オレは大斧を振りかぶりながら飛び掛かっていた。


「それでいい。では暫し、戯れてもらうぞ」



ーーーーー◇◆◇◆◇ーーーーー



「はぁっ、はっ、はぁ……チィ」


岩陰に隠れて呼吸を整える。あれからもう半刻は撃ち合った……いや、正確にはオレが一方的に攻め、そのことごとくを軽くあしらわれていた。

斧は通らない。衝撃波は掻き消される。魔弾は壁に阻まれる。拳はヤツに届かない。剣戟は完璧に捌かれる。明鏡止水も、ヤツに攻撃を向けた時点で察知されてしまう。


「……クソ。どうすればいいんだ」

「ーークロノスか」

「っ! 師匠!」


声に答えると、師匠のーーそれは、ひどく弱々しいーー気配がすぐ近くに現れる。見ると、師匠はその口から血をこぼし、体を血に濡らしていた。


「師匠!? これは……敵にやられたのか?」

「いやーーまぁ、それもあるが。……どうやら、儂は時間切れのようだ」

「時間切れ? どういうことだよ、師匠!?」


ゴホゴホと咳き込みながら血を吐く師匠の背中をさすりながら、オレは師匠に疑問をぶつける。


「いやなに。お主が山へ帰って来る前に、……ちょっとした病に罹っておってな」

「な……この血は病気のせいだってのか! どう見てもちょっとした、って程度じゃない。そんな無茶な状態で出陣してたってのか!?」

「フ……この戦を死に場として定めたものの、最後まで保たぬとは。……いやはや、情けないものよ」

「なんでこんな無茶をした」

「だって……のう? 一度くらいは、助けになって、やりたいじゃぁないか」

「ーーーー」


頼まれたからにはな。と、師匠は血を吐きながらも、飽くまで穏やかな顔を崩さずに話す。そんな様子に、オレは言葉が出てこなくなる。師匠、いやーー。


「……クロノス。カタフィギオ軍との乱戦で、我ら傭兵部隊はほぼ壊滅状態だ。主力面子は皆やられてしまったし、上手く生き残った者も逃げてしまった。……一般兵はともかく、あのイアロス騎士団とやらは規格外だったようだ」

「……あぁ」

「頭たる儂はこのザマだしな。ディシディアがどうなるかは分からんが……この戦、儂らとしては大敗も良いところだろう」


血を吐きながら話す。オレはその背中をさすり続けるが、……呼吸が荒くなってきている。体を支える力も無くなっているのか、オレの腕に体重を預けている。


「もういい、話すな……。オレとアンタなら何とかしてここから離脱出来るだろう。戦線離脱して、体を治せ」

「ダメだ。儂らのような落人を、どこが拾ってくれる。ディシディアですら、まともな戦果を挙げられなかった儂らを拾ってくれるとは限らん。……それに言ったであろう、時間切れだと。儂はここまでだ。そもそも奴らは儂を逃がさん。……ここも気付かれている」

「ーーーーッ!」


慌てて周囲の探知をする。岩の向こう、至近距離ではないがすぐに距離を詰められる位置に、アイオロス、シーデロを始めとした強力な魔力の反応が十数人分。イアロス騎士団とやらが揃い踏み、と言ったところか。


「クソーーヤツら、いつでもオレたちを討てるように様子を見てやがるのか」

「クロノス」

「……なんだ」

「儂の首を持ってカタフィギオに亡命しろ」

「…………何馬鹿な事言ってやがる」

「イアロスの言う通りになるのは業腹だが。……お主が確実に生き残り、"神の国"に連なるものを斃す。その目が残る方法としては、これが一番、可能性がある」

「知ってやがったのか」

「……先に失礼する。後は、託した」


オレが止める間も無く、カタナを首に突き立て自害する。最期に、頼んだぞ、我が孫よ……、そんな言葉を残して。オレの手で自らを討たせないように、己で己に終止符を打った。


「お祖父ちゃん……クソ! 知っていた。あぁ、オレは知っていたんだよ。クソッ……最期にとっておきの秘密みたいに言い残しやがって。……クソーークソォォオオオオ!!」


視界がにじむ。……あんな風に死なれては、その言葉に背く訳にはいかない。オレは既に事切れた祖父の首を落とそうと剣を抜く。しかし、暫くの間狙いを定めることができなかった。





「……来たか。俺が提示した条件を飲んでくれたようで嬉しいぞ、兄弟」


祖父の首を持ってイアロス達の前に出ると、イアロスが両手を広げながら迎えて来る。その手には、手枷が用意されている。


「ハーー分かってて様子見してた癖に、何言ってやがる」

「そう腐るな。折角貰ったチャンスだろう? 案ずるな。お前の処遇なら、俺に任せろ。悪いようにはせん。ーーお前の目的もな」

「チ……」


ここは我慢のしどころだ。そう考えて、オレは手枷を受け入れた。


「それでいい」



ーーーーー◇◆◇◆◇ーーーーー



それからオレは、イアロス騎士団と共に少し、バシレイアに駐留した後、カタフィギオ帝国へと入った。……ディシディアの対バシレイア侵攻戦はディシディアの勝利。王不在の首都を攻められたバシレイアはディシディアに降伏しーー実質的にバシレイアは滅亡したことになる。カタフィギオはバシレイア同盟国として参戦していただけで、直接ディシディアと敵対していた訳ではない。バシレイア降伏後、すぐに講和を結び、カタフィギオは兵を引き上げる。その流れで、オレも共にカタフィギオへ入ったという訳だ。




カタフィギオ帝国へ入ったオレは、皇帝に謁見する。ここでオレは、"神の国"に関連する記憶と"神の力"の大部分を封印され、カタフィギオ軍の一員として迎えられた。

その頃のオレは、ぼんやりとしていた。「敵対国の兵士だったが、敗戦にあたって自軍の将を討ち、カタフィギオに亡命した」という記憶は与えられていたものの、実感はなく、心は空っぽだった。

ーー彼女に出会ったのは、そんな折だった。




「王宮南門に襲撃! 警備兵は至急応援に向かえ!!」

「……また盗賊か」

「そうらしい。ここの所、どうにも治安が悪い。そんなことより南門へ向かうぞ、クロノス!」

「いや……オレはここに残る。向こうには向こうの戦力がいる。賊ごときに過剰戦力を投入して、こっちの警備を疎かにする訳にもいくまい。あっちを陽動に、こっちに本命が来ることだってある。そもそも……盗賊の出現は頻発してるが、実際に被害が出たことは一度もないんだろう?」

「まぁ、それはそうだが。いいのか? あっちを手伝えば、少しばかりは手当が出るぞ?」

「興味ないな。そんなに欲しけりゃ、さっさと行け」

「分かったよ」


じゃあ、ここは任せるぞ! 後で文句言ったって知らないからな! などと騒ぐ同僚を黙殺すると、オレは一人、持ち場に残った。


「おうじょさま〜! どこへいかれたのですか〜?」


と、そこに声が聞こえて来た。


「これは……子供の声? ーーっ! この魔力は……!」

「きゃぁっ」


先程の子供の声で短い悲鳴が聞こえて来る。声の方向に急行すると、いかにも盗賊です、といった荒れた風貌の大男が一人、小さな女の子を抑えていた。


「何だぁ? 兵士どもは南門に釘付けだと思ったが、まだ一匹残ってやがったか」

「そうか。お前は馬鹿だな」

「あァ? はン、バカはお前だろうが! これが見えねぇか、兵士サマよぉ? お前が動けばこの子供はーー」

「変現技装"一式"、明鏡止水」

「ーーあ? 何だ? 何処に消えやがった?」

「面倒だが、これも仕事なんでな」

「グォッーー」


大男を一撃で仕留めると、その腕から女の子を救い出し、オレの前に立たせる。


「怪我はないか?」

「あ、はいーーありがとうございます」

「そこな兵士よ! そなたの働き、見ていたぞ! アグニを助けてくれたのだな。大義である、名乗るが良い!」


それなら良かった、そう言おうとした所で、別の子供が現れる。……とりあえず、オレが助けた子供はアグニというらしい。

で、この妙に貫禄のあるお子様はというと。


「あ、おうじょさま〜!!」

「……王女様?」

「ふむ、そうだな。人に名を聞くならば、まずは自分から名乗るべきであったか。わたしはクリス。この帝国の、王女だ」


で、そなたは何というのだ? とキラキラした笑顔で聞いてくる。なるほど、まだ小さいが、皇帝陛下の娘ならば、この貫禄にも納得ができる。


「……クロノス・アーレス」

「そうか。クロノスよ! アグニを救ってくれたこと、改めて礼を言うぞ!」

「それなんだが……まだ終わってない。というか……参ったな」

「……む?」


オレが先ほど感知した魔力は一つじゃない。むしろ多数の魔力反応が急速に接近している。ーーどうやらオレのカンは、無駄に的中してしまったらしい。


「ともかく避難を……って、もう遅いか」

「その通り。金目のものを盗んでやろうと思ったが、こいつは嬉しい大誤算だ。ーー今日は王女サマの命を貰っていく」

「なーー」

「はぁ。やっぱりお前ら、馬鹿だろう。王女を殺した所で、金にならんばかりか、お前らの寿命を縮めるだけだぞ」


こんなにゾロゾロと連れて来やがって。絶句する王女を尻目に、オレは賊の頭と思しき男に言葉を投げる。その間にも賊の数は増え、ざっと30〜40人になっていた。


「ハッ、構いやしねぇさ! おれたちが賊なんぞやってる理由は、その殆どが憂さ晴らしだ! 王女を殺せるなんて、これ以上の憂さ晴らしがあるかよ!」

「ひっーーこ、これは、今からでも逃げたほうがいいのではないかっ……?」

「必要ない」

「しかし……!」

「必要ない。安心しろ。ーークリス王女、あんたの命はオレが守るさ」


そう宣言すると、賊の頭が鼻を鳴らす。


「フン、格好つけやがって。たった一人の警備兵ごときが、この人数相手に何が出来る!?」

「そうか。なら見せてやる。オレも面倒だ、一瞬で終わらせてやろう」

「エラく自信満々だなオイ! 野郎ども! まずはあのスカした兵士サマからやっちまうぞ!」

「変現技装ーー射殺す毒蛇の牙(ヘラクレス・ヘルファング)

「あ? テメェそんな大弓どこから、ガーーァ」


毒を纏った無数の魔弾が、盗賊どもの全員を同時に射抜く。宣言通り一瞬で、オレは仕事を終えていた。




「こほん。再び改めて、だが礼を言わせてもらう。助けてくれてありがとう。クロノスは、立派な兵士なのだな」


遅れて応援の兵士達が到着し、彼らに後始末を任せ、ついでにパニックになっていたアグニの保護も任せてひと段落した後、オレは三度(みたび)、クリス王女から礼を言われていた。


「……そんなことはない」

「謙遜するな。そなたはアグニを助けて、わたしの命も救ってくれたではないか」

「それはそうかも知れないが。……オレは空っぽだ。伽藍堂(がらんどう)だ。オレには故郷がない。その記憶すらも曖昧だ。仕事はあれど、オレには居場所もない。守るべきものもない。ただ機械的に、仕事をこなしているだけに過ぎないんだ」


苦い思いで言葉を吐く。言ってから、子供相手に何を言ってんだ、と思い直す。


「すまない。王女様相手にする話じゃなかった。どうか、忘れてくれ」

「いいや、忘れない。忘れないぞ、わたしは」

「むーー?」

「クロノスよ。わたしはそなたが気に入った。空っぽな心でも、機械的な仕事でも、そなたは子供を守り、王女(わたし)を救った。これに変わりはない。わたしはそなたが欲しい。ーー居場所がないのなら、わたしがそなたの居場所になってやる。その代わり、そなたはわたしを守るのだ。どうだ、これで解決であろう!」

「なっ……!!」


晴れ晴れしいドヤ顔に、今度はオレが絶句する。この王女様は、意味を分かって話しているのだろうか……? そんなオレの戸惑いをよそに、クリス王女はよし、と頷くと、


「では早速、クロノスをわたし付けの近衛に抜擢するよう、父上に進言してこよう。なに、此度の功績もあるのだ、きっと通るに違いない!」


楽しみにしているがよい! と、王宮内へ駆けて行った。

それから数日もしないうちに、果たしてオレはクリス王女直属の近衛兵となった。オレはそのまま数年間、近衛兵として彼女のそばにあり続け、その後、彼女が皇帝となっても変わらず仕え続けることになるのだった。


どうも、T-Mです。

第1話から読んで下さってる方は8度(年越し特別編も入れると9度)もお付き合いいただきましてありがとうございます。

今回初めましての方は、ぜひ第1話から読んでいただけると幸いでございます。


というわけで、ChronuKrisークロノクリスー、第8話でございます。

今回はクロノスの過去編、後半です。

現在につながる別れと出会いなど。

次回から時間軸は現在に戻り、物語は最終局面へと動き出します。

……ちなみにこの2週間、クロノスはずっと王宮の屋根の上で右手の甲を眺めつつたそがれてます(笑)



さて、さて、今週のチラ裏設定大公開のコーナー。

先週同様、過去編登場人物の能力や技について見ていきます。


今週はイアロス騎士団副団長、カストロ・シーデロ君に焦点を当てたいと思います。

まずは能力値。

攻72防118知76政52魔75出79

守りが突出している、いわゆる"防御バカ"です。ちなみに対となるいわゆる"攻撃バカ"も騎士団にいたりします。登場は未定。


続いてカストロ君の技について。


写鏡鉄城(カスレフティス・フロウリオ)

火力- 防衛力S+ 射程B 範囲A+ 応用A 燃費B 命中-

広範囲の反射効果付き魔力城壁。外側からの魔力・物理干渉を反射する他、内側の魔力反応や人の動きを隠匿する効果がある(外側からは、壁を張る直前の光景から矛盾しない状態に見える)。範囲は広いが、明鏡止水程の遮断効果は得られないため、内側の人間が派手な行動や魔法の行使を行なう程にその隠匿性は失われていく。


なお、防御バカですので、魔力障壁や魔力の鎧についても、最上位クラスの物が扱えたりします。攻撃は壁を張りながらの魔弾による中〜長距離戦がメイン。一応剣もそれなりに扱えます。今回の描写では部隊の突撃を隠すデコイとなるため前に出て来ましたが、攻撃ではなく彼の防御力を活かした作戦、という感じですね。


ーー以上、チラ裏自己満設定公開のコーナーでした。

過去編で新たに出て来たクロノスの技や、アイオロスについてはまだ、本編描写が足りないところがあるので、また今後のあとがきにて触れされていただきます。



というわけで、次回は最終局面……にはまだ行かず、そこに繋げるための回、という感じになるかなぁと思っております。

ちなみに、本作のラストバトルはガッツリと、たっぷりと書いていきたいです。正直、まだこの作品の戦闘描写は薄いかな、と思ってるところがありますので。


それではまた次回、無事にお目にかけることが出来るよう願いつつ。

今回もお付き合い下さった皆様、本当にありがとうございました。


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