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ChronuKrisークロノクリスー 神威の戦士と少女皇帝  作者: T-M.ホマレ
本編 カタフィギオ帝国〜皇帝暗殺編〜
7/36

年越し特別編 戦技と遊戯

※全体的にメタネタ成分多めですが新年ということで多目に見てやって下さいm(_ _)m



「読者諸君! あけましておめでとう!

いつも余の活躍を楽しみにしていてくれて、余は嬉しい! 今年もどうか、よろしくたのむ!

ーーというワケで、うむ! 年明けだな。

メタい話はこの辺にして、皆で新年を祝おうではないか!」

「だったら『メタい』とか言わないでくださいよ、クリス陛下。メタネタは滑ったらヒドくイタいんだぜ?」


開幕から誰もいない空間に向かって謎の挨拶をしているクリスティアに、クロノスが突っ込む。

それに対して、今度はイーがまぁまぁ、とクロノスを宥めるように言う。


「折角の年越し特別編なんですから多少は許されても良いじゃないですか。私達の生みの親(さくしゃさん)も、かつては毎年年越し小説を書いていたそうですし」


そもそもクロノスさんだって『メタネタ』なんて言ってる時点で同じじゃないですか、と言われて、クロノスもそういやそうか、と納得する。


「……で? みんなでお祝いって、具体的にはどうすんだ? 宴でも開くのか?」

「それもよいが、まだ年は開けたばかりだ。クライマックスには早かろう。ーーイアロス!」

「は。クロノス、お前は多少、極東の文化に明るかったな。ーーならば、これを知っているのではないか?」

「いや確かに東の技術を使ったりはしてるが、そこまで詳しいってワケじゃーー」


クロノスの目の前に出されたのは、末広がりのへらのような形をした柄付きの木の板と、羽根が付いた黒い球である。ご丁寧に墨液と筆まで用意されている。


「羽子板、だな……。え、何? 今からコレで遊ぼうとか、そういうことなのか?」

「うむ! 今日は名ありキャラオールスターの祭りだ! 何か競技の一つでもないと盛り上がるまい!」

「ただの遊びというわけでもありませんよ、"軍神"アーレス。羽子板、羽根突きには良くないものをはねのける、厄除け、厄払い、魔除け、無病息災といったおまじないの要素もあるのです」


いつの間にかそこにいた、赤髪の女性がクロノスに解説する。


「って、アウレリア・カニス!? なんでお前がここに居るんだよ? っていうか詳しいな極東の文化!?」

「……私も、名ありキャラのひとりですので」


クロノスのツッコミに、前半部分だけ答えたアウレリアは、羽子板セットとクロノスをチラチラと見比べながら、何やらウズウズしている様子である。


「うむ! これでメンツは揃ったな! ーー本当なら闘技場でクロノスに魔弾を撃った戦士(第1話)やカタフィギオ北西部で密会をしていた男(第3話)、アウレリア・カニスの部下(第4話)、アダゴニア王国の少将(第5話)、イアロスに意見した兵士(第5話)なども招いても良かったのだが、『流石にカオス過ぎるからやめて下さい』などという神の啓示があってな。

余、クロノス、イー、イアロス、アウレリア。この5名をもってフルメンバーとすることにしたのだ」

「あぁ、うん。そりゃ賢明な判断っすわ」


クロノスはどこか投げやりにクリスティアの判断を讃えたあと、


「で、どうすんだよ? まさか5人でやるんですか、コレ」


この後の展開について疑問を呈する。

というかぶっちゃけ、『皇帝の顔に墨塗りたくるわけにゃいかねぇだろどうすんだよ』というのがクロノスの思いだった。


「うむ、残念ながらこの遊戯(ゲーム)は一対一で行うモノのようだからな。5人だと1人、余ってしまう。なので余は、ホスト役だ! 余以外の4人で勝ち抜き戦をやって貰って、優勝者には商品だ! 極東では年明けに『おとしだま』なるモノがあるのだろう? それを、くれてやろうではないか!」


なんと言うか、年齢的には陛下がむしろもらう側なんですが……という感想がクロノスの頭をよぎったが、飲み込むことにする。

言えばまた子供扱いしたことに拗ねるだろうし、『皇帝からのお年玉』と思えば、なるほど納得できるものなのかもしれない、と考えたからだ。


「異論は無いな? では早速始めよう! 第一試合! イーvsイアロス!!」

「うわー、イアロス騎士団長とですか。そう言えば本編中での絡みはまだありませんでしたよね?」

「そうでしたな、イー・スィクリターリ魔導防衛軍司令官殿。加えて我々は、ともにまだ本編中での本格的な戦闘描写がない。ーーこの意味が、お判りかな?」


クロノスから、いや、メタ全開だなオイ! という突っ込みが入るが、軽くスルーされる。


「ええ、はい。つまり我々は神の啓示によりあまり派手なことは出来ない、ということですね」

「そういうことですな」

「普通にやりますかねー」

「普通にやりましょう」


両者、羽子板を手に距離を取る。

羽根を持っているのはイーの方だ。


「うむ! では第一試合、イー・スィクリターリvsアイオロス・イアロス! はじめ!」


イーが羽根をやまなりに、しかしアイオロスの身体の低い位置に落ちるように打ち出すと、アイオロスは一歩前に強く踏み出し、横振りの一閃で羽根を鋭く打ち返す。


「ーーふっ!」


真っ直ぐに飛んで来た羽根を、イーはアイオロスの頭上へと高く打ち上げる。

それを見ると、アイオロスはやや後方に跳躍し、羽子板を振りかぶる。


「ーーって、オイオイ」


クロノスは感知する。アイオロスの羽子板から、魔力が膨れ上がるのをーー。


「魔力放出ーースマッシュ!!」

「いやコレそういうゲームじゃねぇから! ねぇよな!?」


クロノスのツッコミも空しく、ズガン! という音を立てて、魔弾と化した羽根がイーへと打ち出される。

と、今度はイーの周りで魔力の反応があった。


「……イーちゃん?」

「魔力障壁ーーブロック!!」

「普通にやるって一体何だったっけ!?」


魔弾はイーの魔力障壁に阻まれ、羽根は宙空で動きを止める。

だが、壁に阻まれて動きが止まるということは、それ以上の推進力を得られないということで。


「あ」


イーの所まで届かなかった羽根は、そのままポロ、と重力に従い地面に落ちていった。


「勝負あり! 勝者、イアロス!!

うむうむ、お互い制限がある中、なかなかの戦い振りであったぞ!

ーーでは罰ゲームの時間だ。イアロスよ、イーの顔に墨で何か書くがよい」

「やれやれ。レディの顔を汚す趣味はないのですが……失礼」


嘆息しながら、アイオロスは筆を持ってイーに近づくと、その顔にサラサラーと何かを書いていく。


「これは……うむ。結界魔法の魔法陣だな」

「てめぇ、やれやれとか言いながらノリノリじゃねぇか!」

「あぅ……やられました。というか、やってしまいました……」


フラフラーと王宮の方に歩いていくイー。

どうやらそれなりにショックだったらしい。


「う、うむ……イーはしばらく休んでいるがよい。敗者復活はない故な」


「ーーさて、気を取り直して第二試合だ! クロノス・アーレスvsアウレリア・カニス、両者前へ!」


やっぱりやんのか、そりゃそうだよなぁ、とややげんなりしながらクロノスが対戦相手を見やると、それはもうギラギラした笑顔のアウレリアが。

そしてアウレリアの周りには既に魔力反応が多数。完全に臨戦態勢であった。


「コイツ、全然喋らねぇと思ったら、しっかり準備してやがった……! っていうか!ワープ出来るこいつからしたらこのゲーム、スゲー有利なんじゃ……?」

「フフフーーお手合わせ、願いますね?」


笑顔がもはや怖い。

どうやら「普通にやる」という選択肢は、最初から無さそうだった。


「うむ! クロノスよ! 皇帝としてそなたに命じる! 今度こそヤツを仕留めるがよい!」

「って、陛下は中立じゃねぇのかよ!?」

「む。……クロノスは、余に応援されるのはイヤ、か……?」

「あ、いや。その、イヤじゃない……です」


急にしおらしくなってクロノスを不安そうに見つめるクリスティアに、クロノスはつい少し慌ててしまう。


「フフーーフフフ……それではさっさと始めましょうか……!」


それを見て、なぜか余計に火が付く女がひとり。


「うむ! それでは第二試合! 開始だっ!!」

「ではーー最初から、飛ばしていきますよ!」


羽根はアウレリアの手にある。

アウレリアは羽根から手を離すと、上空へ向けて思いっきり高く打ち上げた。

羽根はどんどん上に飛んでいき、空に消える。


「って、オイオイ、これってまさか」

「ーー水鳥の羽根よ、千弾となって地を穿て!飛ん攻魔陣・千刺閃墜(ファランクルス・ハーゴイタ)ーーーー!!」

「色々と無理があんだろーー!!」


叫ぶクロノスに向けて、千に別れた魔弾(はね)が、降り注ごうとする。


「マジかよ……! チィ、変現技装"零式"ーー楔打つ時限の返打(クロノス・ダンスレシーブス)!!」

「なんだ! なんだかんだでそなたもノっているではないか!」

「空気読んだんだよ察してくれ、よ!」


千の魔弾の時間を止める。

そして、それを一打一打、アウレリアに向かって打ち返していく。

ーーもっとも、時間停止の影響外にある周りの人間には、クロノスが超高速で動いて全ての魔弾(はね)に対応しているように見える。


「ちょっーー!」


それは、打ち返されたアウレリアにも例外ではなく。


「アナタ、どれだけデタラメ……ちょ、まっ、きゃああああ!?」


結局、自分で千倍に増やした魔弾がそのまま自分に返ってきて、対応しきれずに負ける、という結果になった。


「うむ! 勝負あり! 勝者ーークロノス!! 見事であった! では、敗者には罰ゲームだ!」

「うぅ……5話の借りを返すつもりが、5話より酷い負け方をするなんて……」

「いや。羽子板で魔槍の再現する方がとんでもねぇわ、つーか一体どういう仕組みだよ!?」

「それを聞くのは野暮というものです……此度の話はお祭り空間、いわばギャグ時空の一種なのですから」


何でもありなのです。としょんぼりしながら言うアウレリアに、クロノスはメタ発言に突っ込む気も起きずにクリスティアから墨と筆を受け取る。

そのままぱっぱと手短に筆を走らせると、墨と筆をクリスティアに返却した。


「うむ。豪快な丸とバツ。簡素で定番ながら、多少の乱暴さも垣間見えるこの書き方、実にクロノスらしさが出てると言えよう!」

「いやいや、何の評論っすかそれ。ーーで。最後は騎士団長と俺か?」


団長は全力出せないんだっけか? とクロノスはクリスティアに確認する。


「うむ……イアロスはまだ本編で戦いを見せてないゆえな。クロノスもまだ見せてない部分があるとはいえ、それでもハンデが大きかろう。ーーーそこでだ。クロノス、そなたにはこの試合、"技装"の使用を禁じる。使うなら通常の魔法にせよ」

「もはや普通の羽根つきじゃないのは前提なんだな。……まぁ、了解」


またメタいことを、と思いつつ、ここまで来たらもう今更か、と半ば諦めているクロノスである。


「うむ。それでは決勝だ! クロノスvsイアロス! 両者前へ!」

「フ。クロノス。まさかこの様な形でお前と戦えることになろうとはな……!」

「随分とやる気だな? アンタはバトルマニア系のキャラじゃねぇでしょうに」

「あぁ。本編でなかなか出番が来ないものでな。少し、ウズウズしてるといった所だ。陛下の『おとしだま』とやらにも興味がある。凄くある……!」

「アンタ意外とミーハーだな!? まぁいい、そういうことならオレも全力でやらせてもらいますよ。オレは陛下に必勝を誓った身だ。遊びとはいえ、こんな所で負けてらんねぇ」

「結構。ーーあぁ、だが、"技装"は使ってくれるなよ? 流石に負ける」

「ここに来て弱気かよ!? あぁもう、安心してくれ! 使わねぇよ!!」

「うむ! 双方、気合十分とみた! 決勝にふさわしい戦いを期待する! ではーーはじめ!」


クリスティアの号令を合図に、二人が構える。

羽根を持つのはクロノス。まずは様子見と、普通に羽根を打ち出す。


「ふん、余裕だな、ふっ!!」


すると、その数倍の速度で鋭い打毬が返ってくる。魔力反応はない。アイオロスはまだ、魔力放出を使っていない。


「そっちこそ、甘ぇんじゃねぇですか、と!!」


先手はクロノス。魔力を込めた羽子板で、アイオロスの打毬のさらに数倍の速度で返していく。


「最初はあれだけ『普通』がどうだとか言ってたのに、いざ自分の番になったら自ら仕掛けるとか、どうかと思うぞ」


言いながら、アイオロスも魔力を解放して応じる。


「うるせぇよ! もうそんな段階にねぇだろ!」

「それもそうだ。ノリのいい部下を持って、俺も嬉しい」

「もう部下じゃねぇですがね」


話す間にも、二人の羽根突きはみるみる加速していく。

羽根の空気抵抗があるにも関わらず、二人の魔力によって高速の魔弾と化した打毬は、既に常人が目で追える速度を超えていた。

二人の間にあるのは無数の打毬により構成された魔弾の槍衾(やりぶすま)。元が羽根とはいえ、魔力耐性のない者が今の二人の間に立てば、瞬く間に蜂の巣にされるだろう。


「おい! 王宮の方でアーレス近衛兵長とイアロス騎士団長がガチの撃ち合いしてるそうだぞ!」

「マジかよ! 大丈夫なのかそれ!」

「あぁ、なんでも皇帝陛下の計らいで、お祭り騒ぎの遊戯らしい。が、ともかく二人とも本気ですごいことになってるそうだぜ!」

「そいつは面白そうだな! 見てこうぜ!!」

「「「オォーーーー!!」」」


「なんかギャラリーが集まって来やがったな……」

「お祭りとはそういうものだ。ーー面白くなってきた……!!」

「今日のアンタはノリノリすぎやしねえか!?」

「フ、人の上に立つ者として、祭は盛り上げないとな。いやさ、この程度の催しを盛り上げられずして、何が騎士団長かーー!」

「いや、そんなにか!? ただの羽根突きだぞコレ!?」


クロノスが突っ込む間にも、非番の兵士達からなるギャラリーはどんどん増えていく。

それを、


「さぁ、張った張った! "軍神"アーレスと騎士団の"英雄"イアロスの世紀の大決戦! かけるなら今のうちだよ!!」


顔に黒いマルバツを書かれた、赤髪の女が煽ってーーいや、稼ごうとしていた。


「うおっ! アンタはアダゴニアの……ってなんだその顔!?」

「今はただの祭り参加者です。顔のことは触れないでください。というか、黙って賭けなさい」

「ーーって、そこ! なに他国の兵士相手に商売してんだよ!?」

「あなたは目の前の勝負に集中してください、"軍神"アーレス。あなたが盛り上げてくれなければ、稼ぎに影響が出る」

「お前そんなキャラだっけ!? まさかの番外編で守銭奴キャラ要素追加なのか!?」

「あまりはしゃぐなよクロノス。俺との勝負に集中しろ。盛り上がるのは良いことだが。

ーー俺も賭けるぞ! クロノスの勝ちにだ! だって負けても得できるからな!」

「イヤ一番はしゃいでるのアンタだからな!?」


クロノスがせわしなくツッコミを入れる間にも、高速のラリーは続いている。

会話や周りの様子に気を取られているように見える二人だが、それでも目の前の対決は手抜きにはしない、ならない所が、この2人が一流であることを示していた。


「しかし、決着が付かんな。ーークロノス。お前の魔力放出は、これが全開か?」

「ハッ、さて……どうですかね。ご希望とあらば、決めに行ってもかまわねぇが?」

「言ってくれる。ーー"技装"は使うなよ?」

「使わねぇって言ってんだろ! どんだけ負けたくねぇんだよ、オレに賭けまでしといて」

「指揮官たるもの、リスクヘッジは考えておくものだ」

「いやアンタのは個人的な利益だろ!」

「ツッコミご苦労。それはいいがーーとりあえず上を見ろ」

「あん? ーーって、うお!?」


言葉とともに打ち上げられた羽根を、クロノスが目で追うと、眩ゆい閃光を発しながら降ってくる。


「魔力放出、魔弾亜種・閃光炸裂弾(スタングレネード)


落ちてくる羽根は閃光を更に拡大させ、クロノスの視界を塗り潰しーーそして羽根は、地面に落ちた。

しばらくして、閃光がおさまる。


「うむ! 決着だな!

勝者ーーーークロノス!!」


光の発生源となっていた羽根は、アイオロスの足元に落ちている。


「まさかここで新技披露してくるとは思ってなかったが……残念だったな。目が見えなくても、それが魔力を伴ったモノなら感知出来んですよ」

「よし、これで賭けには勝ったな」

「わざとなのか!?」

「まさか。リスクヘッジだと言ったろう。さぁ、俺に墨を塗れ。そして『おとしだま』とやらを受け取るがいい」

「う……む。まぁ思う所はあるだろうが勝ちは勝ちだ。ルール通り、罰ゲームをするがよい」


本当かよ……と納得のいかない様子のクロノスだったが、まぁいいか、と気を取り直して適当にアイオロスの顔に墨を塗る。

今度は両頬にバツが一つずつだった。


「いささか芸がないが……まぁそれもらしさよな。では! これより優勝者クロノスに『おとしだま』の進呈を行う! イー!」

『はーい。それじゃあ落としますね』


あぁ、そういえばお年玉っていくらくらいーーと口を開こうとしたクロノスが、上空に現れた影と『伝令のルーン』から聞こえてきたイーの言葉に凍りつく。

イーによって王宮エクソジアの頂上から魔力で浮かされたソレは、巨大な黄金の球体であった。

やがて、魔力の枷を外されたソレは、クロノスに向かって落ちてくる。


「って! おとしだまで落とし玉とか、オチとしてベタすぎんだろーー!?」


突っ込みながらも、魔力を全開で身体強化に回して球を受け止めるクロノス。

はぁ、とひと息つくと、もう一言、ボソッと呟く。


「しかも金の球体とか色々とヒドイだろ……」

「むぅ。喜んでもらえなかったか……? 昔、本で読んだのだ。『おとしだまとは金である』と。落とす玉で金なのだからこれしかあるまい、と思ったのだが……余、なにか間違えてのか……?」


しゅんとするクリスティアに対し、クロノスはそれ以上追求する気は起きなかった。ただ一言だけ、指摘する。


「とりあえず、(きん)じゃなくて(かね)な。……まぁ、これはこれで価値はありそうだが」


その後、仕舞っておくには大きすぎる黄金の球をどうするか頭を悩ませたり、クリスティアの間違った極東知識を正す会を開いたりするクロノスだったが、それはまた別の話である。



ーーーーー◇◆◇◆◇ーーーーー



夕刻、王宮エクソジア、大食堂ーー。


羽根突き大会の騒ぎを落ち着かせ、ギャラリーとなっていた兵士たちも帰らせた一同は、改めて年始を祝う宴に興じていた。


「えへへ〜、くろのすぅ〜、さっきはかっこよかったぞ〜。さすがはわたしの最強の矛! であるぅっ!」

「ってオイオイ陛下酔ってんじゃねぇか! 誰だよクリス陛下に呑ませたの!?」

「え〜、くろのすはこんなわたしはキライか? キライなのか……!?」

「いや、その、キライじゃないです。キライじゃないですから、泣きそうな顔をしながら思いっきり抱きついてくるのやめてくんねぇかな……」

「えへへ〜」

「いやえへへじゃなくて」

「まぁまぁ、良いじゃないですか、折角の年始のお祝いなんですからー」

「いやなイーちゃん。それにしても節度ってもんがーーって赤っ! 顔赤っ! そしてクリス陛下に呑ませたのお前かーーーー!」


クロノスが目をやるとそこには、顔を真っ赤にしながらクリスティアの盃に酒を注ぐ秘書官の姿があった。


「あとなイーちゃん。この料理作ったのイーちゃんだろ」

「わぁすごいですねクロノスさん。よく分かりましたね?」


満面の笑顔で答えるイー。それはもう、ニッコニコである。


「そりゃ分かるよ。こんなにマッシュルームまみれなんだ、こんな事するのはイーちゃんしか居ねえ。ーーちなみに聞くが、これは何の料理だ?」

「えっとですねー。クロノスさんに貸して頂いた書物に記述があった、極東の『煮しめ』という料理です」

「まぁそうだろうな。何せマッシュルーム以外はみんな和の食材と来たもんだ。

……あのなイーちゃん。煮しめのきのこは、シイタケを使うんだぜ」

「えー、良いじゃないですかー。良いですよマッシュルーム。美味しいですよ、マッシュルーム」

「……あぁ、そうだな」


これ以上はヘンな藪蛇をつつきかねない。そう判断したクロノスは、諦めることにした。


「折角の宴なのです。野暮な突っ込みはナシですよ、"軍神"アーレス」

「あぁカニスか。お前はそんなに酔ってないんだな」

「ええ、当然です。戦士たるもの、簡単に酔いつぶれるわけには。ーーというわけで、手合わせ願います!!」

「どういうわけだよ!? そっちのが無粋だろうが! つーかやっぱ酔ってるなお前!?」


クロノスに向けて突進してくるアウレリア。クロノスは、クリスティアに抱きつかれたまま空いた手でアウレリアを受け止める格好になった。


「わぁ、クロノスさん。両手に花ですねー。それじゃあ私も」

「いや、何でだーー!?」


クリスティアとアウレリアの隙間に体を差し入れてくるイー。3人の女に抱きつかれて、クロノスが絶叫する。


「クロノス。お前ーーまさかシラフか? ダメだな。それはいけない。ホラ、もっと飲め」

「いや、オレは……つーかオレまで潰れたらマジで収集つかないんで」

「俺の酒が飲めないというのか貴様ァ!!」

「一番面倒臭いタイプのヤツだったーーー!!」


宴は賑やかに。収拾はつかないまま。クロノスの叫びと共に、夜は更けていく。

やがて他の全員が完全に潰れて寝てしまったあと、クロノスは一人、外で夜風に当たりながら呑んでいた。


「……ふぅ。やれやれ、あいつらにも困ったもんだぜ。

けどまぁ、たまにはこういうのも悪くねぇかもなぁ」


クロノスは少し考えて、盃の中身を一気に干す。


「ぷはぁ。ーーさて。散々メタいだなんだと突っ込んじまったオレだが、こればっかりは一応主人公のオレもやっとかねぇと締まらねぇしな」


盃を置いて、この世界のどことも取れない空間に向かって向きなおる。


「読者の皆! あけましておめでとう。昨年中は世話んなった! 次回からは通常運転だ。今年も応援、よろしく頼むぜ!」


それだけ言うと、クロノスは王宮の中へ入っていく。

ーーそう、これは特別な時空での、特別なお話。

祭りが終われば、また戦いの日々に戻るのである。

そんなことを予見しつつ。クロノスは、それでも今はと、皆が眠る宴会場にて、共に眠りにつくのであったーーーー。

あけましておめでとうございます!

旧年中は大変お世話になり、ありがとうございました。

本年もどうぞ、ChronuKrisークロノクリスー及びT-Mをよろしくお願い致します!


と言うわけで今回は新年特別編でございます。

年が明けた瞬間にコレを投稿するために、昨日の更新はお休みさせて頂いた、と言うわけなんですねー。

実は、学生時代は毎年の恒例行事として、年越し小説を書いておりました。

小説書きを再開した今、再びこういう企画モノを投稿できることを喜ばしく思います。


「クロノクリス」登場キャラ達によるお祭り騒ぎ、楽しんでいただければ幸いにございます。


クロノスも言っている通り、次回からは通常運転です。

多分今週の土曜日に、第6話を更新する予定です。


今回は本編が長めなので、あとがきは短め、最小限に。

それではまた次回、本編にて無事にお目にかけることが出来ることを願いつつ。

今回もお付き合い頂き、ありがとうございました!!

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