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ChronuKrisークロノクリスー 神威の戦士と少女皇帝  作者: T-M.ホマレ
本編 カタフィギオ帝国〜皇帝暗殺編〜
4/36

第4話 先手と後手

外征当日、早朝。

カタフィギオ帝国王宮エクソジア前に、約10万人の兵士からなる軍勢が整列していた。

その列の前に、クロノス、クリスティア、アイオロス、イーを中心とするカタフィギオの主要将官が並ぶ。

その中央、少女皇帝クリスティア・サンクトムが一歩前に出て、声を張る。


「時は来た! そなたらの日頃の努力のお陰で、このカタフィギオを取り巻く情勢は随分と安定して来た。皇帝として、カタフィギオの代表者として礼を言う!」


クリスティアの声は、各部隊の隊長格が所持している『伝令の魔石』によって軍の兵士全員へと行き渡る。


「残る脅威はカタフィギオの北に隣接する王国、アダゴニアのみである! 彼の国はこれまで、余直々の再三の同盟打診を悉く拒否して来ている! 此度の外征にて我らの力を示し、我等と共に歩まぬ事の不利益を思い知らせてやろうではないか!

ーー改めて言う。時は、来た! 此度の外征には総大将として余自らが前線に出る!

更に! ここに居るカタフィギオ戦力の両翼、"軍神"アーレスとイアロス騎士団も出陣する!

アダゴニアの兵たちは精強との呼び声が高いが、そなた達カタフィギオ軍兵士陣も決して負けてはおらん!

これらの戦力がある以上、我らに敗北は無いと断言しよう!

さぁーーカタフィギオに勝利を捧げる時だ!

功を得た者には褒賞も惜しまぬ!

この戦をもって、我が国の盤石を絶対のものとしようではないか!」


オーー!!!と、10万の兵士から鬨の声が上がる。

クリスティアはそれを眺めながら馬に乗り、『伝令の魔石』を外して傍のイーに言う。


「では征く。留守の間、頼んだぞ」

「はい、お任せください。ーーご武運を」


それだけの短いやり取り。

クリスティアはイーにうむ、と短く答えると、再び『伝令の魔石』を起動した。


「では、皇帝たる余に続け! ーーーー出陣だっ!!」


再び上がる鬨の声。

それと共に、クリスティア、クロノス、アイオロスを先頭とする10万の軍勢が北へと向けて駆け出した。

目標はカタフィギオ北部、アダゴニア王国。

両国の間に、山などの自然の要害はない。

アダゴニアには先だって宣戦布告をしてある。

じき、こちらの進軍に気付き迎撃に打って出て来るだろう。

両軍の衝突は国境付近になると思われる。

ーーいくさが、始まろうとしていた。



ーーーーー◇◆◇◆◇ーーーーー



ーーアダゴニア王国、王城。


「申し上げます! 先ほど、使い魔からの信号により、カタフィギオ帝国軍の大隊が我が国へ向けて進軍を開始したとの報告が来ております!

その数、約10万! 将軍として"軍神"クロノス・アーレス、およびアイオロス・イアロス以下イアロス騎士団の面々、ーー総大将は皇帝クリスティア・サンクトム自らの出陣です!」

「そうか。ーー予定通りだな」

「いかが致しますか、大佐殿?」


部下からの報告を受けた赤髪の女性ーーーアウレリア・カニス大佐は、部下の問いかけにため息をひとつ、漆黒の投擲槍を肩に担いで告げる。


「決まっている。こちらも『予定通り』だ。総員、配置に着くように各部隊長に伝えろ。ーー私達も出る」

「はっ。それでは失礼します」


辞する部下を眺めつつ、アウレリアは後ろで縛った長髪を軽く掻き、ため息をもうひとつ、こぼした。


「さてーーどうなるかしらね」


彼女に与えられたオーダーはふたつある。

そのうち一方は、『自軍の損害を最小限に抑えつつ、敵軍をほどほどに削った後、撤退せよ』とのものだった。

曖昧な上、無茶振りなのか何なのかもよく分からない指令に、「あぁーー今回も貧乏くじか」と最初はげんなりしたものである。

不可能ではない。無謀な作戦を言い渡すほど王国の上層部も愚かではない。

敵軍の将が皇帝であるのに対し、自分は大佐。が、能力が不足しているわけではない。

かつて、カタフィギオ帝国が先帝の時代に、僅かの兵で、クロノスとアイオロスが率いる部隊を同時に相手にして、部隊ごと無事生還した、という功績もある。

ーー彼女は、致命的に巡り合わせが悪かった。

戦場では、いつも旨みの少ない、それでいて危険の多い役どころを任された。

運の悪いことに、アウレリアはそういう局面をこそ乗り切るのが上手かった。


「結果として、上層部と兵たちに気に入られたのはいいけれど。なかなか『アタリ』を引く機会には望まれないのよね」


ひとりごちる。

この戦が終わり、作戦が上手くいった暁には将官への昇進を、と約束されているが、そんなことは割とどうでもよかった。


アウレリアの本命はもう一方のオーダーにある。


さて、と意識を切り替えて、アウレリアは自分の後ろに集っていた数十人の精鋭兵に向き直る。


「では、私達も出る。出陣だ!」


短く告げると、アウレリアの精鋭部隊は、音もなくその場から消えていた。



ーーーーー◇◆◇◆◇ーーーーー



「ーーーー」


クロノスは駆ける。

すぐ隣を駆けるクリスティアの事を気に掛けながら、ーーそして、少し遠く、右翼の兵を率いて駆けるアイオロスに注意を向けながら。

結局、あの密書の真意を問いただすことは出来ないまま、出陣の時を迎えてしまった。

あるいは、この戦で何かしかけるつもりかも知れない。そう、警戒を強めるクロノスだったが、


「っ! 主力部隊前方に多数の魔力反応あり! 陛下! 俺たちの目の前です! 数は少ねえが、もうすぐ接敵するぞ!」


その警戒網に、敵の影が引っかかった。


「む。早いな。まだカタフィギオ領内ではないか」

「あぁ、どうにもキナ臭ぇ。が、今はそれどころじゃ、無さそうだーー射殺す毒蛇の牙(ヘラクレス・ヘルファング)!!」


クロノスが馬上から魔力で編まれた大弓を顕現し、数百の牙を上空に放つ。

すると同時に、その数を上回る槍の雨が、クロノス周辺に目掛けて降ってくる。


「チィ、迎撃しきれねぇ! 総員、盾を構えろ!

魔力障壁を張れるものは前方から上にかけて展開! 盾の魔力補強も怠るな! アレは、ただの盾なんて突き破って来るぞ!!」


クロノスの指示が『伝令の魔石』を通じて全軍に飛ぶ。

直後、クロノスの牙を逃れた数百の槍が、帝国軍先陣、主力部隊に降り注ぐ。

クロノスの指示で防御が間に合った者もいたが、それでも幾らかは削られる。

そして、


「第二波、来るぞ! ーーさっきより多い! 進軍ストップ、一旦守りに集中しろ!!」


言いながら、クロノスは再び大弓を引き絞る。

共に先頭にいたクリスティアも、進むのをやめて防御魔法・聖域の壁(クリスティア・プロピリギオ)を展開している。

今回は槍の被害をほぼゼロに抑えたもののーーここに、カタフィギオ軍の進撃は止まり、見事足止めを食らう形となった。


「この槍の雨、この威力と規模。間違いねぇ、こいつは……!」

「こんにちは、クリスティア皇帝陛下。そしてお久しぶりです。軍神アーレス」


言葉と同時、漆黒の槍がクロノスの喉元へと飛んで来る。

クロノスが剣で弾くと、赤い髪が一瞬で離れていく。


「流石ですね。でも追っては来ませんか。今回は本当に子守に徹すると見える。ーー残念です」


言葉の先、赤髪が退いた場所を見ると、重装備の兵が数十騎。

その先頭に、黒い鎧と黒い槍を装備した、赤髪の女騎士がいる。


「なんと! 少数ではないか。この数の差であれば、囲んで殲滅してしまえば良いのではないか?」

「いや。確かにそれならこの場は勝てるでしょう。だが、それをするのは危険も大きい。

ーーアレは、オレとイアロス団長が組んでも殺しきれない女傑だ。それが率いてるとなると恐らくは精鋭部隊だ。圧倒的な数の差があるとはいえ、数でのゴリ押しはこちらの犠牲も覚悟しなきゃなんねぇ。加えてさっき突然現れたことや今の高速移動。おそらく囲んでも転移の魔法で逃げられる。

ーーそうだな? カニス!」


名を呼ばれた赤髪の女騎士ーーアウレリア・カニスは、獲物を前にした飢えた獣を想起させるギラついた笑みを浮かべて一直線にクロノスを見据える。


「その通り。改めて名乗りましょうか。私はアダゴニア王国軍大佐、アウレリア・カニス。皇帝陛下の先陣の功、妨害させていただきます。ーーついでに軍神でも討ち取れれば良いのですが」


アウレリアの請け負ったもうひとつのオーダー、それが皇帝の進軍の妨害である。

が、彼女としてはそのついでとしてクロノスと戦えることを望んでいた。

本隊と合流し、軍の指揮官として振る舞えばその機会は失われるであろう。

強者との全力の戦闘を望むアウレリアにとって、この電撃妨害作戦が唯一にして絶好のチャンスであった。


「へぇ。出世したじゃねぇか。オレ達から軍を守って逃げた時は確か、大尉だったか?

「えぇ、おかげさまで。貧乏くじを引くことが多かったもので。そういうアナタは、今や戦場で子供のお守りですか。嘆かわしい」

「言ってろ。オレはそういう挑発には乗らねぇからな」

「それは残念です。ええ、本当に!」


だから陛下も落ち着いてくださいよ、と、子供とはなんだ子供とは!と怒り気味のクリスティアをなだめる。


『ーーーー陛下』


と、そこに、伝令の魔石を通じて、右翼部隊のアイオロスから通信が入った。


『そういうことなら、右翼と左翼の兵は我々に預けて頂けませんか。このまま全軍足止めを食らっているわけにも行きますまい。我々が先行し、先に敵軍の本隊を牽制しておきます』

「う……む。やむを得ぬか……クロノス、どう見る?」

「そうだなーーー」


クロノスは一瞬、今のアイオロスに軍を預ける事に不安を覚える。

だが同時に、前方のアウレリア精鋭部隊から膨大な魔力反応が膨れ上がるのを感じる。

戦場での迷いは敗北を呼ぶ。迷ってる暇はなかった。


「仕方ねぇ。先陣を切るのは諦めてくれますか、皇帝陛下」

「うむ。心得た。右翼、左翼部隊の者ども、および後衛部隊の者どもに告げる!

これより余が戦線に到着するまでの間、軍の総指揮権をアイオロス・イアロス騎士団長に預ける! これの指揮により先行し、戦闘を開始! 余が到着するまで戦線を維持せよ!

……任せたぞ、イアロス!」

『かしこまりました。陛下も、ご無事で』


それだけ言うと、アイオロスからの通信が途絶える。

程なくして、クリスティアとクロノスが率いる主力部隊を除く全ての部隊が、隊列の再編成を始める。

アイオロス指揮のもと、再編された部隊はすぐに行軍を再開した。


「流石ですねぇ。あっちの指揮は騎士団長イアロスでしょう? 再編から行軍開始まで、一分の無駄もない」

「ハッ……他の部隊には目もくれねぇ、か。本当にオレ達だけが目当てのようだな」

「ええ、ええ。当然ですとも……!!」


ふと。正面にいた数十騎の敵兵が、忽然と姿を消す。

直後、クロノスの背後に大きな魔力反応が現れる。


「っ! お前ら、気をつけーー」

「遅いっ!」


爆音が轟く。

振り返ると、先ほどまで前方にいた数十騎と、カタフィギオ主力部隊が乱戦になっている。

そしてーー千人ほどいたはずのカタフィギオ主力部隊の人数は、半分近くに減っていた。


「ーーまぁ。ジャマになりそうな雑兵どもには少し黙って貰いますけどね。

ああ、安心してください。今の爆発はこの作戦のために用意した魔力爆弾。そう何度も乱発は出来ませんから」


クリスティアとクロノスの2人を、部隊から分断する形で立つアウレリアが、漆黒の槍をクロノスに突きつける。


「今度こそちゃんとお相手……していただきますよ」

「チィ、あいつら全員ワープ持ちかよ。……クリス陛下、壁は常に張っておけよ。"鎧"の防御力じゃぁ、あの魔槍は防げねぇ」

「う、うむ。心得た」

「まぁ、私としては、足止めさえできればそっちの皇帝には興味ないんですけど。そんなに心配で私との戦いに集中出来ないなら、先に大将首を取るというのもオツというものです」


アウレリアの姿が消える。

漆黒の槍が、クリスティアの細首を捉える。


「ックリスーー!!」

聖域の壁(クリスティア・プロピリギオ)ッ!!」

「何っ……!!」


が、その槍は、クリスティアの魔力の壁に完全に弾かれていた。


「ーーふん。皆して余を馬鹿にしおって。

クロノスよ! 余はこの通り、大丈夫だ! 皇帝として、カタフィギオ軍総大将としてそなたに命ずる! あの女ーーアウレリアとやらをここで仕留めるがよい!」

「なるほど。皇帝自ら出てくるというから、遂に気でも違ったのかと思いましたが、防衛対策は万全にしてきているようですね。まさか、それほどまでに強力な"壁"をお持ちとは。

これなら、安心して戦闘に集中出来ますね? "軍神"アーレス」


敵味方、2人の女性に睨まれたクロノスはため息をひとつつきつつ、一歩前に出て剣を構え直した。


「しょうがねぇな。ーークリス陛下。すまねぇな、馬鹿にしてたつもりは無いんですが、つい過保護になっちまってたようだ。詫びとして、そのオーダーに応えよう」


クロノスの体から強い魔力が滲み出る。

クロノスの正面にワープしてきていたアウレリアに視線と刃を向けると、完全に戦闘態勢に切り替わる。


「そういうわけだ。皇帝命令が出たんでな。今度こそお前はここで仕留める」

「フーーフフフ!! 嬉しいです。なかなか運に恵まれなかった私だが、遂にアタリを引いたらしい。ーーアウレリア・カニス。全力をもって、お相手します」


瞬間、瀑布のような刺突の壁が、クロノスを襲う。

クリスティアの訓練の時にクロノスが放っていたモノより威力も規模も格段に上のそれを、


「ーーはぁっ!!」


クロノスは更に数段上の突きの連打で相殺し、更にアウレリアに追撃する。

アウレリアはそれを後ろに飛んでかわし、すぐさままたクロノスの懐に飛び込んでくる。

槍を腰だめにして体重の乗った突き。これをクロノスは魔力放出の威力が乗った斬撃で弾き落とし、ふらついたアウレリアを袈裟斬りにする。

が、その刃はアウレリアの眼前で止まる。


「ーー魔力障壁か。なかなかの強度じゃねぇか。あの時より上がってやがるな」

「そっちの皇帝ほどじゃ無いですが。そういうあなたは、もっと本気を出してくださいよ? "軍神"の力、そんなものではなかったはずです」

「ハッ、押されてるクセしてよく言うぜ。ーーんじゃまぁ、ひと暴れさせてもらうとするかねぇ……!!」


クロノスの周りで渦巻く魔力が、更に濃くなる。

クロノスの手にあった剣が、いつの間にか大弓に変わっている。


「この距離の近接戦闘で槍相手に弓ですか? そんなもの、近付いてしまえばーーっ!?」

「変現技装"三式"、"収束型"ーーーー射殺す毒蛇の牙(ヘラクレス・ヘルファング)、ゼロ距離掃射!!」


拡散して放てば軍をも噛み殺す毒蛇の牙が、一筋の濃厚な魔弾として束ねられ、必殺の牙としてアウレリアに襲いかかる。


「くーー"転移"、間に合えーーーー!!」


ほぼゼロ距離で放たれた魔弾は、引き絞られた弦からクロノスの手が離れた瞬間に強制転移を発動したアウレリアに寸でのところで直撃せず、地面に突き刺さり爆発を起こす。


「くっ……ぁっ!」


その爆発範囲内に、転移(ワープ)したはずのアウレリアがいた。

魔弾の直撃は避けたが、爆発の衝撃と爆風によるダメージを受けている。


「ワープして飛び込んできた直後に無理矢理ワープしたから座標の設定が甘かったんだな。オマケに魔力障壁を張るヒマもないと来た。スキルのご利用は計画的に、ってなぁ!」


大弓の顕現を解除し、剣を持ったクロノスが、地面に刺した槍を支えに何とか立つアウレリアに近付いていく。


「く、舐め、るな!」


アウレリアは地面から槍を抜き、その勢いのまま地面を蹴って後ろに跳躍した。

転移は使えない。先ほどの強引な転移で、転移の術式回路が麻痺している。しばらくすれば回復するだろうが、とにかく今は頼れない。

距離を取りながら、アウレリアは漆黒の槍をクロノスに投げる。


「あぁ、そういやソイツは投擲槍だったな」


クロノスがその槍を軽く真横に弾き飛ばすと、黒槍はあり得ない、ほぼ直角な軌道を描いて上空へと跳ね上がった。


「ーーあぁ、そういうことか。そうだったな。この槍はーーーー」


上空へ消えた槍が落ちてくる。

降り落ちる槍ーーその"刺突"の数は、クロノスが弾いた槍の、ざっと千倍。

即ち千に届こうという数の"槍の雨"が、クロノスめがけて落ちてくる。


「魔槍ヒューエトス。投げても持ち主の手に戻り、上へ投げると雨のような刺突を降らせる対軍兵装。……最初に俺たちを襲った槍の雨は、やはりお前1人の手によるモノか。自ら跳ね上がって雨を降らせる機能まであるとは知らなかったけどな」


言いながら、クロノスは己に降る千の刺突を剣一本で捌いていく。

何てことはない。クリスティアに教えたことと同じだ。対応する攻撃の優先度を考えて、自分に当たる攻撃だけを順番に捌いていけばいい。


「火力が落ちてるな。いくら数が有ろうとも、無限ってわけじゃねぇんだ。この程度の威力なら、捌くのは大して難しくねぇ。厄介な持ち主も今はフラついてるコトだしな」

「ふ、フフフーーあぁ、相変わらずデタラメですね、アナタ。それでこそ軍神というものです。倒し甲斐があるというもの」

「減らず口だな。いや、今のお前には時間を稼げるだけで良いのか。まだ奥の手があるんだろう?」

「ええーーアナタを殺す()が、ね」


話すうち、クロノスに降り注いでいた千槍の雨は止み、魔槍はアウレリアの手に戻っていく。

と、そこに。


『ーークロノス。まだ足止めを食らっているのか』


伝令の魔石から、アイオロスの声がした。


『手短に話す。我が軍が3割程削られる被害が出ている。至急そちらを片付けて、陛下と共に前線に出ろ』


それは、カタフィギオ軍の劣勢を報せる、火急の通信だった。


どうも、T-Mです。第1話からお付き合いいただいてる方は四度も読んでいただきありがとうございます。

今回初めてご覧になった方は、ぜひ第1話から読んでいただきたく存じます。


というワケで、ChronuKrisークロノクリスー、第4話でございます。

今回は対アダゴニア王国戦、前編です。


一応、軍と軍のぶつかるいくさではあるのですが、その実内容はほぼ「強い将軍同士の個人戦闘」となっています。

本作品の世界観では、大きな戦の勝敗が、一部の強力な戦士や将軍の戦闘力に左右される、という現象が多数起きています。

その理由として、ひとつには戦や軍の形式が割と原始的であること、その一方でクロノスのような圧倒的強さを誇る戦士や、アウレリアの魔槍のような対軍兵装の使い手がいる事が挙げられます。


前者の理由は至ってシンプルです。

この世界の戦は、それこそ日本の鎌倉時代のように、一部の武将同士が「ヤァヤァ我こそは!」と名乗り合って切り結ぶような、一般兵は一般兵でバラバラになって戦闘し、ひとりずつ斬り倒しては首を取るような、原始的な戦いになります。


反面、後者。

そんなシンプルな戦闘方法の中で、クロノスやアウレリア(アイオロスなどもこれに相当するのですが、本編描写がまだないので今後のご活躍をお待ちください)のような戦闘力を持つ者がいる事は、馬と刀で合戦をしている時代に、戦車や戦闘機で乗り込んでいくようなモノなので、そもそもの戦闘規模が変わって来ます。

「格が違う」というやつですね。

当然普通の兵士が束になっても彼らは止められないので、そういう手合いはやはり同じく「格が違う」戦闘力を持つ者が相手をすることになり、その勝負の行方が結果として全体の勝敗を分けることになりがちなのです。

なので、今回のカタフィギオのように多人数の兵士を引き連れていく事は、戦力的意味合いより示威的行為としての側面が強いかもしれません。

無論、兵の練度が高ければ高いほど、強者同士が戦って足止めをしている間の制圧力は高まりますけどね。


ただ、アダゴニア王国に関しては少し、その辺り先進的だったりします。

練兵の強化、政治と軍事を絡めた戦略行動、強い魔法の開発、階級制度etc……。


……さて。今回はメインのあとがきが設定解説みたいになってしまいましたが、

前回から始まったチラ裏設定公開コーナー、今回も載せたいと思います。




……というわけで、チラシの裏の設定厨大公開コーナー、第二回。


今回は、アダゴニア王国の戦力を中心に見ていきます。


まずは今回、クロノスと直接戦闘をしたアウレリア・カニス大佐。

アウレリア・カニス

攻76防113知91政95魔122出134


ちなみに彼女が戦場では敬語を使っているのは、敵に対する皮肉という側面もありますが、一人の戦士としてクロノスの事を尊敬しているからです。

曰く、


「敵だからといって憧れちゃいけない、なんて法はありません。ーー憧れた相手だからこそ、全力で果たし合い、討ち取ろうとする甲斐もあるというものです」


とのこと。


続きまして、アウレリアが率いていた数十騎の精鋭部隊、その平均。

アウレリア精鋭部隊

攻86防95知80政70魔89出87


ちなみにアダゴニアの一般兵はこれくらいです。

アダゴニアの標準的な兵士

攻75防85知75政70魔85出75

(※参考・カタフィギオ一般兵

攻65防65知70政65魔75出70)


なお、クロノスたちが率いてるカタフィギオ軍主力部隊の平均値が、大体アダゴニアの一般兵と互角くらいの強さです。


クロノスがいた当時のアイオロスの騎士団を同時に相手取って逃げ延びた、という経験のあるアウレリア。

その強さの秘密は、防御力、というかなかなか倒れないしぶとさもあるのですが、それに加えて強力なーークロノスをもはるかに凌ぐ魔力関係の能力が大きいです。

その能力から、魔槍ヒューエトスの力を理論上常に全力で、それも連続で発動することができます。

ぶっちゃけそれでも制圧力は全力のクロノスには劣るのですが、クロノスのような圧倒的な敵が居なければ、大軍相手でも大抵は彼女ひとりで殲滅できます。

素の耐久が高い上に、転移・魔力障壁といった魔法を使えるので飛び回りつつ耐えながら、魔槍を連打して削っていく、という戦法です。


彼女のいう貧乏くじ、というのは、そんな、闘う楽しみもクソもない、作業のような戦場や、対イアロス騎士団(クロノス含む)のような、余裕のない撤退戦ばかりを任されて来たことを言います。

彼女は強者との死闘を純粋に楽しみたい、という、バトルマニア気質の戦士なのです。



と、言う訳で今週のチラ裏自己満設定大公開のコーナーでした。

ちなみに、カタフィギオ帝国二大戦力の方翼、アイオロスさんですが、まだ本編でバトル描写がないので、彼の戦闘の出番が回って来たら、紹介させていただこうかなと思います。


というわけで、次回は対アダゴニア王国戦、後編です。

クロノスvsアウレリアの決着まで書ければ、と思っています。


それではまた次回、無事に続きをお目にかけることができることを願いつつ。

今回もお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。

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