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ChronuKrisークロノクリスー 神威の戦士と少女皇帝  作者: T-M.ホマレ
後日談 イリーニ共和国〜シンパティア魔戦杯編〜
29/36

後日談第14話 決宣(けっせん)

中休み2日目・昼

決勝まであと2日



「……ふっ!!」


クロノスは木剣(ぼっけん)を振る。

頭上から眼前へと、まっすぐに振り下ろされた神速のその剣は、

しかし目標には届かず、サラリとかわされる。


「へぇ。この初撃を余裕でかわすとは、やるようになったじゃねぇか」


かわされたクロノスは、そして笑いながらかわした少女ーーイー・スィクリターリは、同じく笑顔とともに問い、答える。


「まぁ、クロノスさんの戦いを近くで見ていますからね。このくらいはできて当然です」

「お、言ったな?」

「ええ、私だってひとりの戦士ですから」


言いながら、イーは素早い連撃をクロノスへと繰り出した。クロノスはこれを落ち着いて捌く。


「おっと。珍しい攻めだな」

「……守ってるだけじゃ勝てませんからね」

「昨日のアレ、地味に気にしてるな?」

「……っ」


びく、とほんの一瞬身体な硬直したイーの頭に、クロノスはぽん、と軽く木剣を乗せる。


「ほい、一本」

「それは、ズルいですよぉ」

「はは、悪ぃ悪ぃ。で、どうなんだ? コノーニの次の対戦相手はオレじゃなくてイーちゃん、お前だが」


昨日、コノーニはクロノスに直接宣戦布告しに来た。クロノスが言う通り、次の対戦相手はイーであるにも関わらず、だ。

イーにとっては「お前は眼中にない」と言われたようなものだがーー。


「まぁそもそも、あの方は本命の目的以外眼に入らないタイプですし。それに、眼中から外してくれるなら好都合です」


私はそれに付け込ませて貰うだけです。

そう言いながら、イーはクロノスとの剣戟(けんげき)を再開する。

わずかな差だが、クロノスはイーの剣筋が落ち着きを取り戻したように感じた。お節介かと思ったが、一定の効果はあったようだ。




「はー、しかし師匠たちも良くやるねぇ。せっかくの休みだってのにさ」

「休みだからこそ、というやつであろう。身体であったり、戦意の高揚(こうよう)を途切れさせぬためのウォームアップのようなものなのだろう」

「ま、それは分かるけどさ。あたしもひとっ走りしてきたとこだし」


ぐい、と身体を伸ばしストレッチをするカロラとそのそばの木陰に座るクリスティアは、二人の剣戟を眺めながら話す。

カロラの目にはなんだかんだ言いながらも闘志があり、クリスティアは決勝に残った3人に穏やかな目を向けていた。


しばらく2人してクロノスたちの様子を眺めていたが、


「カロラよ」


ふと、クリスティアがカロラに声をかけた。


「次の試合、いよいよクロノスとの対決だな」

「……ああ、そうだ」


カロラが動きを止める。クリスティアはそれを見上げてニィ、と笑顔を見せる。


「遠慮はいらぬ。全力で勝ちに行くが良いぞ」

「いいのかよ。いや、いいのかってのもヘンな話だけどさ」

「やはりまだ迷いがあったか。先日も言っておったが、クロノスはその方が喜ぶぞ?」

「そりゃ、そうだろうけど……」


カロラが言葉に詰まる。どうにも今ひとつ、調子が出ない。


「クルラーナめを倒してひとつ、(から)を破ったのは確かであろう。しかし、それでもまだ、そなたの伸び代は多く残されている」

「そりゃああたしだって、アレだけで自分が強くなった、なんて思ってねぇよ」

「そうではない」

「……?」


訝しげなカロラに、クリスティアは立ち上がり、スカートに付いた草を払いながら向き直った。


「おごるな、と言いたいわけではないのだ。カロラよ、そなたはもっともっと、カロラ自身が思っているより早く、強くなる。クロノスもそれを楽しみにしておる。

だからーー」


師匠の期待に、応えてやってはくれぬか。

クリスティアは真剣な眼でカロラを見る。カロラは少し眼を泳がせる。泳がせてーー最後には正面からクリスティアの眼に向き合った。


「ーーーーったく。クリスからこうも活入れられちゃ、しょうがねぇな。けどさ、もしあたしと師匠がいい勝負して、最終戦前にケガでもしたらどうすんだよ?」

「心配は要らぬ。そのためのわたしだからな!もし万が一クロノスが重傷を負ったとしても、わたしが全力で癒すのみ、だ!」


えへん、と言い切ったクリスティアに、カロラは軽いため息のあと思わず笑い出した。


「む、なぜ笑うのだ」

「あはは。いやだってよ。勝ちに行けーとか言っといて師匠の怪我が万が一とか、師匠はわたしが癒す!とか、応援なんだからノロケなんだか分かんなくてもう笑うしかねーよ」

「の、惚気(のろけ)てるつもりなんてないぞ! 本当だぞ!?」

「分かってる、分かってるって。天然モノなのがクリスのいいとこだよなー」

「やはり分かっておらぬのでは!?」

「いやまぁうん。おかげで自分でもよくわからなかった頭ン中のごちゃごちゃがスッキリした気がするよ。

戦いの場に立ったなら、目指すのは勝ちただ一つ! 当たり前のことだったな」


カロラの目に宿る闘志が、よりはっきりしたものとして(とも)る。それを聞き、見たクリスティアが、ひとつ(うなず)いてまた笑顔になる。


「うむ! そう思えたならば問題ない! そなたには、そのくらいシンプルなのが一番良い」

「はは、まぁ、そうかもな。……うーし、やったるぜ!」

「お、こっちはこっちで女子同士、盛り上がってるじゃねぇか」


と、カロラが気合を入れ直したところでクロノスがやって来て、よっこいせ、と腰を下ろした。後からイーもついてくる。


「ちょっとジジくせぇぞ師匠。もう訓練は良いのか?」

「うっせぇ。ま、あんまやりすぎても、な」

「イーよ、問題はないか?」

「はい、クリスちゃん。良い汗をかくことができました」


いつものメンバーが集まって、(しば)し談笑する。

この島に来てから、もはやすっかりお馴染みの光景となっていた。


「あのさ、師匠」


そろそろ宿舎スペースに戻ろうか、というところで、カロラがクロノスの背を呼び止めた。


「どうした、カロラ?」


クロノスは足を止め、肩越しに応答する。


「こないだは流れで言っちまってたけどさ。もう一度、改めて言わせてくれ。

ーー次の試合、あたしはアンタに勝つつもりでやる。ひとりの戦士として、師匠の背中を超えてやる」


クロノスは背を向けたまま、しかし静かにカロラの宣誓を聞いている。


「だ、だから、その。……か、覚悟しとけよな!弟子だからって油断すんじゃねぇぞ!」

「は、それを聞いて安心したぜ。楽しみにしてるからな」


それだけ言うと、クロノスは再び歩き出す。(かたわ)らに笑顔の金髪少女を伴って。

カロラはその背中を決意の目で眺めて、少ししてから追いかけていった。




ーーーーー◇◆◇◆◇ーーーーー



中休み2日目・夜


「さて。コノーニ」

「ナンだいシーデロクン。ワタシは次の試合のイメトレで忙しいんダガ」

「イメージトレーニングとかするんですか貴女。そもそも、クロノスしか頭にないでしょうに」


闘技場内の宿舎スペース、カストロ・シーデロの部屋にて、アダゴニア帝国が擁するアイオロス騎士団、その副団長ふたりがその後の戦いに備えていた。

そのうちの片方、カストロは先の試合で既に敗退している。対戦表の巡り合わせにより、2人がいきなり潰し合うことになり、カストロはコノーニにーーひと悶着(もんちゃく)ありながらもーー勝ちを譲ることになったのだ。

その後カストロは、コノーニのサポート役として働いていた。


「まぁ良いです。暇をしているならちょうどいいでしょう」

「イメトレ、ダッ!」

「ではそれを中断して頂いて」

「ヤダネ」

「というかもう中断されているのでは?」

「ハッ!しまった、どういうカラクリ、ダ……??」


毎度ながらのよくわからないやりとりに、カストロは多少の頭痛を覚えつつ、とりあえず本題に入ってしまおうと頭を切り替えた。


「貴女に、もうひとつ秘策を授けます。準決勝突破はもちろん、クロノスの攻略にも役立つでしょう」

「…………ナヌ?」


コノーニが興味を示すと、カストロは二つの石を取り出し、解説を始める。

コノーニは珍しく、大人しいままカストロの話を聞いていた。



決勝の日まであと1日半を切っている。

こうして、中休みの2日めは終わってゆくーー。




ーーーーー◇◆◇◆◇ーーーーー


中休み3日目

決勝まであと1日



「いよいよ明日、だな」

「ああ」


朝の運動を終えたクロノスは、クリスティアの部屋に(まね)かれていた。

ベッドの上にクロノスがあぐらをかき、その内側にクリスティアが収まるような体勢で、2人は会話する。


「こうして2人でゆっくり話すのも、ずいぶん久しぶりな気がするな」

「この島に来てから、ずっと騒がしかったからな。……その、すまん」

「何を謝る。クロノスと一緒にここまで来れて、わたしは嬉しいんだぞ? それに、明日勝てばきっと、こういう機会も増えるであろう」


クリスティアが笑顔を見せる。この顔に、今までどれだけ勇気付けられてきたことか。

それに応えたい。この笑顔を守りたい。

胸の内で、クロノスは再度ーーもはや幾度めになるか分からないがーー決意を固くする。


「明日の戦い、わたしは誰が勝ってもおかしくないと思う。もちろん、わたしはクロノスの勝利を信じて疑わないがな。カロラとて、日々成長を続けている。油断していると、持っていかれるかも知れんぞ?」


クロノスは、前日に見たカロラの、迷いが消えた顔を思い出す。


「全く、この元皇帝さまは」

「余計なお世話だったか?」

「いいや、楽しみだ」


2人して笑う。

クロノスは当然のこと、負けるつもりは毛頭ない。だが、カロラも、イーも、……そしておそらくはコノーニも。

全員が己の勝利のみを考えてぶつかり合う。

だからこそ価値がある。それでいいとクロノスは考えている。


「ああ、だからこそ」


クロノスは自分に背中を預ける少女をそっと抱きしめる。


「く、クククロノス!?」

「明日は絶対勝ちを()る。獲って、その栄誉をクリス、お前に捧げよう」

「ーーーーうん。わたしも、楽しみだ」


クロノスの急な行動に一瞬慌て、顔を赤くしたクリスティアだったが、クロノスの言葉を聞くと、クロノスの腕にそっと手を添えて、穏やかな声でそう答えた。



その日一日はゆったりとすぎてゆく。

戦略の再確認をしたり、魔術式の用意をしたり、身体を休めたり。

各々の過ごし方をしつつ、中休み最後の日が終わって行った。



そしてーー



決戦当日。

4人の戦士と、たくさんの観衆が、武闘場に集まった。

観衆向けに、アナンシアによるアナウンスが流れている。


いよいよ、最後の戦いが始まろうとしていたーーーー。

どうも、お久しぶりですT-M.ホマレです。

第1話から読んで下さっている方は28度(正月特別編も入れると29度)もお付き合いいただきましてありがとうございます。

今回初めましての方は、ぜひ本編第1話から読んで頂けると幸いでございます。



というわけで、後日談も14話目となりました。なんと本編と同じ話数。終わりに近づいているとはいえ、これで本編超えの話数になるのが確定してしまうのでした。



更新ペースも結局半年明けてしまって面目ないのです。

とはいえ、年単位で開けずに戻ってこれたのは良かった、のかな?

皮算用ですが、完結したらまた短編とかでリハビリしたいですね。



さて、今回は前回に引き続き、戦いの合間の日常編でした。

日常描写だといつも筆が止まる私ですが、今回はわりとスムーズに書き切れたような気がします。

もっと面白い日常描写を書けるようになりたいですねー、などと思いつつ。


準決勝、決勝に臨む全員が、決意を新たに、あるいは戦いの準備をして、ぶつかり合うことになります。

まずは4人とも万全の状態で戦う準決勝。


決戦、始まる。

というところで、また次の更新をお待ちいただければな、と思う次第でございます。



それではまた次回、無事にお目にかけることが出来るよう願いつつ。

今回もお付き合い下さった皆様、本当にありがとうございました。


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