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ChronuKrisークロノクリスー 神威の戦士と少女皇帝  作者: T-M.ホマレ
本編 カタフィギオ帝国〜皇帝暗殺編〜
14/36

第13話 我が身命は祖国の為に



ーー衝突の中、目を覚ました。


「これは……」


前方では、クロノスが神の大斧を展開し、イアロスが拳に溜めた漆黒(しっこく)の魔力をもってこれを迎撃している。


「クロノス……わたしは、気を失っていたのか」


イアロスが起こした魔力の爆発に巻き込まれてからしばらくの記憶がない。傍らには、意識のないイーが倒れている。……おそらく、あの爆発からわたしを守ったことで限界が来たのだろう。その前の時点で、彼女の魔力はギリギリだったのだから。


「ーーーーっ!!」


(ごう)、と魔力のぶつかり合いによる衝撃が通り過ぎる。だがそれも一瞬。イアロスの拳はクロノス攻撃を斧ごと貫通しーークロノスは暗い魔力に呑み込まれた。


「っ……!!」


クロノス、と叫びたかったが、声が出なかった。身体も動かない。クロノスすら圧倒する闇色の魔力。その魔力が滲み出たこの空気に呑まれているのか、……あるいは恐怖か。ーーなさけない。クロノスは、ずっと前線で戦っていたというのに。クロノスは、いつだってわたしのそばで、わたしの前に立って、戦ってくれていたというのにーーーー。


「その闇は、神の滅び、神の世の終焉(しゅうえん)を体現する"神への毒"だーー」


イアロスが己が能力について独白する。クロノスにはおそらく聞こえていまい。クロノスはただ、闇の中で、苦しそうに(うな)っている。

ーー"神への毒"。"神の終わり"を再現するもの。あの魔力(やみ)は、こと神性を()びたモノに対して最強の威力を発揮する。……けれど、それならば。


「ーー俺の魔力もギリギリだ。この一手をもって、全てを終わらせるとしよう」


独白を終えたイアロスが、倒れたままのわたしに近付いてくる。ーーまだだ。ここは、ギリギリまで引きつけて、魔力を放つ準備をする。

幸い、イアロスの魔力を弾く結界は剥がれているらしい。クロノスが頑張ったのだろう。これならーー。

ーー落ち着け。大丈夫だ。今クロノスを助けずして/わたしがクロノスを助けずして。いったい、いつ/誰が、彼を助けるというのか。

……大丈夫だ。わたしは/余は、クロノスを救う!


やがて、すぐそばでイアロスの足が止まり、剣を振りかぶる気配がする。首めがけて落ちる刃を"聖域の壁(クリスティア・プロピリギオ)"で防ぐと、


「むーーーー!」

「告げるーーカタフィギオ帝国サンクトム王朝が皇帝、クリスティア・サンクトムの名において告げるーーーー!」


イアロスが怯んだ一瞬の隙に、わたしが今出せる全力の魔力とともに、言葉を(つむ)いだ。



ーーーーー◇◆◇◆◇ーーーーー



結界に覆われた玉座の間に。そして、闇に(とら)われたクロノスの心に、少女皇帝の声が響く。


「告げるーーカタフィギオ帝国サンクトム王朝が皇帝、クリスティア・サンクトムの名において告げる!

我が名、我が血、我が"聖域"の魔力を(ささ)げる!

聖者の庭よ、天の(くさび)よーー聖域の門よ!

我が全力を(にえ)として、"余"の最後の願いに応えよ! ーーこの者、我が最大の守護者、クロノス・アーレスに最大の加護を!」


詠唱は一息に。それに呼応して、クリスティアの周りに展開された"聖域"の魔力が、強い光を放つ。


「ーーは。起きていたとは小癪(こしゃく)な。だが無駄だ、無意味だ! この闇は"神の終焉(しゅうえん)"を体現せしもの。神の血に連なるあなたの魔力では、この闇に囚われたクロノスを救うことなど出来はしない!」


そう。誤算といえば、それだろう。アイオロスの"神殺し"は、クロノスを(さいな)む"闇の魔力"は、神を終わらせることに特化したもの。ーーけれど、それならば。


万事不侵たる(セイキ・プロスタシア)ーー」


『既に終わった神性』に対して、その力を発揮することは出来るだろうかーー?


「ーー聖域の加護(サンクトム)!! 我が全力の加護を受け取れ! クロノス!!」


青白く輝く"聖域の魔力"が、闇に囚われたクロノスを包み込む。その光は、アイオロスの闇を貫き、クロノスへと"加護"を届けた。


「ーーーーああ」

「な、に……?」

「届いたぜ、クリス!!」


青白い光を纏ったクロノスが立ち上がり、力強い笑みをクリスティアに向ける。それに、


「ーーうむ、クロノス!!」


同じくらい強い笑みで返し、クリスティアが答えた。


「……何故だ」


と、アイオロスが重々しく疑問を口にする。


「何故、我が"神殺し"の魔力を克服できた……? 陛下、あなたの"聖域"の魔力も神に連なるもののはずだ」

「ふむ。イアロスよ、そなたは少し、勘違いをしておるな」

「何をーーーー」

「余の、我がサンクトム家の血筋は、確かにかの"神の国"から繋がるものだ。"聖域"の力とて、確かに"神の国"の血筋に起因するものではあろう。……しかし、だ。我がサンクトムの血は、その"聖域"の魔力は、既に自らが"神"に、"神の力"に至れるほどのものではなかった」

「ーーーー」


アイオロスは静かに聞いている。ただ、目線でのみ、クリスティアに続きを(うなが)した。クリスティアはその目線をまっすぐに受け止めると、話を続ける。


「……『終わった神性』、既に力無き我らが司るは、飽くまで神々が座す聖域、そこの守護だ。"神の国"バシレイアが途絶えたのちは、(あるじ)なき、空の聖域を、それでもなお守り、有事の際にはその恩恵を解放する。神亡き後の、神の聖域。それこそが、サンクトムであり、余である」


まぁ、余自身は先日までその力すらも使いこなせぬ未熟者だったわけだが……と、やや語尾を弱くしながらも、クリスティアは説明を終える。


「つまるところ。陛下の"聖域"は、"神の力"の恩恵などではなくーー神にこそ恩恵を与えるものであったと」


なるほどな、とアイオロスは嘆息する。


「"神の子(クロノス)"に守られるだけではなく。それどころかむしろ本来、力を与え、守る側の存在であったということかーー」


ならばこの結果ももやは必定(ひつじょう)か、とアイオロスは笑う。笑いながら、別の方へとひとつ、問いを投げた。


「クロノス。お前は、このことを?」

「知らねえよ。"神の力"があろうがなかろうが、"聖域"だろうがなんだろうが、オレはクリスを守ると決めた。だから守る。それだけだ」

「……だろうな。お前はそうだろう。ーーああ、実に惜しい」


アイオロスはなおも笑う。ああ、自分の計算はほぼ正しかったのだと。ただひとつの、しかしあまりにも大きな掛け違えさえなければ、この問題は解けていたのだと。さながら解き間違えた難問の答え合わせに納得した時のような、スッキリとした感情をもって、アイオロスは笑っている。

そして、もうひとつ。


(ああーーやはり、お前は欲しかったよ。クロノス)


あの少女には、どうあがいても勝てそうにもないが、という苦さも混ぜて、アイオロスは一瞬だけ、微妙な表情を作った。


「……イアロスよ。そなたがサンクトム家の実態に気付けなかったことも、無理からぬことだと余は思う。バシレイア王家にまつわる記録は、その本流のものですら残っているものは少ない。まして我らのような亜流の血筋であればなおさらだ。ーー何せ、余自身ですら先ほどまで知らなかったことばかりなのだから」


クリスティアは、懐から父の手記を取り出し、アイオロスに見せる。


「そなたは余がこれを見るように仕組むことで、余に"神の国"の真実を知らせようとした。だが……この手記の内容はサンクトムの血を持つ者にしか見ることができない仕組みになっていた。つまり、そなたは父に仕えた経験や様々な外部情報からこの手記の中身を予測し、その上で余に伝えようとした。そして、その予測にはサンクトムの、"聖域"の加護の実態については含まれていなかった。……そうだな?」

「ええ、全くもってその通りです。どうにもあと一歩、詰めが足りなかったようだ」

「……余は、亜流だからと、"神の力"を持たぬからと、バシレイアに繋がる者としての罪が消えるとは考えてはおらぬ」

「ーーーー」

「だが……それでも。わたしは、クリスティアたるこのわたしは、クロノスのために生きると決めたのだ。だから、やっぱりこの首を差し出すことはできない」


許せ、と謝罪付きで示された、改めての決意表明。これを受けて、アイオロスは一度目を閉じ、一瞬真面目な顔を作ってーーそれからもう一度、先ほどより大きく表情を崩した。


「ハーーーーハハハハハ! 今更ですな皇帝陛下! 斯様(かよう)なことは先刻承知、さもなくばこの場はこれほどの戦場にはなっていますまい! ーーだが、俺とてまだ諦めたわけではない……!」


改めて剣を構えるアイオロスに、クロノスが剣を突きつけて牽制(けんせい)する。


「やめとけよ、アイオロス。アンタ、もうほとんど魔力残ってねぇだろ。こっちはクリスの加護貰って元気バリバリなんだ。流石にもう、勝負は見えてるぜ」

「フ、お前はお前で、そういう所で詰めが甘い」

「何?」

「そう思ったなら、さっさと仕留めれば良いのだ。それが出来ぬから、思わぬ反撃を喰らうことになる」

「そういうわけに行くかよ。……クリスはアンタにこの国を託すと言ったんだ。アンタに死なれちゃ、誰がこの国を引っ張ってくんだ」

「……そうか。ならば、『止めてみせろ』」

「ーーーーっ!!」


突如、アイオロスの全身から紅い稲妻のような光が発生する。と同時に、先ほどの"爆ぜ撃つ魔閃滅却(エークリクスィ)"や"森羅併せし終焉の闇(ガイア・ブレーカー)"にも匹敵しようかという量の、膨大な魔力の反応が、アイオロスの内部に現れる。


「これは……どういうことだ? イアロスの魔力はほとんど切れていたのではなかったのか?」

「アイオロス……てめぇまさか!!」

「そのまさかだ。俺は限界を超える、今、ここで! 我が身、我が命と引き換えの一撃だーーこれを止めねば未来はないぞ!」


紅い雷光はより激しく、魔力反応はより濃度を増し、アイオロスはよりその()を削る。

アイオロスが行使しようとしているのは、アイオロスが『本来持っていたはずの』魔術能力だ。"神殺し"として造られた時点で封印され、上書きされ、失われたはずの、アイオロスにとっての源泉ともいうべき力。アイオロス本人の魔力があるうちは"神殺し"としての魔力の存在が強力すぎるため表に出てこれず、魔力を使い切った状態では当然魔力を行使出来ないため、基本的に使用できることはない。

ーーが、今。"神殺し"としての魔力をほぼ使い切ったことで邪魔するものが無くなった今。残りわずかな魔力を媒介に、アイオロス自身の"生命力"を魔力の代替として消費することで、アイオロスは生涯一度の大花火を上げようとしている。その能力の名は"雷紅(スプライト)"。もともとは超高速、高威力の放電を行うものだが、アイオロスの全生命力の解放により威力が大幅にブーストされ、先の魔力の爆発をも大きく凌ぐものとなるーー。


「……クリス。アレを止めるぞ」

「クロノス……。うむ、あいわかった。わたしも残る魔力を全力で回す。思う存分、持っていくが良い!」

「おう。ーー行くぜ!!」


剣を構えるクロノスは、クリスティアからの"加護"により与えられた聖域の魔力で、青白い輝きを更に増す。

その、向こうで。


「魔力炉心、制限解除。魔導回線、暴走開始。

ーーーー限定解除(ロックオフ)固定解除(ロックオフ)限界突破(ロックオフ)

ーーーー我が身命は祖国の為に(オーバーキル・オーバーロード)


バチバチと音を立てる紅い(いかづち)が、臨界を突破しようとしていた。


あとがきっぽい何か

どうも、T-Mです。

まずは2週に渡って休載してしまったことにお詫びを申し上げます。半月も待たせてしまって申し訳ありません。


さて、というわけで、ChronuKrisークロノクリスー、第13話でございます。

第1話から読んで下さってる方は13度(年越し特別編も入れると14度)もお付き合いいただきましてありがとうございます。

今回初めましての方は、ぜひ第1話から読んでいただけると幸いでございます。


vsアイオロス、3話目。いよいよ戦いも決着が近づいて参りました。

今回はアイオロスのガイアブレーカーへの対抗と、更にアイオロスの奥の手発動、ということでお送り致しました。

次回、決着なるかーー? という感じです。




さて、今週のチラ裏設定大公開のコーナー。

今回はアイオロスの奥の手と過去編ピックアップの2つです。


我が身命は祖国の為に(オーバーキル・オーバーロード)

火力SS+ 防衛力D 射程A 範囲A 応用E 燃費E 命中S 備考:攻撃成功後、術者は死亡する

"神殺し"として造られなかった場合のアイオロスが本来持つ筈であった魔力特性"雷紅(スプライト)"を、アイオロスの全生命力と引き換えにして解放し、暴走させる、アイオロスにとっての最後の手段。

"神殺し"として造られた存在であるアイオロスは、その"神殺し"としての魔力の特性が強すぎるために本来の魔力特性を使用できない。"神殺し"としての魔力が切れている状態は、即ちアイオロスの魔力が空になっている状態なので、そもそも魔力の行使自体が不可能である。これらの理由から、アイオロスが"雷紅(スプライト)"を使用することは原則不可能なのであるが、「魔力をほぼ使い切った状態」で、「生命力を解放・消費する」ことでのみ、使用することが可能になる。ただし、行使者本人の生命を削って発動することで制御が不安定になり、暴走状態に入るため、威力は大幅に向上するが使ったら最後自分では止められず、死へと一直線である。


今回のラストに発動した、アイオロスの最終手段ですね。まぁ、術の性能設定ランク以外はほぼ本編で語られたことの焼き直しです。


続きまして、過去編からクロノスの"技装"をひとつ。


神現技装"四式"撃ち穿つ治嵐の雷拳(ポリュデウケス・デッドリー)

火力S 防衛力D 射程C 範囲D 応用D 燃費SS 命中C

対象に向かって雷速の拳打を放つ。その衝撃は放電を伴って対象を麻痺させつつ急所を穿ち、やがてその全身を焼く。単体の敵を確実に仕留めるための一撃必殺的な技で、姿や気配を消すことができる明鏡止水と組み合わせることで格段に成功率が上がる。

暗殺にも使えるが、打ち込んだ後、それなりに派手な音が鳴るので、大抵の相手には明鏡止水で近づいて普通に剣で仕留めた方が安全だったりする。


過去編一話目冒頭にて、クロノスが大猪を仕留めていた技ですね。

クロノスの"技装"シリーズは「クロノクリス」本編を書き始める前に一式から七式まで名称とルビと設定を作ったのですが、四式がこんなに出番ないとは思いませんでした。……いやでも、改めてよく考えたら結構使いづらいですねこれ笑



ーーー以上、チラ裏自己満設定公開のコーナーでした。

物語も終盤ですが、このコーナーのネタも切れそうで切れないのは良いことです。(フラグ)


今回でおそらくあとがきやタイトル、ルビ等を含まない本編総文字数が8万5千字ほどになりました。

アイオロス戦があと1〜2話、完結〜エピローグに約1話割くとして、もしかしたらその後で番外編をいくつか書くかもしれません。

もしも、誰々のこんな話が見てみたい! みたいなリクエストなんかがあれば、教えて頂ければできる限りお答えしたいなぁなどと考えております。もしよければ。


それではまた次回、無事にお目にかけることが出来るよう願いつつ。

今回もお付き合い下さった皆様、本当にありがとうございました。


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