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ChronuKrisークロノクリスー 神威の戦士と少女皇帝  作者: T-M.ホマレ
本編 カタフィギオ帝国〜皇帝暗殺編〜
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第1話 男(せんし)と少女(こうてい)

「はぁっ! せいっ! っかぁっ!!」


 怒号が飛ぶ。

 男が吠えると、その度に緋色の飛沫が飛ぶ。


「だっ! らっ!ーーせぃあ!!」


 円く観衆にーーそして、彼らが放つ、熱気を持った歓声や野次、あるいは罵声に囲まれて、一人の男が戦っている。


「怯むな! 掛かれぃ! ヤツを……ヤツさえ殺せば俺たちはーー!!」


ーー否。戦っているのは一人ではない。

 男の周りには武装した無数の戦士たち。それが、一人の男を囲んでいる。

 男がいるのは、"軍"と言っても差し支えない規模の戦士たちから構成される戦士の檻。

 視点を変えれば、ここでは夥しいまでの無数の戦士が、一人の男を相手に戦っていた。


「オイ、あんた」


 ふと。

 戦士の檻に囲まれたその男が、口を開いた。

 しかしその言葉は、観衆や戦士たちの声にかき消される。


「オレを殺せば、何だって……?」


 男は、構わず続けた。

 問いを投げられたはずの者は、既に物言わぬ肉塊(モノ)となっている。


「魔弾部隊! 魔力充填完了! 撃ち方用意ーー」


 その肉片を踏み荒らしながら、また別の戦士が指揮とも言えぬ指揮をとる。


「……はぁ。しょーもねぇ。つーかつまんねぇ。ーーーー終わらすとするか」


 激しい怒号や歓声の中。

 ややトーンの落ちた最後の言葉だけは、不思議と"檻"を構成する戦士たちに届いていた。

 殺気と共に届けられたその言葉に、戦士たちの間で刹那、恐怖が伝播する。


「ーーーーっ、ーーーー、ーーーーっ()ぇーーーー!!!」

「神現技装。ーーーー射殺す毒蛇の牙(ヘラクレス・ヘルファング)!!」


 魔力で編まれた弾丸が、四方八方から男に向かって殺到する。

 それらの弾が、男に届き、炸裂するーーそれよりもはるか数呼吸早く、いつの間にか男の手に顕現した大弓から、四方八方に向けて限りない数のーー"軍"と形容できる数の全ての戦士に行き渡るほどのーー射撃が飛んでいた。


「遅えっての。ったく、いくさ場でそんなビビっててどうすんだ」


 呟く男の手には、何の変哲も無い木の棒切れが握られている。

 この一撃によって、男以外のこの場全ての戦士にとっての戦いが終わった。

ーーーー否、更に否。実質それは戦いと呼べるようなモノではなく、殺戮に近いものであったのだが。


「"ヘラクレスの矢"……その具現。……神話、の、大英雄の名を冠した……貴様の奥義……か、っ……」

「即死を避けたヤツがいたか。だが残念ながらソイツは毒だ。致死性のな。ヘラクレスのヒュドラの逸話は知ってるだろ。……あんたももはや、終わった命だ」


 トドメをくれてやる義理もねぇがな、と男は死にゆく戦士の逆、先程まで戦士の檻が存在していた闘技場の、出口の方を向いた。

 視線の先に、若いーーというよりは、やや幼さを感じさせる少女がいる。


「うむうむ! 此度も"軍神"の名に恥じぬ戦いぶりであったぞ、クロノスよ!」


 男の名前はクロノス・アーレス。

 姓に軍神、名に時の神の名を冠する大戦士である。


「いやいや、そんな大したモンじゃないですよ、サンクトム皇帝陛下。ちょっと力んじまったら即座に全滅だ」

「むぅ。呼び方はクリスティアでよいと言うに。なんなら、王女時代のようにクリス、と呼んでくれても構わんのだぞ?」


 満面の笑みを浮かべながら近づいてくるこの少女の名はクリスティア・サンクトム。

 "聖域"の意を冠し、女性、更には齢14にしてカタフィギオ帝国サンクトム王朝第5代皇帝の座についた少女である。


「いやいやそういうわけにも。オレだってそれなりに周りの目ってやつを気にするんですよ?」


 クリスティアは王女時代、クロノスがカタフィギオ帝国に戦力として迎えられて間もない頃、


「クリス王女、あんたの命はオレが守るさ」


 と宣言し、果たしてそれが実現されて以来、妙にクロノスに懐いてしまい、


「気にするでない気にするでない。余とそなたの仲ではないか」


 クリスティアが皇帝になった今もこの調子であることに、やや頭を痛めるクロノスであった。


「ところで、だ」


 クリスティアの表情が、少し変わる。

 笑みはより強く、そして闘気のようなものをーー当人にしてみればそれは紛れもなく闘気そのものなのだがーー孕んだものになる。

 それを見て、クロノスの頭の痛さはより強くなる。


「闘いの後にはエキシビションというものが必要だな? な? なっ?

 ーーーーというわけでそなた、余に剣を教えるがよい!」

「はぁ、毎度毎度のことながら、やっぱりですか」

「当然だ。そなたは当代最強の戦士。そして余はその愛弟子にしてこのカタフィギオ帝国の皇帝だ。これはもう、我が国は安泰、最強と言っても過言ではなかろう!!」


 目をらんらんと輝かせて、満面の笑みで、「愛弟子」の部分を強調して言う。


「ふふふ。エキシビションだからと言って手を抜くでないぞ? これは余の、すなわち我が帝国の強化を目指す国策でもあるのだからな! 見よ! 観衆もそなたとその愛弟子による演武を待ち焦がれている!」


 繰り返し強調される「愛弟子」に、クロノスは先ほどの"戦士の檻"の時より遥かに気が重くなるのを感じる。

 皇帝を、ましてこの少女を、傷つけるわけにはいかない。が、あまり手心を加えすぎても別の意味でまた面倒なのだ。


「愛弟子、愛弟子……ねぇ」

「う。……ダメ、か?」

「…………む」


 今度はやや涙目である。

 実際のところ、クリスティアとクロノスの実力はかけ離れすぎている。ゆえに加減が難しいところもあるのだが……それ以上にこの少女のこの表情に滅法弱いクロノスであった。


「いや、分かりました。あんたはオレの愛弟子だ。全力でやらせてもらいますよ」


 いろんな意味で、と言う言葉を飲み込みながらクロノスが言うと、クリスティアの表情が再び輝きを取り戻す。


「うむ。うむうむ。そうであろう! 余はそなたの愛弟子だから、な!! だが……うむ。あの毒のやつ、アレはやめろ。余が死んでしまうゆえな。そこは加減せよ」

「さすがに、分かってますよ」


 それはもう、百も承知、というものである。

 クロノスの方では、クリスティアを害する気は毛頭ない。できる限り無傷で居させるのが自分の仕事だとも考えている。

 だから全力で相手をするのは気がひけるのだが、気が重いながらもそのリクエストに応えてみせるあたりがクロノスが一流の武芸者である所以だ。


「んじゃまぁ、始めますか」

「うむ! 全力で行くぞ!」

「はいよ!」


 男と少女の、さっきより少し難易度の高い剣戟が始まった。

 その剣戟の音は、少女の気がすむまで止むことはないのであった。


お初にお目にかかります。作者のT-Mです。

まずは本作を目に止めていただきありがとうございます。


本作は、"軍神"とも呼ばれる最強の戦士である主人公、クロノスが少女皇帝クリスティアを護りながら無双する、いわゆる俺強ぇ系小説です。

ガッツリバトルものなんで、クロノスとクリスティアの関係性も描きつつも、戦闘描写もしっかり入れていけたら、と思っております。


とりあえず原稿ストックのある年内は毎日更新、それ以降は週一くらいのペースで投稿していければと考えています。

今回はプロローグみたいなものなので、本編3000字を切る短さですが、次話以降から文字数は倍増します。


また、あとがきも、今回は挨拶程度ですが、そのうち(3話くらいから?)チラシの裏の設定公開コーナーみたいなものもやろうと思っています。飽くまでチラシの裏なんで、興味ない人は飛ばしてください、的な。


そういう感じで進めていきたいと思いますので、本作に興味を持って頂いた方は、是非とも今後ともお付き合い頂ければ幸いにございます。


それでは今回はこの辺りで。

また次回、無事にお目にかけることができるよう願いつつ。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

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