9 骸骨と現状整理
さて、狼がこの朽木とコケの森を滅ぼしている間に俺は俺の考えをまとめよう。とは言っても現状整理をするだけだがね。樹が倒れる音や、コケすらも枯れた跡から判断できる狼がいる方向や距離からの予想だが、この森はそれなりに大きいようだ。いかに狼が有能と言えど、しばらく考える時間はあるだろう。
まず、これから俺に何ができるかと言えば……なにもないんだよな。せいぜい狼との話し相手になるくらいだ。いや、それも重要なことではあるんだけど。俺と狼には互いに会話相手が必要で、だからこそ一緒に行動している。でもそれは俺と狼が差し出し合っているものであって、文字通り狼におんぶに抱っこな俺から差し出せるものは何もない。
つまるところ、俺はあいつの役に立ちたいのだ。今のままでは俺は狼の負担になるだけだ。戦闘でも索敵でもそれ以外でも、なんでもいいから俺に差し出せるものはあるのだろうか。
ひとつ心当たりがあるとすれば、俺にも魔力というものがあるらしい。魔力のない世界代表地球出身の俺からすればなかなか胡散臭いものではあるけれど、あるなら有効活用していかないとな。現状では会話したり動いたりしながら、身体を3回組み立てたら切れかけるほどだけど。
その魔力の量は決して多くはないだろう。増やす方法はあるのだろうか。てっとり早く増やす方法がないか、あとで狼に訊いてみることにしよう。これで狼にそんな方法はないって言われたら……うん、そのときになったら考えることにしよう。現実逃避ではない。決して。
そんなことを考えながらぐるりと頭蓋骨だけを回して辺りを確認すれば、狼が倒した20人ほどの集団が目に入る。彼らはみな狼の一撃で身体の上と下が分かれていたのだが、なぜだか既に白骨化していた。服すら消えている。当然俺の同類として動き出す気配はない。あれ、さっきまで普通の死体だったよな? 狼のよくわからない世界獣パワーのおかげなのだろうか。
さらに頭蓋骨を回転させれば、俺の首をホームランしたあとに狼によって自分の首も同じ運命を辿ってしまったあわれな男も俺のすぐ隣で白骨化していた。こちらも服や杖がなくなっていて、俺としては首を傾げるばかりだ。今やったら頭が転がっていくから実際にはやらないけどな。
『待たせたな』
すぐ近くの木が崩れ落ちる音を聞き、頭蓋骨をまた回転させれば、周囲にあった森はもう跡形もなく消滅していた。
『なあ狼』
『なんだ骸骨』
『お前のそばに生ゴミ置いたらすぐ処理できそ……あ、ごめん、まって、許して!』
結局俺は魔力がある程度回復するまで狼の足でボールのように転がされ続けるのだった。