8 骸骨と魔力
放物線を描く俺の頭部と、そこから見える景色。
俺の頭蓋骨を杖のフルスイングで打ち抜いた男は次の瞬間、狼によって俺と同じ結末を辿った。ただ俺と違うのは、その男は骸骨じゃなかったという点だ。頭部を失ってぐらりと倒れ伏す男。その隣でガシャッと崩れる俺の身体。
『お、俺ー!』
傍から聞くとすごい残念そうな声を出して俺は落ちていく。くそっ、また組み立てるのは骨が折れるって言ったばかりなのに! あ、骨が折れるっていうのはただの慣用句だからな。
というかこの状況は危うくないか? このままの勢いで地面に叩きつけられたら頭蓋骨が砕けるかもしれない。なんとかしなければ……!
空っぽな頭をフル回転させ、打開策を見つけようとしたところで俺の視界は突然切り替わった。一面の赤と、上下に並ぶ白。一瞬戸惑ったが、つまるところ狼の咥内だ。
『ナ、ナイスキャッチ……』
『骸骨、貴様、自分の身を守ることすら出来んのか』
崩れ落ちた俺の身体の上にそっと咥えた頭蓋骨を乗せた狼は、パシパシと大きな尻尾を地面に叩きつけながら俺を睨み付ける。はい、心配をかけて悪かったと思っています。
もう周囲に人の気配はないようで、残ったのは俺と狼と周囲に広がる血の海だけだ。狼の尻尾が巻き上げる赤黒い土を見ながら、俺は骨の上に頭蓋骨が鎮座した姿のまま狼の説教を聞いていた。いや、正確には組み立てて立ち上がろうとはしているんだが、どうにも上手くいかない。
しばらく説教をしていた狼も、俺がもとに戻らないのを見てだんだんとそわそわし始めた。
『おい骸骨、そろそろもとに戻れ』
『いや、それがさ、さっきからそうしようとしてるんだけど上手くいかないんだよ。なんでかわかるか?』
『ふむ……。……魔力切れの可能性があるな』
狼はしばらく目を細めて考えた後、ぽつりと呟くように言った。
『魔力? そんなの俺が持ってるのか?』
『持っていなかったら貴様は動かぬ骸骨のままだ』
『なるほど』
俺が魔力なんてものを持っているのか疑問だったが、狼の一言でとりあえず納得した。この身体に魔力を蓄えられる場所なんて骨しかないんだが。地球出身の俺としてはいまいち理解できないシロモノだな、魔力ってヤツは。
『じゃあその魔力がたまるまで俺はこのままなのか』
『そうなるな。しばし経てば問題なくたまるだろう。我はその間にこの森を滅ぼしてくる』
『……おー、気をつけろよ』
いかんいかん、狼が散歩にいってくる程度の感覚で滅ぼすとか言うもんだから、少し反応が遅れてしまった。こいつにとっては実際、散歩程度の意味なんだろうが。
森の奥へ足を進める狼の後ろを見送り、俺は大人しく魔力をためることに専念することにした。まあ、動けないだけだがな!