7 骸骨と初エンカウント
2/29の投稿って何か特別感がありますよね。
「かかれっ!」
俺が朽ちた森に目を奪われていると、突然そのような号令と共に俺の視界がぶれた。正確には、俺を乗せている狼が大きく後ろに跳ねた、ということだ。……穴を出た直後の二の舞は避けれたらしい。バラバラの骨を組み立てるのは気合を入れなきゃいけないから、一日に何度もやりたいことじゃないんだよな。日を置けばいいってもんでもないけどさ。
俺を背に乗せたまますたっと狼が着地したと同時、俺たちが直前までいた場所に、岩でできたような太い槍が何本も突き刺さった。既に誰もいない場所に轟音を立てて突き刺さった槍は、それが何も貫いていないと判明したが否や持ち手の部分からぼろぼろと崩れ始める。その欠片は落ちる途中でキラキラとした光の粒子を残して虚空に消えていった。
最後に残ったのはいくつも穿たれた穴の残る地面と、光の残滓。
ああ、これが魔法だ。狼のねぐらだった穴の中で魔法というものは一度だけ見た記憶が微かにある。俺はこの光の残滓で異世界を確信したんだよな。
『骸骨、貴様はここで降りて見ていろ』
『わかった』
少し苛立ったような狼からの指示に俺が大人しく従えば、狼は身を翻して森へ突進する。
すぐに森は騒がしくなった。倒れた大木の裏や中から人影がわらわらと出てくる。剣や盾を持ち鎧を纏う者、ローブに身を包み杖を握っている者など格好は様々だが、20人くらいの集団だ。
……俺がのんきに眺めていた森にこんなに人間たちが隠れていたとは。まったく気が付かなかったな。というかこれは、俺が動けるようになってからの現地人初エンカウントじゃないか? 会話もなにもないまま戦闘に入ったけどな。
俺がそんな感想を持ちながら眺めている中、人間たちは果敢に狼に挑み始める。剣を光らせ振りかぶる者、攻撃に備え盾を巨大化させ衝撃に備える者、魔法を行使するために詠唱を始める者。狼はそれらを面倒そうにちらりと眺め、くるりとその身を回転させた。
……俺にはそうとしか見えなかった。だから狼が実際に何をしたかは分からない。結果として残ったのは、変わらぬ佇まいの狼と一人残らず上半身と下半身を分離させられた死体の山のみだった。
俺と話していた姿からは想像ができなかったが、この狼、ものすごく強いみたいだ。これが世界獣の実力ってやつなのかね。
なるほどと俺が一人納得していると、俺の視界が再度ぶれた。
『骸骨っ!』
頭に響く狼の少し焦ったような声。頭部から見える視界に移るのはまるでホームランをしたかのような体制で杖を振りぬいている男の姿と、そのすぐそばにある首から上を失った俺の骸骨姿だった。
……え?