6 骸骨と異世界
『……すごいな』
『我が踏んだ地は植物まで死に絶えるのだ。この先はこのような光景ばかりになるぞ』
地面に目を落としても、本当に草の一本すら生えてない。死の気配だとかそういうのはわからないが、確かに穴の周囲に生き物の姿は見当たらなかった。曇り空の灰色と地面の茶色が遠くまで続いている。
いかに書物やゲームの中で数多くのファンタジーに触れてきた世界出身であるとはいえ、こうして実際に見ると迫力が違う。いままさに滅びのまっただ中にいるこの世界の住人には申し訳ないが、俺は目の前に広がるこの光景の美しさにある種の感動を覚えていた。
……本当にすごい。
『では行くぞ。しっかり掴まっていろ』
『えっちょっと待っ……!』
しかしその感動も長くは続かなかった。
狼が俺にそう声をかけ走り出せば、立ち止まった状態から急発進した狼の背中はあっと言う間に小さくなっていく。なるほど、この速さならあの少ない散歩時間でここまでの範囲を更地に出来るのも納得だ。
そして、この世界にも慣性の法則はあるのだと体感した俺はそのまま荒野の地面に墜落し、慌てて戻ってきた狼に見守られながらバラバラになった骨をみたび合体させるのだった。
『まったく、骸骨、貴様は脆すぎるのだ』
『驚かせたのは謝るって。機嫌直してくれよ』
『もともと損ねてなどいない』
いや十分損ねてるだろ、という言葉が出かかったが飲み込む。これ以上言ったら本当に拗ねてしまいそうだ。俺は優しい骸骨なんだ。
おそらく狼からしてみればずいぶん遅いスピードで、俺を乗せた狼は荒野を走る。それでも俺からしてみればずいぶん早いけどな。安全バーのないジェットコースターに乗ったときってこんな気分なのかね。ここが岩場じゃなくてよかった。
360度全方位が荒野な状況でどこへ行くのかと尋ねたところ、適当にいけばよいだろうという心強い答えが返ってきたので目的地は不明だ。しかし穴を出たときには遠くに見えていた森もだんだんと近づき、少しずつその全容が見え始めた。
『これが……森、なのか?』
『貴様が何を思い浮かべていたかは知らんが、これが森だ』
近づいた結果見えた森の姿は、俺が思い浮かべていたものとはかけ離れていた。朽ちて倒れた大木の上部に緑色のコケやキノコがびっしりと広がり、まるで葉のように見えている。枝を広げ葉をつけている木どころか、まともに立っている木すら存在しない。
森の地面には腐葉土が広がっていると思いきや、俺たちがいままで走ってきた荒野がそのまま続いている。
これがこの世界の森だと言うのなら、確かに終わりゆく世界という表現は間違いなさそうだな。