5 骸骨と引きこもり疑惑
『なあ狼、あんたは世界獣っていう割にはここに引きこもってるよな』
毎日ほんの少し散歩するだけでここに戻ってくるし。こいつが外に出ている時間と俺を齧っている時間なら後者の方がはるかに長かった。この調子なら世界を滅ぼすのに何年もかかるぞ。
『……我も目覚めたのはつい最近だ。これまでは我自身の性能を確認していたのだ。引きこもりではない』
『いやもっと練習しろよ。あんな短時間じゃ何もわからないだろ』
この狼、実は世界獣に向いてないんじゃないか? そんな考えが思い浮かぶ。
というか目覚めたばかりなのにこの喋り方なのか。こんな口調を組み込んでいる暇があるなら性能を確認しなくてもいいようにしとけよ、世界。
俺が文句を言えば、狼はフッと笑って返してきた。
『既にここ周辺は更地になっている。移動しようと思ったから、最後に貴様の骨を噛み砕きに帰ってきたのだ』
『怖ええよ! もっとマシな言い方あっただろ!』
世界獣に向いてないとか思ってごめん。十分この狼は悪役だし有能らしかった。
『じゃあ移動するなら連れてってくれよ。いまの骸骨姿ならあんたに乗っていけそうだし』
『いいだろう。乗れ』
いやっほう! 気分はスケルトンライダーだ。さすがに狼に咥えられての移動は断る。そもそもそんなことをしたら俺のパーツが何本か置いていかれてしまう。
いそいそと狼の背に乗る。広いなー。俺があと何人か乗れそうだ。そんなことになったら狼は嫌な顔をするんだろうけど。……って、あれ?
『骸骨。我の背を叩いてどうした』
『……俺、あんたの背中でもふもふしようと思ってたんだけどさ』
『……』
狼は何も答えない。ごめんよ。でも重要なことだ。
『あんたに触っても毛の感触がないんだ……』
『骨だからな』
『なんということだ……』
本当になんということだ。そりゃ骨だから触覚はないよな。齧られてもそんな感触はなかったから当然なんだろうけど。でも骸骨なのに会話出来て周囲の様子が見えるんだから、もふもふを堪能するくらいは許して欲しかった。世界め!
悲しみに暮れながらも狼の背中で位置を整える。そういえばこの穴から出るのは初めてだな。滅びゆくとはいえ異世界なんだ。どんな光景が広がっているかわくわくする。
狼が穴をジャンプして脱出する。その背中から落ちないよう必死で掴まり、その先に見えた光景は……一面の荒野だった。いま出てきた穴を中心に、円形に荒野が広がっている。その先に小さく見えるのは森だろうか。
狼がここから移動しようとした理由がわかる。なるほど、これじゃあこの穴にいても意味ないよな。