4 骸骨と世界獣の始まり
『さて、俺からも質問させてもらうぞ。世界獣ってのはなんだ?』
『……貴様の語りが真実ならば、知らぬのも仕方なしか』
狼が語ったことによれば、世界獣とは終わりゆく世界に止めを刺すために生まれる存在らしい。
この世界に生きる存在は生まれた時から世界獣のことは知っているという。だから俺が世界獣について知らないことこそが、この世界以外からの存在だという証明になるらしい。
生まれたときから知っているなんて、相変わらずの謎世界だ。
『世界獣が生物に止めを刺すって言っても、世界獣も生物だろうに。意味がわからん』
『世界獣は正確には生物ではない。世界獣は生きとし生きるモノ全ての敵であり、生者は我を見ると恐怖と嫌悪に染められる』
『俺はそういうのないけど』
『骸骨は生者ではないのだろう』
『ですよねー』
俺たちはそもそも生物の枠にすら入っていなかったのか。さすがファンタジー、なんでもありだな。
それよりも。
『恐怖と嫌悪ねえ……。あんた普通にかっこいいのにな』
だってそうだろう? 灰色の大きな狼なんて俺はいままで見たこともないし、男なら一度は憧れる存在だよな。
そう言ったら狼は金色の瞳を大きく見開いて左右に揺らした。照れているらしい。そりゃ生物は恐怖と嫌悪を抱くっていうならかっこいいとか言われたことはないのか。
『……そうか。我にとっては気づいたときから全てが敵で、滅ぼすものだからな。そもそもこうして誰かと語りあうことすらなかった』
『そりゃ大変だな。会話っていうのは大事だぞ。自我があるのに会話がないなら、いずれ狂っちまう』
『ならば我も狂いに向かって歩んでいる最中なのだろうな』
『……ま、それも過去の話さ。なんせ俺がいまここにいるんだからな!』
『……そうだな』
狼がふっと笑うのがわかった。こいつ狼のくせになかなか表情豊かだよな。
俺は骨として意識を持ってまだ数日だが、狼と会話ができなければいつかきっと狂って終わっていただろう。
なんの理由があって俺がこの穴の中で目覚めたかはわからない。偶然なのかもしれないし、誰かが企んだ結果なのかもしれない。もしかしたらこの狼が原因の可能性だってある。それに生物側にも骸骨の俺を受け入れてくれる奴はいるのかもしれない。
それでも、俺は骸骨であるいまの身体を気にせず受け入れ会話してくれるこの狼に深い感謝を送っている。狼が世界獣で、生物全ての敵だとか、そういうのは俺にとっては本当にどうでもいいんだ。
孤独だったこの狼に情が湧いたと言いたければ言えばいい。
俺はこいつと一緒なら世界だって敵に回せる……なんて、俺も骸骨になったときにどこかイかれたのかもしれないな。
ここまでがプロローグのような扱いです。
次からは世界獣の役割を果たしに行くはず。