2 骸骨と未知との遭遇
さて、齧られているとは言っても俺の骨はまだ無事だ。そのうち飽きて放り出してくれるかもしれない。今のうちに周囲を観察しておこうじゃないか。
この俺を齧っている推定肉食獣は、うーむ、狼だろうか。すらっとした体格と灰色の毛、金色の瞳の組み合わせはなかなかかっこいい。だけど大きさが俺の知っている狼とは違う。2、3メートルってところか?
残念なのは野生の獣なので肉球が柔らかそうじゃないところだ。特に触覚とかもないから実際にはわからないんだけどさ。でも明らかに硬そうな肉球をしている。
現在地はどこかの窪みの中。周りは一面岩の壁で、上から覗く空は雲ばかり。まるで落とし穴のようなこの場所からは外の様子はわからない。
ここはこの狼の巣だと思うんだけど、食料とかはない。あるのは土の地面と、数人のもの言わぬ骸骨だけ。いや、こいつらは本当に何も喋らないから同族とはちょっと違うかもしれない。骸骨という意味では仲間だけど。
たまにこの狼が俺を放り出して外に飛び出して行くんだが、今のうちに合体だ! とか思って気合いれているうちに帰ってきちゃうんだよな。もっと長い時間食料探して散歩してくれよ。
そうして帰ってくるとまた俺の右大腿骨を齧りだす。おかげでその骨だけ歴戦の戦いを潜り抜けてきたかのように傷だらけだ。他の骨は新品みたいなのに。
……あれ、俺って詰んでる? いやいやそんなことはないはず。今は耐えるときだ。
そうして3日。
この灰色の狼は毎日短時間の散歩にいって、俺を齧って。たまに寝て。
穴から見える空も相変わらず灰色で、雨が降ることはなかったけど晴れることもなかった。地球の前世では曇りが一番過ごしやすいと思ってたけど、こう曇りばかりだと飽きる。ああ、太陽が恋しい。
そしてついに俺が恐れている事態が起ころうとしていた。
がじがじっ、みしっ。
『あっ! まって! そこに力かけたら折れるから!』
『……む? いま我に話しかけたのは誰だ?』
……うん?
『狼が喋った!?』
『……話しているのはこの骨、か?』
おお、未知との遭遇。目の前の狼は金色の目を細めて、何かを確かめるように話しかけてきた。だけど口はさっきから俺の骨を齧っているから実際に言葉を発しているわけじゃない。
なんだこれ。
でも一番は、俺って喋れたんだ……! という謎の感動だった。
骸骨でもコミュニケーションは大事らしい。俺は自分で思うより会話に飢えていたみたいだ。