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懲りない男の伝説  作者: 麒麟
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「......また君なのね」

「またとはなんだ。またとは。こっちは怪我人だぞ」


 小さな町の小さな病院のとある病室。そこのネームプレートには『蒼野 雄大』と書かれていた。

 その部屋のベットには、頭や腕、至るところに包帯を巻いた男がいた。


「そう言いたくもなるわよ。もう何回目かしら。知ってると思うけど、ここ、君の専用の病室なのよ」


 ピンクの髪のショートカットのナース、伊藤 春子さんは呆れたように言った。


「そうか、これで一つスッキリした」

「......一応聞くけど、何しら?」

「専用の病室を持つことだ。何かでよく入退院を繰り返してる人には専用の病室があると聞いた。それが本当なのか気になっていたのだ。最近ここに運ばれるからもしやと思っていたが...なんだ、早く言ってくれよな」

「...はぁ。で、今回は何をしたのよ」


 春子さんはため息をついて、雄大に聞いた。


「長い坂道を自転車でノーブレーキで下り、近くのコンビニにドリフト駐車はできるのかと気になったんでな、やってみた」

「またバカなことを...そんなできないにきまってるじゃないの」

「やってみなきゃわからんだろ」

「で、結果は?」

「コンビニに到着前に交差点で軽自動車と衝突した。そして自転車は大破した。相手の車の方にも相当な傷を負わせた。ふっ、これで俺だけなら納得できなかったが、これならまぁ許容範囲だろう。新しい自転車の代金と入院費はあっちもちだからな」

「全く、君って子は...これに懲りたらもう止めなさいね。こんな分かりきったこと」

「春子さん、俺のモットーをしってるだろ?」


 雄大の言葉に春子さんは少し考えてから答えた。


「たしか、『我道を行く』だったかしら?」

「正確には『我道を行く、何人たりとも邪魔はさせん。たとえ、どんな結果になろうとも』だ」

「そんなモットー捨てなさい!」

「なぜだ?これがないと生きていけんのだが?人は生き甲斐がないと生きていけないんだよ。俺の場合は『気になったものを調べる』だ」

「分かりきったことを、でしょ?全く...」






 伊藤春子は実は人間ではなかった。その正体は、暇をもて余した女神様であった。

 伊藤春子としてなったのは三年前、この病院で働くようになったのも三年前だ。春子はそこで初めて当時まだ中学一年生だった雄大に出会った。というよりも出会ってしまった。


「あ、あの。すみません、ちょっといいですか?」

「ん?なんだね?あぁ、新しく入った伊藤くんだね?」

「は、はい。あの、あの中学生、先週も来てたと思うんですけど、なにか持病があるんですか?」

「中学生?あぁ、雄大くんだね。雄大くんはそんな持病ないよ。強いて言うなら、頭、だね」

「.....はい?」


 当時の春子は、医院長の言うことの意味が分からなかった。気になった春子は雄大と話してみることにした。


~中学一年の雄大~


「ねぇ、雄大くんだよね?君はこの前も来てたけどなにをしたのかな?」

「ん?あぁ、確か新しく入った看護婦さんか。今回はな、学校で出会う男子に片っ端から回し蹴りをしてみたんだ」

「......それで返り討ちにあったのね?」

「いや、ちょっとミスってな」

「どういうこと?」

「間違って女子にやりそうになったから、慌てて軌道を変えたらそこに柱があってな。見事、骨折だ」


 雄大はそう言いながら、右足を指差した。


「なんでそんなことをしたのかしら?」

「一般的に腕よりも足の方が力があるというだろ?俺の場合はどうなのかきになってな。この前は平手打ちをしたから、今度は回し蹴りにしたんだ。結論的にいうと、回し蹴りのほうが人は飛ぶ

「......そんなことやる前からわかってたでしょ?」

「わかってはいない。予想だけだ。俺は99%間違いない予測でも、やるぞ。なんそ1%の確率が残ってるし、中には予想外の答えなんてものもあるからな」

(......この子、バカなのかしら?)


~中学二年生の雄大~


「こんにちは。雄大くん。今日はどうしたの?」

「春子さんか。今回は大したことないぞ。修学旅行先のお土産屋で木刀を買って、夜中に抜け出して生徒指導の先生に挑んだだけだ」

「なんでそんなことをしたのかしら?」

「筋肉がけっこうあったし、なかなか強そうだったからな。戦ったらどうなるか気になってな」

「そんなの勝てるわけ...」

「勝ったぞ」

「え?あれ?たしかに怪我はしてないわね。でもなんでここに来たのかしら?」

「生の牡蠣にあたった」

「あらら.....」

「生徒指導の先生は見かけ倒しだった。あれならわざわざ木刀買わなくてよかった。素手で十分だった」

(なんなの、この子...)


~中学三年生の雄大~


「.....雄大くん、もう高校受験の前なのよ?何してるのよ」

「そんなこと言われてもな」


(はぁ、なにこの子。頭が少しおかしいのかしら?やっぱり人間だからかしら。でも、他の人間は大分まともよね... )


 春子はしばらく様子を見ることにした。






 そして現在。彼女は女神として使命を与えられていた。それは、他の世界に人間を送ること。つまり、召喚として送り届けることだった。


(誰を送ろうかしら。もういっそ適当に...あ、彼なんてどうかしら。さすがに異世界に行けば自重するはず...)


「ん?なんだ!?」


 そして彼女は決行した。






「雄大くん。君には異世界にいってもらいます。一応死ぬことはないようにしておきますので、がんばってくださいね」

「春子さん?いきなりどういーーー」


 春子は有無を言わさず決行した。






 そして春子は雄大を選んだことを後悔した。







「おう!勇者よ!よく来てくれた!きみには魔王を倒して貰いたい」


 雄大が目を開けるとそこには、いかにも王さま!という感じの人と、いかにもお姫様!という感じの人と大勢の騎士っぽい人達がいた。


(なんだ?ここ。春子さんは異世界がどうとか何とか言ってたよな。まさか異世界召喚されたのか?)


「どうした勇者よ。あぁ、突然のことで困惑してるのだな。仕方もないことだ」


(無駄に広いな。ここ本当に召喚されたとしたらおそらく城だろうな)


「勇者よ、何かいってはくれまいか?」


 ここで雄大のいつもの悪い癖がでてしまった。


(あれ?もし俺がここで魔王を名のったらどうなる?いや、魔王っていうくらいなら顔は知られてるだろうな。なら、魔王の眷族でどうだ?よし、やるか)


「フハハハハハハハ!!!我は大魔王の眷族なり!」


 暫くの沈黙。そして雄大は意識を失った。

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