実験結果
フォル視点です。
会話がほとんど。2000文字です、長っ。
次回が最終回になりそうです。本当はここで終わらせるつもりだったけど長くなったので分割です。
階段まで戻ってくると、お兄さんと魔王が一緒に居た。
見た感じ二人の仲は良さそうだ。
二人は私が戻ってきたことに気づくと話を止めた。
そして泣き顔のまま私の腕にしがみついている勇者君を見て驚いたような顔になる。
『戻ってこられましたか。ご無事で何よりです。
・・・・・それと、勇者様はどうなされたので? 姫の姿も見えませんが・・・。』
「あー・・・まぁ、いろいろあったんだ。それと姫様は置いていくことにしたから、これからもよろしく頼みます。」
私はペコリとお辞儀をする。
お兄さんは「はぁ。」とよく分かっていないような顔をしたけど、構わずに姫様は任せよう。っていうか私じゃどうしようもない! きっとあのオークさんたちが説明してくれると、そう信じよう。
二人は頭に疑問符を残したままだったけど、勇者君を心配してかそれ以上何も聞いては来なかった。
・・・・・魔物に心配される勇者って・・・締まんないなぁ・・・。
☆
地上に上がるとやっぱり魔物たちが寄ってきた。
でもさっきみたいに興奮してはいないみたい。魔王の安心したような顔を見ると、多分何か一悶着あったんだろうな。
その後魔王は魔物たちにばらく居なくなることを説明すると、また魔物たちは魔王に攻め寄った。
今度は魔王を助けてやろうと補足する。私がいるならいつでも戻ってこれるから、と言うとみんな少し落ち着いたようだった。
その後私は勇者君を魔王に任せると、当初の目的を果たそうと宰相さんの元へ向かった。
驚いたことに宰相さんはさっきのお兄さんだった。だから魔王と仲良かったのか。
私の事情を説明すると、宰相さんは語り始めた。
『まず、この世界に勇者はたくさんいました。』
「まぁ、王様が募集していたからね。」
『おや、ご存知でしたか。
だけどそれらは報酬目当てのアホがほとんどだったのです。
故に勇者たちは次々と負けていって、魔物たちの好きにされていきました。』
「え? 私はてっきり殺されるもんだと思ってたけど?」
『魔王は人間に対しての扱いを特に決めていなくて「勝手にしろ」という状態でしたので。だから皆本当に勝手にしてます。
ある者は殺したり奴隷にしたり、・・・物好きな者は結婚したり、下僕として飼ってもらったりもしているようですよ?』
「本当に自由だね!?」
『えぇ。・・・ですが、それが出来たのは下級の者だけでした。
それを上級の魔物たちは退屈に感じ始めたのです。
退屈になった者たちはみんな町を襲っていったり、その近くの場所に住み着き始めました。
上級の魔物なんてそんなもの、ただの騎士や紛い物の勇者に勝てるわけありません。
ただでさえ魔物に好き勝手されていた町は、それでさらに酷いものになりました。
このへんで魔王も退屈に感じ始めましたね。』
「・・・・・私のせいだけど、酷いもんだね。絶望的だ。」
『えぇ。ですから自殺するものが後を絶たなくなりました。生きていても辛いだけですからね。』
「・・・・・・・・・。」
『・・・だけど世界から希望はなくならなかった。
いなくなった勇者の代わりが現れたのです。』
「っ!?」
『それはかの国の王子。連れ去ってきた姫の弟でした・・・。
王子はこんな世界を変えようと、自国の兵を率いて自ら旅立ったのです。
最初はただのアホだと思って返り討ちにしてやろうとしたのだけれど、なぜか相手にならず魔物たちは皆、次々と王子に倒されていきました。』
「・・・ん? でもそんなやつがいるのなら、なんで魔王は退屈だったのさ?
むしろ喜んでそうなもんだけども。」
『魔王は王子のことを知りませんでしたからね。
というか多分、この城にいるヤツで知ってるのは私だけでしょう。』
「えぇ!? これ下手したら大惨事になりかねないだろうに、なんで教えないの!?」
『だってその方が面白そうじゃないですか。
それにあの王子は知らなかったのです・・・我々は何度でも蘇るということを。
だから王子たちは何度も苦戦を強いられています。
下級魔物も上位魔物も、いくら必死に苦労して倒したところで復活されてしまうのです。キリがありませんよ。
復活を止めつつ倒せるのは、勇者の剣しかありません。
そしてソレを扱えるのは真の勇者・・・ここにいる泣きっ面の勇者だけなのです。』
「もしかして現在進行形なのコレ!?」
『えぇ。ですが王子たちがここに着くのはおそらく何年か先のことでしょう。』
「そっか。・・・新しい主人公の誕生、か・・・」
この世界はハッピーエンドが好きなのかもしれないなぁ。
それに彼は勇者君よりも勇者らしいや。光の王子様の誕生か。
・・・・・・あぁ、でも・・・・。
「救われない主人公だなー。
たとえ世界は平和になっても、攫われたお姉さんはもう堕ちちゃってるんだよ?」
『えぇ。たとえ世界はハッピーエンドでも、王子は絶望バッドエンディングですね。』
ごめんね、名も顔も知らない王子様。
私は心の底から謝った。・・・心の中で。




