勇者の剣と本の魔法
呼び出した勇者の剣を手に取った途端、再び剣が光りだす。
でもさっきよりは全然マシだった。まだ目を開けていられる。
「あ、あれ・・・?」
なんでだろう、力が溢れてくる。
まるで僕はこの剣を前から使っていたような・・・それくらい、びっくりするくらい馴染んでいる。
とりあえず手に持った剣を軽く振ってみる。
やはりというかなんというか、剣はヒュンヒュンと風を切る音を立てた。
軽い。本当に軽い。こんなに立派な剣なのに、重さをほとんど感じない。
「不思議な剣だな・・・」
「そりゃー、やっぱり君が勇者だったってことだろ?
勇者の剣なんだろうしさ。」
『ニーチャンカッコイー!』
『ユーシャサマカッコイー!』
「うっ・・・! そ、そんなこと・・・」
いきなりカッコイイなんて言われると照れてしまう。
これなら勇者でもちょっとは悪くないかな、なんて思ったり。
・・・・・・・・・で?
「これをどうしろと?」
「ん?」
あぁ、そうだったねとフォルは思い出したように言うと、腰に下げていた本を取り出した。
「じゃあ私も・・・『召喚』、呼び出すのは適当な雑魚あたりでいいかな。勇者君の相手に丁度よさそうなやつを頼む。」
「えっ」
フォルがそう言うと、彼女の目の前に片手に収まるくらいの小さな青いダイスが2つ現れた。
ダイスには1~10までの数字が書いてある。
「成功確立は・・・うーん、まぁいつも通りMPx5でいいか。」
そう言いながら彼女はダイスを手に取り、上に放り投げた。
フォルセティ
召喚(18x5)・・・出目03 クリティカル
「げっ、クリった!」
「え?」
ダイスが数字を出した途端、彼女の持っていた本がバラバラバラッと勝手にページを捲っていく。
そして開かれたページには
『ふんぐるい むぐるうなふ いたかぁ ざ うぇんてぃご
くはあやく うぐるむぶるん いや いたかぁ』
と書かれていた。
それを見たフォルは「うっそぉ・・・マジか・・・」と呻きながら本を落としてしまった。
普段からこの魔法を使っているはずのフォルが呻いて本を落とすほどだって?
いったい何が起きるんだ、と思った瞬間。
落ちた本から青白い炎が僕らに向かって吹きだしてきた!
「うわぁっ!?」
『キャーッ!?』
『ワーッ!?』
「く・・・っ! 勇者君!」
フォルは落とした本を拾って、僕の元に飛び込んできた。
「がっ・・・・!?」
思いっきり体当たりを食らったけど、そのおかげであの炎から回避することができた。
「だ、大丈夫!?」
「うっ・・・うん。助かったよ、ありがとう・・・」
『ユーシャ、ダイジョウブ? ダイジョウブ?』
『イタクナイ? ケガシテナイ?』
「大丈夫だよ。シオンたちは?」
『ダイジョーブ!』
『ダッテ、ボクラモウシンデルモン!』
『『イタクナンカナイヨー!!』』
「あ、そ、そうなんだ・・・」
青白い炎は空中でうねり、逆巻き、霧を吹き出していく。
揺れる炎は徐々に姿を変えていく。
そして浮かび上がるは人ならざる者。
恐らくは目なのだろう、二つの光がギラギラと輝いている。
しかしソイツが僕らを見つめる目は酷く虚ろでおぞましい。
実体が炎だからなのだろうか、姿が何度も変っていく。
周囲を覆う冷気が強烈になり、肌を刺すような痛みが襲う。
こ、こいつは・・・!?
「フォル! コイツはいったい!?」
彼女は冷や汗を垂らしながら引きつった笑みを浮かべて答えた。
「コイツは『風の中を歩くもの』・・・イタクァ!」
分かる人はもう分かる、フォルの持ってる本は・・・
次回はイタクァ戦。バトル描写は初めてなので読み苦しいとは思います。見逃してください。