薬の魔女の実験
コツコツコツ、と僕らの足音だけが響いていく。
天井まで届きそうなほど大きな本棚いっぱいに分厚い本がしまわれているこの部屋はそれなりに広く、扉までつくまでにも結構歩いた。
ギイ・・・ッと重い音を立てながら扉を開けると、これまた広い通路が目に入った。
この通路は大きな窓がたくさんあってとても明るい。
さっきの部屋は窓がなかったからわからなかったけど、どうも今は夕方だったらしい。空が朱色に染まっていた。
「わー、もう夕方だったんだねー。時間がたつのは早いもんだ。」
「君も分かってなかったの?」
「いやー、私はいつもあそこに引きこもってたからねぇ。
・・・それはそうとこの空、君の髪の色によく似ているね。」
「えっ、いきなりどうしたの?」
「・・・私がこういうこと言ったらおかしいかい?」
「なんか・・・その、意外だと・・・。」
「むぅ。・・・まぁいいか。
じゃあこの街について話していこうか。少し嫌な話だけど、気楽に聞いてよね。」
嫌な話なのに気楽に聞けって?
なんて思ったけど、僕は先に進んでいく彼女についていきながら話を聞くことにする。
「この街『ミッドガルド』は昔、この国の王都だった。
この国一番の大きさで、一番綺麗な街。ここに住んでいる人はみんな幸せそうだった。
・・・だけど数年前、突然大きな事件が起きたんだ。」
「事件?」
「あぁ。それはとある一人の魔女が原因だった。
彼女は魔法の薬を作って売っていた。彼女の薬はとても良く、この街どころか他の国にも彼女の名を知らないものはいなくなるほどに有名になった。
『彼女の作る薬はなんでも叶える、直してしまう』とみんなが言った。
『彼女が作る薬には失敗がない。副作用もない』とみんなが答えた。
でも本当はそんなことはなかったんだ。失敗もなしに良い薬なんて作れない。
・・・彼女は新しい薬を作るたびに実験をしていたんだ。この街の人を使ってね。」
「なっ!?」
「アイツは偉い立場の人間でね、街の人間を使って人体実験をしていたことは最近まで誰も知らなかった。・・・もちろん、私も。
そして、アイツはあの日も『いつものように』実験をしたんだ。
私はアイツが本当はどんな薬を作ろうとしていたのかはよくわからない。ただ、アイツが当時未完成だったであろうその薬を彼に打った結果・・・」
そこまで言うと、彼女は立ち止まって黙ってしまう。
僕はそこで、彼女は本当は言いたくないのかもしれないと思った。
・・・でも、続きを聞かずにはいられない。
「ど、どうなったの・・・?」
僕が催促をすると、彼女は重い口を開いて言った。
「突然黒い煙が実験体の体から噴出し始めた。そしてその煙は彼を中心にどんどん広がっていって、やがて街全体を覆い始めた。
そしてその煙に包まれたものはみんな・・・死んだんだ。」
「・・・・・っ!?」
この街の人間全員が・・・死んだ!?
「あぁいや、この街の人間『全員』ではないかな。私は魔法使って身を守ってたからね。
ただ王族達は自分たちのところにまで広まる前に逃げ出し、薬の魔女も自分だけ解毒剤のようなものを打って逃げたけど。」
「そ、そんな・・・!」
「でもそれ以外の人はみんな死んだ。そして死んだ人たちは・・・。」
そこまで言うと彼女は笑顔になって、
「みーんな幽霊になっちゃったんだ!」
そう言うと、彼女の後ろからなにか白いものが飛び出してきた。
ちょっと怖い話だったかな?
勇者君の髪は赤色です。
次あたりでやっと名前が出てきます。