裏ボスになる話2
「僕、どうやって死んだんでしょう?」
「知らん」
「わかんね」
「勇者さんもビックリしてましたし、何が起こったんでしょう」
「酷い死に方をした」
「誰がです?」
「おれが」
頭ゴンはダメージなくて、頭バキンはダメージあるんですか??
露草さんも解説を放り出して聞きに行く始末。
常葉さんも考えたが、おそらく前回の頭ゴン――KAZAKOSHIれんじゃーが二回目の勇者戦に挑んだときのセリフから――は、誰による生成物でもなく、建物で勝敗には無干渉の物体だったから、ダメージなしだったのだろうと。
今回の頭ゴンは、敵である常葉が生成した物であるが故に勝敗に結果が生じてしまったのではないか、と。
そこまで考えて、ようやく常葉は自分を省みた。脳のなかにあった怒りは消え去り、残ったのは人間に対する期待。斬るよりもなによりも考察が楽しかった証である。
常葉「悪かったな。急に斬りかかったりして」
「い、いえこちらこそ変なこと言ったりしてすみません」
「そっちか? 真面目にやらなくてごめんなさい」
「それも違うような……緊張感がなくてすいませんでした」
「きんちゃく」
「!?」
常葉「露草さん、話題に入ろうとしないの」
唐突にきんちゃくとか言い出しちゃったアホの子に注意が入ります。
セルさんびっくりさせちゃった。ごめんね。
「き、きんちょーる」
「そういう遊びじゃねーと思うから」
「だからなんです?」
「メイスで殴ってもいいか。いいよな?」
「一応確認してくれるセルさんは優しいと思います! メイスはいやですけど!」
「そうか。じゃあ優しい優しいおれの一撃を食らってもらおうじゃねーか」
「ひゃー、優しくない!」
常葉「いつもこんな感じなの」
「いつもこんな感じですまんな」
平坦になった常葉の抑揚。平坦に答えるハンマーの声。
二人は仲良し! 刺さった剣は見ないふりじゃ!
あっ、常葉さんが剣を回収して破壊した。証拠隠滅かね?私は見ていたぞ。
「そういやあんたは氷属性なんだな。闇属性かと思ってたぞ」
常葉「ああ、古の設定からな」
露草「やめろー!」
「黒歴史のことか」
常葉「ダークメモリアルだぞ」
「なにそれ格好いい」
「ゼロさん……いまだその病気を患って」
「人んちの家を砦にしちゃう人には言われたくないです」
「分かっててやってるならセーフ?」
「勇者さんは心配だよな、こういうの」
みんなダークメモリアルに不安を抱えてるんだね。私もです。我とキャラを忘れて素で叫んじゃったけど、気にされてないぞ、良かったね。
ていうか、砦って……KAZAKOSHIれんじゃーのおうちのことじゃないないよね。他にも砦化した家があるとか? こわーい。
「年頃の男の子なんで」
「年頃の男の子が幼子を×したりするんでしょうか……」
「殺すぞ」
「とうとう警告もなくなっちゃったか……ゼロさんやりすぎの危機!?」
「自分でゼロさんとか言うな」
ホントだぞ。誰のセリフか一瞬分からなくなったぞ。誰だおまえ、だぞ。
「ゼロさんです」
「けろりとしてやがる!」
常葉「あのう、今日はこれでおしまい?」
「あっ、いえ違います。帰らないでください」
「やめて、帰る仕度しないで」
「待って待ってストップ」
露草「待つんだ、常葉さん!」
常葉「じゃあ仕方ないからとどまるね」
「めんどくせー性格だなぁ」
「待ってください、割りとマジで帰らないでくださいってば。ハンマーさん、口は災いの元ですよ!」
「おまえが言うな」
いやー、いつも口から災いを振り撒いているゼロさんが言うと説得力が違いますねー。
帰り支度を始めようとする常葉をそれとなく押し留めて、露草は第二回戦の合図を行う。
露草「バトル開始ィー!」
「なんのノリだそれ!?」
「某カードゲームのですかね」
常葉「そんなこと言ってると常葉さん帰っちゃうんだからねっ」
重低音でそんなことを言われたら従うしかあるまい。
そんなわけで二回目の挑戦が始まったのだけど、そう簡単に常葉さんが突破させてくれる訳もなく。
あれやこれやと常葉さんが新技を試そうとするものだから、四人の驚きや死亡も止まらなくて。
そんで、なんやかんや頑張ったゼロさんたちが、無事四人とも三ターン耐えきったのは、夜が白み始めてからでした、とさ。
白み始めたのはゲームの夜なので、現実の夜はまだまだ更けていく一方なのだが、さすがのゼロもフラフラしていた。露草さんなんか途中からぐっすり寝てたし。
「解説役としてフミタカさんでも連れてくるべきでしたかね」
「どんな解説をさせる気だ」
「いや、フミタカを信じようぜ……無理か」
「諦めんなし。いや無理だろうけど」
フミタカ風に解説すると、四回目の触手攻めがすごかったとか?
「語弊を招く言い方はやめてください!」
誰がとは言ってないのだけれど。
「図ったな!?」
「というかアレは触手だったんだろうか」
「実態がないタイプていうか、影っぽいっていうか」
「ダメージも本体にはないみたいだし。回りのもやか?ゼロのHPを削ったの」
常葉「言われてみれば、なぜあの形状なんだろうな。みんながびっくりしてくれるようにかな」
「びっくり……まあ引きましたけど」
「あんたが考えた訳じゃないのか?」
常葉「知り合いが使ってたから。パクった」
みんな持ってるもん、という駄々をこねるときの言い訳そのいちである。
「知り合いの趣味わりぃな」
「趣味のいい知り合い見つける労力を考えろよ」
「自分もたいして趣味よくないのに、よく言うな」
「待って、おれなんで総攻撃を!?」
常葉「趣味の悪い知り合いばっかかぁ。言い得て妙だな」
「合ってんの!?」
パスタ|(人名)のことですかね。ヤツは目玉を収集する妙な趣味を持つから……。
誰がパスタだ、って……パスタ貴様聞いていたのか。趣味については否定しないのね。
「ところで、そちらが出した条件をクリアしたわけですが、なにか報酬があったり?」
常葉「欲しいのか?じゃあ……これを授けよう」
「ははーっ」
「これが日本人の文化か」
ぴろーん、とか音がして。手に入ったのは称号。
「神伐者……幽霊じゃなかったっけ?」
「神なんですか」
常葉「昔、破壊神とか呼ばれてたからそのなごり。幽霊討伐記念より格好いいだろう?」
「破壊神とか。マジでなにしたんだよ」
「こういうこと昔からしてたんですか?」
常葉「こういうことって何だよ、してないぞ。ただ、同じ名前のヤツが二人いて、より暴れてた方にこのあだ名がついただけだ」
暴れてたことは認めます。
それが常葉さんなりの精一杯の誠意。
「これ、効果はつけてないときも発揮されるんですか」
常葉「こんだけ苦労したからな。常時でいいだろ」
「いやいやいや」
「バランス崩壊の予感ががが」
「うーん。おれには効かないようだ」
勇者さんのステータスはつねに999で固定なので、せっかくの各ステータス25%アップも意味を為さない。
これ以上強くなられちゃ困るからちょうどいいって? 果たしてその辺はどうかな。
常葉「そうか。それは失念していた。では、代わりにこれをやろう」
「ははーっ」
「もういいよ、その下り!」
勇者さんに手渡されたのは、青いポーション。中には透明な水が入っているようだ。その名も……。
常葉「覚醒水、HPとSPが大アップだ」
「……おお」
「勇者さん、よだれ垂れてますよ」
勇者さん垂涎の品がこちら。
覚醒水、HPとSPを特定のレベルの値まで上昇させる。特定のレベルとは、いままでの最大レベルのことだ。
勇者さんはステータスを固定にする一方で、HPSPはレベル依存のままにすることで、なんとかバランスを保っている存在だ。
現在のレベルは2。HPSPともども200しかなく、上位のスキルはほとんど使えない弱体状態である。
しかし、これがあればどうだろうか。普段はSPを気にして使えない技も、HPを気にして使えない戦術も思うがままだ。
「わーい」
「勇者が壊れた!」
「バランスも壊れましたよ!」
常葉「そうさなぁ、七日に一度、このアイテムをやろう。効果の範囲は一戦闘のみだ。どうかな?」
「バランスが息を吹き返しました!」
「これで、ゼロを思う存分殴れるね」
「あ、あれー。用途はもっと正しく扱ってくださいよー」
「なんだその、今後の勇者戦がこれ以上きつくならなきゃいいんじゃね」
というわけで、約束の一週間が来るまで、このアイテムは没収!
だけど、ゼロさんを追いかけるのに一生懸命な勇者さんは気付いてないみたい。まあ、いっか。
「これはありだね……」
そして。当然のことながら、隠してあった訳でもないこの一件は、とある人物に伝わり……。
次のアップデート、その次のアップデートで舞台は整われた。
常葉さん、と露草さんは裏ボスになったのだ。
詳しいいきさつを語ろう。
一回目のアップデートで実装されたのは、RPGにありがちな炎と氷のダンジョン。それに付随するボスの追加。
露草「バーンドブレス!」
常葉「おいこら。待ちなさい」
露草「ノルティア、ノルティア!」
常葉「ノルフェア?」
露草「似てるけど違うよ!」
これは多いに掲示板を賑わわせ、ゼロや勇者もダンジョンに行き、割りと苦労せずに討伐完了してきた。
問題はそのボスのドロップで、『空への架け橋5』とか『空への架け橋6』とかコンプリート魂が唸るようなアイテムだったのだ。
ゼロの検証結果では、炎のボスからは架け橋5が、氷のボスからは架け橋6が落ちることが決定しており、すなわち他のボスから欠けている架け橋たちが集まる可能性があると推測された。
時間をかけずして第二のアップデートで、天空ダンジョンが実装。それとともに各地のボスドロップに架け橋シリーズが追加され、プレイヤーたちはこぞって天空に駆け付けた。
しかし……。
「勇者戦より地獄かも……」
「勝てねー!!」
天空ダンジョンは天国などではなかった。
ダンジョンには二人のボスが存在し、どちらから攻略してもいいのだが、片方がめっぽう強いものだからプレイヤーはもう一人のボスに列をなして挑戦するはめになり、それから強いほうのボスに挑戦すると文句を言われ、更に強くなるという悪循環に陥ってしまったのだ。
「みんながわたしをボコボコにしていくよぉ」
「よーし、常葉さん張り切ってプレイヤーをボコボコにしちゃうもんね」
こんなやり取りがあったとかないとか。どちらかというと、ありました。
流石にこれはまずかったので修正が行われたが、それでも推奨挑戦難易度は露草さんが担当したボスの方に集まっていた。
「勇者さんに挑む前にここで心を折れさせる作戦だったんですね!」
露草「違いますー。勇者戦に役立つ称号をあげるためですー」
「えっ。ああ、露草さんのほうは、ですよね?」
露草「違うってば。常葉さんもそうだよ!」
「えーっ。まあ、あったら役に立つかもしれませんけど。今のとこ、誰も挑戦しようとしてませんよ」
露草「ふふふ。既に修正の目処はついておる。一週間後を楽しみにしておくのじゃ」
「なんですか、その唐突なババア口調は」
露草「うるさい、さっさとどっか行け!」
修正に次ぐ修正で、ようやく現れたニュー常葉戦は、随分と変わったものだった。
第一回戦、耐えるだけでいい。三ターンなにもしてこない。報酬、神伐者Ⅰ。効果:各ステータスを5%アップ。
第二回戦、三ターン耐えてみよう。単体攻撃がメイン。報酬、神伐者Ⅱ。効果:各ステータスを10%アップ。
第三回戦、三ターン耐えてみろ。全体攻撃が混じる。報酬、神伐者Ⅲ。効果:各ステータスを15%アップ。
第四回戦、三ターン耐える。即死攻撃も混じる。報酬、神伐者Ⅳ。効果:各ステータスを20%アップ。
第五回戦、おれを倒してみろ。三ターンの上限撤去。報酬、神伐者Ⅴ。効果:各ステータスを25%アップ。
「一回戦で倒せないと認識させておいてから、五回戦目の不意打ちドーン、とか止めてくださいよ!」
露草「ⅠとかⅤとかすごくゲームっぽい!素敵!」
常葉「やったぜ」
「聞いてます!?」
露草「……何が?」
「全く聞いてなかったんですねー分かります」
常葉「別にいいだろ、Ⅳまで取得すれば」
「聞いてたんですか!?」
常葉「Ⅴは無理ゲーってことで諦めればいいじゃん」
「それじゃ僕のコレクター魂が黙ってないんですよこれが」
露草「なんと、どうでもいい……」
常葉「勝てばいい。それだけだ」
「勝てるようになってるんですか!」
常葉「さてはて」
ゼロさんを泣かしたった。泣かしたの、わたしじゃないけど。
「めっちゃ回復した……魔法使いとは一体……」
露草「ふはは、本気の魔法使いの力、思い知ったか」
「倒したけど」
露草「うわーん」
常葉「……」
「隣の人めっちゃ怒ってる……けど仕方ないから」
露草「騎士いると全然違うんだぞ!」
「それは分かる……私も魔法使い、目指そうかな」
露草「おおー!倒されたかいがあったというものよ」
露草さんが見知らぬプレイヤーと交友を深めたり。
「微妙」
露草「何がだね?」
「あんたの強さ、前戦ったときと全然違ったぞ」
露草「そりゃ常葉さんいないし、NPC操作と私じゃ違いすぎて」
「今回の方が強かった」
露草「……。常葉さんに訴えてやる!」
露草さんが勇者さんにディスられたり。
常葉「よう、露草さんに酷いことを言ったそうじゃないか」
「今回の方が強かった、と言っただけだ」
常葉「そうか。おれも今回の方がと言われるように努力しようか」
「!?」
常葉「死ねーィ」
「私怨はありなのか!」
勇者さんが常葉さんに私怨でボコボコされたり。した。
こうして、マスターウィザードな露草さんと破壊神な常葉さんは、裏ボス、勇者戦の前に挑んでおくボスとして有名になったのだ。
ちなみに、露草さんからプレイヤーのみなさんへのプレゼントは、回復量が二倍になる称号と、レアドロップでユリウスの杖でした。
露草「本体でバトルしたときにうっかりポロリしたヤツなんだけど、割りと高評だったね」
常葉「これで99個持ってても不思議じゃないな」




