裏ボスになる話1
「常葉さんって強いんですか?」
「そりゃあもう強いよ!常葉さんだもの」
「どういう意味か知りませんけど、戦ってみたいんです」
「常葉さんと?」
「ええ。勇者さんが勝てなかったという常葉さんとです」
ゼロさんの熱い要望により、決戦のバトルフィールドは用意された。
都市カフェイクルから南に少し行っただだっ広い砂漠に。
一人と言わず、プレイヤー全員でかかってこいといわんばかりの、巨大なバトルエリアが用意された。
「プレイヤー全員で、おれが倒せるかな?」
当の本人もウキウキだ。
ゼロは今更ながら、汗が滴り落ちるのを感じた。
やばい相手にケンカを売ってしまった。
「と言うわけで、手伝っていただけません?」
「爪食い込んでるから!」
相変わらずのハンマーの扱いである。手伝ってと懇願しながら、実際のところただの脅迫で、ハンマーはうんと頷かされた。
「いや、おれも行ってみたかったけどね!?」
「なんだ、じゃあ脅す必要なかったのか」
「脅すってはっきり言うな!」
「あはは、すみません」
ハンマーはもとより行く気満々だったようだ。
概ね用が済んだゼロが掲示板を出ようとすると、何人ものプレイヤーが飛び出してきて、ゼロに頼み込んだ。
「勇者さん倒した相手だって?」
「オレたちも戦いたい!」
「ハンマーさんが行けるなら俺もー」
なんか情報が正しく伝わってない気がしたが、寛大なゼロさんは気にしない。
笑顔で頷いて了承した。
盾は多いに越したことはない。そう思ったのだ。
「もちろん。他の人も誘って当日来てください」
むろん、その笑顔の裏など気にしていないプレイヤーたちは大盛り上がりだ。
あの勇者を破った相手。
それを倒せば、勇者を破ったことにもなる……かもしれない、と思ったのだ。
双方の思惑が一致し、ウィンウィンである。
ゼロは次にセルがやっている店に赴いた。
「セルさんいますかー?」
「これからログアウトするところだが、ゼロか」
「ちょっとお話があるんですが、忙しいですかね」
「いいや、聞こう」
ちょっとどころではないが話を持ち掛けられたセル。
聞いて、セルがにやりと笑う。
「なんか企んでんな?」
「セルさんに対する企みはたいしたものではありませんよ」
「なんだよー。じゃあ他のプレイヤーか」
「ええ。まあ、その壁になってもらおうかと」
「言っとけよ、絶対。で、おれは何をすりゃいいんだ?」
「気を付けます。いつも通り戦ってほしいんです。僕と共にあのトカゲさんと」
「トカゲ?誰だ?」
「常葉というプレイヤーです。露草さんとよくいるんですけど、見たことないです?」
「ああ、あの会談のときの?」
エンディング後に行われたあの会談である。
ジョブについて雑談していただけともいうが。
「ええ。あのときもいましたね」
「ふーん。ゼロがわざわざ挑むってことは、なんかあるんだな?」
「あの会談でも言われてましたが、KAZAKOSHIれんじゃーたちが勇者さんに勝ったのは、彼の力が大きいんです。それなのに、本人は防御に徹していたと言うので……確かめてみたくなりまして」
「普段ならやめとけって言うとこだけど、おれもプレイヤーだしな。本領見せてやるよ。手伝うぜ、ゼロ」
セルからの了承もすんなりとれた。残るは勇者のみ。
敗れた勇者さんの答えは……。
「やる」
イエスだった。
「まだなんも言ってないんですけど」
「掲示板が盛り上がってたのを見た。近々大規模なバトルが開かれると」
「相手はご存じで?」
「いいや、知らない。おれを負かした相手なんて数えるほどしかいないはずだし」
「ええと、負かしてはないんですが。露草さんの近くによくいる空飛ぶトカゲさんですよ、お相手は」
「……俄然やる気が出てきたぞ」
「なら結構ですけども」
「あの鬱陶しいハエをペチンと叩き落としたかったんだ。ちょうどいい。練習台になってもらおう」
「スイッチ入っちゃったかなー」
「さて、グロッフェルを殴りに行くか。ついてくる?」
「いいえ、お断りしておきます」
そうして三人の了解を得たゼロは、万全の態勢で常葉に挑み……華々しく破れたのであった。
「心が折れました」
「ありゃチートじゃ片付けられんだろ」
「何度死んだことか」
「これが理不尽に挑むこと……確かにきついな」
ゼロ、セル、ハンマー、勇者が敗戦に涙してから数日のこと。常葉からお詫びの手紙が届いた。
挑まれるのは久しぶりだったから、加減を忘れていたこと。いかに理不尽でも立ち向かってくるプレイヤーの姿に、感動に近いものを覚えたこと。もしよければ対戦の形を変えて、再び戦いたいということ。
ゼロが、勇者が、燃え上がらずにはいられなかった。
「手加減ありってことですか、まだ勝機ありますね」
「手加減なしでも今度は勝つ」
復讐の鬼と転じた二人は、抵抗するハンマーとセルを連れて、もう一度砂漠にやってきていた。
今度こそ準備は万端だ。闇属性魔法を軽減するマントに、即死を防ぐアクセサリー。セルに覚えてもらったデスウォールも完備した。
そして宵闇とともに現れた男に、ハンマーもセルももう驚かない。
常葉「今日はおまえたちだけなのか?」
「おれたちだけだよ。こんな酔狂は」
「他のプレイヤーにも手紙を出したのか?」
常葉「そういえば出してなかった」
ぽむ、と手を打った常葉は、前回とは違ってフランクな態度だった。冷酷にも全体魔法を連打し、多くのプレイヤーを平らげたあの夜とは違う。
「今回の条件はなんです?」
常葉「3ターン、おれの攻撃に耐えることだ」
「3ターン……理由は?」
常葉「露草さんが適当に決めた数字なんだ」
意味は特になかった。
とはいえ、無難な数字ではあっただろう。挑むのにちょうどよく短い。
ゼロと勇者が頷く。それでいこう、と。
これで8ターンとか言われてたらぶん殴るところだった。と胸に秘めつつ。
「いざ尋常に勝負!」
1ターン目。
常葉は不敵に笑ってなにもしない。
ラスボスっぽい余裕という奴か。それとも1ターン目ぐらい準備をさせてやろうという心意気か。
実況は露草さんです。一人で寂しくつぶやいています。専用スレッドです。
「攻撃しない……?」
「下手に攻撃すると反撃されるかもしれんぞ」
「それでも、構いませんよっ」
ゼロの爪が閃く。牙を剥くって言おうとしたけど、爪なのか牙なのかはっきりしないのでやめました。
ガツンと大きな音が響き、念のために表示されていたHPバーが揺るが、なかった。
微々たるほどにしか減らなかったのだ。
「固っ!」
「こりゃ倒すのは無理だな」
「3ターンで倒すの自体きついだろ」
常葉「なるほど、そういうのも面白いな」
「4ターン目から本気出すって奴ですかー!」
常葉「しかし、1ターン無駄にしたぞ。耐えろって言ったのに」
「ボスの方から助言?を戴いてしまいました」
「なに、一回で勝負を決める気はもとよりない。二回目気を付ければいいのだ」
「二回目から戦術を変えてくる人がなんか言ってるなー」
「マジで?みんなこんなんと何度も戦う気なの?」
赤裸々な発言が夜の砂漠を彩る。ハンマーは完全に考えることを放棄してるし、セルは戦意が落ちているし、勇者もゼロも何回でも挑戦する気だし、常葉さんは雰囲気に耐えかねて突っ込みしちゃうし。
常葉「油断させておいてドーン!」
黒っぽい触手がゼロを貫く!
「いたいっ、結構削れた!」
「やはり反撃か!?」
常葉「うんにゃ、いまのはランダム」
「ランダムかー、なら仕方ない」
常葉「手元でどれにしようかな、って言いながら選んだよ」
「それランダムか?」
「えらく原始的な方法で……」
常葉は闇を感じさせない笑顔を作る。闇なら攻撃でふんだんに使うから、そのほかは別に要らないという発想だろうか。
それが常葉の努力に反して、かえって邪悪に見えるとしても常葉は気にしないだろう。彼はそういう性格だ。
「このHPで二撃目……防御にしようか回復にしようか悩むところですね」
常葉「ターン制なら存分に悩んでくれ、というところなんだが。残念ながらリアルタイム制だ、諦めて攻撃を受けろ!」
二ターン目。常葉は闇の環をいくつも放つ。早すぎて環というより波紋のようだ。
実はこれ、即死も入り交じった状態異常攻撃。さらにばらしちゃうとディザスターとは違い、状態異常にかからなくても闇属性魔法の威力で死に至らせる、割りと本気の一撃。
手加減? するなんてって言ったっけ?
「僕に即死は効きませんよ!」
「おれは闇属性がほぼ無効だな」
「合体します?」
「やめろ、フミタカがあとでハッスルしちまう」
「ロボットじゃないから無理」
「セルさん……勇者さんも夢がないですね!」
二人の属性が合わされば無敵! でも性格の不一致で合体失敗! 残念ね!
「冗談言ってる場合じゃないですね。カゼ薬でも服用しましょうか」
カゼ薬、それはいつか出たガセ薬の上位版で、状態異常の回復のほかに、体力の回復も行う優れものだ。
カゼのときは、熱だけを下げてもなかなか元気は出にくいもの。だるさを還元するためには身体そのものを回復してやる必要があるのだ。
ガセ薬はドロップでしか拾えないが、カゼ薬はセルさんちの道具屋で買えるぞ! 宣伝、終わり。
常葉「回復を選んだか。無難過ぎてつまらん」
「死んでもいいですけど、そのあと終わるまで待つのが面倒なんで」
誰かが戦ってるのを見てるだけってのは、苦手らしいゼロさん。
じっとしてられない感じの子ども時代でも送ってました?
「僕は大人しい男の子でしたよ、失敬な!」
あら、聞こえてたっていうのか見えてたのか。失礼しました。
常葉「あれが見えるとは随分余裕があるんだな。少し強めてもいいか」
「ち、違いますよ!人間の目には大きく見えるとかそういうヤツです!」
常葉「ほう、おれが人間でないかのような言い回しだな」
「えっ、人間なのか」
常葉「違うが」
「だよなートカゲは人間じゃないもんなー」
あのね、みなさん。常葉さんは普段トカゲの姿でいることが多いから勘違いしてるみたいだけど。
人間になれるトカゲじゃなくて、どっちかって言うと、トカゲにもなれる人間だからね? そこのところしっかり覚えてよね?
台があればパンチしていたこと間違いなしの激おこ露草さんである。
パンチしたところで手を痛めるだけだろって? 全くだ。音も全然鳴らないし、いいとこなしだぜ。
常葉「厳密にいうとトカゲでもないんだが……まあ、そういうことにしておくか」
「じゃあなんなんですか!はっきり言ってくださいよ!」
ゼロさんもキレ気味である。どうしたの? そんなに攻撃によるダメージが大きいの?
「煽んなし」
「二ターン目が長い」
常葉「幽霊とか?」
「幽霊って……そんなにたいしたことないですね。もっと怪物的ななにかを想像してました」
「フランケンシュタインとか?」
常葉「マッドな研究なら昔やったぞ。自分に」
「どっちの怪物なんだ!?」
フランケンシュタインは博士の方で、出来上がった怪物は無名だったとかいう話ですね。
この鬱陶しい攻撃の要因が研究の成果であるとしたら、果たして常葉さんは無名の怪物なのか博士なのか。
環の攻撃が止む。
ここから三ターン目だ。
「そういえば、セルさんの声が聞こえませんね」
(おーい)
「あっ、もしかして死にました?」
(死んだけど、もう少し言い方を選べよな)
「セルが死ぬと不味くないか」
「回復と補助魔法なしで戦わないとですね」
「今回は突破厳しくなったな」
常葉「もう三ターン目入ってますよ?」
突然、バトルエリアの外と中とで長い会話を始めてしまったので、常葉さんは疑問系で警告する。
ホントにこいつら自分の立ち位置分かってんのか。
常葉さんの苛立ちが聞こえてきそうだ。
なおも振り返らない三人に業を煮やした常葉は。
「不意打ちは卑怯なり!」
常葉「黙れ、警告はした」
ハンマーさんの無防備にも晒されていた背中にザクッと剣が打ち立てられていた。
ちなみにハンマーさんは死んでしまい、セルさんのとなりに出現している。
そこ、和やかに話をしとる場合か!
バトルエリアの内と外で緊張感が全然違いますよ!?
「死んでた〜」
「まあキレるよな、これは」
「おれでもむかつくね」
「じゃあなんでやったし」
セルさん、その通りです。もっと言ってやってください!
「仕方ない、真面目に戦うしかないか」
「いや、最初から真面目に戦えよ」
ゼロの決意も、勇者の呆れ顔も、常葉には見えていなかった。脳を支配していたのは冷静な怒り。どう調理してやろうかという見下しにも似た怒り。
常葉「……斬ろう」
決めた。斬って楽になろう、すっきりしよう。
常葉の目が爛々と輝く。こんな場面でなければ、楽しそうだと思っただろう。実際常葉は楽しさを見出だした状態なので、愉しいこと間違いない。
ただ、楽しくなるために敵とした相手がどうなるかと言えば全く楽しくないに決まっている。
「や、やだー。ヤンデレー」
「まだ言うかこいつ」
「だって怖いんですよ?」
「冗談が通じる相手だといいね」
「ですよね……」
常葉は氷剣を飛ばしつつ、二人に肉薄する。その場で斧を出現させ、大きく凪ぎ払った。力任せによいしょよいしょと振り回し、唐突に投げ捨てたかと思うと、次は剣を実体化させ、そのまま突進する。
たぶん何も考えてないかと思いきや、殺さないように最新の注意を払いながらの攻撃である。
「避けきれない……!」
「ゼロ!」
ゼロのやたらあったHPが微々たる感じではあったが、削れ始める。焦った声に勇者が反応したが、実は自分の方がよっぽどまずかったりする。
切り札である従魔が先ほどから立て続けに割れているのだ。
勇者の従魔の役割は身代わり。
正確には200以上のダメージを肩代わりして代わりに死んでくれる機能を持つ。ただし効果は一回限りなので、その都度従魔を再召喚しなければならない。
今のところ間に合ってるからいいものの、これが間に合わなくなれば……考える必要もないだろう。
「当たってる!?」
「どうしたんですか、勇者さん!」
「いや、かすっただけで、このダメージ……。どんなステータスしてやがる」
「それは僕も見たいですけど!」
とりあえず今は見せてくれそうもないね。
「あっ、なんか剣しまってくれましたよ!」
「絶対違う技が来るだけだろ……」
「ワンチャンあるかもしれませんよ、ワンチャン!」
「ねーよ」
勇者の鋭い突っ込みもかいをなさず、ゼロは死んでしまった。
「え?」
ゼロのあっという間の退場に呆けていた勇者もまた、
「っ」
従魔がガラスのようにくしゃりと溶けたのを目にして、後方へ下がる。それが彼の命を助けた。
しかし、その彼も後ろから生えていた氷の柱には気付けなかったようで。
頭をぶつけたダメージで死亡。
常葉さんもぽかんと口を空ける呆気ない幕切れであった。




