グロッフェルの独白
09のあとに入る話です。
一方、来訪者が去っていったあとの部屋に、グロッフェルがひっそりと現れた。
帰還したのだ、死の淵から。
しかし、歓迎の声はなく、誰も彼を迎えることはない。グロッフェルが現役で活躍していた頃は、モンスター側を選んだプレイヤーが何人もいたのに。
この館はそんなプレイヤーの宿であり、セーブポイントであり、親愛なる主からの大切な贈り物だった。
「疾うに辞めた、か」
ただのゲームだ。辞めるのも無理はない。そうとも、これはただの仮想空間だ。
ポリゴン体でできた登場人物のアバターに惚れ、その思想に惚れ。それは世間一般からすれば愚か者に過ぎない、己の姿だった。
グロッフェルは、魔王の部下であることをなによりも誇っている、という設定の四天王だ。
だから現実での死を迎えたとき、脳裏に浮かんだのは美しい主の姿だった。病室で涙を流す孫より、優しく微笑む鬼嫁より、写真でしか思い出せなくなった妻よりも、主の姿が見たかった。
自分にはもうない青臭さ、未来を切り開く強さ、誠実な友人たち。そこに佇む、現実世界の主に一度挨拶してみたかった。
そんな未練がましいことをいつまでも考えていたせいか、いつの間にか私はグロッフェルとしてこの世界に現れていた。
転生だとか、幽霊だとか、そんなオカルト的なことは私の信条にはなかった。ただ、チャンスだと思った。
現実では果たせなかった夢。いまこれから魔王城を尋ねて主に会いに行ったら。主はどんな顔を見せてくれるのか。
最後に会ってからもう十五年も立つ。私のことを覚えていなくてもいい。
私は成長した主がどんな人物か確めたいのだ。それが、この奇跡のような生の結末を伝えるだろうから。
「だが、私もなまったものだ。儀式陣による補助なしでは満足に動くことも出来ないらしい。主に会うまえに、まず私を鍛え直さねばな」
壁に引っ付いたままのほこりを見ながら、これも何とかしなきゃならんな、と一人ごちた。




