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【常葉】
「前回のあらすじはね」
【露草】
「勇者さんとバトル!」
【常葉】
「おれのバリア度見てくれた?」
【露草】
「どぅーむどぅーむ」
【常葉】
「壁に当たる音らしいよ」
◆◇◇◆◇◇◆
オートリバイブの待機時間がゼロになり、露草が満を持して立ち上がる。
「チェンジジョブ、魔法使い」
立ち上がって早々になにか呟くが、声が小さいのと滑舌が悪いのでよく聞こえない。
それでもシステムは露草の声を拾って、それを成し遂げた。
「そのジョブチェンジは、サブアカウントの……!」
「そう。サブアカウントの魔法使いを鍛えた、わたしの力を見よ!」
光の粒子が露草にまとわりついて、露草は装甲の弱い双剣士から、装甲の脆い魔法使いに変化する。
「トランス、トランス」
常葉さんが戻ってきて、露草の守護を始める。知力と素早さを重点的に上げた魔法使いは、攻撃だけみれば最強の存在だ。
「リバイブ、リバイブ、リバイブ、リバイブ」
一つ覚えで申し訳ないが、リバイブ、蘇生魔法は仲間を次々に解放していく。
全員の彼女たちが立ち上がったのを確認すると、もう一回トランスを二度唱える。
「本気の一撃を食らえ!エナジーフォース!」
最大に高まった知力が、確実な死を勇者に約束する。白い光が唸りを上げて勇者に近づく。
勇者は逃げようとしたが、もちろん許さない存在が八名ほどいた。
「逃がすか!」
「逃げるな〜」
「必殺、我流拳!」
「フォーリンブレイカー!」
「夢想剣!神妙剣!」
「真空刃!」
「一閃!」
「エレメントフレア!」
無理矢理押しやられた勇者は、容赦なく光の渦の先に。頼みの綱の従魔も、キラリと光って消える。
後ろに控えていたはずの黒豹が溶けるように消え、勇者は焦る。
「みんな、もっともっとごり押せー!」
いつのまにか双剣士に戻っていた露草が叫ぶ。
もちろん、彼女も呆けていた訳ではない。
今まで守ってくれていた常葉をぐわしと掴み、勇者に向かって投げつけたのだ。
命中率がよろしくないので外れたが、飛んでいったのは生きるプレイヤー、常葉だ。
途中で急カーブを切り、さらに突っ込む。
「十二即双連舞!」
さらに、二十四回攻撃で追い討ちだ。
「やけくそにもほどがあるだろ!」
めちゃくちゃ攻撃に晒されている中心の人が何か言ってるが、よく聞こえないので、さらに攻撃を加えよう。
さっき溶けた従魔獣が実は、戦闘中いくらでも使える身代わり効果を持っていたので、切り札をなくしてしまった勇者さんはもはや叫ぶしかないのだ。
みんなのSPが切れて、白いもやが晴れると、そこには誰もいなかった。
「倒した?」
「いないよね?」
キョロキョロと周りを見渡すが、もちろんヤツはいない。
倒したのだ、我々が。
銀朱が先に進もうとしたのを遮って、もう一度魔法使いに変化した露草と卵で回復を行う。
「この先何があるか知ってるみたいだね」
「知ってるよ」
「えー。それは面白くなくない?」
「そんなことないよ。知ってるのと体験したのでは全然違うし」
「そりゃそうだろうけど」
「教えてくれないの?」
「それこそ面白くないじゃん?」
三角帽子にハイヒール、黒いローブ姿の露草さんは笑う。次第に姿が崩れていき……いつもの露草に戻る。
露草のSPを回復したら、いざ鎌倉。
一歩、足を進める。
すると、黒い影が玉座に集まっていく。
魔王が現れた。
「ようこそ、我が城へ。随分と荒らし回ってくれたようだが……。私は寛容なのだ」
「ごくり」
「我らとともに人間を蹴散らさないか?」
「色々な意味で決着をつけたいから却下だ!」
「残念だ。では仕方あるまい。蘇れ、我が眷族。蘇れ、我が部下たちよ!」
「ごくり」
「我に楯突く人間どもを蹴散らせ!」
戦闘が始まった。
四天王がこの場に集まり、絶望の限りを尽くさんとしたときのこと。
露草は一点を見つめて離さない勇者を見つけて、ハッとした。何か言い忘れたことがある気がする。
視線の先には、生きたグロッフェル。中の人入りのグロッフェル。中身入りのグロッフェル。
「やべっ、言うの忘れてた! みんな、魔王とケイト・メアリーの間に入るんだ!」
「でも、それじゃ魔王からの攻撃が!」
「四天王全員倒すまでは攻撃してこないから安心して!」
勇者がグロッフェルに襲いかかるのと、KAZAKOSHIれんじゃーの人壁が魔王の視界を覆い尽くすのは、ほぼ同時だった。
「あぶねっ」
「四天王全員ってまさかまた!?」
「違うから安心して!」
「何が違うの!?」
「とりあえず、メアリーとケイトを倒すんだ!」
「メアリーさんだよ」
「ケイトさんだよ」
パーティーメンバーから、『さんをつけろよ』的なことを言われ、わずかにショックを受ける露草。
しかし、その刃は既にメアリーに向いていて。
「十二即双連舞」
「当たらないわよ!」
「ぬぬーん、六連撃」
「いたっ、すごい地味な攻撃ねっ」
「地味っていうな!」
地味な攻撃がメアリーさんにヒット!
やったぜ。
「地味って言わんといてぇーい!」
常葉を投げた。地味なようでダメージはデカイ攻撃を食らえー。
「もう、なんなのよこの子!」
「うちらのリーダー」
「えっこれが?」
「これがKAZAKOSHIれんじゃーのリーダー、露草さんです」
「ディスイズの英文みたいに紹介しないで」
「情緒不安定だ」
「だれのせいだというのですか!」
露草さんは錯乱している。
この四天王は一人倒すごとにHPが1/4減る素敵仕様なので、リーダーが錯乱していてもそう困らなかったりする。つまり、四天王を三人倒して勇者さんに挑むころ、彼は虫の息なのだ。
リーダーが使えなくてもそうでなくても役立つのが、他のKAZAKOSHIれんじゃー!
メアリーやケイトの技を参考にした、空と撫子の攻撃が二人に降り注ぐ。
「うちの必殺技を食らえ、流星爆炎!」
「ケイトさんの真似、劇薬投与〜」
「僕、そんなことしたっけ?」
「でも、あんた、見たわよ。ログでこの子たち苛めてたじゃない」
「メアリーこそ、痛い子になってたよ。僕もテンション上がりすぎに気を付けないとね」
「なんですって」
「なにかな?」
仲間割れだ。
ケイトとメアリーが仲間割れしたのをいいことに、KAZAKOSHIれんじゃーは休憩に入る。
露草はまだ何か言っているが、無視だ無視!
先に倒れたケイトを足蹴にテンション上がっちゃってるメアリーを、さらに足蹴にして露草が立ち上がった。
「よし、勇者さんに攻撃だ!」
「おおー」
精神も立ち直ったようで。
「ぐわー」
「弱い!弱いよ!」
「どうしたのこの人!」
「やることがあるのと、本番は魔王さまだからじゃないでしょーか!」
ぼろ雑巾のようにぶっ倒れているグロッフェルを綺麗に避けて、ついでに蹴りつけて、倒れる勇者さん。
どれだけ嫌いなのよ?
「我が部下を全て倒してしまうとはな。いいだろう、私が打って出ようではないか」
ロールプレイングしてるとこ悪いんですが、あなたの部下は半分が仲間割れして死にましたよ?
メアリーさんにいたっては足蹴にしたら倒れましたよ?
「魔王、えーと、特に何の恨みもないけど、倒させてもらう!」
「なんかひどい!」
「えっ。かといって恨みを持つわけには……」
「そういう意味じゃなくて!」
仕切り直そう。ただいま真面目に、真面目に魔王戦である。
「アナイアレーション!」
全体即死魔法だ!
闇っぽいエフェクト以外、即死って分かる部分がないから、初見殺しな魔法だ。
ちなみに、アナイレーションではなくてアナイアレーションな理由は、とある先人の勘違いである。
長いカタカナ語は覚えにくいから、脳内で読んでた文字と、実際書かれていた文字が違っていた、ということだ。
先人は間違いに気付かず、魔法を登録し初の全体即死魔法を産み出した。
そしてそれがそのまま使われている、全然希有でない例だ。
このゲーム、誤字脱字が多く、そしてほとんどが直されていない。
これもひとつの味わいということなのだろうか。
でもね、オリハルコンをオハリコンって言っちゃうのはどうかと思うよ。オハリコンの方が価値が高いし。
「デスウォール!」
即死魔法、ということで卵は絶賛大活躍中だ。
覚えたてのデスウォールで、迫り来る闇の塊を押し退けている。
魔王が腕を引っ込めた。アナイアレーションで敵を倒すのは諦めて、別の技を繰り出してくるつもりらしい。
「その技が、リーズウェイが言っていた即死防護か。くっ、忌々しい」
「リーズウェイって誰!?」
「勇者さんのことです!」
「なんであの人が卵のやってたことを知ってる訳〜?」
「知らないけど、たぶん覗いてたんじゃないかな!彼も普通に城下町に買い物しに来てたし」
なんで勇者さんが、ゼロと卵の検証実験のこと知ってるんですかね。
ゼロの口はあんまり堅くないけど、ことがことだけにまだバラしてないはず。
第一、なんでそういう、ラスボスが最初の村を滅ぼすみたいなことをするんでしょうか。
ラスボスの自覚あり?
「全てを閉ざせ、ナイトメア!」
とか言ってる間に次の詠唱が。
これは銀朱も唱えることのできない、オリジナル闇魔法の方だ。
最上級闇魔法も同じ詠唱を使うが、これはいったい。
「普通に強そうな闇属性が来るぞ!」
「露草にもよく分かってない!?」
「ディザスターより強い、ぐらいしか分からん!」
周りが闇で閉ざされて、隣にいたはずの桔梗や白銀が見えなくなる。
音もしなくなって、耳鳴りが聞こえるほど静まり返っている。
やがて、闇が払われると、卵とがねっち三人組しか立っていなかった。
赤銅と黒鉄が残ったのは、ひとえにレベルが高かったからであろう。
「よくも私の仲間たちを!」
卵が吼えた。
白銀は卵の前に立ち、次の攻撃に備える。
「河清祈祷!」
望んでも実現することがないと言われても、システムが許せば、それは為る。
全体蘇生魔法だ!
卵の術でみるみる仲間が甦る。最後に立ち上がったのが、最初に倒れた者だった。
「わたしだ」
「お前かよ!」
「双剣士は装甲が弱いのじゃ!」
双剣士な某リーダーも吼える。
「大技のあとだ、この隙を狙ってかかれー!」
「言われずとも!」
「もうかかってるよ!」
「ジャッジメント!」
「爆ぜよ!」
「暗殺剣!」
そして……。
「負けたー!」
という誰かの叫び声を最後に、露草たちは見たこともない草原に立っていた。
「みんな、お疲れ様!エンディングだよ」
「えっ、終わったの?」
「なんか、もっと余韻みたいなのは……」
「無いよ!」
「泣きそう……」
「感動してもいいよ!」
「できるかっ!」
天に上っていくスタッフロールはもちろん、誰も見ていなかったが……。
常葉さんだけは、じーと見ていて、運営さんの本名を一人知るのであった。
「成人男性、38歳、大阪在住……こんなことまで書いていいのか?」




