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【ハンマー】

「前回のあらすじだぜ」


【ゼロ】

「よく来てくれましたね、生け贄、ならぬ検証協力者!」


【ハンマー】

「生け贄って、おまえ……。はっきり言い過ぎだろ!」


【ゼロ】

「知りませーん」


【勇者】

「前回は修行回、今回も修行回で始まるよ」




◆◇◇◆◇◇◆




「ここが掲示板?」

「なんか思ってたのとちがーう」

「そう?とりあえず中に入ってみればいいんじゃね」


 午前の特訓のあと、レベルが足りないと言われたがねっち三人組以外が、卵に誘われて掲示板の前にやって来ていた。

 卵や撫子は懐疑的だが、恐らくここは掲示板という建物だ。付属の看板に大きく書かれている。


「親切な看板だね」

「ね〜」

「なんかデジャヴ」


 ここは、親切な看板に出会うことの多いゲームですね。

 建物はごく普通のドーム型で、扉はガラス張りで、中がよく見えた。誰かいる。ゼロさんだ。それと知らないプレイヤー。がっちりしている。


【ゼロ】

「さっきぶりですね、KAZAKOSHIれんじゃーのみなさん。みなさん? あれ足りない」


「白銀たちはレベル上げに行ったよ」


 桔梗が答えた。

 ゼロはわずかに責任を感じたが、すぐに気を取り直した。あとで、今日やって来たKAZAKOSHIれんじゃーが残りのメンバーに紹介すればいいのだ、と。


【ゼロ】

「あっ、こっちのこれは検証メンバーのハンマーさんです」


【ハンマー】

「ハンマーだ。普段は鍛冶職してる。よろしく」


「よろしく〜」

「よろしくお願いします」


 ぞんざいに紹介されたのに、丁寧に返事をする撫子と卵。見よ、これが正しくJKである真髄だ!


【ゼロ】

「検証の前に、掲示板の説明でもしましょうかね」


【ハンマー】

「簡単にいうと、チャットを三次元にした、って感じだな。各スレッドが部屋になっていて、部屋のなかでしゃべったことが発言内容になるぞ」


【ゼロ】

「一応文字を打ち込んで会話することもできるけど、まあ、口に出した方が早いんで。こんくらいですか」


【ハンマー】

「あとはそうだな、おすすめが……」


 と言いながら動き出すハンマー。実際に部屋を紹介してくれるらしい。

 まずは雑談スレッド。


【ゼロ】

「こんにちは」


≪おっ、ゼロさんだ≫

≪ゼロさんとハンマーと……?≫

≪誰だ今のハンマーさん呼び捨てにしたやつ≫

≪僕です≫

≪なんだ、ゼロさんか≫

≪うしろの女の子たちとはいったいどんな関係で?≫

≪師匠と弟子ってとこですか≫

≪マジで?≫

≪マジマジ。ハーレムじゃないですよ≫


【ゼロ】

「こんな感じです」


≪こんな感じです≫


【ゼロ】

「おっと、失礼」


 次はお絵かきスレッド。

 さっきとはうってかわって、静まり返っている。人もあまりいないようだ。


【ゼロ】

「珍しい、ネッシーさん、じゃないエッシーさんがいます。少し話しかけてみましょう」


≪エッシーさん、こんにちは≫

≪ゼロじゃないか、ひさしぶり≫

≪今書いてるの、健全なやつですか?≫

≪全年齢版のほうだし自重するよ≫


【ゼロ】

「だ、そうです。さあみなさんも中に入って」


≪何書いてるの〜≫

≪JK≫

≪本物のJKの前で何言ってるんですか≫

≪えっ?≫

≪これってうちらでも使えるの?≫

≪プレイヤーであり、絵を描くのが好きなら誰でもできますよ≫

≪あーと、発言板を開いて≫

≪このコメントがずらりとならんでいる長方形の、一番右下の四角をポチっと押しましてね≫

≪コメント打ち込むとこじゃなくて、その更に下の、そうそうそれ≫

≪できたぁ≫

≪あとは仮想ペンを使って書くだけ≫

≪すみません、エッシーさん。仮想ペンがありません≫

≪なんだ、ならおれのを貸そう≫

≪仮想だけに?≫

≪ありがとうございます≫

≪いいの?≫

≪お絵かき人口が増えるなら構わないさ≫

≪イケメンですねえ≫


【ゼロ】

「熱中しているとこ申し訳ないんですが、もう一つだけ回りたいんです。紹介させてもらえますか」


 ゼロの懇願に、みんな立ち上がる。お絵かきは楽しいが、その他にやらなければならないことがあるからだ。

 少し先に進んだところでゼロが立ち止まる。ちょっと悩んで、も少し悩んで。そして言った。


【ゼロ】

「ここもお絵かきスレなんですが、R-18なんです。まだJKのみなさんには用がないと思いますが……念のため。こっちが男性向けで、そっちが女性向けです。男性用、女性用じゃないので注意してください」


 それから道を引き返して違う通りに入る。するとハンマーさんが待っていた。


【ハンマー】

「ここの通りは攻略スレッドだ。特にこの辺りは勇者さん戦の攻略が並んでる。右側は倒せなかったやつの愚痴用。左が具体的な攻略が乗ってる」


【ゼロ】

「あなたたちは二回目の挑戦なので、二番目のお部屋まで入れますよ」


【ハンマー】

「三番目の部屋からは|地獄絵図の阿鼻叫喚≪カオス≫だから入れるようになってもおすすめできんがな」


 嘆きスレッドでは。


≪なにあれ!?なにあれ!?≫

≪死んだかと思ったら死んでた、おれが≫

≪後ろから闇討ちとかマジ勘弁!≫


 以下略。

 一方、攻略スレッドでは。


≪勇者さんに挑むときはアポイントメントをとること≫

≪ロールプレイングに持ち込むと戦いやすい≫

≪難易度ナイトメアだと強さに落差を感じにくい≫


 ためになるのかならないのか分からないメモが刻まれていた。

 どっちかっていうと気休めにしかならなそうな感じ。


【ゼロ】

「参考に、ってレベルですから」


【ハンマー】

「あんまり評判よくない感じ?じゃあそろそろ……」


【ゼロ】

「どこへ行くつもりですか?検証はまだ始まってないですよ」


【ハンマー】

「逃げないから離せよ、HPにダメージ入ってるから!」


【ゼロ】

「検証前に死んじゃうのは不味いか……」


 もう少しオブラートに包んで言ってほしい、と露草さんはあとで思った。

 そしてそんな露草さんが何をしていたかというと、中央広場の案山子に向かって覚えたての魔法、マジックアローを連打していた。

 これもれっきとした修行で、熟練度を貯めているのだ。


「うおおお、マジックアロー!あ、特にいう必要ないのか。恥ずかし恥ずかし」

だとか

「ポチポチするだけだと飽きる」

だとか

「椅子がほしいけど、無いから直で座ろう。女子力ががくっと下がったー」

だとか

「…………」

だとか


 最終的に黙ってポチポチするだけの作業に戻った露草さんを救ったのは、がねっちトリオであった。

 レベル上げ、と言われてもこちらに来て日の新しい三人はどうしていいのか分からなかったのだ。


「露草、だよね?」

「なんか集中してるとこ悪いんだけど……」

「む、なにやつ?」

「もしかして寝ぼけてる?」

「いや起きてるけど……。しばらくしゃべてらかった……しゃべってなかったから、うん。滑舌がよろしくないの」

「そうなんだ……」

「いつも悪いだろってか、そうだね。それで、がねっちトリオはどうしたの?」

「がねっちトリオ?」

「ウチらのことだとおもうよ」

「みんなガネが着くからだね〜」

「レベル上げに来たんだけど、どこに行ったらいいかな」

「レベル上げに?どうして?」

「ゼロって人に言われたんだよ、レベル低すぎって」

「あの人、レベル高すぎだから……そうか」

「いや、なにが?」


 滑舌がよくない上に言葉が足りなさすぎて伝わらない。一人納得した露草は言った。

 常葉さんを呼ぼう、と。

 どうやって?と首を傾げるがねっち三人組の隣で、露草は至って普通の音量で常葉の名を呼んだ。


「ぽむ☆常葉さんだよ」

「なにその急なキャラ変更」

「可愛い感じ出せてた?」

「いまさら遅いよ。がねっち三人組がレベル上げにいくんだって。着いてってあげてよ」

「露草さんがいけばいいじゃなーい☆」

「まだやるか。私は秘密の特訓の続きしなきゃだし、行ってきて」

「チッ、仕方ない。では、黒鉄、赤銅、白銀、ラストダンジョンに出発だ」


 唐突にキャラを脱ぎ捨てる常葉さん。描写係りの方が力尽きたともいう。


「ラストダンジョンって魔王城に?」

「あそこが一番経験値が美味しいんだ。どれくらいレベルを上げてくればいい?」

「ざっと三桁ぐらい」

「オーケィ、100を越えるぐらいだな?」

「うん」

「それならすぐ終わるだろう。おれも力を貸す。頑張れよ」


 常葉さんは勝手にもそう言うと、三人を連れ魔王城に一直線。

 露草さんは再びポチポチ作業に舞い戻った。




 卵は言われたことを必死に繰り返していた。

 ハンマーという男性プレイヤーにデスウォールを掛け、ゼロの攻撃を待つ。

 ゼロの攻撃でハンマーが瀕死になったら蘇生する。

 たったこれだけの作業でも、卵は疲れていた。

 価値観の違いだろうか、お遊びのように死んでいくハンマーを見て、どうしていいのか分からなくなってきたのだ。


「300はだめ、100はよし、200もよし……次は210ですね」

「即死耐性が0から200上がるってすごいスキルだな」

「200とは限りません。まだ上がるかもしれませんよ」


 ハンマーの反応も卵の混乱に拍車をかけた。

 発狂や怒りを見せれば違ったのだろうが、彼もまた自分の死に無頓着で、ゼロに対して朗らかに話しかけている。

 意味が分からなかった。


「じゃあお願いします、卵さん」

「……デスウォール」


 ハンマーの身体の前に不可視の壁が出来、臨死体験の時に見たどくろマークにバッテンがつけられる。

 何度もみたエフェクトだが、これが意味するのは死の拒絶。これさえあれば誰も死なない、と思っていたのに。


「ニードルドリール!」

「なんか回文みたいだn」

「ありゃ、200で上限でしたか。卵さん、蘇生をお願いします」

「……白き烏よ、祈祷となれ」

「ただいまー。卵さんありがと」

「あの、どういたしまして」

「検証にご協力ありがとうございました。顔色が、ちょっと悪いですか?」

「椅子持ってくるよ」

「お茶持ってきますね」


 二人が席を外してしまったので卵は呟く。

 間違ってるのは、わたしの方なのかな、と。




 即死攻撃に限らず、状態異常攻撃のほとんどがそうだが、効くかどうかは敵と自分の属性による。

 自分の属性……この場合ハンマーの即死耐性が200で、相手の属性……ゼロの即死攻撃が300だとすると、ハンマーは100%の確率で死ぬことになる。もちろん即死で、だ。

 ゼロは考える。

 まだ未検証だが、ハンマーの即死耐性が100でも、魔法による追加分の上限が200だとしたら――卵の術で上がる即死耐性が100だとしたら、これはおもしろいことになる。

 最近、耐性が300なければ耐えられないボスが増えてきている。その筆頭が勇者さんで、その背後に控える魔王さまだ。

 あの構成、人数。見たこともないジョブ、魔法。

 KAZAKOSHIれんじゃーのその異端さは、それらのボスに対する運営スタッフの救済策なのかもしれなかった。

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