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【勇者】

「前回のあらすじ」


【ゼロ】

「勇者さんお疲れさまでしたー」


【勇者】

「アポなし突撃は対応が難しい」


【ゼロ】

「アポあると何が変わるんですか?」


【勇者】

「セリフ考えたりする猶予があるじゃん?」




◆◇◇◆◇◇◆




 臨死体験を無事に終わらせ、露草氏は満足感に溢れていた。達成感と言ってもいいそれは、わたしでもやるときはやるんだぞー!と証明したことでもある。


「それで、このあとは自由行動?」

「うん。それでいいよ。わたしはせっかくだし城下町に買い物しにいこうかなぁ。常葉さんも行く?」

「はいはい行きますよ」

「ばあさんみたいな返事された!」

「せめてじいさんと言え」


 仲睦まじい様子で何よりです。と周りの目が生ぬるくなっているのも露知らず、露草さんはウキウキと出ていった。相変わらずの単独行動である。

 こういうときに他人を誘えよ!と常葉さんは思うのだが、やはり言わない。何でじゃ、言えよ。


「露草行っちゃったねー」

「また内緒の買い物かなぁ」

「買い物、何だろうね」

「また変なもの買ってくるんじゃない?」

「そっかあ、露草だもんね」


 また、とか、だもんね、とか、露草氏はもう泣いてもいい気がした。というかこのログを見て泣いた。ショック受けてる場合じゃない。


 一方、露草さんは……。

 まだ道半ばであった。うん、そうだよね。まだ出てからそう経ってないし。


「臨死体験、どうだった?」

「この人は相変わらず言葉が足りないな。合図のときの様子のことか?」

「うん、そうそう」

「このメガネ、相当な悪意が込められてる気がするぞ。ムンクの叫び的な何かにしか見えなかった」

「怨霊とか、お化けみたいな?」

「実際ゲーム上じゃ、お化けとたいして変わらんだろ」

「そうだけど」


 言葉が足りない云々と言っても会話が繋がる不思議感だ。心と心で繋がり合って……カーッ、こんな恥ずかしいこと言えるかいな!


「城下町、見えてきたよ」

「そうだね」

「……」

「……」

「城下町とラスダンって近いよね」

「魔王城に住む人も近くに街があった方が便利じゃん?」

「魔王城の、城下町でもあるのか」

「かもね」

「……」

「……」


 会話が続かない。心と心がなんたらかんたらしている人物たちは、語らずして言いたいことが伝わるので無言もまた愉し、というやつかもしれない。

 ……。そんなわけがない、気まずいだけだ。


「露草さん、なに買うの」

「うーんと、ポーションとカエルくん。あっ」


 ポーション屋に寄ろうと、足を向けたときである。露草が立ち止まった。反対方向にいたのは、謎のプレイヤー、またの名を勇者さんという人物だった。

 勇者さんはきょとんとしている。なにしろ、初対面だ、指を差されている意味が分からない。


「こんにちは。KAZAKOSHIれんじゃーのリーダー、露草と申します」

「あっ。ご丁寧にありがとうございます、勇者さんです」

「常葉さんです」

「常葉さん。君の従魔?」

「いえ、プレイヤーです」


 従魔とか魔獣とか言われるそれは、ペット的な存在である。マスコットの地位を有し、チートプレイヤーでもある常葉さんにとって、それは似て非なる存在だ。

 というか似てない。


「アポなしで突撃させてすみませんでした」

「びっくりしたけど大丈夫。それよりおれもいつも通り攻撃しちゃったけど、大丈夫だった?」

「みんな、勇者さんを倒す闘志に燃えてますよ」

「それは良かった」


 勇者さん、ロープレ忘れてますよ。勇者さん、言葉が足りてませんよ。露草さん、みんなって誰ですか。露草さん、突っ込みが追い付きません。


「ポーション買いに来たの?」

「ポーションとカエルくんです」

「カエルは知らないけど、ポーションは向こうの通りで買った方が安いよ。効能はあそこのセルが……神官がやってる店のが一番強いけど」

「確か効果が二倍なんですよね。いつも買うんですか?」

「ここのだと、一発でHP満タンになるから。よく買うよ」

「HP低過ぎませんか」

「HP高いと文句言われるから。調整が大変」

「そうですか。今度戦いに行くのでよろしくお願いします」

「アポあれば盛大に歓迎するよ」


 離れていく勇者さん。それを見送る露草の表情は硬い。ようやく見えなくなって一息。


「疲れた」

「ポーションの話しただけだろ?」

「知らない人と話すってのが疲れるの!」

「難儀な人だな、この人」


 単に対人が苦手なだけだった。




 買い物が済んで帰り際。今度はゼロさんと会った露草。無事に買い物を終わらせる、が達成されたせいか、少し気が緩んでいたのかもしれない。


「おや、露草さんじゃないですか。こんにちは」

「ギャッ」


 この反応である。露草さんに後ろから話しかけるのは良くない。常葉さんも、思わず威嚇する。


「怒るよ?」

「すみません。なんで謝ってるんでしょうか、僕は」


 そんな空気でも不平不満を漏らすゼロさんは勇者と呼ばれるべき存在だ。勇者さんと共にパーティーを組んだことがあるだけはある。さすが。


「なんだ、ゼロさんか」

「なんだとは失礼ですね。ゼロさんですけど」

「ごめんなさい、急だったので少しびっくりして」

「分かりましたので、土下座は止めてください」

「はい」

「みなさんの様子はどうですか?」

「勇者さんの理不尽感にげきおこムードです」

「それは良かった。僕もたぶん同じことを思うでしょうから」

「あのう、明日から対人戦の練習ってことになったんですが、ゼロさんに対戦相手を頼んでもいいですかね?」

「僕に?非常に面白そうな話の予感ですね。是非協力させてください」

「やった!何故だか知らないけど、うちにスタジアムがあるので、そこに来てくださいな」

「うぐっ……はい、伺います」

「ワロス」

「このトカゲさんは……どこかで会いましたっけ?」


 ※砦建設時の常葉さんは人型です。


「さてはて」

「ゼロさんと常葉さん会ったことあるよね? 昨日」

「ああ、昨日みんなの前でな」

「昨日……みんな……」


 前者のみんなはKAZAKOSHIれんじゃーのことで、後者のみんなは砦建設業者たちのことだ。わざと分かりにくい話し方しやがったな、このトカゲ!


「おれの正体についてはゆっくり考えてくれ。それより……」

「そろそろお家に帰らないと」

「時計チラ見ウーマンになってる露草さんを帰さないとな」

「あ、すみません。どうぞごゆっくり」


 悩みながら去っていくゼロさんを見送り、露草さんはまた一息。すっかり疲れちゃったみたい。


「ゼロは割りとましなの?」

「だって、あの人とは会ったことあるし」

「ふーん、ならいいけど」

「じゃなきゃ何をするつもりだったのだね?」

「単に露草さんが無理してなくて良かったって意味だよ。勘繰りし過ぎだろ」

「ぬぬぬ」


 疲れていても常葉さんは容赦ない。自業自得? うーん、そうかも。

 へとへとの露草さん、ぼーっとしながら歩く。ピコーン、と豆電球。なにかいいこと思い付いたみたい。なんだろ、なんだろ。


「どうしたの、その地の分の形式」


 疲れてるの、と常葉さん。ううん、と首振る露草さん。


「絵本形式?」

「わかんないのか」

「練習」


 たぶん、絵本形式だと思う、と露草さんは言いました。常葉さんがわかんないのか、と尋ねます。すると露草さんはそれを否定して、練習中なのだ、と言うのです。


「こいつら言葉足りねーなって思われてますよ」

「私だって普通にしゃべることぐらいできますー」


 ふてくされた露草さんは、架空の石ころをこつんと蹴飛ばしました。


「蹴飛ばすしぐさをした、でよくない? それ」

「石ころを蹴飛ばしたかったのだよ、私は」

「それは分かったけど。そんなに?」

「現実世界でやろうとすると、まずちょうどいい感じの石ころが見つからないし、うまく蹴飛ばせないか、蹴飛ばして私が怪我するという未来しか見えないから、仮想空間で試すしかないじゃん」

「難儀な運動神経だな」

「私もそう思う」


 常葉さんと露草さんは行きとは違って、仲良く帰りましたとさ。めでたし、めでたし。


「これ、絵本調じゃなくて昔話だ!」

「そうだね」




◆◇◇◆◇◇◆




 夕食が終わり、今日のコック担当も常葉+露草であった。むろん、露草さんは隣で座っていただけである。それで、夕食が終わったのだけれど、露草はいい忘れていたことがあった。

 明日の細かい予定だ。何時からどこへいって……みたいな冒険のしおりだ。

 でも、空気の読めない露草さんは夕食中も夕食後も口を挟めないでいたのだ。

 そこで。


 露草は考えた。

 まず間違いなく皆が見てくれることを願って、食堂に大きな張り紙をしたのだ。

 朝の何時までにスタジアムに集合してほしいこと。スタジアムの位置と目的地までの案内も忘れない。

 それからスタジアムに実際に行って、そこにも張り紙をした。ここでお昼まで各自二人以上一組になって対人対戦を行うこと。午後は自由行動とも。


「うむ、よし」

「対戦方法って知ってたか?全員」

「……わたしも知らないや」

「調べてきなさい。すこし書いといてやるから」


 張り紙が一つ増えた。


「よし、調べてきたよ! って、もうできてるし!」

「あんたも知っておいた方がいいだろ」

「なるほど、わたし感激!」


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