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【ゼロ】
「前回のあらすじですよ」
【ハンマー】
「こないだはありがとなー」
【ゼロ】
「それ、前々回のあらすじなんですけど」
【ハンマー】
「すまんすまん。勇者さんは?」
【ゼロ】
「今度は今回のあらすじですか。なんか用事があるみたいですね」
◆◇◇◆◇◇◆
まさかのパーティ分裂の危機に曝されたKAZAKOSHIれんじゃー。原因は幾度となく襲った、リーダーの言及不足。もう露草の指示には従わない。そんな決意を結末は裏切れるか。
「それっぽいあらすじができたぞーう!」
露草さんだ。緊張感が皆無である。一応補足しておくと、今回の勝負は絶対負けるだろうと思っているから気楽なのだ。パーティを信じられないほどの強敵。それが四天王最後の壁、前座さんだ。謎のプレイヤーとしてKAZAKOSHIれんじゃー70%の前に現れたこともある。
「さあて、ログを読むか……」
昨今のログは高性能に出来ていて、文字でも追えるが、今は動画による立体視が主流になっている。動画の視点も、そのプレイヤーの視界だったり神の目線だったりと選ぶことができる仕様だ。むろん、他人の視界は酔いやすいので神になったつもりで視聴する。
「ディザスター、実在したのか……」
「うう、そこで二人が倒れちゃったのね……」
「あちゃー、ああ、それでユリウスの杖が……?」
「ひゃー、なんか途中で怒られてると思ったの、これだった訳か……」
ケイト戦は相当な激戦だったことを理解する。これは成長して当然だし、露草のことを信じられなくなるのも当然だった。
では、メアリー戦は?
「メアリーさん、ヒスってるなぁ」
「メアリーさん、……うちの桔梗はちょっとキャラが違いますよ?」
「メアリーさん、はしゃいでるなぁ」
「メアリーさん、容赦ないなぁ」
「うお、最後こえー」
メアリーさんが、主にはしゃいで倒れた、という印象だった。メアリーと戦ったKAZAKOSHIれんじゃー30%は独自の戦い方を見つけたようで、特に初戦だったはずの赤銅がとどめを指したというのが意外だった。完全にリーダーとしての意味が宙に浮かんでいる。ぷかー。
「これは、作戦見直しだね。やる前に分かってちょうどよかったかも」
露草さんは前向きに考えるのが好きだ。
◆◇◇◆◇◇◆
桔梗たちが帰ってきていた。結果は聞くまでもない。歩いてホームに帰ってきた訳ではないというなら、答えは一つ。勝てなかったのだろう。数人がふて寝しているのも、たぶんその影響だ。
何人かの勇敢な戦士たちは、帰ってきて早早露草を締め上げていた。物理的にではなく言葉で、だ。
「なんだよ、あれ。急に分裂したかと思ったら……」
「全然攻撃が当たらないんだけど!」
「なにも考える暇なく全滅した……」
「当たっても当たっても全然倒れないし!」
「オーケー、オーケー。とりあえず簡単に説明すると、彼は初見殺しのボスなんだよ」
ただし、解法が分かっていても倒せるわけではない。
「今朝、常葉さんにぬす……お借りしてきたデータによると、現在の彼のHPは400以下、それぞれのステータスが999でカンストしてて、命中率と回避率が高いって言う、プレイヤーとしてもチートじみた人なんだよね」
「どうやって倒すのそれ……」
「必中の技を当てて、できれば防御力を無視する、貫通やクリティカル攻撃を当てられると助かるだろうね」
「必ず倒せる訳じゃないってこと……?」
「やや運ゲーの面もあるのは確か。でも戦い続ければ勝利は見えるはず!」
「何度も戦うのはもうやだよ」
「一回で、長期戦で。それがモットーかな。蘇生し続ければ勝機はある。私も手伝うし」
「ホント〜? それ」
「マジでござる」
マジに聞こえないから困る。とにかく、露草さんは明日からの予定を告げた。
「というわけで、彼、勇者さんに勝つためにみんなで修行しましょう!」
「えー」
修行とか練習とかあんまり好きではない人もいると言うことだ。露草さんのことかね?
不満げに口を尖らせたのは、下りてきた銀朱と白銀。銀朱は実力に自信がある様子、白銀は逆みたい。
「修行って言っても、みんなの実力がこの私以上にあるってことは分かったから、みんなにしてもらうのは対人戦の練習だけだよ」
「対人戦〜?」
撫子が聞き返す。
「そう。ここからボスはみんなプレイヤーが担当している、中身入りなんだ」
「中身入り!それ、私たちが戦ったおじいさんでも言ってたよね」
「うん。グロッフェルなんかいい例なんだけど、彼の中の人は、現実世界でも権威と地位を持つご老体なのね。高齢化を理由に、ゲームには来られない、ってなって当時の本人そっくりのデータが用意された。本来、卵と私が戦うのはそのデータであるはずだったんだ」
「えっ、本物のおじいさんをぺちぺち叩いちゃったってこと!?」
「大丈夫。このゲームの中では、現実世界の脆弱さや剛健さは再現されてないから。みんなレベル1のステータスから始まるのだ」
もっと言ってしまえば、ゲーム内のステータスが現実世界の心体に反映されてしまうバグが発生しているのだが、異世界人である我々には関係ないようだ。少し残念。
「つまり、中の人がいるとかいないとかいう意味での、中身なんだな」
「そうだね。ボス戦も、プレイヤー同士の戦いであると分かれば、対策を練れるよね、そう対人戦だ」
「対人能力を高めれば勝率は上がるの?」
「相手も考えて動く、ってことだから……思考の誘導や罠はめなんてこともできるかもね」
「なるほど!」
「まあ、それは向こうも考えてるだろうから、その対策も兼ねて、やっておけば損はないでしょ」
「やっぱりそういうオチー?」
がっかりされつつ、露草は続けた。
「なので、その前に臨死体験を、みんなでしてみようのコーナー。ぱちぱち」
「さっきしたばっかなんだけど」
「それは一瞬だったでしょ? 誰か一人でも仲間が生存してるときは、その場にとどまらなくちゃいけないんだ」
「……」
「それを体験するのもありかなって。なに、心配するでない。数々の死亡を体験し、とうとう称号までゲットしてしまった私が手取り足取り教えてあげるぞ☆」
「ほし……」
「みんなのログを見たら、一人で死ぬのは相当怖いらしいから、みんなでやれば怖くない精神を活用して、行けばいいのではないかと思いました!」
語尾に☆って付けるのやめたらいいのに。卵の指摘を受け、ギクッとした露草は慌てて言葉を紡ぐ。卵以外のメンバーはキョトンとしていた。
「オッケィ? オーケー、了解は取りましたぞ、常葉さんやっちゃってください」
「斧で一閃!」
ずばし。痛ぇと思う間もなく、常葉以外のKAZAKOSHIれんじゃーは宙に浮いていた。視界は妙に白っぽくて、下には倒れた自分のからだがあった。そんな自分たちは透けていて。
「死んだ……の?」
いつも頭上にあったらしいHPバーは真っ黒で動かない。その隣の状態異常欄にはドクロマーク。そして徐々に広がるあの液体は、おそらく。
「ピックニックシート発動!」
それがなんであるかはっきりと視認する前に、下の映像はシートで覆われる。露草が持っていた楽しそうなビニールシートの効果だろう。敷かれたシートの見た目はただのチェック柄だが。
「なにこれ」
「シート。さあ、みんな座って座って」
「いやそういうことじゃ……座るけどさ」
「みんな座った?じゃあこっち見て。この時計のマーク。これを押すと……」
1:52:13
という数値が出た。一番右端の数字は一ずつ減っていく。もしかして、左から時間、分、秒を表しているのだろうか。それにしても2時間弱っていったい……。
「この時計がゼロになると、自動的にホーム、ここだね、に戻ってくることになるよ」
「どういうこと?」
「負ければみんなホームに行くじゃん」
「そうなんだけど、仕様上この空間に取り残されたときの脱出方法というか……なんていうのかな、」
「すっごいいじめみたいだけど、一人だけ蘇生しないで放置したらって話?」
「そう! うん、いじめか実証動画くらいしか出番ないだろうけど。HPがゼロになってから2時間たてば、自動的にホームに帰れますよ、ってヤツなの」
「じゃあそんなに気にしなくていいか」
「うん。大事なのがもう一個のヤツで。っと、常葉さーん、おーい」
露草が説明を止めて、常葉へ合図を送る。事前に決めておいたのだ、特定のしぐさで蘇生を開始すると。露草は今、身体全体を大きくゆらゆら揺らして、周りに不審がられている。
(オーケィ。蘇生を始めます)
「これ、トカゲさんの声?なんか小さいような……」
「そうそう、すごい聞こえにくくなるんだよね!」
「ていうか、これってあっちとこっちで会話できるの?だったら教えてくれれば良かったのに」
「それが残念ながらできないのです。向こうに伝わるのは大降りの動きぐらいで、手の合図や声は一切通らないようです。見えないし」
「あ、確かに」
「白銀と銀朱はずっと倒れてたのしか、見てないもんね〜」
シートで覆われていない側面に黒い影が立ちのぼる。常葉さんの蘇生術だ。どうしてこんなに禍々しいのかは不明だが、きっとゆっくりやってるせいなんだろう。丁寧な仕事ぶりはエフェクトにも通じる。そんな一面であった。
「さて、今さっき出現した、こっちの大きな数字に着目して」
「さっきからしてるよ」
「これは、ズバリ、蘇生までの時間だね?」
「イエス!銀朱、正解!あと30秒程で空間が解除されて戻れるよ」
こちらの自己主張激しいテキストには、『あと28秒』と日本語で書かれていた。むろん、秒の前の数字は刻一刻と減っていく。クイズにするまでもなく、分かりやすい問題であった。
「ねぇ、じゃあなんで、ユリウスの杖で戻ったときにはこれがなかったの?」
「ユリウスの杖をはじめとするアイテムの効果は、直ぐに効き始めるから、表示されないんだと思うよ」
「じゃあ、術のときはいつもこうなの?」
「たぶん。早すぎて確認する暇がなかった、とかはあるかもしれないけど」
そうこう話しているうちに、30秒はあっという間に過ぎ、九人は床に復帰した。ご丁寧にも床はきれいで、しかもみんな座ったままで。普通は横になっているはずだが……さすがエフェクトにこだわる常葉さん。抜かりはないぜ。
「血っぽいの、消えてる」
「拭いておいた」
「どうやって?」
「内緒」
と言いつつ、手に持っていた布巾を飲み込む。証拠隠滅完了、ということらしい。まあ、布巾は汚れてたからそれで拭いたんでしょうが。
丁寧な仕事じゃなくて雑?うーむ、何も聞こえませんな。




